物権

物権

行政書士試験の出題科目の1つ、民法は「総則」「物権」「債権」「親族」「相続」という作りになっていて、このうち「物権」は文字通り、物が対象となっている権利です。
特に重要なのは物権変動や担保物権、抵当権に関する部分でしょう。
物権変動では、対抗要件に関する事例問題も出題されるため、慣れないうちは図を描くなどの勉強法もしながら合格を目指しましょう

 

物権総論

上記の通り、物権は「物」に対する権利です。
物件には絶対性があるため誰に対しても所有権を主張することが出来ますし、物に対しては誰でも直接的な支配権を持っています。
しかし債権は相対的なものなので、特定の人にしか主張出来ません。
AさんがBさんに車を売ったら、代金の支払を求めるというAさんの債権は買い手のBさんに対してのみ有効で、全く関係の無いCさんに払ってもらうことは出来ない、ということです。

民法では「占有権」「所有権」「地上権」「永小作権」「地役権」「入会権」「留置権」「先取特権」「質権」「抵当権」の10種類の物権が定められていますが、物権法定主義に基づき、これ以外の物権を勝手に作ることは出来ないとされています。
また、基本的には一物一権主義がとられるため、1つのものに対しては同一の権利を複数成立させることは出来ません(例外として、「このマンションは兄弟全員のものにしよう」などというような特別な契約を結べば、所有権を複数人で共有することは可能です)。
物権に限らず、権利は目に見えませんが、権利を巡ったトラブルを防ぐため、不動産の登記や動産の引渡しなどにより、誰がどんな物権を有しているかを公示するという取り組みがなされています。

物権はときとして、債権よりも優先して扱われます。
たとえば、AさんからBさんが家を借りている間に、Aさんがその家をCさんに売った場合、そこに住みたいCさんはBさんの退去を要求出来るのかという問題です。
AB間には賃貸借契約があるためBさんには賃借権という債権があり、BC間では売買契約が成立しているためCさんは家の所有権という物権を取得しています。
原則として物権が優先されるため、このままではBさんは出ていかなくてはならないことになりますが、Bさんのような人のための特別な保護(借地借家法など)があれば必ずしもそうはなりません。

日本の法は「自力救済の禁止」が原則であるため、もしも自分のものが盗まれても、それを力に任せて取り返そうということは認められません。
おかしな話かもしれませんが、所有権に基づく「物権的請求権」という権利によって解決しなくてはいけないのです。
民法に明文規定はされていないのですが、自分の所有物が勝手に取られた場合に返還を求める「物権的返還請求権」、自分の物権が侵害されたら(所有地に駐車されてしまったなど)それを解消するよう求める「物権的妨害排除請求権」、実際はまだ妨害されていないけどそうなりそうな場合(隣の家の木が台風で倒れてきそうなど)に予防を求める「物権的妨害予防請求権」からなる物権的請求権は、当然認められるべき権利でしょう。
また、物権的請求権は消滅時効の対象外です(ただし、盗んだ人の占有の取得時効が成立した場合には対抗出来なくなります)。

 

 

物権変動~不動産の場合~

物権の変動は、双方の意思表示だけで成り立ちます。
不動産の場合もそれは同じで、売買では契約締結時に所有権が売主から買主へと移ることになります。
ですがそうはいっても、不動産は高い買い物ですから「買います」「じゃあ売ります」という口での会話のみで物権が移るのは不安であるなどという考えのもと、実際には契約書における特約で、代金支払時または家の引渡しによって物権変動となる、とすることが多いです。

しかし、契約締結時にしても代金支払時や引渡し時にしても、不動産の物権が変動したということは、契約当事者にしかわかりません。
所有者が誰であるのかを「公示」、つまりみんなにもわかるようにするため、不動産は登記というシステムによって物権の所在を明らかにしているのです。
法務局(登記所)にある登記簿には、土地・建物の面積や所在地、今までの所有者と今の所有者などが記載されており、ここに登記をすることで、当事者以外の第三者にも自分が所有者だと主張出来るようになります。
動産については「公信の原則」という、概観を信じて取引者を保護するルールに基づき即時取得が認められているのですが、不動産では認められないため登記が必要なのです。
登記出来るものは、土地の所有権・地上権・永小作権・地役権・先取特権・質権・抵当権、建物の所有権・先取特権・質権・抵当権、立木の所有権・抵当権です。

