ITオンチでは行政書士はつとまらない?行政手続きにも及ぶデジタル化の波を詳しく解説!

ITオンチでは行政書士はつとまらない?行政手続きにも及ぶデジタル化の波を詳しく解説!

日本の行政手続きにおけるデジタル化は「デジタル手続法」の制定からスタートし、5年の年月をかけて全サービスをオンライン化する途上にありました。しかしコロナ禍に後押しされた格好で、行政手続きのデジタル化は、これまでになく社会から求められる事態となりました。行政に提出する書類作成のプロといえば、行政書士ですが、デジタル化が急がれる時代にあって、行政書士の業務はどのような進化を遂げているのでしょうか。この記事で分かりやすく解説していきます!

1 デジタル手続法とは?

2019年5月に制定されたデジタル手続法は、実はこれまで何度か行政書士試験に出題されている「行政手続オンライン化法」の全面的改正版です。デジタル・ガバメントを目指す政府の方針に合わせ、全面改正されました。個人番号法、住民基本台帳法、公的個人認証法などの法律もあわせて改正されています。

⑴ デジタル手続法の概要

デジタル・ガバメントは、これまで人手では克服できなかった弊害を一挙に克服しようとしています。「デジタルファースト」「ワンスオンリー」「コネクテッド・ワンストップ」を目指し、IT技術のテクノロジーを以て、行政手続きの煩雑さを一挙に解決しようとしています。

 

目的 情報通信技術を活用

行政手続等の利便性の向上

行政運営の簡素化・効率化

①行政のデジタル化に関する基本原則及び行政手続の原則オンライン化のために必要な事項を定める。
②行政のデジタル化を推進するための個別分野における各種施策を講ずる。
概要 <基本原則>

①デジタルファースト

個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する。
②ワンスオンリー 一度提出した情報は、二度提出することを不要とする。 
③コネクテッド・ワンストップ 民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する。

⑵ デジタルガバメントはエストニアにならえ

もはやエストニアといえば、大多数が「IT社会構築の先進国」とイメージするでしょう。行政手続きの実に99%がデジタル化されているといわれるエストニアでは、出生と同時に個人番号が割り当てられるため、「出生届」提出の必要すらありません。PCやスマホでWeb申請できないのは「結婚」「離婚」「不動産購入手続き」だけだともいわれています。

日本政府はそのようなすがたを目指そうとしているのです。マイナンバー制度の設立は、その一例です。

⑶ デジタル・ガバメントでは士業が不要になる?

エストニアはデジタル・ガバメントの推進により、税理士や会計士といった「士業」が不要となった国家の例だといわれています。これは、現在士業に従事する者だけでなく、将来士業を目指す者にとっても、不安になる話でしょう。

日本行政書士会連合会は月刊日本行政で、行政書士のこれからのあり方について、このように提言しています。

”これら電子政府の実現に伴い、短絡的に士業が不要になると言いたいわけではありませんが、行政に関する手続の円滑な実施に寄与することを主目的とする我々行政書士のあり方の変容は確実に求められています。”

2 行政書士業務にせまるデジタル化の波

今般のコロナ禍では、「足で」働くのが最善とされていた営業職にも、デジタル化の波が及びました。営業は顧客管理システムに、顧客に伺う(メールを送る)適切なタイミングを算出してもらう時代になりました。しかし行政書士においては、データの全てをエクセルや紙で管理するにとどまっているのが現状です。

デジタル・ガバメントが実現されると、申請・届出等の行政手続きが自宅やオフィスのパソコンからインターネット経由でおこなえるようになります。「特定行政書士」の設立は、将来行政書士の担当分野が狭められることを見通して、「紛争解決分野」に行政書士の役割を広げた成果であるという見方もあるのです。

⑴ 行政書士がおこなう主な電子申請・電子調達手続き

行政書士は従来おこなってきた窓口申請に加えて、以下の電子申請・電子調達手続きをおこないます。

 

電子定款作成代理・嘱託代理などの電子公証手続き 法務省
入札参加資格審査申請代理 国、地方自治体
特殊車両通行許可申請代理 国土交通省
自動車保有関係手続き代理(OSS) 国土交通省
在留資格オンライン申請 入国管理局

日本行政書士会連合会の資料を基に作表

⑵ 各種手続きの具体的説明

上記手続きの中でも特に解説が必要な①、④、⑤について、説明していきましょう。

① 電子定款作成代理・嘱託代理などの電子公証手続き

定款は会社を設立するうえで絶対必要なものです。嘱託は正規社員以外に仕事を任せることを意味します。登記・供託オンライン申請システムを利用すれば、自宅やオフィスから各種申請・請求や電子公文書の取得が可能となります。

ちなみに電子定款を作成すると、印紙代4万円がコストカットできます。

④ 自動車保有関係手続き代理(OSS)

OSSとは、車に関するさまざまな手続きを役所に出向かずに、オンラインで一括申請できるシステムです。自動車を所有すると、検査登録や保管場所証明、自動車税の納付などの手続きが発生します。これらの手続きは管轄署が異なり、検査登録は国土交通省、保管場所証明は警察署、税は国や都道府県と別々でした。これらの一括申請が、ワンストップサービスにより可能になりました。

近年は、OSSの申請代行料金が新車購入時にあらかじめ料金明細に含まれるようになりました。代行料金はケースバイケースですが、ディーラーの場合25,000~50,000円程度、行政書士事務所では、25,000~30,000円程度が相場になります。

