債権各論

債権各論

行政書士試験の出題科目である民法は、財産法と家族法に大きく分けられ、そのうち財産法には物権に関わる法律と債権に関わる法律が含まれています。
物権は「物」に対する権利で、債権は「人」に対する権利であり、債権はさらに総論と各論に分かれています。

債権各論では、各種の契約や事務管理、不当利得や不法行為について定めていますが、特に重要となるのは契約各論で、過去5年で毎年出題がありました。
物権や債権総論同様、それぞれの要件や効果をしっかり整理するようにしましょう。

 

契約総論

「契約」というと、書類を作ってハンコを押して……というような手順がイメージされがちですが、そういったものだけでなく、日常生活における買い物や、友人間で本を貸し借りするというものも立派な契約に含まれます。
お互いに権利義務が発生する約束、というのが民法の規定した契約で、社会を成り立たせるため、契約は確実に履行されることが求められています。
電車が好き勝手な場所に行ってしまったり、パンを買ったらガムを渡されたりという社会になったら大変ですから、契約を守らせるための決まりが定められているのです。
相対立する複数の意思表示が合致することで成立する法律行為がこれにあたるとされています。
日本は「契約自由の原則」がありますから、公序良俗や強硬法規に反したものでない限り、個人の自由によって契約を結ぶことが可能です。

契約は、様々な視点から分類することが可能です。
「贈与」「交換」「売買」「消費貸借」「使用貸借」「賃貸借」「請負」「雇用」「委任」「寄託」「組合」「和解」「終身定期金」という、13種類の典型的な契約を「典型契約」といい、その他当事者間が自由に結んだ契約を「非典型契約」といいます。
当事者がお互いに義務を負うものを「双務契約」といい、売買・交換・賃貸借・雇用・請負・優勝の委任や寄託・組合・和解が含まれます。
一方だけが義務を負うものは「片務契約」と呼ばれ、贈与・消費貸借・使用貸借・無償の委任や寄託がこれにあたります。
対価・報酬を払う「有償契約」には売買・交換・有償の消費貸借・賃貸借・雇用・請負・有償の委任や寄託・組合・和解が、対価・報酬を伴わない「無償契約」には贈与・無償の消費貸借、委任、寄託が含まれます。
また、売買・賃貸借・雇用といった、当事者同士の合意だけで成立する「諾成契約」と、消費貸借・使用貸借・寄託のように当事者の合意だけでなく物の引渡しなどの行為を必要とする「要物契約」という分け方もされます。

契約成立のためには、「申込み」と「承諾」という、相対立する複数の意思表示の一致が不可欠ですが、基本的に申込みがされると、承諾の前に準備行為をすることになるでしょう(お金を用意するなど)。
そのため民法では「申込みの拘束力」が定められており、申込みの撤回を制限しています。
申込者によって承諾期間が決められた申込みでは、承諾期間内に申込みの撤回は不可能で、期間内に承諾の通知が無ければ申込みは失効します。
承諾期間を決めなかったときには、承諾の通知を受けるために必要な相当期間が慣習または信義則によって定められ、その期間内に申込みを撤回することは出来ません(相当な期間内に承諾が無ければ、申込みの撤回が可能になります)。
一方、承諾を成立させるには申込みの効力がある間にしなくてはならないという「承諾適格」もあります。
申込みの効力が失われてからした承諾は原則無効ですが、申込者がその延着した承諾を新たな申し込みとみなし、あらためて申込者が承諾をすれば成立します。
また、代金を値切るなどのように変更を加えた承諾も、最初の申込みの拒絶と同時に新たな申込みがなされたものとみなされます。
契約は二つの意思表示が合致した時点で成立しますが、遠く離れた場所で住んでいる人たちが郵便によって契約を結ぶなどの場合には、承諾の通知を発したときが成立とされます。
これは「発信主義」に基づくことですが、承諾期間の定めがあれば「到達主義」に基づき、到達によって効力が生じることになります。

