平成27年司法試験民事系第2問(商法・会社法)

平成27年司法試験民事系第2問(商法・会社法)

〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,4:4:2〕)

 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。

 

1. 甲株式会社(以下「甲社」という。)は,A,B及びS株式会社(以下「S社」という。)の出資により平成19年に設立された取締役会設置会社である。甲社では,設立以来,Aが代表取締役を,B及びCが取締役をそれぞれ務めている。

  甲社の発行済株式の総数は8万株であり,Aが4万株を,Bが1万株を,S社が3万株をそれぞれ有している。甲社は,種類株式発行会社ではなく,その定款には,譲渡による甲社株式の取得について甲社の取締役会の承認を要する旨の定めがある。

2. 甲社は,乳製品及び洋菓子の製造販売業を営んでおり,その組織は,乳製品事業部門と洋菓子事業部門とに分かれている。

  乳製品事業部門については,Aが業務の執行を担当しており,甲社の工場で製造した乳製品を首都圏のコンビニエンスストアに販売している。

  また,洋菓子事業部門については,Bが業務の執行を担当しており,甲社の別の工場(以下「洋菓子工場」という。)で製造した洋菓子を首都圏のデパートに販売している。甲社は,世界的に著名なP社ブランドの日本における商標権をP社から取得し,その商標(以下「P商標」という。)を付したチョコレートが甲社の洋菓子事業部門の主力商品となっている。

3. S社は,洋菓子の原材料の輸入販売業を営んでおり,S社にとって重要な取引先は,甲社である。

4. 平成22年1月,甲社は,関西地方への進出を企図して,マーケティング調査会社に市場調査を委託し,委託料として500万円を支払った。

5. Bは,関西地方において洋菓子の製造販売業を営む乙株式会社(以下「乙社」という。)の監査役を長年務めていた。Bの友人Dが乙社の発行済株式の全部を有し,その代表取締役を務めている。

  平成22年3月,Bは,Dから乙社株式の取得を打診され,代金9000万円を支払って乙社の発行済株式の90%を取得した。Bは,この乙社株式の取得に際して,A及びCに対し,「乙社の発行済株式の90%を取得するので,今後は乙社の事業にも携わる。」と述べたが,A及びCは,特段の異議を述べなかった。Bは,この乙社株式の取得と同時に,乙社の監査役を辞任して,その顧問に就任し,その後,連日,乙社の洋菓子事業の陣頭指揮を執った。また,Bは,同年4月以後,月100万円の顧問料の支払を受けている。

  平成22年4月,乙社は,業界に知人の多いBの紹介により,チョコレートで著名なQ社ブランドの商標(以下「Q商標」という。)を日本において独占的に使用する権利の設定を受けた。

6. 平成22年5月,Bは,甲社におけるノウハウを活用するため,洋菓子工場の工場長を務めるEを甲社から引き抜き,乙社に転職させた。Eの突然の退職により,甲社の洋菓子工場は操業停止を余儀なくされ,3日間受注ができず,甲社は,その間,1日当たり100万円相当の売上げを失った。

7. その後,乙社は,関西地方のデパートへの販路拡大に成功し,平成21事業年度(平成21年4月から平成22年3月まで)に200万円であった乙社の営業利益は,翌事業年度には1000万円に達した。

8. 平成23年4月,甲社は,乙社が関西地方においてQ商標を付したチョコレートの販路拡大に成功したことを知り,関西地方への進出を断念した。

 

〔設問1〕 上記1から8までを前提として,Bの甲社に対する会社法上の損害賠償責任について,論じなさい。

 

9. 平成23年7月,Bは,甲社の取締役を辞任した。Bに代わり,Fが甲社の取締役に就任し,洋菓子事業部門の業務の執行を担当するようになったが,Bの退任による影響は大きく,同部門の売上げは低迷した。