この登記は、第三者への「対抗要件」として力を持ちます。
もしも売主が悪い人で、二人と同時に売買契約を結んだ(二重売買)などの場合、家は一つしかないためどちらかにしか物権を移すことが出来ません。
このとき、建物の引渡しがどちらにされているか、二重売買の事実を知っているかということに関わらず、先に登記を備えた人が所有権の主張が認められることになります。
登記が無いと第三者へ対抗出来ないということは、反面、登記さえあれば第三者に所有権を主張出来るということなのです。
登記によって対抗可能になる第三者は、上記のように「物権を取得した者(同一の不動産に所有権などを取得した者、善意・悪意は問わない)」、「賃借人」、「差押債権者」です。

が、時には登記がなくても対抗出来る場合もあります。
売買契約を二重に結んだ売主に対する買主2人の善意・悪意は問わない(=二重売買の事実を知っているかどうかは関係無い)とのことですが、もしもこれが単なる悪意ではなく、「もう一方の買主が嫌いだから嫌がらせ目的で自分も購入してやった」などというときにはどうなるでしょう。
このような人を「背信的悪意者」と呼び、たとえもう一方の買主が登記を備えていなかったとしても、背信的悪意者が先に登記を備えてしまったとしても、背信的悪意者を保護する必要は無いとされるため、これに対しては登記無しでも対抗出来るようになります。
背信的悪意者の他に、「詐欺や強迫によって登記申請を妨害した者」「他人のために登記申請をする義務がある者」「無権利者(通謀虚偽表示。虚偽表示は無効)」「不法行為・不法占拠者」「一般債権者」といった第三者に対してならば、登記が無くても対抗が可能です。

では、契約が取り消されたり、解除されたりした場合、第三者はどう関係してくるのでしょうか。
たとえば、AさんがBさんに対して詐欺、または強迫をして家を無理やり買い取ったとします。
この後Bさんは契約を取り消した(詐欺・強迫によって結ばれた契約は取消し可能)いと考えたのですが、AさんはすでにCさんへとその家を売ってしまっていました。
こういった場合、取消しをする以前であれば、善意の第三者に対して「詐欺の取消なら登記があれば」「強迫の取消なら登記がなくても」AC間の契約も取り消すことが出来ます。
が、それはあくまで契約が取り消されるよりも前の話です。
もしもAB間の契約が取り消された後に、Aさんが登記をBさんへと戻すよりも先に善意の第三者Cさんに家を売ってしまったという場合、Bさんは登記が無いと対抗出来なくなります。
AB間の契約を取り消したなら、Bさんは登記をさっさと戻せばよかったのに放っておいたのが悪いということで、詐欺・強迫による取消後に出てきた第三者に対しては、登記を先に備えた方が勝ちというルールが適用されるのです。

契約が解除されたけれども第三者に不動産を売ってしまった、などという場合には、
・転売が行われた時期が解除の前後に関係無く登記があれば価値
・解除よりも前に転売が行われたら登記を備えた第三者には対抗不可
・解除の後に転売が行われたら登記を先に備えた方が勝ち
ということになります。
これは、解除によって第三者の利益が損なわれてはならないという考え方に基づくものです。

