行政書士の試験科目より 〜 民法総則

行政書士の試験科目より 〜 民法総則


行政書士試験にも出題される民法には、「総則」と呼ばれる部分があります。

民法は全部で5編から成り立っていて、総則はこの第1編にあたります(次いで物権、債権、親族、相続と続きます)。
総則では民法の基本になる考え方が規定されていて、民法全体に関わる部分ですからしっかり理解しておく必要があります。
逆を言えば、総則を理解できないと、他の編を理解するのも難しいかもしれません。

基軸になる概念について定めている部分ですから、内容は比較的抽象的なものです。
実感がわかないと少しわかりにくいかもしれませんが、ここをきちんとやっておけば後々の勉強がより一層効率的になるため、諦めずに取り組みましょう。

1 私権

憲法が国と国民を結ぶ公法であるのに対し、民法は私人同士の権利である「私権」を巡る私法です。
私たち国民は誰しも私人としての権利、私権を持っているため様々なことが認められています(私法上では人格権・身分権・財産権に分類)が、権利があるのは自分一人だけではありません。
私人として接する自分以外の他人、家族や友人や恋人、あるいは顔も名前も知らないどこかの誰かにも、同じような権利があるのです。
私権という権利と同時に義務を負う私たちは、互いの権利が衝突しないよう、「公共の福祉による制限」「信義誠実の原則」「権利濫用の禁止」といった、民法1条で定められた原則にのっとって生活しなくてはなりません。
この3つの原則に反するような契約は無効です。

私権の主体となり、権利義務を負うとされているのは「自然人」と「法人」です。
自然人には様々な権力があるのですが、中でも生まれた瞬間から全員が持っているとされるのが「権利能力」という、権利・義務の主体になれる(売買や贈与など)という能力です。
権利能力は出生と共に生じ死亡と共に消えるという自然発生的なものであるため、出生届や死亡届の有無に関わらず存在するのですが、「失踪宣告により死亡とされた人の権利能力は消えない」という例外があるため気を付けましょう。

2 権利能力と意思能力

生まれた瞬間に生じるのですから、まだ泣くことしかできない赤ちゃんにも権利能力があるといえます。
では、お母さんのお腹の中にいる胎児はどうなるのでしょうか。
原則、生まれてはいないという理由から、胎児に権利能力はないとされているのですが、「不法行為による損害賠償請求権」「相続」「遺贈の受け取り」については例外的に認められています。
ただし、不幸にも死産になった場合については、「権利能力は生きて生まれた瞬間に生じ、不法行為時や相続開始時に遡及して権利能力を得るのだ」とする停止条件説(判例や通説はこちら)と、「胎児中にも権利能力があり、死産になったときには胎児中に遡って権利能力が消滅する」という解除条件説に分かれています。
どちらにしても胎児が生きて生まれれば権利能力を有していることに変わりはないのですが、前者の場合には法定代理人が必要であるのに対し、後者は権利行使が自力でできない胎児のために法定代理人を設けなくてはならないということになる、という違いがあります。

さて、権利能力の次に生じるのは「意思能力」です。
これは、自分が行った行為の結果を認識・判断できる力(たとえば「人を殺したら相手は死ぬし、自分も捕まるだろう」というのは当然のことですが、これを自分でわかっているかどうかが意思能力の有無です)で、幼児や認知症患者、精神障害を持っている人はこの能力が欠けているということになります。
4歳の幼児に「君、1000万円で家を買わない?」と持ち掛けて、その子が頷いたからといっても売買契約が成立するわけはないですよね。
当たり前のようなことですが、これはこの幼児に個人としての正常な意思がないことを理由としており、意思能力を持ち合わせていない人による法律行為は無効であること・意思能力のない人を取引上保護すること、という考えに基づいているのです。

3 制限行為能力者

しかし最近では、精神障害を持った人や認知症の人を言いくるめ、不当な売買契約を結んでしまうという悪徳商法も存在しています。
そういったことを防ぐため、意思能力の有無を図る基準として「行為能力」という概念が設けられているのです。
行為能力とは、その人一人だけで有効な法律行為ができるという能力で、これを有している人のことを「行為能力者」といいます。
反対に、一定の条件に当てはまるために行為能力がないとされる、保護者をつけて取引上の安全を図らなくてはならない人を「制限行為能力者」といい、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人がこれに当たります。
制限行為能力者による行為は取り消すことが可能ですが、この4者に対する処遇はそれぞれ異なるので整理しておきましょう。