契約が成立することによって、当事者間に権利義務、つまり債権と債務が生じます。
中でも双務契約では当事者同士が互いに債務を負っているため、「同時履行の抗弁権」と「危険負担」という特別な効力も発生します。
同時履行の抗弁権は、双務契約において片方の債務履行がなされるまではもう片方の債務履行は拒めるというもので、これは一般的な買い物においてごく自然に行われているものです。
レジで代金を支払う事で代金支払債務を履行するまでは、店側は品物を渡す商品引渡債務を履行しなくてよい、ということです。
同時履行の抗弁権を行使しても、相手の債務が履行されないことが原因であるため、債務不履行の責任は負いませんが、自分が先に履行する義務があるときには例外として行使出来ません。
また、判例によると、同時以降の抗弁権が訴訟で主張されると「引換給付判決」になるとされています。
この権利は双務契約を前提としていますが、「契約解除による原状回復義務(売買契約をやめて、代金と品物を互いに返す)」、「弁済と受取証書(領収証など)の交付」、「立退料の支払と土地・建物の明渡義務」でも、民法の準用によって認められています。
一方で、「弁済と債権証書(契約書など)の返還」「造作買取請求権に基づく代金支払義務と建物明渡義務」「敷金返還義務と建物明渡義務」では、同時履行の抗弁権が認められません。
同時履行の抗弁権を主張出来るのは相手方に対してのみですし、代わりの担保の提供による消滅も不可能で、またこれが付着している債権を自働債権として相殺するということも出来ません。

これに対して危険負担は、契約の成立後に、債務者側の責任ではない原因で履行が出来なくなった場合、そこで生じた経済的損失は誰が負うべきかという状況に関係します。
債務者に帰責事由がないというのは、自然災害などによるケースを指します。
たとえば、AさんがBさんから買った家が、Aさんに引き渡される前に地震で倒壊してしまったとしても、帰責事由のないBさんが負うべき責任はありません。
が、かといってAさんに責任があるわけでもなく、Aさんを優先すれば家という財産を失ったのに一銭も得られないBさんが、Bさんを優先すれば家は無いのに代金を払わなくてはならないAさんが損をすると言う状況になっているのです。
危険負担は、このような場合のリスクを公平に分担するためのルールであり、原則としては「債務者主義」がとられ、債権者のAさんは代金を支払わなくてよいことになります。
が、例外として、特定物に関する物権の設定や移転、特定後の種類債権や選択債権の場合は「債権者主義」がとられるため、Aさんに代金支払義務があるままになるのです。
家という不動産は特定物であるため、Aさんは気の毒ですが、代金を支払わなくてはなりません(もっとも、実際の契約では特約によって買主の代金支払義務が免除される旨が交わされることがほとんどです)。

そんな契約ですが、締結した後でも一方当事者が意思表示をすることで「解除」をすることが出来ます。
解除は遡及効ですから、契約関係が最初からなかったことになるため、まだ履行がされていない債務は履行の必要がなくなり、既に終わった履行は相互に返還して「原状回復」することになります。
とはいえ、好き勝手に解除してよいなどというようでは安心して契約を結べないため、解除権を発生させるためには要件を満たすことが必要です。
当事者間の合意によって決めた一定の事由が発生する(特約で決めておくなど)ことが要件なのが「約定解除権」、当事者間に法律で定められた一定の事由が発生することが要件なのが「法定解除権」です。
解除権の行使は相手方に対して一方的に意思表示をすればよく、相手方の承諾を得る必要はありませんが、一度した意思表示は撤回出来ず、行使に条件を付けることも出来ないという決まりがあります(契約当事者の合意によって解除する例外もあり)。
解除の当事者が複数人の場合、判例では、全員からまたは全員に対してする必要があるとされています。
もしも解除によって損害が発生した場合には、原状回復に加えて損害賠償請求をすることも可能で、この損害賠償や原状回復の義務を契約当事者が相互に負ったときには、その義務は同時履行の関係(どちらかが履行しなければもう一方は履行を拒める)になります。
解除による遡及効は登記を備えた第三者(善意・悪意を問わない)に対抗出来ませんが、解除後に関わった第三者の場合であれば登記の有無で決まります。
解除権の消滅時効は解除権を行使出来る時点から10年で、また、解除に伴う損害賠償権の消滅時効も判例により10年とされました。

