旅行カバンに覚せい剤を入れられると「無実の証明」は難しい

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先日、暴力団幹部に男性らが、12億円相当の覚せい剤とすり替えられた岩塩を、気づかず所持した疑いで警察に逮捕されるという事件がありました。これは「コントロールド・デリバリー(泳がせ捜査)」という手法の一つです。覚せい剤をそのまま持たせるのは違法かつ危険なので、捜査官がこっそり塩にすり替えておき、追跡調査をして容疑者を捕まえたというケースになります。

これがもし「自分の荷物に覚醒剤をすり替えられる、あるいはいつの間にか入れられる」という状況になってしまったらどうでしょうか。一般人でも無実を証明することはできるのでしょうか。今回は刑事事件にも詳しい弁護士の中澤 剛先生にお伺いしました。

■推定有罪を覆すのは難しい

「無罪を主張するのが非常に難しいです」

中澤氏は述べています。

「まず覚せい剤だと気づかないうちに誰かに覚せい剤を持たされている、というケースには、大きく分けて、海外から日本へ帰国時と、それ以外の場面、そして、物(覚せい剤とは知らされていない)を預かった認識がある場合と、認識がない場合があり得ます(下表)。20141222_news48

犯罪組織が、事情を知らない人間にこっそりと覚せい剤を持たせようとするのは、海外から日本に覚せい剤を密輸する時が非常に多いです(①または②の場合)。覚せい剤と知らぬまま覚せい剤を運ぶ人は、ブラインドミュール(事情を知らない運び屋)などと呼ばれています。

なぜ、海外から日本への帰国時が多いのかというと、犯罪組織が、密輸入という危険な役目を、事情を知らない人間に負わせようとするためです。それ以外の場合、例えば、日本国内で通常の日常生活を送っている場合に、いつの間にか覚せい剤を持たされる等というケース(上の③または④のケース)は、犯罪組織にとってメリットが存在しません」

「そもそも、覚せい剤は、末端価格にして1gあたり約10万円程度という高値で取引されています。そして、暴力団や覚せい剤密輸組織等の反社会的組織の重要な資金源になっています。そのような高価な商売道具(しかも、通常は、大変な危険を犯し密輸入したもの)を、他人に覚せい剤であることを隠したまま渡したり(③のケース)、あるいはこっそりと他人のカバンに忍び込ませたりしてしまっては(④のケース)、犯罪組織は自らの資金源をドブに捨てるようなものです」

一見ハイリスクな方法をなぜ犯罪組織が行うのでしょうか?

「他人を使うのは、密輸する時に税関の摘発のリスクを他人に負わせるような場合(①や②の場合)であるのが通常です。要するに、③や④のケースは、普通はなかなか考えにくい、ということです。

なかなか考えにくいということは、③や④のケースに万一遭遇した場合には、無罪を主張するのが非常に難しくなる、ということを意味します。裁判所は、「仮にあなたの言うことが本当だとしたら、何のためにそんなことをするんだ? 密輸する場合に他人を利用するならともかく、普通に国内で生活している人間に対してそんなことをする理由はないではないか、あなたが罪を逃れようとでたらめを言っているだけで、本当は覚せい剤とわかって持っていたんだろう」と考えるのです」

「物を預かったがその中身が覚せい剤だとは知らなかった(③)という弁解や、覚せい剤を自分の知らぬ間に勝手にカバンに入れられたのだ(④)という弁解が認められれば無罪となりますが、知らなかったという弁解はほぼ通用しないのです。覚せい剤を持っている時点で基本的にアウトです。

刑事裁判では無罪の推定という原則がありますが、覚せい剤を持っている時点で有罪の推定(覚せい剤だと分かって所持していたという推定)が働いてしまい、事実上、無罪であるような事情をこちらが証明しなくてはならなくなります。

③や④のケースで救済されうる場合としては、例えば、あなたに恨みを持っている人間が、あなたを陥れるために、覚せい剤をこっそりあなたのカバン(あるいは自宅)に忍ばせたのだ、というような疑いがある場合や、警察官に追われて逃走中の覚せい剤所持者が、自分の有罪の証拠を隠滅するために、あなたのカバンにこっそり覚せい剤を入れて罪をあなたになすりつけた、というような例外的な事情がある場合には、それを立証すれば救済され得ます。しかし、その道は、極めて困難な道のりであることを覚悟しなければなりません」

「では、①や②のケースはどうでしょうか。先ほども述べたとおり、犯罪組織は、日本国内に覚せい剤を密輸する時には、他人を利用するメリットがあります。

つまり我々一般人も、これに巻き込まれる危険があるのです。①や②の危険は、③や④の場合よりもはるかに大きいと考えるべきです。我々一般人にとっては、出張や旅行などで海外に行き、日本に帰国する時が、最も注意をするべき時です」