10. 平成24年5月,甲社は,洋菓子事業部門の売却に向けた検討を始め,丙株式会社(以下「丙社」という。)との交渉の結果,同部門を代金2億5000万円で丙社に売却することとなった。その際,甲社の洋菓子事業部門の従業員については,一旦甲社との間の雇用関係を終了させた上で,その全員につき新たに丙社が雇用し,甲社の取引先については,一旦甲社との間の債権債務関係を清算した上で,その全部につき新たに丙社との間で取引を開始することとされた。その当時,甲社が依頼した専門家の評価によれば,甲社の洋菓子事業部門の時価は,3億円であった。

11. 上記の洋菓子事業部門の売却については,その代金額が時価評価額より安価である上,株主であるS社が得意先を失うことになりかねず,S社の反対が予想された。

  平成24年7月2日,Aは,洋菓子事業部門の売却をS社に知らせないまま,甲社の取締役会を開催して,取締役の全員一致により,洋菓子工場に係る土地及び建物を丙社に代金1億5000万円で売却することを決議した上で,丙社と不動産売買契約を締結し,丙社は,甲社に対し,直ちに代金を支払った(以下「第1取引」という。)。

  また,その10日後の平成24年7月12日,Aは,甲社の取締役会を開催して,取締役の全員一致により,P商標に係る商標権を丙社に代金1億円で売却することを決議した上で,丙社と商標権売買契約を締結し,丙社は,甲社に対し,直ちに代金を支払った(以下「第2取引」という。)。

  第1取引及び第2取引に係る売買契約においては,甲社が洋菓子事業を将来再開する可能性を考慮して,甲社の競業が禁止されない旨の特約が明記された。

  なお,甲社の平成24年3月31日時点の貸借対照表の概要は,資料①のとおりであり,その後,同年7月においても財務状況に大きな変動はなかった。また,同月2日時点の洋菓子事業部門の資産及び負債の状況は,資料②のとおりであり,資産として,洋菓子工場に係る土地及び建物(帳簿価額は1億5000万円)並びにP商標(帳簿価額は1億円)があるが,負債はなかった。

12. 平成24年7月下旬,第1取引及び第2取引に基づき,洋菓子工場に係る不動産の所有権移転登記及びP商標に係る商標権移転登録がされた。

13. 平成24年8月,甲社が第1取引及び第2取引をしたことを伝え聞いたS社は,Aに対し,甲社において株主総会の決議を経なかったことにつき強く抗議し,翻意を促した。

 

〔設問2〕 第1取引及び第2取引の効力に関する会社法上の問題点について,論じなさい。

 

14. 平成25年6月,甲社は,将来の株式上場を目指して,コンビニエンスストア市場に精通した経営コンサルタントであるGとアドバイザリー契約を締結した。その際,甲社は,このアドバイザリー契約に基づく報酬とは別に,甲社株式が上場した場合の成功報酬とする趣旨で,Gに対し,新株予約権を発行することとした。

15. 上記の新株予約権(以下「本件新株予約権」という。)については,①Gに対して払込みをさせないで募集新株予約権1000個を割り当てること,②募集新株予約権1個当たりの目的である株式の数を1株とすること,③各募集新株予約権の行使に際して出資される財産の価額を5000円とすること,④募集新株予約権の行使期間を平成25年7月2日から2年間とすること,⑤募集新株予約権のその他の行使条件は甲社の取締役会に一任すること,⑥募集新株予約権の割当日を同月1日とすること等が定められた。

  平成25年6月27日,甲社の株主総会において,Gに特に有利な条件で本件新株予約権を発行することを必要とする理由が説明されたところ,Bは,募集新株予約権のその他の行使条件を取締役会に一任することはできないのではないかと主張し,これに反対したが,A及びS社の賛成により,上記の内容を含む募集事項が決定された。これを受けて,甲社の取締役会が開催され,取締役の全員一致により,「甲社株式が国内の金融商品取引所に上場された後6か月が経過するまでは,本件新株予約権を行使することができない。」とする行使条件(以下「上場条件」という。)が定められた。