民法には時効や相続という制度がありますから、時には意思表示以外でも物権変動が起きることがあります。
Aさんの土地をBさんが時効によって取得した後、Aさんがその土地を善意の第三者Cさんに売ってしまったという場合には、登記がある方が勝ちになります。
土地を時効取得したBさんは登記出来たはずなのですから、それをしなかったのが悪いということです。
共同相続、つまり分けられない1つのものを共有するという場合はどうでしょうか。
Aさんの死後、Aさんの家をBさんとCさんが持分2分の1ずつで共同相続した場合、Bさんが家全体を第三者Dさんに売ってしまったという場合、共同相続人Cさんは自分の持分についてのみ、登記無しでもDさんに対抗出来ることになります。
Cさんの持分に関してBさんは無権利者であるため、Dさんに登記があってもよいのです。
また、Bさんが一度でも相続放棄をした場合、その家はCさんの単独所有となるため、もしBさんが第三者に家を売ってもCさんの登記の有無は関係無しに、Cさんは対抗出来るのです。
相続放棄の効力は絶対で、BD間の契約は成り立たないのです。
が、遺産分割によってCさんが家を単独相続したときには、Cさんは相続時点で登記出来たため、Bさんがもし第三者へ家を売ったときでもCさんは登記が無いと対抗出来なくなります。

 

 

動産の物権変動

登記というシステムは物権の所在をはっきりさせる意味でとても有効ですが、しかしそれは数が限られている不動産だから出来ることです。
大量生産がされているものも多い、動産にはあまり使えない方法でしょう。

そのため、動産については「占有の移転」、その物が誰かに引き渡されることによって物権が移ることになります。
第三者が出てきたときには、引渡しが対抗要件となります。
引渡しには、物理的に物を相手方へと引き渡す「現実の引渡し」、貸していたものを売ったりあげたりするなど、相手がすでに物理的支配している物を引き渡す「簡易の引渡し」、物理的には移動していないけれども引き渡したことにする「占有改定」、物理的には占有中の人のところにあるままだけれど第三者に占有を移したことにする「指図による占有移転」があります。

 

 

占有権

物権の1つ、「占有権」は物を事実上支配するという権利です。
これは占有しようという意思と、その物を所持していることによって成立し、所有の意思を持ってする「自主占有(所有権者本人、盗んで占有)」と、他人の物だとわかった上での「他主占有(預かったり借りていたりという場合)」に分かれます。
占有には「占有者の権利の推定」という考え方があり、ある人が持っている物については正当に持っているものである、つまりたとえそれが盗んだものであっても盗んだという証拠が無ければ(本来の持主の名前が書いてあるなど)、正当な占有者だと推定されます。

占有は承継することが出来ます。
これは取得時効で非常に重要になります。
承継人は自分の占有だけを主張することは勿論、前の占有者の占有を合計したものも主張出来るため、取得時効を成立させたいときには大きなポイントになるでしょう。
ちなみに、占有を承継する場合には、欠陥・瑕疵も一緒に引き継ぐことになります。

動産では上記のように「権利の推定」がはたらくため、対象物を持っている人こそが権利者と推定されます。
が、時には、他人の物をまるで自分の物であるかのように振る舞い、人に売りつけてしまうなどの悪い人もいますから、無権利者から何かを買ったら本当の所有者に返さないといけないのでは? という不安が常に付きまとい、安心して取引が出来なくなってしまうのではないでしょうか。
そのため、動産の取引では、占有(所持)を信じ、相手は正当な権利者であると思って取引した善意者ならば、もしその相手に権利がなくても、所有権や質権など動産の権利を得ることが出来ることになっています。
たとえば、Aさんから借りていた時計を、Bさんが善意無過失のCさんに売ってしまったという場合、Bさんは無権利者なのですが、何も悪くないCさんを守るために車の権利はCさんへ移ることになります(Bさんという悪い人に物を貸したAさんも悪い、という考え)。
これを「即時取得」といい、
・目的物が動産である(登録された自動車や船舶、飛行機などは不動産的扱いになるため判例上適応されず、また記念硬貨などの金銭も原則適応外)
・取引による取得
・相手方は処分権限がない無権利者(制限能力者や錯誤・無権代理人ではない)
・占有を取得している(占有改定ではダメ1)
・平穏、公然、善意、無過失である
という要件を満たせば成立します。
ちなみに、上記の事例のような場合ではAさんが気の毒すぎるため、時計は返ってこないとしえもBさんに対して損害賠償などを請求することで折り合いをつけることになります。

