弁理士としての働き方と、その将来性を考える

弁理士としての働き方と、その将来性を考える

弁理士は、特許、実用新案、意匠、商標、国際出願もしくは国際登録出願に関する特許庁における手続き、またはそれらの査定に対する異議申立てに対する代理を主に独占業務としています。数ある資格の中でも、知的所有権について扱える国家資格は他にないため、有権者の少ない特権的資格であると言えるでしょう。

現代は、ノーベル賞を取るような発明から家事にまつわるちょっとした工夫まで、ありとあらゆるアイデアがビジネスの対象となる時代です。それを守ることが、さらなる発明を促す上でも重要になってきています。

本記事では、そんな弁理士の働き方と将来性について考えていきます。

1 弁理士試験について

まずは弁理士になるための試験について見ておきましょう。

弁理士試験は、司法試験と並ぶ超難関国家資格のひとつです。試験は年に1回実施され、受験回数に制限はありません。
内容としては、短答式試験、論文式試験、口述式試験の3つが実施されます。
短答式試験は5月中旬、論文式試験は必須科目が7月上旬、選択科目が7月下旬、口述式試験は10月下旬に実施されます。

(1)試験の仕組み

短答式試験の合格者だけが論文式試験を受験することができ、さらに論文式試験の合格者だけが口述式試験を受験することができる仕組みです。

選択式試験は、一度受かればその後はずっと免除となりますので、早い段階での合格を目指すのがよいでしょう。また、「『選択科目』に関する研究により、修士、博士又は専門職の学位を有する方」は免除対象となりますが、工業所有権審議会での審査によって免除資格の認定を受ける必要があります。試験前に特定の手続をとることが必須となりますので注意しましょう。

(2)合格率・難易度

さかのぼると、弁理士試験の合格率は5%前後を上下しながら推移し、10〜5年前には8〜10%台まで上昇したものの、ここ最近は約7%で安定しています。受験者数は減少しているにも関わらず合格者数は横ばいですが、合格率を見るとまだまだ非常に狭き門と言えるでしょう。

出典:特許庁「弁理士試験の実施状況」平成31年3月19日

2 増加し続ける弁理士数

弁理士そのものの数は増加を続けています。日本弁理士会に登録している弁理士の数は毎年数百人のペースで増加しており、2009年で約8,180人でしたが、2019年(12月末時点)には約11,800人となりました(参照:日本弁理士会会員の分布状況)。

ちなみに、2018年の特許出願件数は、中国が総出願件数の46.4%にあたる約154万2000件でトップ。2位は米国の約59万7000件、日本はそれに次ぐ3位で約31万3000件という状況です。

参照記事:CNET Japan 2018年の世界特許出願、中国が半数近くを占め圧倒的トップ–2位米国と3位日本は減少

3 弁理士としての働き方

弁理士資格を取得した後、働き方としてはどのような道が考えられるのでしょうか。いくつかの可能性を順に見ていきましょう。

(1)独立開業

弁理士として独立開業すると、企業の知財部や開発者などが顧客となります。

弁理士の仕事は、顧客の生み出した「無形の価値」をどのように権利化するか、です。時にはヒアリングをし、時には特許庁の膨大なデータベースの情報を基に適切なアドバイスを送りながら、顧客とともに考えていきます。これまでの社会人経験やコミュニケーションスキルを活かして、顧客に応えていくことが弁理士としてのやりがいとなるでしょう。

特に理系出身で専門知識のある方、国際的な経験を持ち外国語を操れる方などは、弁理士資格との併用ですぐに大きな顧客をつかむことも夢ではありません。

もちろん、独立すると弁理士の知識だけではなく、経営力や営業力も要求されます。継続した学習と、常に自分自身のスキルアップが重要です。

(2)企業の知財部に勤務

次に、企業内で弁理士として働くケースを見てみましょう。

弁理士の専売特許ともいえる「知的財産権」は、日本国内だけで通用する権利ではありません。グローバル展開している企業によっては、社員教育の一環として知財部の新入社員に弁理士試験の勉強をさせることもあるようです。