  平成25年7月1日,甲社は,Gとの間で新株予約権割当契約を締結し,Gに対し,本件新株予約権1000個を発行した。

16. その後,Gは,上記のアドバイザリー契約に基づき,甲社に様々な施策を提言し,Gのアドバイスにより製造した低カロリーのヨーグルトが好評を博するなど,甲社の業績は向上したが,本件新株予約権の行使期間内に上場条件を満たすには至らない見込みとなった。

  平成26年12月上旬,Aは,Gから,「上場すると思っていたのに,これでは割に合わない。せめて株式を取得したいので,上場条件を廃止してほしい。」との強い要請を受けた。Aは,取締役会で上場条件を廃止することができるのか疑問を持ったが,Gの態度に押され,同月11日,C及びFを呼んで甲社の取締役会を開催し,取締役の全員一致により上場条件を廃止する旨の決議をした。同日,甲社は,Gとの間で,上場条件を廃止する旨の新株予約権割当契約の変更契約を締結した。

  平成26年12月12日,Gは,行使価額である500万円の払込みをして本件新株予約権を行使し,Gに対し,甲社株式1000株が発行された。

 

〔設問3〕 上記16で発行された甲社株式の効力に関する会社法上の問題点について,論じなさい。

 

出題趣旨

 本問は,会社法上の公開会社でない取締役会設置会社(甲社)において,取締役の競業行為等についての競業避止義務違反又は忠実義務違反の成否とその違反が成立する場合における取締役の損害賠償責任(設問1),会社の重要な事業の一部を二つの資産売買に分けて第三者に売却する取引についての会社法上の規律とそのような取引の効力(設問2),株主総会の決議により新株予約権の行使条件の決定を取締役会に委任すること及び取締役会の決議により当該行使条件を廃止することについての法的瑕疵の有無とそのような新株予約権の行使により発行された株式の効力(設問3)に関し,会社法上の規律の基礎的な理解とともに,その応用を問う問題である。

 設問1では,まず,首都圏で洋菓子の製造販売業を営む甲社の取締役Bが,関西地方において同種の事業を営む乙社の事業に関連して行った競業行為に関し,競業避止義務違反(会社法第356条第1項第1号,第365条第1項)が成立するかどうかについて,事案に即して丁寧に論ずることが求められる。

 会社法第356条第1項第1号所定の「自己又は第三者のために・・・取引をしようとするとき」については,その「取引」が個々の取引行為をいうものとされていること,「自己又は第三者のために」の解釈につき計算説と名義説とがあることを意識しつつ,取締役Bが自己又は第三者のために取引をしたかどうかを検討する必要がある。その際,個々の取引は乙社名義で行われ,Bは乙社の代表取締役ではないことを踏まえながら,Bは,乙社の発行済株式の90%を取得し保有していること,Bは,連日,乙社の洋菓子事業の陣頭指揮を執っていたこと,Bは,乙社の顧問として,毎月100万円の顧問料の支払を受け,洋菓子工場の工場長Eの引き抜きやQ商標の取得に関与したことなどの事情(事実上の主宰者性)に着目すべきである。

 甲社と乙社の市場は,設問1の時点では,地理的に競合しているとはいえない。そこで,甲社が乙社の市場(関西地方)への進出を具体的に企図していた場合に,Bによる乙社の取引が甲社の「事業の部類に属する取引」(会社法第356条第1項第1号)に該当するかどうかについても論ずるべきであり,乙社が,甲社と同様に,洋菓子の製造販売業を営み,著名な商標を付したチョコレートをデパートに販売していることのほか,甲社は,既にマーケティング調査会社に関西地方の市場調査を委託し,委託料500万円を支払済みであることを具体的に指摘する必要がある。