 

 

契約各論

契約総論で、「典型契約」とされる契約の代表格13種が挙げられました。
行政書士試験では、贈与、売買、賃貸借、請負、委任が重要視されています。

「贈与契約」とは、簡単にいうとプレゼントのことです。
契約の当事者の一方が、財産を無償でもう一方の相手方に与える意思表示をし、それを相手方が承諾すると成立する諾成・片務・無償・不要式の契約です。
何かをあげる側の人を「贈与者」、もらう側の人を「受贈者」といいます。
贈与契約の多くは口約束で結ばれますが、その場合には、履行前なら当事者双方が自由に取り消すことが出来ます。
が、一度でも「あげる」と言った以上、贈与者は財産権を相手方に確実に移転する義務を負うことになるため、引き渡すまではその物に対して善管注意義務が課せられます。
しかし、贈与契約は片務契約であり、受贈者は無償でもらっている以上、あげた物に欠陥があった時でも贈与者は原則、責任を負う必要はありません(が、その欠陥があることを知っていながら黙っていたという場合には損害賠償責任を負います)。

贈与契約と同じくらいよく交わされる「売買契約」は、諾成・双務・有償・不要式の、売主が買主に対して自分の持つ財産権を移転することを約束し、買主がその代金を支払うことを約束すると成立するというものです。
が、不要式とはいえ、不動産など代金が何百万・何千万というレベルの売買契約では締結時に「手付」という、売買契約の際に買主が売主に交付する、契約成立後に代金の一部に充当される金銭その他の有価物がやりとりされます(頭金、前金など)。
手付には、売買契約成立の証拠である「証約手付」、債務不履行があったときに違約金として没収する(別途実損害額も併せて請求可能)、または予定額の賠償のみ没収する(別途実損害額は請求不可)「違約手付」、買主は手付流しによって手付を放棄し、売主は手付倍返しによって手付の倍額を償還して契約を解除出来る「解約手付」がありますが、売買契約の当事者間で交付された手付がどれだかわからないときには、民法によって解約手付と推定されます。
そのため、契約書の記載が「手付金5万」だけでどの手付だかわからないときには、相手方が履行に着手するまでは手付流し・手付倍返しにより自由な契約解除が可能ですが、もしそうした場合は契約関係が「解消」されるため、その後の損害賠償請求は出来なくなります。

売買契約が成立することにより、売主は買主に対して財産権移転義務および代金受領後に生じた果実の引渡義務が、買主は売主に対して代金支払義務が生じます。
もしも対象物に欠陥があったときには「売主の担保責任」も生じますが、これは権利の在処などによって効果が異なります。
他人の所有物に対する売買契約も法律上有効(他人物売買の際は真の所有者が追認することで遡及的に有効になる)ですが、権利の全部が他人に属する場合の売主は所有者から取得した所有権を買主に移転する義務を負います。
それが不可能であるときは、買主は善意・悪意を問わず契約が解除出来、さらに善意であれば損害賠償請求も可能です(排斥期間は無制限)。
権利の一部が他人に属する(土地など)場合、買主は善意・悪意を問わず代金の減額請求が可能で、善意であれば残った部分だけで契約の目的が達成出来ないという場合は契約解除と損害賠償請求も可能になります(排斥期間は善意なら知った日から1年、悪意なら契約時から1年)。
10本頼んだ水が9本しか届かなかったなど、数量指示売買において数量不足・物の一部滅失がある場合、買主は善意ならば代金減額請求および損害賠償請求が可能で、また、ある分だけで目的達成が不可能という場合には契約解除も認められます(排斥期間は1年)。
購入した土地に地上権、永小作権、地役権など用益権が設定されていたために購入目的を果たせない(家を建てたいのに地上権による電線が邪魔で建てられないなど)という場合、買主は善意であれば契約解除と損害賠償請求が可能です(排斥期間は1年)。
また、購入した不動産に先取特権や抵当権があり、その担保権が行使されて所有権を失ったときには、買主の善意・悪意を問わず契約解除と損害賠償請求が認められますが、代金減額請求は出来ません(排斥期間は無制限)。
売買の目的物に隠れた瑕疵(通常レベルの注意では発見出来ないような欠陥)があったときには、買主が善意ならば常に損害賠償請求が可能で、さらに瑕疵によって目的達成が不可能な場合は契約解除も可能です(排斥期間は瑕疵発見から1年)。