まず、未成年者(満20歳未満)の場合です。
保護者とされる法定代理人(法で定められた代理人)は一般的に両親などの親権者や後見人が務め、彼らには代理権および同意見が認められます。
法律においては、おじいちゃんが孫にミニカーをプレゼンとする、という程度の話も「贈与契約」として扱われますが、孫が小さければそんな話は理解できないでしょう。
そのため、親が代わりに受け取るのですが、これが代理権の行使に当たるのです。
しかしある程度育っていけば、他人が代わりにやらずとも、未成年者一人でできる行為も増えてきます。
そのためにあるのが、行為を認める「同意権」で、未成年者が法定代理人の知らないうちにした法律行為を許可するかしないか、ということを決めることができるのです。
法定代理人の同意が得られなければその法律行為を取り消すことができますし、事後承諾である「追認」をすれば有効な行為にすることも可能です。

しかし、これらの制限は「大人の都合で未成年者が不利にならないようにする」という理念の下にあるものですから、未成年者が不利益を被らないのであれば単独で行ってもよいとさえています。
プレゼントをもらうなどが典型的ですが、単に利益を得るだけですから法定代理人の許可はいらない、ということです。
他にも、もらったお小遣いで好きな物を買うという「処分を許された財産の処分」や、あらかじめ許された範囲内で営業をする「営業の許可」が認められています(ただ、全面的な営業の許可が下りるわけではありません)。

では、成年被後見人の場合はどうなのでしょうか。
成年被後見人とは、精神的な障害によって判断能力に欠けているため、家庭裁判所の審判によって後見開始とされた人のことです。
保護者は法定代理人である成年後見人で、この人には代理権が与えられています。
成年被後見人の審判を受ける人の障害は重いとされているため、単独でできる行為はとても少ないので、経済活動のほとんどはこの成年後見人がすることになっています。

未成年との大きな違いとして、成年被後見人には同意権がないということがあります。
成年被後見人のした法律行為は、たとえ保護者の同意を得たものであっても取り消すことができるということです(同意なしにした行為を保護者の追認によって有効にすることは可能です)。

成年被後見人が1人でできるのは、シャンプーや文具などの日用品を買うというような「日常生活上の契約」のみです。
誰かから何かをもらうだけのような、利益を得るにすぎない行為だったとしても、保護者の判断次第では取り消すことも可能なのです。

成年被後見人よりも精神障害の程度は低いものの判断能力が著しく不充分なため、家庭裁判所が保佐開始の審判をした人を「被保佐人」といいます。
被保佐人の保護者である「保佐人」には、原則として代理権がありません。
これは被保佐人が未成年者や成年被後見人に比べて判断力があるため、単独行為が認められているからですが、家庭裁判所が特定の法律行為における代理権を保佐人に与えることは例外として認められています(その際には、被保佐人の同意が必要です)。
ただ、だからといって、マンションで買うなどという行為まで単独でさせるのは危険だということで、保佐人の同意権が必要な行為が定められています。

・元本の領収もしくは利用
・借財または保障
・不動産その他重要な財産に関する権威の得喪を目的とする行為
・訴訟行為
・贈与、和解、または仲裁合意
・相続の承認、または法規、もしくは遺産分割
・贈与若しくは遺贈の拒絶、または負担付きの贈与もしくは遺贈の受諾
・新築・改築・増築・大修繕
・土地は5年、建物は3年、動産は6ヶ月を超える賃貸借

という重大な契約および家庭裁判所で認めた行為について、被保佐人が同意なしに行った行為は、保佐人・被保佐人両方による取消が認められています。

そして、被保佐人と違って「著しく」というほどではないのですが、それでも精神障害のためにわずかながら判断能力が不十分とされ、家庭裁判所が補助開始の審判をした人のことを「被補助人」といいます。
被補助人には補助人という保護者がつきますが、かなりの判断能力は有しているため、基本的には補助人の代理権・同意見はありません。
家庭裁判所が定めた特定の法律行為(同意権の場合は特定の財産行為)についてのみ、代理権や同意権を与えることができるのです(代理権の付与の際には被補助人の同意が必要)。