また、即時取得が成立したといっても、それが盗品や遺失物だった場合にもすぐに物権が移ってしまっては、被害者や落とし主はたまりません。
彼らを保護するため、盗まれたり落としたりしてから2年以内であれば目的物の返還を求めることが認められています(横領された物は適用外)。
が、盗品や遺失物であると知らずにそれを購入してしまった善意の第三者が関わってきた場合、持主はその第三者が支払った分の対価を弁償しなくては、物を取り戻すことが出来ません。

真の権利者を守るため、「占有訴権」という方法が認められています。
自分の家の車庫に他人が車を停めているなどのように、占有者が自分の占有を妨害されたなどの場合、妨害をやめさせる・損害があれば損害賠償を請求する「占有保持の訴え」が可能です。
また、実際にはまだ占有の妨害はされていないとしても、そのおそれがあるときには、妨害の予防、または損害発生時に損害賠償を確実にしてもらうよう取り計らっておくなど損害賠償の担保請求をする「占有保全の訴え」が出来ます(予防と担保の両方を請求することは不可能)。
占有を奪われた場合には、占有者は「占有回収の訴え」として、その返還および損害賠償を請求することが認められています。
が、詐取・遺失のときには出来ません。
この占有訴権は占有に基づく権利ですが、実際に何か訴える時には、所有権・地上権・質権など本権に基づく訴えと両方をすることも出来ますし、どちらかだけを選ぶことも出来ます。
占有訴権については、占有者の善意・悪意を問いません。

そんな占有権は、占有者による占有意思の放棄または所持を失うことによって消滅します。

 

 

所有権

事実上何かを占有しようとする占有権に対し、物の使用・収益・処分を自由に出来る権利を所有権といいます。
自由に、といっても「法令の範囲内で」とされているため、公共の福祉によって制限が加わり完全な自由とは言えません。

所有権には「承継取得」と「原始取得」があります。
承継取得は、売買や贈与といった「特定承継」と、相続・遺贈による「包括承継」に、原始取得は時効取得・無主物の帰属・遺失物拾得・埋蔵物発見・添付(不動産・動産の付合、混和、加工)に分かれます。

それでは、所有権における重要事項を見てみましょう。
まずは「相隣関係」、つまりお互い隣接している土地の利用を円満にする目的で、所有権が制限される場合です。
土地所有者は、隣地との境界線上・その近くで建物を建てたり修繕したりするときに、必要な範囲内であれば隣地を使用することが可能です。
また、自分の土地が他人の土地に囲まれていて(袋地)外に出られないという場合、公道まで出る際にはその地権者に承諾を得なくても他人の土地を通行することが可能です。
が、いくら仕方なくても他人の土地を通るということに変わりはないため、通路は隣地に最も損害が少ないところに設定する必要があります。
また、通行時に損害を出したときには賠償しなくてはなりません。
土地の境界線をはっきりしたいという場合には、測量・境界標事物の設置にかかる費用を共同で負担し(測量については所有地の広さに応じて費用を分担)、境界を明示することが出来ます。
最後に、隣地に生えている竹木の根っこや枝が境界線を越えてきた場合ですが、根っこは自分で切って良いのですが枝は勝手に切れません。
枝が入ってきて迷惑だ、というときには、その所有者に対して切ってもらうよう請求するしかないのです。

所有権は「共有」することが可能です。
基本的に、共有物に対する共有者の持分は平等と推定されるため、持分の割合を変更したいときには特約を定める必要があります。
共有物を変更(林地を開拓して宅地にするなど)したり、処分(売却など)したりするときには共有者の1人の独断では出来ず、全員に許可をとらなくてはいけません。
また、共有物の修理など「保存行為」は単独ですることが出来、賃貸など「管理行為」は各共有者の持分の価格を基準とした過半数で決めることになります。
もしも共有者の1人が持分を放棄したり、死亡したときには、その持分は他の共有者に帰属します(死亡時に相続人がいたならば、その持分は相続人へ)。
共有者は共有物の分割請求がいつでも可能ですが、分割をしないという特約を5年を超えない限りで定めることも出来ます。