売主が資金を得る目的でいったんは買主に売ったものの、将来売買代金の契約によって売買契約を解除し、目的物を取り戻すことを「買戻し」といいます。
債券担保の機能を有するという面では抵当権も同じですが、抵当権における競売は100パーセント思い通りになるわけではないため、売主へ融資した分のお金が一定期限までに弁済されなければ買主はその担保物を自由に出来るというこの制度があるのです。
買戻しが成立する要件は、「買戻しの特約が売買契約と同時にされている(登記は買主の移転登記に付記)」「売買代金と契約費用の合計を買戻代金として払う」「売主から買主に対して解除の意思表示があり、買戻代金が提供される」「10年以内(期間が定められていなければ5年以内)の買戻し」と厳しいため、実際にはもっと緩やかな「再売買の予約」というシステムが利用されがちです。

続いての契約は諾成・不要式・双務の「賃貸借」、当事者の一方が相手方に物を使用または収益させるという約束をし、相手方がそれに対して賃料の支払を約束すると成立するというものです。
無償で物を借りる場合は「使用貸借」、借りた物が使うと無くなる場合は無償・有償問わず
「消費貸借」と言います(消費貸借の場合、同種・同等・同量の別の物を返します)。
物を貸す側の人を賃貸人または貸主、借りる側の人を賃借人または借主と呼びます。
賃貸借については、借地借家法や農地法といった特別法が適用されます。
民法では、長期の賃貸借契約は20年と定められています(短期は規定なし)。

たとえば、AさんがBさんに家を賃借しているときに、AさんがCさんにその家を売ってしまったとします。
物権は債権に優先するという原則があるため、Cさんの所有権にBさんの賃借権は対抗出来ず、また対抗要件として不動産賃借権を登記するといっても借主に登記請求権が認められないため、賃借人の保護には欠けているといえます。
そのため、借地借家法では登記以外で不動産賃借権に対抗力を付与する規定を特別に置き、借地の場合は借地上の登記された建物の所有が、借家は建物の引渡しが対抗要件になるとしています。

賃貸借契約を結ぶと、賃貸人には「目的物引渡義務」「目的物修繕義務」が生じ、もしも目的物修繕義務が履行されず、使用収益が妨げられた場合には、賃借人はそれに応じた賃料の支払拒絶をすることが出来ます。
また、賃借物の修繕費やその他の費用を賃借人が負担した場合、賃貸人にはその費用を貸借人に支払う「費用償還義務」が生じ、修繕費など賃借物の現状維持に必要な「必要費」は全額、賃借人が自分の生活を快適にするべく建物を改良するために出した「有益費」は賃貸借終了時における賃借物の価格が増加していたらその増加分、または実際に支払った分だけを払う必要があります。
賃貸人の義務としては他に「敷金返還義務」という建物賃貸借においてよく生じるものがあり、賃借人から賃貸人に対して交付される金銭「敷金」を、賃貸人は賃貸借契約終了後に不払い賃料など損害金を控除した分を返還しなくてはなりません。
また判例では、立退き請求をされた場合の賃借人は明渡しが終了してから敷金返還請求をすることが出来るとされています。