しかし、制限行為能力者の権利を守ることは大切だといっても、それでは契約の相手方の権利が損なわれてしまいます。
もちろん、相手が制限行為能力者だと知った上で契約を結んだ場合は尊重する必要などありませんが、知らずに結んだ契約が後から取り消されてしまっては困るでしょう。
特に18歳や19歳は見た目にはほとんど成人と変わりがないため、「自分は20歳だから車を売ってくれ」と嘘をつかれればそれを信じて契約を結んでしまうのではないでしょうか。
これが後から保護者が出てきて、「制限行為能力者だからこの契約は無効だ」などと言われたら、車は戻ってくるもののせっかく受け取った利益は返さなくてはならないのです。
こういった場合、相手方の権利保護のために認められている権利があります。

まず「催告権」という、制限行為能力者やその保護者に1ヶ月以上の返答期間を定め、契約を取り消すかどうかという返答を求める権利が認められています。
制限行為能力者の行為といっても追認によって有効になる場合もありますから、相手方はその契約がどうなるか気になってしまうわけです。
それをはっきりさせるため、追認するかどうかの判断を要求できるのです。
催告をする時点で本人が制限行為能力者であれば、法定代理人に催告をします(被保佐人・被補助人の場合は本人でも可能)。
返事があればその通りになりますが、なかった場合には、被保佐人・被補助人の本人ならば取り消したものとみなし、それ以外は追認したものとみなして有効な契約となります。
能力が回復していればいずれの場合も本人に催告し、返事がなければ追認おみなして契約は有効です。

この、催告に対する追認の他に「法定追認」と呼ばれる、

・全部または一部の履行
・履行の請求
・更改
・担保の供与
・取消権者が自分の権利の譲渡
・強制執行

という行為があった場合および取消権が時効によって消滅したときには、制限行為能力者であることを理由に取り消すことができなくなります。
上記の理由において「こういった場合に追認になる」という具体的記述はされていません。これら追認擬制は「黙示の追認」にあたるため、一律に追認と認められないのです。

また、未成年者が自分を成人であると偽って契約したなど、制限行為能力者であることを故意に隠して取引したときに、制限行為能力者を保護する必要性はなくなるため、取消はできなくなります。

4 失踪宣告

姿を消し、探してもみつからない人に対し、家庭裁判所は失踪宣告というものを下すことができます。
この宣告があるとその人は死んだものとみなされるため、残された人たちはいつまでも待ち続けることなく財産処分や再婚などが認められるようになります。
失踪には、生死不明が7年続いた「普通失踪」と、戦場に取材に行ったらそこで行方不明になったり乗っていた飛行機が墜落したものの死体が見つからなかったりという災害から1年生死不明が続いた「特別失踪」があり、これらの条件が満たされると、利害関係人にあたる配偶者・推定相続人は家庭裁判所に失踪宣告の請求をすることができます。

ただ、失踪宣告がされて死んだことになっても、権利能力は消滅しません。
権利能力がなくなってしまうと、失踪者がもしも生きて戻ってきたときに、何もできなくなってしまうからです。
ただ、生還して宣告が取り消されても、取消し前に当事者双方が善意(生きているとは知らずに)で結んだ契約は有効なままです。

5 住所

私たちには本籍地だの住民票だの、様々な場所が付与されていますが、民法における「住所」は生活の本拠地としている場所のことです(法人の場合は事務所の所在地)
ちなみに、行政法上での住所は住民票に書かれているものというややこしい違いがあるので気を付けましょう。

仮住所を住所とみなすことも、1人が複数の住所を有することも、契約によっては有効になり得ます。

6 法人とは

では、自然人ではないけれども法人格を与えられた「法人」について見ていきましょう。

法人は法によって権利能力を付与されており、自然人と同じように自分の名で権利を取得したり、義務を負ったりということが可能です。
一般的に会社と呼ばれる「営利法人」の他にも、一般社団法人・一般財団法人の「非営利法人」、さらにこれに総理か知事による行政庁の認定が付与されることでなる社団・財団の「公益法人」があります。