 

 

用益物権

用益物権には、地上権、永小作権、地役権、入会権が含まれます。

地上権は植林や工作物所有のために他人の土地を利用する権利で、契約によって発生します。
電線や地下トンネルもこの地上権に関するため、空中や地下にも設定することが可能です。
無償の場合と、有償の場合があります。

永小作権は、小作料を支払うことで他人の土地で耕作・牧畜を行えるという権利で、こえも契約によって発生します。

地役権は、ある土地を役立させるために他人の土地を使う権利で、契約による発生です。
所有権に登場した隣地通行権とは異なるため、注意しましょう。
地役権において、他人の土地を利用する必要のある土地を「要役地」、利用を了承した土地を「承役地」と呼びます。

入会権(「にゅうかいけん」ではなく「いりあいけん」と読みます)は地域ごとの慣習に委ねられた権利で、特定地域の住民による山林・漁場の利用についての権利です。

 

 

担保物権

担保物権は、行政書士試験において割と重要な分野です(出題率も高めです)。
また、試験以外の日常生活においても知っておいた方が良い、というより知らないと危険かもしれない事項であるとも言えるでしょう。
「絶対なっちゃいけない」などとよく言われる、債権の「連帯保証人」にも関係の深い分野です。

担保とは、簡単に言うと「お金を貸す側の保険」です。
お金を貸すという行為は、借り逃げされたり返済不能になられたりというリスクを常に背負っていることになります。
そのため、貸し倒れになってしまわないよう担保を設定しておくのです。
担保には、連帯保証人など人が保証する「人的担保」と、物で保証する「物的担保」があります。
物的担保は、留置権・先取特権の「法定担保物権」、質権・抵当権の「約定担保物権」の他、民法上に規定は無い「非典型担保」として譲渡担保・仮登記担保・所有権留保等が認められています。

担保物権には、債権の有無に担保物権自体の有無が左右される「付従性」、債権の変動と共に担保物権も変動する「随伴性」、全て弁済されるまで目的物への権利行使が認められる「不可分性」、目的物の滅失・毀損時には債務者がそれにかけていた保険金に対して目的物の代替として権利行使出来る「物上代位性」があります。
効力としては、担保物権があれば他の債権者よりも優先して弁済を受けられる「優先弁済的効力」と、債務が弁済されるまで目的物の取り上げが認められる「留置的効力」があります。

では、法定担保物権について見ていきましょう。
債務弁済まで目的物を留置しておける「留置権」は、あえて約束していなくても有効ですが、物上代位性や優先弁済的効力は無く、ただ目的物を手元に置いておけるというだけです。
ただ、留置権を行使しても債権の時効は中断しないため、消滅時効は進行し続けます。
留置権を成立させるためには、
・債権と物の間に「牽連性」がある(車に対する修理代など、密接な関係)
・債権の弁済期である
・留置権者が他人の物を占有している
・不法行為による占有ではない
という要件を満たす必要があります。
占有を失うことで留置権は消滅します。

先取特権は、一定の財産から優先して債権回収が出来ると法律で認めるという権利です。
本来は「債権者平等の原則」に基づき、債権者は債務者の財産を債権額に応じて平等に分配する必要があるのですが、たとえば会社が倒産した場合、従業員の未払い給料にその原則を適用してはもっと大きな他の債権により、支払われずに終わってしまう可能性もあります。
それでは従業員が生活出来なくなってしまうので、先取特権に基づき、他の債権よりも優先して弁済を受けられるということが認められるのです。
賃金の他には共益費用、葬式費用、日用品の供給といったものが先取特権になるほか、商法における保護の範囲拡大による民法改正で、給料以外の労働債権も先取特権の担保が可能になりました。
先取特権では、債権の確実な回収のため物上代位性が認められています。