賃貸借契約は双務契約ですから、賃貸人に義務が生じるように賃借人にも義務が生じます。
まずは物を借りている分の賃料を払う「賃料支払義務」は当然ですが、賃借人の過失によらない賃借物の一部滅失がある場合には、賃料の減額請求が賃借人に認められます。
また、借地借家法により、税金や不動産価格の変動によって近隣の地代・家賃と比較して不相応な賃料になった場合には、相応なものになるよう賃料を増減請求することもよいとされました。
物を借りている以上、大切に扱わなくてはならないのは当たり前ですから、賃借人には「善管注意義務」も生じますし、言うまでもありませんが借りた物を(元の状態で)返すという「返還義務」も負います。

法律上では「また貸し」、つまり賃借権の譲渡・転貸も認められますが、その際には賃貸人の承諾を得なくてはいけません。
もしも賃借人が賃貸人の許可なしに賃借権の無断譲渡・転貸をした場合、引退人は契約を解除出来ると法律上ではなっているのですが、判例では、背信行為と認められない特段の事情が賃貸人にある場合は解除出来ないとしています。
賃貸人が譲渡・転貸を承諾した場合、譲渡人や転借人が直接賃貸人に対する義務を負うため、転貸における賃貸人は貸借人・転借人の両方に賃料を請求することが可能です。

契約の期間が満了すると、賃貸借契約は終了します。
期間を決めていないという場合には、当事者はいつでも解約申し入れが可能ですが、実際に契約が終了するのは土地なら1年、建物なら3ヶ月、貸席・動産なら1日という猶予期間が経過してからです。
また、賃貸借の目的が達成出来ない「賃借人の意思に反する保存行為」「不可抗力による2年以上の減収」「目的物の一部滅失」「無断譲渡・転貸」「賃借人の債務不履行」といった事由が生じると解除が可能になります。
もしも賃借人が賃借物を賃貸人から買い取る「混合」が起きた場合でも、「借りる」という行為自体が消えるため賃借権は消滅します。

賃借人が死亡した場合でも賃借権が相続されるため、契約は終了しませんが、使用貸借の場合には相続がされず契約終了となります。

4つ目の契約は、「請負契約」です。
これは当事者の一方が仕事の完成を約束し、もう一方がその結果に対する報酬の支払を約束することで成立する諾成・双務・有償・不要式契約です。
仕事をする側の人を「請負人」、報酬を支払う側の人を「注文者」といいます。
請負人はまず何よりも「仕事完成義務」を負い、期日に間に合うように仕事を完了しなくてはいけませんが、仕事が完成しさえすればよいため第三者に下請けをさせる「下請自由」が認められています。
これは請負人と注文者の間で下請禁止の特約が結ばれていても可能ですが、もしも下請人の故意・過失があったときには請負人が責任を負わなくてはなりません(下請禁止特約を破っていた場合にはその責任も別途発生)。
請負契約における報酬は「仕事の完成」に対するものであるため、仕事の完成と報酬の支払は同時履行の関係にはなく、期日までに仕事が終わらなければ報酬の請求は出来ませんし、報酬が支払われていなくても請負人は履行遅滞の責任を負います。
が、完成後に目的物を引き渡す契約の場合には、引渡しと同時に報酬が支払われなくてはいけません。
ということはつまり、請負人には「目的物引渡義務」があるということですが、問題なのは完成した物の所有権が誰に帰属しているのかということです。
判例ではこれについて、原則、材料の全部または主要部分が注文者の提供による場合は注文者に、請負人が提供した場合は請負人に帰属するとしています(引き渡されれば注文者に移転)。
もちろん特約があればそれに従いますし、注文者が仕事の完成よりも前に代金を全額支払っている場合は特約があると推定されるため、完成と同時に注文者に所有権が生じます。