法人の設立については準則主義が採用されているため、法律の要件を満たし、定款作成、公証人の認証、設立登記という手順がとられます。
権利能力は自然人同様生まれた瞬間、つまり設立と同時に有することになりますが、法人には自然人とは違い一定の目的があるため、定款の目的範囲内でのみ権利能力が認められています(また、法令によって制限を受けることも)。
これは記載された目的それ自体のみというわけではなく、その目的を遂行するために直接・間接的に必要な行為も含まれ、取引の安全の見地から客観的に判断すべきであると判例はしていますが、傾向としては営利法人が緩やかな判断をされるのに対し、非営利法人には厳しめの判断が下されることが多いです。

7 私権の客体となるもの

私権の持主であるところの私たちは、日頃色々な取引をしています。
リンゴ1つ買うのも取引ですが、この「リンゴ」のような、取引の対象となるものを「客体」といいます。

客体にはいくつかの分類があり、まず「動産」と「不動産」にわかれます。
これは文字通り、動く財産か動かない財産かというもので、土地やそこに定着するもの(家や店など)は動かないから不動産、それ以外の動くもの全てを動産、として扱います。
ちなみに、立木は立木法により個別の登記が可能なため、独立した不動産として客体とされます。

また、「主物」と「従物」という分類をすることも可能です。
たとえば「家」という主物に対して「納屋」という従物がある場合、家を買うときに納屋についての契約を別途で結ぶ必要はありません。
従物の処分は主物の処分に従うため、家を買えば自動的に物置がついてくるということです。

3つ目の分類は「元物」と「果実」です。
元物は利益を生み出す元、果実はそこから生じた利益ですが、これではわかりにくいため具体例を挙げてみましょう。
たとえば牛という元物から牛乳という果実がとれる、リンゴの木からリンゴという果実がとれる、土地という元物を貸して賃料という果実が得られる、という具合です。
ちなみに果実は、牛乳・野菜・卵などの「天然果実」と、家賃や利息といった「法定果実」に分けられます。

8 法律行為

私たちは日々、様々な「法律行為」をしています。
実感がわかないかもしれませんが、ともかく「意思表示によって権利・義務を発生、あるいは変更、消滅させる」行為を法律行為といいます。
たとえばコンビニに行ってパンを買うというのも、買い手側がお金を支払って「買おう」という意思を表示し、売り手側もそれを受け取りパンを持ち帰らせることで「売ろう」という意思表示をしたことになるため、ここには売買契約という法律行為が成立するのです。

法律行為は、意思表示がどのようなものであるかということによって分類することが可能です。
1人で一方的な意思表示をすれば成り立つ場合は「単独行為」と呼ばれます。
相手方がいない単独行為には遺言という、相手に通知する必要がないものがあります。
取消や解除、債務免除等は単独行為ですが相手方がいるため、相手方への通知が必要です。
一方、対立する複数の意思表示によって成立する、「申込み」と「承諾」がある契約を「双方行為」といいます。
これは身分契約の結婚が代表的で、他にも財産契約の売買、賃貸借、請負、委任などがあります。
また、同じ複数の意思表示によるものでも、会社の設立のように数人が一緒に同じ目的を持って行う場合は「合同行為」と呼ばれます。

これらは法律行為ですから行為が成立した時点で法的効果が生まれますが、「準法律行為」という、意思を発するだけであって法律効果は発生しない行為や、単に事実を知らせているため意思表示には当たらないという行為があります。
前者は催告や受領拒絶・観念の通知、後者は代理権授与の表示や債務の承認、社員総会の招集などです。

また、たとえ法律行為にあたるような契約でも、「公序良俗違反」となるような目的では無効となります。
愛人契約や人殺しの依頼など、社会秩序や道徳に反するものは認められないのです。

9 意思表示

とある商品を見つけ、購入を検討し、その旨を店員に言おうか考え、そして「これを売ってください」と伝える、という一連の流れをまとめて「意思表示」といいます。
契約の成立には欠かせない意思表示は、正常な判断がある行為能力者(制限行為能力者でも場合によっては)によるものならば、有効なものとして扱われます。
しかしときには、判断能力があっても望まない契約を結んでしまうこともあるのです。