企業の海外進出を促すため、特許庁でも「グローバル知財マネジメント人材育成推進事業」を推進しており、知的財産を経営戦略に活用できる人材の育成を目指しています。国際感覚が身についた弁理士の存在は国家戦略としても非常に重要視されているのです。

弁理士の資格は、その専門性の高さから企業内でのキャリアアップに最適なものと言えるだけでなく、語学力や海外経験で得た力と合わせて、企業の海外進出という大舞台で活かせる可能性が広がっているのです。

(3)特許事務所に勤務

弁理士として特許事務所に勤務する場合はどうでしょうか。

特許事務所の主要な収入源は、特許明細書の作成です。弁理士資格を取得して、実務未経験で勤務すると「1日でも早く特許事務所の戦力になってもらいたい」という方針の元、当然ですが特許明細書の作成業務を任されていくことになるでしょう。

明確で特化した業務に専従したいタイプの方には、特許事務所に勤務して特許明細書の作成に携わっていくことが向いているかもしれません。

(4)その他

技術を身につけ、研究者の気持ちを理解した弁理士を目指すため、明細書を書く技術を学ぶ前に一度研究者として働くことも視野に入れる人も少なくないようです。

さらに、これからの弁理士には、経営に関する知識や、工業所有権法以外の法律知識も求められるようになってきています。

(5)スキルアップのために

弁理士の基本である出願業務のスキルアップを目指す方法としては、知的財産検定を受ける方法があります。

特に知的財産検定一級は、実務経験者対象の試験で、弁理士試験よりも合格率が低い超難関資格と言われています。弁理士試験は主に法律知識を問う試験なので、より実務的な知識を証明する資格として知的財産検定一級はぜひとも取っておきたい資格です。

知財に関しては、法学検定やビジネス実務知財検定などを使ってステップアップしていく方法もあるでしょう。

他に、経営に関する資格でスキルアップを図る場合は、MOT(技術経営)やMBA(経営学修士)の取得といった方法も考えられます。

4 未経験者が知財部で働くのは難しい?

ここからは、弁理士を目指して企業内で働くことを見ていきましょう。

特許実務の未経験者が企業の知財部などで経験を積み、弁理士の資格を取得したいと考えた場合には、どのようなルートがあるのでしょうか。

特許実務の未経験者がメーカーなどの企業に中途採用される可能性は低いと考えられます。企業の知財部の場合、その業務は非常に広範囲におよぶため、未経験者については新卒採用や、社内で研究開発者を異動させるケースが多いようです。

ただし、未経験でも知的財産管理技能検定に合格していたり、知的財産専門職大学院などで十分に知識を習得していたりするなど、自社の知財業務に素早くキャッチアップできる人であると判断されれば、中途採用される可能性は十分にありそうです。

他に、まずは特許事務所で十分な実務経験を積んでから、企業の知財部にキャリアアップし、そこから資格取得を目指すという選択肢も考えられます。まったくの実務未経験者が特許業界への足がかりにできる可能性が高いのは、特許事務所経由ということになりそうです。

【未経験者が企業の知財部に就職・キャリアアップする場合の例】

<異動>
社内技術者
◉研究開発・特許出願経験→知財部へ

<転職>
一般技術者
◉知財知識の習得(未経験を補う努力)→企業の知財部
◉特許事務所に転職(実務経験)→企業の知財部

<就職>
技術系新卒学生
◉企業知財部を目指した就職活動→知財部で採用
◉特許事務所に就職(実務経験)→企業の知財部に転職
◉企業研究開発部を目指した就職活動→知財部に異動

文系新卒学生
◉企業知財部を目指した就職活動 →知財部に採用(または異動)
◉法律事務所に就職(実務経験)→企業の知財部または法務部
◉特許事務所に就職(実務経験/意匠・商標実務、外国実務など)→企業の知財部または法務部

5 弁理士の仕事に将来性はあるのか?