では、もしも請負の目的物に瑕疵がある、つまり完成した仕事に不備があった場合には、請負人はどんな担保責任を負うのでしょうか。
注文者の権利としてはまず、「瑕疵修補請求権」があり、原則、注文者は相当の期間を定めて瑕疵の修補を請負人に請求することが出来ますが、瑕疵が重要でなく、かつ修補に必要な費用が過分であるときにはこの請求は出来ず、損害賠償請求のみ可能になります。
その「損害賠償請求権」および、瑕疵が重大なために契約目的が達成出来なければ「契約解除権」も生じます(建物など、土地の工作物の場合は不可)。
担保責任は原則、目的物の引渡しもしくは仕事終了から1年間の存続期間を持っていますが、例外として土地の工作物は引渡しから5年、石造やレンガ造は引渡しから10年の期間とされています。

請負契約は、基本的に仕事の完成によって終了しますが、仕事の完成前であり、損害賠償をすれば注文者はいつでも契約解除をすることが出来ます。
また、注文者が破産宣告を受けると請負人・破産管財人に解除権が生じますが、この場合に請負人はすでにやった仕事の分の報酬・費用にういて破産財団の配当に加入することが認められます。

最後は「委任契約」という、当事者の一方がもう一方に対して法律行為の実行を委託する諾成・不要式の契約です。
報酬の特約次第で、有償か無償か、双務か片務かということが決まります。
法律行為の実行を頼んだ方を「委任者」、頼まれた方を「受任者」と呼びます。

委任契約が交わされると、受任者には、委任の本旨に従い十分に注意して委任事務を処理すべきという「善管注意義務」が生じます。
この義務は報酬の有無に関わらず発生しますが、無償の倍は自己物と同じだけの注意で十分とされています。
また、委任者の求めがあったときはいつでも事務処理の状況を、委任終了後にはその旨を遅滞なく報告すべきだという「報告義務」および、委任事務の処理中に受け取った者や収取した果実は委任者に引き渡すという「受取物の引渡義務」が生じます。
もしも受任者が受け取った金銭を自分のために使ったら、消費した日以後の遅延利息の支払および損害賠償をしなくてはなりません。
双務契約である場合には、委任者側にも義務が生じます。
委任契約は原則無償ですが、報酬を支払うという特約(原則後払い)があれば「報酬支払義務」が生じます。
行政書士の仕事も委任契約に基づいているため、しっかり特約を定めて報酬を決めておかないと、タダで働かざるをえなくなってしまうかもしれません。
また、「費用償還義務」に基づき、委任事務の処理に必要な費用について受任者の請求があればそれを前払いしなくてはなりませんし、受任者が立て替えたというときには立替払い以後の利息も加えて支払う義務も負います。
そして委任契約は無過失責任を採用しているため、委任事務の処理において受任者が損害を被った場合、委任者の故意・過失の有無を問わず損害賠償をする必要があります。
尚、委任は、委任者の死亡または破産、受任者の死亡または破産、もしくは後見開始の審判が下されると終了します。

 

 

事務管理

民法における「事務管理」は、日常生活で使われる意味とは少し異なり、他人のためにその事務・仕事を管理・処理する、義務ではない行為のことです。
この「事務」は、人が生活するのに必要な一切の仕事のことですから、事実行為・法律行為は問われません。
要件は「他人のために事務を管理すること」「他人のためにそれをする意思があること(自分のためにする意思が併存していてもOK)」「法律上の義務がない(そのため、親権者や受任者には事務管理が成立しません)」「本人の意思・利益に反することが明らかでない、つまり適法であること」です。

事務管理としてその行為が成立すると、違法性の阻却・管理継続義務・費用償還義務という効果が生じます。
事務管理では、それによって本人に損害が発生しても、本人の意思・利益に適合する場合ならば不法行為にはならず、損害賠償の必要もありません。
たとえば近所で火事が起こった時、消火活動のために他人の家のガラスを割ったりするのは結果的に本人の利益に繋がるため、違法性が阻却されるのです。
しかし、故意・過失によって本人に損害が及んだ場合には、債務不履行責任を負うことになります。
また、事務管理を始めた管理者には、本人の意思・利益に適するようその事務を管理する責任があります。
面倒になったからといって途中でやめられては、本人だって困ってしまうでしょう。
だからといってずっとやり続けなくてはいけないわけではなく、本人や相続人、法定代理人が管理出来る状況になれば管理を引き継げるようになります。
事務管理において管理者が支出した「有益な費用」、たとえば消火活動における消火器代といったものは、本人はそれを償還する必要があります。
また、管理者による立替払いがされたときには、管理者の代わりに弁済、あるいは担保の提供をしなくてはいけませんが、それが本人の意志に反する管理であった場合、本人が償還すべき範囲は現に利益を受ける限度までになります。