その1つ目が「心裡留保」です。
これは、たとえば本当はその気がまったくないのに「10万円あげるよ」などと、冗談のつもりで言ってしまったことは有効な契約になるのか、という問題です。
原則として、本心を隠していても意思表示は有効なものとして扱われますが、心裡留保の場合は相手がそれを冗談・嘘だとわかっていたか、いないかによって変わってきます。
もしも相手が「善意」、冗談だとは思わず本気で信じていたのなら、相手を保護するためにこの贈与契約は有効なものとなります。
しかし冗談だとわかっていた「悪意」だったり知ることが可能だったりする場合には、保護する必要はなくなるため契約は無効です。

2つ目のパターンは「通謀虚偽表示」という、見せかけだけの契約を結ぶことです。
これは主に、借金の差押えを逃れるために名義だけを移しておくということでなされるもので、Aさんが友人Bさんと口裏を合わせて自分の土地の名義だけをBさんに変更し、売ったように見せかけるというものです。
変更したのは名義だけですから、所有権が実際にBさんに移ったわけではありません。
外見上は確かに登記が変わっているのですが、AさんとBさんがお互いに嘘だとわかっているため、通謀虚偽表示は当事者間において常に無効になります。
しかし、当事者以外の第三者が関わってくるとどうでしょう。
土地の名義が自分であることをいいことに、Bさんが土地を勝手に第三者Cさんに売ったというような場合、Cさんが善意の第三者か、悪意の第三者かによって変わってきます。
Cさんが善意のときには、たとえ通謀虚偽表示でAB間の契約が無効でも、何も知らないために保護されるCさんに対して無効の主張をすることは不可能です。
Aからすればたまったものではありませんが、通謀虚偽表示は「当事者間では」無効でも、「善意の第三者には」無効にならないのです。
もし、Cさんが通謀虚偽表示の事実を知っている悪意の第三者なら、BC間の契約の無効も主要できます。

3つ目は「錯誤」、早い話が勘違いです。
結論から言ってしまうと、原則として法律行為の要素に錯誤があれば無効にできますが、ただし例外として、意思表示の際に重大な過失がある(注意すれば錯誤を防げたであろう)ときには無効の主張は不可能です。
上記の2つとは異なり、錯誤においては表意者自身が意思表示の瑕疵を認識していません。
そのため、表意者と相手方の両方を保護しなくてはならず、民法では錯誤全体を無効の対象とせず「法律行為の要素」かつ重大な過失がないときのみを錯誤とすることにしているのです。
たとえば、本当は10万円の時計を買うときに間違って契約書に100万円と書いてしまった上、売り手側も気づかなかった場合は完全な表示ミスにあたるため、契約は無効にできます。
もう1つ問題となるのは「動機の錯誤」です。
ブランドものだと思って買ったのに実はコピー品の偽物だった、などという場合です。
「本物だから買う」という動機に錯誤があるのですが、原則として要素の錯誤にはあたらないため無効の主張はできません。
ただし、相手方にその動機も表示していたのならば要素の錯誤にあたります。

4つ目は「詐欺」および「強迫」です。
だまされたり、脅されたりしたためにしてしまった意思表示は当然ながら取り消すことが可能です。
しかしここでもまた、第三者が絡んでくると話が違って来ることがあります。
詐欺の場合、たとえばAさんに騙されて土地を安く売ってしまったBさんがいたとして、普通でしたらBさんは土地を取り返せるのですが、取り消す前に土地が第三者Cさんに売られてしまったときにはどうなるのでしょう。
Cさんが善意の場合には、本当に何も知らないCさんが一番保護されるべき存在であるため、Bさんは取消しを主張できなくなります(悪意ならば取消可能)。
詐欺は騙される方も悪いだろう、というのが法律の考え方なのです。
これに対し、脅されて無理やり契約を結ばされた強迫の場合には、脅された人に何の落ち度もないため、第三者が善意であろうが悪意であろうが契約は無効にできます。
善意の第三者であった場合にはかわいそうですが、法律問題の解決では誰かが涙を飲むことになるのが当たり前なのです。