次は約定担保物権です。
質権は要するに、借金のカタとして物を預けておいて、支払われないようだったらその物を売ることで代金返済にあてるというシステムです。
つまり、留置的効力と優先弁済的効力が認められているということです。
ただ、質権は法的に取引が認められていないもの(麻薬など)には設定することが出来ず、たとえしたとしても無効になります。
また、差押えが禁止されているものでも譲渡が可能なものであれば、質権の設定が可能です。
質権を成立させるには「契約があり」「目的物を引渡し」ていることが必要です(目的物が引き渡されていない占有改定ではダメ)。
質権には「動産質」「不動産質」「権利質」の三種があり、動産に質権を設定した場合には、質権者はその質物を常に手元に置いておかなくてはならず、もし質物が奪われたなら、質権者には占有回収の訴えのみが認められており、質権に基づく物理的返還請求は不可能とされています。
質権が不動産に設定された場合には、質権者にはその不動産を使用・賃貸する「目的物の使用収益的効力」が認められていますが、もしも質権を不動産に設定すると住人は出ていかなくてはならないため、このケースはあまり利用されていません(引渡し不要の抵当権が多く利用されます)。
また、不動産の質権設定は最長で10年有効です。
権利質は財産家円を目的とした質権で、主に銀行から融資を受ける際、定期預金を質入れするという形で用いられます。
債権を証明する債権証書があればそれを質権者に交付することで、無ければ当事者の合意によって成立出来ます。
民法改正により、単なる指名債権では証書交付が不要になりましたが、証券など、支払う相手が確定している指図債権については質入れの際に裏書無しに第三者へ対抗することは出来ません。

抵当権は、イメージとしては質権と似ています。
債務が弁済されなかった場合、抵当権を設定しておいた不動産を競売にかけることで売却代金を弁済にあてるというもので、質権同様優先弁済的効力がはたらきます。
が、不動産質と異なり占有が移転されないために留置的効力ははたらかず、債務者は抵当権を設定しても不動産を引き渡す必要がなく(合意のみで成立)、設定中も続けて使用出来ますし、設定したまま当該不動産を第三者に売却することも可能です。
しかし、抵当権が設定された不動産を手に入れた「第三取得者」は、抵当権が実行されれば不動産を手放さなくてはならないため、民法ではその保護制度が設けられています。
保護制度には、抵当権者からの請求によって第三取得者が対価を支払えば、弁済額に満たなくても抵当権が消える(残りの分は債務者が弁済すべき担保なし債権になる)「代価弁済」と、抵当権実行前に登記された債権者全員に対して第三取得者が抵当不動産の代価を記載した書面を送付することにより抵当権の消滅を請求する「抵当権消滅請求」があります。
抵当権の被担保債権は金銭債権以外でも良いとされており、判例では、期限つき債権や条件つき債権といった、将来発生する債権にも設定出来るとしています。
抵当権の目的物となるのは不動産、地上権、永小作権で、共有物に設定するには共有者全員の同意を得なくてはいけません。

また、抵当権には一つの目的物に複数設定出来るという特徴があります。
抵当権を設定したという登記をした順番(抵当権者同士の合意によって、また差押債権者等の利害関係人がいればその承諾を得た上で順位変更可能)に、1番抵当、2番抵当……というように決めていき、弁済が終われば順番に消滅していくことになります。
「順位昇進の原則」に基づき、1番抵当権が消滅すると、2番抵当権が1番に昇進します。
順位を変更するときには、その旨の登記をすることで変更の効力が生じます。
抵当権は、土地と建物それぞれに設定出来るため、家だけに設定したという場合にはたとえ家を競売にかけられても、土地を一緒に売ることは不可能です。
土地に対する抵当権は、庭木や敷石など土地の附加一体物および設定時からの従物にも及び、また、債務不履行後に生じた果実にも効力が及ぶため、果実から優先弁済を受けることも可能です。