 

 

不当利得

不当利得とは、文字通り「不当」な「利得」です。
たとえば、車の売買契約が取り消されたものの、すでに買主が代金を支払ってしまったといった場合には、このお金は本来買主に返されなくてはならないものですが、これを売主が返さず自分のものとして懐に入れてしまうと、これは法律上の原因を欠く利得、すなわち不当利得になります。
法律上の原因無しに、他人の財産または労務によって得た利益を「不当利得」と言うのです。
不当利得は、「他人の財産または労務による受益」「他方に損失がある」「その受益・損失の間に因果関係がある」「法律上の原因が無い」という要件が揃うと成立します。
不当利得が成立した場合には、受益者は損失者にその利得を返還する義務が生じます。
上記の例ですと、売主は買主にお金を返すべきだ、ということですね。
しかし、不当利得に関して受益者が善意の場合には、今残っている分である「現存利益」のみの返還だけでよい、ということになっています。
悪意の受益者は保護する必要がないため、受けた利益の返還および利息、損害賠償を支払う義務があります。

不当利得には特則があり、弁済者が、債務がないと知った上で任意に弁済した場合には返還請求が認められないとされています。
これを「非債弁済」といい、債務がない、つまり法的原因がないのにも関わらず利益を得えいるため不当利得になりそうなのですが、贈与に似たものとして扱われるのです。
また、他人の債務とは知らずに自分の債務として弁済が行われた場合、原則として弁済者の不当利得返還請求権が認められるのですが、債権者が善意(有効な第三者弁済だと考えた場合)かつ「債権者が債権証書を毀損」「担保を放棄」「債権が時効で消滅」したときには認められません。
「不法原因給付」、つまり公序良俗違反となる不法な原因に基づく給付も、法的に無効であるため受益者に対する不当利得返還請求は出来ませんが、不法な原因が受益者だけにある場合には例外として請求が出来るとされています。

 

 

不法行為

不法行為という制度は、誰かが別の誰かに違法に損害を加えた場合、加害者の損害賠償によって被害者を救済するために存在しています。
不法行為の成立要件は「故意過失」「権利侵害」「因果関係」「加害者の責任能力」で、これらが揃うと不法行為として扱われるようになります。
「故意」とはわざとやることで、自分がそうすることで他人が損害をこうむるとわかった上で、結果発生の認識・認容をしている上でその行為をすることで、「過失」は注意不十分であること、つまり他人に損害を与える可能性があると予見しているのにも関わらずその回避のために必要な注意をしなかった、ということです。
故意・過失によって侵害される「他人の権利または法律上保護された利益」は、厳密な意味での権利だけでなく、法律上保護された利益全体が含まれています。
因果関係とはすなわち、損害が加害者の行為によるものであるということです。
この「損害」は財産的損害(実際に利益が減少する「積極的損害」および得られたはずの利益を得られなかったときの「消極的損害」)、身体的・精神的損害(慰謝料)を指します。
その行為がなければその損害は発生しなかっただろうという「条件関係」が認められると因果関係としてみなされるのですが、この世の出来事は全て関係しているとも考えられるため、やろうと思えば因果の可能性を無限に広げて条件関係を無数にすることも可能です。
そんなことになってしまえば、加害者がまったく予期出来ないような損害についても賠償責任が生じるおそれがあるため、判例・通説では「当該加害行為から通常生ずべき損害の範囲」が損害賠償の範囲であると限定しています。
最後に、加害者の責任能力とは、自分の行為の結果・法律上責任の発生を弁識出来るだけの能力が加害者にあることです。
加害者がこの能力を欠いているときには不法行為責任は生じませんが、未成年(責任を弁識出来るだけの知能が無ければ免責)・心神喪失者(成年被後見人のように事理弁識能力を欠く状況にある必要はなく行為時に欠落していれば免責)といっても一概に免責されるわけではないため注意しましょう。
たとえば、未成年といっても高校生になれば自分のしたことがどんな結果をもたらすか予想出来るでしょうし、たとえ心神喪失しているといってもそれが飲酒によるものなど、故意または過失によって一時的にその状態となっている人の不法行為まで免責するわけにはいきません。
また、もし加害者が責任能力を欠いていたというときでも、監督義務者(保護者など)が監督義務を怠っていた場合には、代わりに責任を負うことになります。