 取締役会設置会社において取締役が競業取引をしようとする場合には,取締役会において当該取引につき重要な事実を開示し,その承認を受けることを要する(会社法第356条第1項,第365条第1項)。Bが,A及びCに対し,「乙社の発行済株式の90%を取得するので,今後は乙社の事業にも携わる。」と述べたところ,A及びCは特段の異議を述べなかったという事実関係の下で,このような手続的要件が満たされるかどうかを論じなければならない。

 会社法第356条第1項違反が成立する場合には,その取引によって取締役又は第三者が得た利益の額が,甲社の損害の額と推定される(同法第423条第2項)。本件では,このように推定される損害の額は幾らなのか,すなわち,第三者である乙社の得た利益の額とみるべきか,又は取締役Bが得た利益の額とみるべきかについて,「自己又は第三者のために・・・取引をしようとするとき」という要件の当てはめとの論理的な整合性も意識しつつ,論ずることが求められる。そして,具体的な損害の額に関しては,乙社が得た利益としては,平成22事業年度における営業利益の増額分800万円を,Bが得た利益としては,上記800万円にBの持株比率である90%を乗じた額(720万円)ないしBが乙社から受領した顧問料(100万円に月数を乗じた額)を挙げることなどが考えられ,これらと本件競業取引との間の相当因果関係について検討する必要がある。

 本件では,甲社の取締役Bの競業行為の結果,会社法第423条第2項により推定される損害の額とは別に,現に甲社に損害が生じているとして,同条第1項に基づく損害賠償請求が可能かどうかについても,検討する必要がある。具体的には,甲社がマーケティング調査会社に支払った500万円の委託料について,Bの任務懈怠との間に相当因果関係があるかどうかなどを論ずることとなる。仮に,Bについて同法第356条第1項違反が成立しないとの結論を採った場合においても,甲社に生じた損害について,別途,同法第423条第1項に基づく損害賠償請求の可否を論ずることとなる。

 次に,Bによる洋菓子工場の工場長Eの引き抜きについては,引き抜き行為自体を「競業取引」と評価することは困難であるが,会社法第355条所定の忠実義務違反を原因とする同法第423条第1項に基づく損害賠償請求の可否が検討されるべきである。Eが甲社において重要な地位にあったこと,Eの突然の退職により甲社の洋菓子工場は操業停止を余儀なくされ,3日間受注ができず,1日当たり100万円相当の売上げを失ったこと,Bは甲社の洋菓子事業部門の業務執行担当取締役であり,当該事業部門の利益を守るべき立場にあったことなどを踏まえると,Bには任務懈怠が認められるであろう。この場合には,損害の額に関する推定規定はなく,損害賠償責任の有無及びその額について丁寧に論ずる必要がある。

 設問2では,まず,甲社が,会社の事業の一部(洋菓子事業部門)を二つの資産売買に分けて丙社に売却した取引に関し,これらを全体として事業譲渡と評価すべきかどうか,株主総会の特別決議が必要となる「事業の重要な一部の譲渡」(会社法第467条第1項第2号)に該当するかどうかについて,事案に即して論ずることが求められる。

 甲社の洋菓子事業部門が二つの資産売買に分けて丙社に譲渡されたことに関しては,洋菓子工場に係る不動産とP商標に係る商標権とにつき,各別の売買契約が締結され,それぞれ各別に債務が履行されたという形式を重視すれば,二つの「重要な財産の処分」(会社法第362条第4項第1号)がされたものと評価することとなる。これに対し,当初,甲社と丙社との間では,甲社の洋菓子事業部門の全体を代金2億5000万円で売却する旨の交渉がされていたという経緯,上記の各売買契約及びそれぞれの取締役会決議の時間的近接性,甲社の洋菓子事業部門に従事する従業員の全員が引き続き丙社に雇用されたこと,甲社の取引先についても実質的にその全部が丙社に引き継がれたこと,甲社の代表取締役Aは,株主であるS社が洋菓子事業部門の売却に反対する可能性が高いため,株主総会の特別決議を潜脱する意図で本件の取引を行ったと推測されることなどの事情を重視すれば,実質的に全体として「事業の重要な一部の譲渡」(会社法第467条第1項第2号)がされたものと評価することとなる。この点についての問題意識が明らかにされる必要がある。