10 代理

制限行為能力者のところにも出てきた「代理」ですが、これは日常的に使う意味とあまり変わらず、誰かの行為を代わりにするということです。
本人の知識が不足している制限行為能力者の代理の他にも、本人が忙しくて時間がなかったり、具合が悪くてできなかったり、という場合に代理がなされます。
代理には、弁護士を雇うなどのように自分の意思で代理人を選ぶ「任意代理」と、制限行為能力者の保護者など、裁判所が代理人を選出する「法定代理」があります。

本人の代わりに代理人が法律行為をする代理では、与えられた代理権の範囲内で代理人が本人の名でした意思表示は、結果として本人に法律効果(権利を得たり義務を負ったり)が帰属します。
代理の際には、自分は誰の代理なのかを明らかにする「顕名」と、本人から代理権が与えられているという条件が揃っていなければいけません。

代理人が代理行為をする際には、当然ながら意思表示が必要ですから、代理人になるには意思能力があることが前提となります。
しかし行為の効果自体は代理人でなく本人に帰属するため、行為能力はなくてもよいとされています。
代理人に不利益が生じるということはなく、もしも本人が不利益を被ってもそれはその代理人を選んだ本人の責任、ということになるのです。
よく代理と間違われやすいものに「使者」がありますが、これはただ頼まれたことをするだけのおつかいでしかないので、意思能力も行為能力も不要です(子どもでもできますし、極端な話、メモを首から下げた犬にでもできます)。

では、せっかく代理を頼んだものの、その代理人まで都合が悪くなったときにはどうするのでしょうか。
そのために、代理人がさらに代理人を立てるという「復代理」という制度が認められています。
少しややこしいですが、大原則は「どれだけ復代理がされても効果の帰属は本人へ」ということ、「復代理人は代理人の代理ではなく本人の代理」ということなので、ここを押さえておきましょう。
ちなみに、復代理人は必ず立てられるというわけではありません。
任意代理の場合は原則不可能で、代理人にやむを得ない事由がある(病気になったり都合が悪くなったり)して、かつ、本人の了承を得た場合のみ復代理人の選出が可能です。
法定代理ならば、代理人になりたいわけではないのに勝手にされたことになるのですから、いつでも自由に復代理人を立てることができます。

たとえば子どもが事故を起こした時には自動的にその親が法定代理人になるのですが、仕事にしていない限り法律に詳しい親はなかなかいないため、保険会社や弁護士という復代理人に頼んで相手方との交渉をやってもらうのです。
復代理人の権限は代理人の権限の範囲内に限られるため、代理人の権限が消滅したときには同時に復代理人の権限も消滅します。
代理人の権限自体は復代理人がいる場合でも消滅しません。
復代理人が相手方から何かものを受け取った場合には、それを本人および代理人に引き渡す義務が生じますが、代理人に引き渡せば本人へ渡す義務はなくなります。

さて、これらの場合はいずれも、本人がきちんと代理権を付与していることが前提です。
では、代理権がないのにも関わらず、勝手に代理行為をするという「無権代理」はどうなるのでしょう。
無権代理の場合、当然ですがその代理行為は無効なものとなります。
しかし無権代理でも、場合によっては本人にとってありがたいことになるかもしれませんから、本人は追認をしてその代理行為を有効なものとすることも可能です。
勿論「追認拒絶」をして無効にすることもできるのですが、無権代理と相続については押さえておきたい2つのパターンを示す判例があるので、確認しておきましょう。
父親の財産を、息子が代理人を装って勝手に売ってしまったあとに父親が死亡したなど「無権代理人が本人を相続」したときには、あとから本人として追認拒絶をすることはできず、契約は有効になります(相続人が他にいれば全員でどうするか決める)。
反対に「本人が無権代理人を相続」してしまった場合には、本人は被害者にあたるため追認拒絶が可能ですが、もし拒絶したときには無権代理人の責任は免れません。

原則として無効、しかし追認によっては有効という無権代理ですが、相手方からすればどうなるかわからないため、不安でならないでしょう。
そのため、制限行為能力者と結んだ契約のように相手方には「催告権」および「取消権」が与えられています。
催告権は「どうするのか早く決めろ」ということを促すだけなので、相手方の善意・悪意(無権代理だったことを知っているかどうか)は問わず、本人に対して追認か拒絶かの返事をするよう催告することができます。
本人がこの催告を無視して返事をしなければ、追認拒絶とみなされます。
取消権は相手方が善意である場合のみ行使可能で、本人が追認しない間に契約を取り消せます。