では、家だけに設定されていた抵当権が実行され、土地と家の所有者が別々になってしまったときにはどうなるのでしょう。
その場合には、抵当権と利用権を調製するため「法定地上権」という制度が適用されます。
法定地上権は、
・抵当権設定時、土地上に建物が存在していた
・その土地と建物は設定時に同一人の所有だった
・土地と建物の一方、または両方に抵当権が設定された
・抵当権が実行されており、土地と建物の所有者が異なっている
という要件のもとに成立します。
法定地上権の発生については、判例・通説を元に考えましょう。
「抵当権設定当時更地だった場所に後から建物が出来た」「更地に1番抵当設定、建物建築後に2番抵当設定」「更地だった場所に建物建築の承諾があった」の更地においてはいずれも法定地上権は不発生の判決が出ました。
再築・改築においては、再築では旧建物を基準に発生、旧建物が存在していて改築予定により土地評価がされたときには新建物を基準に発生、共同抵当権設定後に新建物が建築された場合は特段の事情がない限りは不発生とされています。
抵当権設定後の譲渡については、土地・建物どちらかだけが第三者に譲渡されたときでも、両方が譲渡された場合でも共に発生、共有については土地のみの共有では土地・建物のどちらに抵当権が設定されていても不発生、建物のみの共有であれば土地・建物のどちらに対しての抵当権でも発生とされました。

抵当権が設定された建物を借りている人は、抵当権者・競売における買受人に対抗することが出来ませんが、だからといって抵当権実行後にすぐ出ていくというのも難しいため、競売の買受時から6ヶ月間は移住が認められている他、登記前に抵当権者全員の同意を得て登記した賃貸権は抵当権者への対抗要件になります。
また、抵当権を設定した更地に、設定後作られた建物においては、抵当権者は土地と一緒に建物も競売にかけることが可能です(建物分の代金ももらえるのではありません)。
2003年の民法改正により、抵当権設定者だけでなく第三者の建てたものでも良いことになりました。

抵当権自体を借金の担保にすることも可能です。
これを「転抵当」と呼び、もともとの抵当権である「原抵当権」を抵当権者が担保にあてるということです。
転抵当権を第三者に主張するには登記をする必要があり、またトラブル防止のため、転抵当時にはその旨を債務者に通知するか承諾を得なくてはなりません。

抵当権は、
・弁済、競売、滅失、放棄、代価弁済など
・被担保債権と同時の消滅時効
・債務者および抵当権設定者以外の第三者による取得時効成立
によって消滅します。

反復継続的な取引から不特定の債権が生じる場合には、「根抵当権」として、債権を一括して一定の限度額である「極度額」まで担保を設定することも可能です
根抵当権は不特定の債権や、手形や小切手条の請求権等に設定出来、元本だけではなく極度額を限度とした利息・損害賠償といった債権全部を担保可能ですが、「一切の債権を担保する」という包括的なものは認められていません。
元本確定前の変更は、元本確定前に登記をすれば自由にすることが出来ます(極度額変更時には利害関係人の承諾が必要)。
元本確定後については、債務者・元本確定期日・極度額の変更は認められますが、債権範囲の変更は出来ません。
根抵当に随伴性はないため、保証される元本が確定するよりも前に被担保債権が譲渡されても、根抵当権が譲受人に移転するわけではなく、また、分割譲渡・一部譲渡・全部譲渡のいずれも元本確定前にする必要があります。
分割譲渡の場合には設定者および利害関係人の、一部譲渡・全部譲渡の場合は設定者の承諾を得なくてはなりません。

民法上の規定は無いものの、取引における要請のために生まれたのが非典型担保です。
中でもよく使われるのが譲渡担保という、担保の目的物は自分の手元にありながら、所有権だけを相手に移せるというものです。
性質は抵当権とほぼ同じですが、抵当権は不動産にしか設定出来ないため、動産にも設定出来るようにするため譲渡担保という制度が成立しました(譲渡担保は原則動産が対象ですが、不動産にも設定可能です)。

 

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