(1)弁理士の需要

これまで述べてきた通り、弁理士は日本における特許出願などの知財手続きの代理を行う資格です。
従って、弁理士の仕事のパイの大きさ、つまり需要は日本国内の出願件数に左右されると言ってよいでしょう。

では、弁理士の仕事に占める比率が高い特許について、出願件数がどのように推移しているのか見てみることにします。

年度出願件数
2009年348596
2010年344598
2011年342610
2012年342796
2013年328436
2014年325989
2015年318721
2016年318381
2017年313481
2018年313567

出典:特許行政年次報告書2018年版

日本国内の特許出願件数は、ここ数年は横ばいですが、2018年までの10年間ではおよそ3万件減少しました。
世界における日本のマーケットとしての魅力が低下していることや、特許権の威力(特許権者の勝率や損害賠償額)が高くないことが要因でしょう。
これは、日本とは対照的に、米国や中国の特許件数が増加し続けていることからも明らかです。

ご存知の通り、日本の人口は減少を続けています。今後の経済成長の余地がないとすると、日本の特許制度が大改革されない限りは(例えば、米国のようにディスカバリーや懲罰賠償制度が導入されるなど)、今後も出願件数の減少は続くと考えられそうです。

(2)弁理士の数(供給)

弁理士の将来を占う上では、弁理士の数も重要となります。市場にどれだけ弁理士が供給されているかで、弁理士業界の競争の激しさがわかるからです。

弁理士会の資料によれば、2019年12月31日現在の弁理士数(日本弁理士会会員数)は、11,488人です。
下のグラフは、弁理士白書に掲載された弁理士数の推移です。

出典:日本弁理士会 弁理士白書

このグラフから、弁理士試験が易化した2000年以降、急激に弁理士数が増えていることがわかります。

ここ数年は、弁理士試験の最終合格者数が300人を割るなど、一時期に比べると弁理士の増加スピードは落ちていますが、すでに相当な人数の弁理士が市場に供給されているという状況です。昔に比べると弁理士の希少性は低くなってきていると言えそうです。

(3)弁理士はAIに代替される?

最近、常に話題となっているのが「AIに代替される職種」についてのニュースですが、弁理士の仕事も、今後の技術の発展に伴って、その一部がAIによって代替される可能性は十分あると考えられます。

弁理士の本来的業務である特許明細書の作成などの書面作成業務は、トータルの業務量や単価は減少する方向になるだろうと考えられています。

一方で、発明発掘や特許出願戦略の策定など、本来は企業側で行っていた仕事のアウトソース先としてのニーズがより高まり、書面作成業務に対してそれらの業務割合が増えて行くのではないかとも思われているようです。

現時点において、AIによって弁理士の仕事がどれほど奪われるかは未知数ではありますが、少なくとも弁理士に求められる仕事や役割は大きく変わっていきそうです。

参照記事:AIは弁理士の敵か?代替されない知財の仕事とは?

6 おわりに

本記事では、弁理士としての働き方と将来性について考えてきました。

・国内の特許出願件数は年々減少
・すでに市場に相当な数の弁理士が供給されている
・AIにより弁理士の仕事が代替される可能性あり

このように、パイは減る一方で弁理士はどんどん増えていくため、今後さらに競争が激しくなるのは必至です。

しかし、弁理士の約半数が企業または特許事務所に勤務している(日本弁理士会 会員分布状況)、という現状を考えると、弁理士資格の意義は単に「代理人業務ができる(独立できる)」というだけではなさそうです。

例えば、企業知財部に所属する人が弁理士資格を取ってキャリアに箔をつけたり、開発者や研究者が弁理士資格を取ってキャリアチェンジのきっかけにする、という意義は今後もあり続けるのではないでしょうか。今後は、弁理士資格取得後の実務環境の確保が課題となってくると考えられています。

知財関係の資格として弁理士は最高峰であり、法律知識や思考力の証明として弁理士の資格は今後も機能し続けるでしょうし、将来「弁理士資格を取って独立して、新興の特許事務所として名をはせたい」という人には、それだけの余地も残されてはいます。

総じて、意欲と実力がある人にとっては、弁理士の将来は悲観するほど真っ暗ではない!と言えそうです。

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