また、相手方が無権代理人に対して善意無過失(本気で代理人だと信じ、不注意でもない)の場合は、相手方は無権代理人に対して契約の履行を請求したり損害賠償を請求したりということができます。

しかし、その無権代理にも例外があり、善意無過失の保護のための制度として「表見代理」というものが設けられています。
表見代理として扱われるのは無権代理のうち、本人が代理権を付与しているかのような表示をしている場合、すでに与えられている代理権の権限外でした代理行為の場合、代理権の消滅後に行われた代理行為の場合、のいずれかで、かつ、相手方が善意無過失であるときです。
順に見ていきましょう。
本人が代理権を付与しているような表示、とは、家を売りたいAさんが相手方Bさんに「Cさんを代理人として家を売るつもりなんだ」と言った後にCさんが代理人と名乗ってBさんと契約してしまった、などという場合です。
このAさんの発言は「代理権授与表示」にあたり、仮にAさんがCさんに代理権を授与していないとしても、Bさんからすれば正式な代理人に思えるということです。
すでに与えられている代理権の権限外の行為についても、相手方がそれが無権代理行為だと知らなければ有効になります。
代理権の消滅後の代理行為についても同様で、相手方が消滅の事実を知らなければ、契約は有効になるのです。

代理権はいつ消滅するのでしょうか。
任意代理の場合は、本人の死亡・破産・解約告知、代理人の死亡・破産・後見開始の審判・解約告知のいずれかが消滅事由となります。
法定代理は本人の死亡、代理人の死亡・破産・後見開始の審判があれば、代理権が消滅します。

では最後に、代理における禁止事項を見ておきましょう。
まず1つ目が「自己契約」というもので、これは代理人本人が当事者になってしまう、というものです。
車の売却の代理を頼まれたからといって、「じゃあ僕が買うよ」などということはできないのです。
代理人が自分自身と契約するとなると本人の利益を考えず、自分に有利になるよう契約を結んでしまう恐れがあるための原則禁止ですが、例外として本人が承諾をした場合は自己契約も認められます。
もう1つは、「双方代理」です。
これは、買主と売主など、当事者双方の代理人を1人で兼任してしまうというもので、どちらかの利益のみ優先してしまうという危険性があるために原則禁止となっています。
しかし、自己契約同様、当事者である本人が承諾していれば許されるのです。

11 無効・取消し

先程からところどころで、「契約を取消しできる」「無効なものになる」などという言葉が出てきています。
この2つは似ているようで違いがあるので、学習時には混同しないよう気を付けましょう。

「無効」となった場合、その法律行為の効果は初めからなかったものとして扱われます。
行為の最初から効力がないのですから、無効原因があれば誰でも、どの時点でも無効を主張することが可能です。

一方「取消」は法律行為を取り消すものの、一度は有効に成立したものであるため、契約の最初の時点まで遡って無効にするという「遡及効」です。
たとえ取り消されるべきものといっても有効であることは確かなので、誰でもできるわけではありません。
法定の取消事由があることに加えて、取消権者(無権代理人の相手方となった善意の第三者などが持っています)による取消しでなくてはならない、と決められています。
また、取消権は消滅時効の対象になるため、時間が経ってしまうと取り消すことができなくなります(追認できるときから5年、行為時から20年)。

12 条件・期限・期間

法律行為の効力には、それが発生するための条件や、いつまで有効なのかという期限・期間があります。

まず「条件」とは不確定、つまり起きるかどうかはわからない事実によって法律行為の効力が発生したり消滅したりということです。
テストで100点を取ったら、宝くじが当たったら、昇進したら、など、必ず起きるとは限らない事実がこれにあたります。
これには、条件が満たされるまで法律効果の発生が停止されるという「停止条件」と、ある事実が発生した場合には契約の効力が消滅する「解除条件」があります。

それに対して、必ず起きる確実な事実を「期限」といい、元日や「何月何日」という確定した日付や「自分が死んだとき」のように、絶対に起こり得る事実を指します。
日付などのはっきり決まった期限を「確定期限」、起こるのは確かだけどいつのことかはわからないものを「不確定期限」といいます。