 会社法第467条(旧商法第245条)により株主総会の特別決議による承認を必要とする事業譲渡の意義について,判例(最高裁昭和40年9月22日大法廷判決・民集19巻6号1600頁参照)は,会社法第21条(旧商法第24条)以下と同一の意義であって,①一定の営業目的のために組織化され,有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部又は重要な一部を譲渡し,②これによって,譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を譲受人に受け継がせ,③譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいう旨判示している。この点について,①の要件が不可欠であることにほぼ争いはないが,②及び③の要件が不可欠であるかどうかについては解釈上の争いがあるところ,事業譲渡に株主総会の特別決議が要求される趣旨を踏まえ,いずれかの立場に立った上で,本件の事案に当てはめて,会社法第467条所定の事業譲渡に該当するかどうかを論ずることが求められる。特に,本件では,当事者間の特約により,競業避止義務が明示的に排除されていることに留意すべきである。

 事業譲渡に該当するとした場合には,更に,事業の「重要な」一部の譲渡に当たるかについても,論ずる必要がある。その際には,重要性の判断基準を示した上で,質的・量的な側面から問題文の事実を具体的に当てはめるとともに,貸借対照表等の資料を分析して,株主総会の特別決議を要しないこととなる形式基準(会社法第467条第1項第2号括弧書き,同法施行規則第134条第1項)を満たすかどうかについても,検討することが求められる。この資料によれば,譲り渡す資産の帳簿価額は2億5000万円であり,甲社の総資産額は7億円であって,前者が後者の5分の1を上回るから,上記の形式基準を満たさない。次に,本件では,会社法上の必要な手続を欠く場合の事業譲渡の効力について,論ずる必要がある。この点について,会社法上特別の規定はないところ,判例(最高裁昭和61年9月11日第一小法廷判決・集民148号445頁参照)は,事業譲渡契約は,株主総会の特別決議によって承認する手続を経由していなければ,無効であり,その無効は,広く株主・債権者等の会社の利害関係人の保護を目的とするものであるから,何人との関係においても常に無効である旨判示している。このような考え方のほかに,善意無過失の譲受人を保護するために相対的無効とみる考え方などもあり得るが,甲社の株主であるS社の保護,譲受人である丙社の保護の観点等を考慮しつつ,説得的な論述をすることが求められる。

 仮に,本件について事業譲渡に該当しないとした場合には,本件の取引が「重要な財産の処分」(会社法第362条第4項第1号)に該当するかどうかを検討することとなる。その際には,重要性の判断基準について,判例(最高裁平成6年1月20日第一小法廷判決・民集48巻1号1頁参照)は,当該財産の価額,その会社の総資産に占める割合,当該財産の保有目的,処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものと判示しているところ,本件でも,事案に即して論ずる必要がある。結論として,第1取引及び第2取引のいずれも「重要な財産の処分」に該当すると評価することになろうが,その場合には,いずれについても取締役会の決議を経ているので,会社法上の手続的要件は満たされていることとなる。

 設問3では,会社法上の公開会社でない会社における新株予約権の発行に関する規律を念頭に置きつつ,①株主総会の決議により新株予約権の行使条件(上場条件)の決定を取締役会に委任することの可否,②仮に,このような委任ができるとした場合に,当該行使条件を取締役会の決議により廃止することの可否を論じた上で,③瑕疵のある手続により発行された新株予約権の行使により発行された株式の効力,又は行使条件に反した新株予約権の行使により発行された株式の効力について,論理的に整合した論述をすることが求められる。