日本行政書士会連合会は前出資料で、OSSに関しては自動車関係を主軸にしている行政書士はもちろん、全行政書士が対応に全力で取り組むべきと訴えています。さもなくば、デジタル化に乗り遅れたことで行政書士が当該分野から淘汰されてしまう恐れがあるからです。

⑤ 在留資格オンライン申請

今般のコロナ禍で足踏みしていますが、政府は少子高齢化による人材不足を外国人労働者で補おうと新在留資格「特定技能」を新設しました。日本は外国人労働者の受け入れに意欲的です。在留資格手続きもデジタル化され、その後さらに制度が拡充され、対象範囲が拡大されました。

在留資格申請が完全にデジタル化されるかというと、必ずしもそうではないという意見もあります。在留資格申請業務は、システムですべてを代替できるほど単純な作業ではなく、専門家が対面しておこなうべきとの主張があるのです。もちろん単純な作業はオンラインで完結すべきですが、専門家が担当すべき本質的な内容は、今のまま残すべきという考え方もあるのです。

3 行政書士業務は将来AIに代替される?

デジタル・ガバメントの先進国エストニアと同様に、日本においても職業淘汰の時代が来ると囁かれています。もしそうなら、行政書士など多くの士業が職業存続の危機を迎えます。

⑴ AIやIoTで代替される士業と代替可能な業務範囲の比率

下表は、2015年に野村総研とオクスフォード大学がおこなった共同研究からの抜粋です。AIやIoTの台頭で代替される士業と、代替可能な業務範囲の比率について作表したものです。

 

行政書士  93.1% 社労士  79.7%
税理士  92.5% 司法書士  78.0%
弁理士  92.1% 弁護士  1.4%
公認会計士 85.9% 中小企業診断士  0.2%

 

これによると行政書士は93.1%と恐ろしく高い数値を示しています。しかし一方で、弁護士と中小企業診断士の数値はそれぞれ1.4%、0.2%と限りなく低いのです。この研究結果からいえることは、手続き的な単純作業はAIによって明らかに縮小されますが、対してコンサルティング業務など、高い専門性とコミュニケーションスキルがベースとなる職業は、AIの脅威に脅かされることは殆どないと予測できるということです。 

⑵ 行政書士の独占業務は無力化する?

行政書士だけでなく、士業にはそれぞれのテリトリーを守るための法律があります。行政書士の場合は「行政書士法」がそれに当たり、 許認可申請、事実証明、権利義務に関する書類作成の独占を守っています。

しかし、政府は行政書士が長らく独占して担ってきた「建設業許可」なども、デジタル化の対象として既に取り上げています。これはいずれ、行政書士の独占業務である許認可・権利義務・事実証明書類の作成なども、その範疇に入ることを示唆しています。

2017年6月の「未来投資戦略2017」は、法人設立に関する全手続きをオンライン・ワンストップ化すると宣言しました。ワンストップの範疇には行政書士が担ってきた定款認証や、司法書士が独占する登記なども含まれているのです。

経済産業省系の補助金申請書類も官公署に提出する書類であるため、行政書士法第1条の2に規定する行政書士の独占業務と考えられてきました。しかし経済産業省の見解によれば、補助金申請に不可欠な事業計画策定は、経営者本人によることが前提であるため、作成・提出の代行はあり得ないことになります。また「IT導入補助金」では「IT導入支援事業者制度」が敷かれ、経済産業省が指定するIT導入支援事業者から、行政書士はほぼ対象外とされました。

このように行政書士の業務範囲は、デジタル化によって縮小化が始まっているとも見て取れるのです。

⑶ デジタル化とこれからの行政書士のあるべき姿とは?

e-Taxという国税局のポータルサイトでは、確定申告のオンライン申請をおこなうことができます。しかし、税申告のデジタル化はこれにとどまらないとも囁かれ、将来的にキャッシュレス社会が促進されて電子決済情報の集積が自動化されたら、確定申告の自動化が実現するといわれています。そうなると、税理士は独占業務の一つを失いますが、今すぐにではないにせよ、行政書士にも同じようなことが起こり得るのです。

行政書士においてもITリテラシーを上げ、デジタル化への対応力を強化し、作業的な仕事から創造的な仕事にシフトする姿勢が求められます。これまで積み上げてきた許認可等の専門知識を活かして、コンサルティングもおこなえるように能力も磨いていきましょう。そして新しい価値を提供できるような働き方を、模索していかなければならないでしょう。

4 サマリー

デジタル化は試行錯誤しながら進んでいきますが、デジタルネイティブ世代が台頭すれば、一挙に社会に浸透するでしょう。自らの専門分野を磨くことも大事ですが、デジタル化への対応力を高めることも同等に重要です。息の長い行政書士になるためには不可欠なことです。

5 まとめ

・政府はデジタル・ガバメントを実現し、ワンストップ化で従来の弊害を一挙に克服しようとしている。

・行政手続きの99%がデジタル化されたエストニアに習おうとしている。

・マイナンバー制度の設立はその一例。

・エストニアは電子政府推進により、「士業」が不要となった国家の例だといわれる。

・行政書士がおこなう電子申請・電子調達手続きは電子公証手続きなどである。

・2015年野村総研調べによると行政書士がAIに将来代替される確立は93.1%と高い。

・行政書士の独占業務「建設業許可」はデジタル化の対象となり、いずれ他独占業務も続くと考えられる。

 

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