不法行為が成立すると、被害者は加害者に損害賠償を請求することが出来ます(原則として金銭賠償、名誉侵害の場合は例外として謝罪広告や出版事前差止めなど「適当な処分を命じること」も可能)。
損害賠償を請求する際には、被害者は加害者の故意・過失および因果関係を立証しなくてはなりません。
損害賠償額は原則、不法行為があった時点の価格によって算定されますが、判例では不法行為発生~訴訟までに価格変動があったときにはその中間最高価格によって請求出来るとしています。
また、損害の発生・拡大において被害者側にも過失があった場合には、裁判所による損害賠償額の算定についての考慮が認められているほか、損害を受けながらも他方で支出を免れた場合はその分の利益を損害額から控除する「損益相殺」という制度も認められています(加害者側からの相殺は禁止)。
損害賠償請求権は消滅時効にかけられ、被害者または法定代理人が損害および加害者を知ってから3年、または不法行為があった時点から20年で消滅します。

不法行為には特殊なケースがあります。
まず1つ目は、責任能力が無い者によって不法行為が引き起こされた場合です。
責任無能力者が賠償責任を負わないというときには、その監督義務者が損害賠償責任を負うことになります(監督責任を怠っていない場合には免責)。
2つ目は「使用者責任」、たとえば店の従業員(被用者)が業務中にお客さんに対して損害を与えてしまったという場合、雇い主(使用者)がその責任を負うということです。
これが生じるためには、「使用関係がある(営利・非営利、継続的・一時的は問わない)」「外形を基準とした場合に事業の執行中だと判断出来る(制服を着ている、ロゴ入りの車に乗っているなど客観的に見て勤務中だと思われる)」「被用者の行為が一般不法行為の要件を満たしている」「使用者が被用者の選任・監督に相当の注意をしていた、または相当な注意をしても損害が生じたことを証明出来ない(すれば免責)」という要件を具備する必要があります。
使用者責任が生じた場合、加害行為をした被用者が負う一般不法行為の責任だけでなく、使用者の損害賠償義務も発生し、この両者は「不真正連帯債務」の関係におかれることになります。
しかし使用者が損害賠償全額を負担するのは酷ということで、判例では信義則上相当と認められる限度ならば、被用者に対して求償することも認めています。
他にも特殊な不法行為として、請負人による第三者の損害(原則として注文者は責任を負わないが、その注文・指図に過失があれば責任を負う)、ビルの部品が落ちて通行人がケガをするなど、土地の工作物の設置または保存に瑕疵があった故の損害に対する「工作物責任」、複数人が一緒に不法行為をしたとみなされる「共同不法行為」、ペットの犬が他人にかみつきケガをさせた場合などの「動物占有者の責任」があります。
工作物責任は原則、占有者が責任を問われますが、損害防止のために占有者が必要な注意をしていた、過失が無い場合には所有者の無過失責任となります。
共同不法行為においては、一人ずつの行為と損害の因果関係を逐一証明することが難しいため、加害者(教唆した者や幇助した者も含め)全員が連帯して損害賠償責任を全額負担します。

 

行政書士カテゴリの最新記事