 まず,会社法上の公開会社でない会社においては,同法第238条第1項第1号所定の「募集新株予約権の内容」の決定は,株主総会の特別決議を要し,取締役会に委任することができない(同法第238条第2項,第239条第1項第1号)ところ,新株予約権の行使条件は「募集新株予約権の内容」に含まれ,その決定を取締役会に委任することができないという考え方と,取締役会への委任を許容する考え方とがあるが,いずれの考え方によるかを明らかにしつつ,新株予約権の発行手続における瑕疵の有無を論ずることが求められる。そして,仮に,新株予約権の行使条件の決定を取締役会に委任することが可能であるとした場合でも,取締役会において当該行使条件の廃止を決議することができるかどうかについては,株主総会による委任の趣旨を検討しつつ,論ずる必要がある。本件では,経営コンサルタントGに対する新株予約権の発行が,甲社株式が上場した場合の成功報酬とする趣旨であったことから,取締役会における上場条件の廃止の決議は,株主総会による授権の範囲を超えて無効であると解することもできるであろう。

 新株予約権の発行手続に瑕疵があるとした場合には,そのような発行手続の法令違反が新株予約権の発行の無効原因となるか(なお,新株予約権の発行の無効の訴えの出訴期間である1年は既に経過している(会社法第828条第1項第4号)。),そのような新株予約権の行使により発行された株式が無効となるかについて,検討する必要がある。これに対し,新株予約権の発行は適法であるが,上場条件の廃止が無効であるとした場合には,甲社において上場条件は新株予約権の重要な内容を構成しており,上場条件に反した新株予約権の行使による株式の発行については,既存株主の持株比率がその意思に反して影響を受けるため,重大な瑕疵があるものとして,当該株式が無効となるのではないかという点について,検討する必要がある。

 設問3については,旧商法の下における判例(最高裁平成24年4月24日第三小法廷判決・民集66巻6号2908頁参照)を参考にしながら,会社法上の公開会社でない会社における新株予約権の発行等について,会社法の条文及び制度趣旨を踏まえた検討が望まれる。

 

採点実感

1 出題の趣旨
会社法の規律の基礎的な理解とともに、その応用を問う問題である。

2 採点方針及び採点実感
(1)全体
・記載順序に注意せよ。多少の不足があっても、高く評価される。
・問題文中にある様々な事情を摘示せよ。

(2)設問1について
・個々の事案をしっかりと拾え。何が「取引」(356条1項1号)にあたるかを特定せよ。
・「自己のために」か「第三者のために」なのかを明らかにせよ。これにともない推定損害額が異なるので注意。論理的な整合性がある答案は評価が高い。
・推定損害額とは別に、423条1項に基づく損害賠償請求の可否についても検討が必要である。相当因果関係の有無につき説得的に論じた答案は評価がよい。
・Bによる工場長Eの引き抜きについては、多くの答案ができている。
・損害論についても具体的な検討をすべきである。

(3)設問2について
・具体的な事実に即して、「事業の重要な一部の譲渡(467条1項2号)に該当するかを検討せよ。質的・量的側面からの記述が不可欠である。
・467条の「事業譲渡」の意義については著名な判例があるが、これにこだわる必要はない。理由付けをせよ。
・会社法上の必要な手続を欠く場合の事業譲渡の効力について、利害関係人の保護を考慮しつつ説得的論せよ。

(4)設問3について
・上場条件の決定の委任の可否の論述が欠けている答案が見られた。さらに
上場条件を取締役の廃止の決議の可否との整理ができていないと評価が悪い。
・取締役会で上場条件の廃止の決定ができるかについて、理由を示して結論を論述せよ。その後の答案の流れにも整合性を持たせろ。

3 法科大学院教育に求められるもの
・取締役の競業取引に関する規律,事業譲渡の意義及び事業の重要な一部の譲渡に関する規律,新株予約権の発行及び行使に関する規律について、理解が不十分である。

 

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