■海外で“出会い”は慎重に

海外でモノの授受は慎重に、と中澤氏は語ります。

「よほど信頼できる人間以外からは、海外で物を預からない、中身の分からないものを日本国内に持ち込まないという点に尽きます」

「まず、①のケースの場合、つまり、誰かから、ある物を、日本国内の誰かに渡すよう頼まれたりしたケースについて。よくあるケースは、海外で知り合った人物から、「日本にいる誰それにお土産を渡して欲しい」と頼まれて、物を預かったり郵便物を受け取ったりしたが、実はその中身が覚せい剤だったというパターンです。

もう一つのケースとしてありがちなのは、犯罪組織の人間が女性(又は男性)に言い寄って恋愛関係になり、その恋愛感情を利用して、女性(男性)に覚せい剤とは知らせないまま覚せい剤の入った荷物を持たせ、運び屋の役目をさせるというケースもあります(裁判では、「ラブ・コネクション」などと呼ばれています)。

特に交際歴が短期間の相手の場合には、自分が利用されている危険も考慮しなければならないでしょう」

「知らぬ間に巻き添えにされても、裁判で、知らなかったという言い分が通るかどうかは不確定です。

またそのような言い分が認められ無罪判決が得られたとしても、その時までに、長期間、オリの中で生活しなくてはならなくなります。物を預かるのは、よほど信頼できる人間に限るべきです。お土産として物を渡す、というのは典型的手口ですので、頭の片隅に入れておいてください。なお、海外で物を預かるという場合ではなく、日本を出国する前にすでに日本国内に持ち帰る物品が指定されている場合もあります」

推定有罪のリスクを抱えないために、出国前の荷物のチェックは入念しておきましょう。

■海外渡航の際に空港でするべきこと

具体的な例を見ていきましょう。

「無料の海外旅行!などという甘い宣伝文句で日本国内で参加者を募り、参加条件として、海外で指定された物品を持ち帰ることを約束させ、日本に持ち帰らせるが、その物品が覚せい剤だった、という例もあります。

また、④のケース。知らぬ間に覚せい剤をカバンなどに入れられた場合。この場合は、ほぼ万事休すです。参考になる判例を紹介しましょう。

直近の例ですが、最高裁の平成25年10月21日の決定に目を移してみましょう。この事件は、西アフリカのベナンから成田空港に到着した被告人のスーツケースから、約2500グラムの覚せい剤(末端価格にして約2億5000万円)が発見されたのですが、被告人は、自分の知らない間に覚せい剤をスーツケースに入れられた、自分は覚せい剤を持っているとは知らなかったなどとして無罪を争った事件です」

「この事件で、最高裁は、

・覚せい剤密輸組織は、運び屋から覚せい剤を確実に回収できる措置を講じるなどして密輸を敢行するのが通常である

・何等かの指示や依頼を受けないで覚せい剤を運搬させるというのは、密輸組織が運び屋から確実に覚せい剤を回収できるような特別の事情がある場合に限られる

・そのような特段の事情がない限り、覚せい剤の運び屋は密輸組織から回収方法について必要な指示を受けていた上で運搬をしていたと認定するべきである

としています。この判例をざっくりまとめると、

③のようなケースと異なり、誰に何かを渡せという指示もないままカバンなどにこっそり覚せい剤を入れられていた(④のケース)、などということは普通あり得ないことなので、普通は有罪ですよ、でも、知らない間に覚せい剤を持たされることがありうる事情(密輸組織が、覚せい剤と知らないまま覚せい剤を運搬している人から、覚せい剤を回収できる特別の事情)があるのだったら、無罪になりえますよ、という内容です。

覚せい剤の回収方法も講じないまま、一般人にこっそり覚せい剤を持たせても、犯罪組織がその覚せい剤を回収するのは容易ではなりません。回収できなくては犯罪組織にメリットがないので、そんなバカなことを犯罪組織がするはずがない=覚せい剤を持っていた人は事情を知っていたはずだ、というふうに判断されてしまい、知らないという言い分がなかなか通らないからです。

繰り返しになりますが、対策としては、出入国の際(空港などで)は、自分のカバンに目を離さないこと、また、不審物が入っていないか念のため確認しておくことです。万一、そのような確認を怠り、あるいは確認しても見落としがあり、覚せい剤がカバンに入れられていた場合は、通常、有罪判決を受けてしまいます。

何か特別の事情があって、覚せい剤を犯罪組織が確実に回収できるような事情があれば、無罪になりえますが、その道は非常に険しく、容易ではないでしょう」

年末年始を海外で過ごす方は注意してくださいね!

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photo by : Jonathan Kos-Read

 

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