「行為開始時から10年以内」などのように、具体的な数値が定められている場合は「期間」として、計算をする必要があります。
時分秒の場合はその瞬間にスタートなので、「4時から1時間」ならば5時ピッタリまで、ということになります。
しかし日月年では初日不算入、つまりその日自体はカウントしないという原則にあるため、もしも「今日から3日間」と言われたのが4日の10時だった場合、4日のことは計算に含めず、7日の24時までになるのです(午前0時ちょうどに結んだ場合は例外としてその日もカウント)。

13 時効

さて、その期限や期間が重要になってくるのが時効です。
時効には「取得時効」と「消滅時効」があります。

取得時効は、成立によって所有権などの権利を新しく得られる時効です。
この成立において重要なのは「所有の意思」の有無と、過失の有無、そして善意か悪意かということです。
過失なく、自分のものであると心の底から信じて善意の占有をしていた場合は10年で、盗んだものを自分のものとして悪意の占有をしていた場合は20年で、取得時効が成立します。
「借りたものを返さず使い続けている」という行為には所有の意思がないため、どれだけ時間が経とうと取得時効は成立しません。
取得時効成立には、「所有の意思で平穏かつ公然と占有」という条件が必要なのです。

占有している間にその人が死亡したり、あるいは誰か別の人に占有を承継させたときには、時効は継続するのでしょうか、それともリセットされるのでしょうか。
元々占有していた人が善意の場合であれば、占有を承継した人の善意・悪意を問わずその時効はそのまま進行します。
しかし、元々の占有者が悪意だったときには、承継者が善意で占有を承継すればそのまま時効が進行、占有を承継しなければ善意の自分としてのみの占有を新たに始めることになります。
承継者も悪意という場合には、そのまま占有を受け継ぐことになります。

反対に、成立すると権利が消滅するという時効を「消滅時効」といい、権利を行使していないという事実および一定期間の経過によって成立します。
消滅時効は、債権は10年、所有権以外の財産権は20年で成立事由となります。

時効の効力は遡及効であるため、起算日(開始の日)まで遡ります。
取得時効では占有(所有)開始日まで遡って権利を取得し、消滅時効では過去まで遡り、最初から権利はなかったものとして扱います。
とはいえ時効は一定期間を経過しても自動的に効力が発生するのではなく、「援用」することが必要です。
これは時効成立を主張するということですが、援用が可能なのは時効によって直接利益を受ける人のみと定められており、判例では取得時効を援用できるのは転得者・地上権者、消滅時効では連帯債務者・保証人・連帯保証人、物上保証人、抵当不動産の第三取得者、詐害行為の受益者とされています。
時効の利益を放棄したいという場合には、時効が完成した時点で可能になります。

時効が成立するまでは、時効成立に必要な状況がずっと続いているという必要があります。
たとえば飲食代金債権の消滅時効は1年ですが、いつまで経っても支払わない客に怒った店が11ヶ月目にして裁判所に訴えると、その11ヶ月間はリセットされ、時効の成立にはまた新たに1年が必要という「時効の中断」が起こります。
時効の中断事由となるのは「請求」「差押え・仮差押え・仮処分」「承認」の3つです。
裁判上の請求では訴えが提起されたその時点で時効がストップしますが、訴えが却下されたり棄却、取下げとなったりしたときにはそのストップがなかったことになり、中断はしません。
催告の場合には、催告をするだけでは時効中断となりませんが、催告後6ヶ月以内に裁判上の請求などをした場合には、催告時まで遡及して中断します。
承認とは、担保の給与や利息減免の申込み、弁済の猶予の申込みなどです。

また、時効が停止されることもあります。
時効を中断させたくても、地震などの災害が起きたり急病になったりという事情があると、中断できずに時効が完成してしまうかもしれません。
そのため、やむを得ない事情があって時効の中断ができない場合には、時効の完成が一定期間猶予されるという「時効の停止」が認められています。
ただ、時効が中断されたわけではなく期間が延びただけで未だ進行しているため、停止事由が発生してもそこから一定期間が経過すれば、時効は成立します。

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