平成27年司法試験民事系第1問(民法)

平成27年司法試験民事系第1問(民法)

〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は,4:3:3〕)

  次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。

 

【事実】

1. 平成23年4月1日,Aは,山林である自己所有の甲土地から切り出した20本の丸太を相場価格に従い1本当たり15万円の価格で製材業者Bに売却する旨の契約を締結し,同日,Bの工場に上記20本の丸太を搬入した。その際,代金の支払時期は,同年8月1日とされた。また,Aの代金債権を担保するため,丸太の所有権移転の時期は,代金の支払時とし,代金の支払がされるまでBは丸太の処分や製材をしないことが合意された。

2. 平成23年4月15日,建築業者Cは,Bが【事実】1に記した20本の丸太を購入したという噂を聞き,甲土地が高品質の材木の原料となる丸太を産出することで有名であったことから,Bに対して,上記20本の丸太を製材した上,自分に売ってほしいと申し入れた。Bは,Aとの間で【事実】1に記した合意をしていたことに加え,つい最近も,当該合意と同様の合意をしてAから別の丸太を買い入れたにもかかわらず,その代金の支払前にその丸太を第三者に転売したことがAに発覚してトラブルが生じていたこともあり,Cの申入れに応じることは難しいと考え,Cに対し,少し事情があるので,もうしばらく待ってほしい,と答えた。

  しかし,Cがそれでもなお強く申し入れるので,Cが古くからのBの得意先であることもあり,同月18日,Bは,Aに無断で,Cとの間で,上記20本の丸太を製材して20本の材木に仕上げ,これらの材木を相場価格に従い1本当たり20万円の価格でCに売却する旨の契約を締結した。その際,Cは,それまでの取引の経験から,Aが丸太を売却するときにはその所有権移転の時期を代金の支払時とするのが通常であり,最近もAB間で上記のトラブルが生じていたことを知っていたが,上記20本の丸太についてはAB間で代金の支払が既にされているものと即断し,特にA及びBに対する照会はしなかった。

  Bは,上記20本の丸太を製材した上,同月25日,Cから代金400万円の支払を受けると同時に,20本の材木をCの倉庫に搬入した。

3. その後,Cは,DからDが所有する乙建物のリフォーム工事を依頼され,平成23年5月2日,Dとの間で報酬額を600万円として請負契約を締結した。その際,Dは,Cから,乙建物の柱を初めとする主要な部分については,甲土地から切り出され,Bが製材した質の高い材木を10本使用する予定であり,既に10本の在庫がある旨の説明を受けていた。

4. Cは,【事実】2に記した20本の材木のうち,10本は,そのまま自分の倉庫に保管し(倉庫に保管した10本の材木を,以下「材木①」という。),残りの10本は,乙建物のリフォーム工事のために使用することにした(リフォーム工事のために使用した10本の材木を,以下「材木②」という。)。

5. 平成23年5月15日,Dは乙建物から仮住まいの家に移り,Dが有していた乙建物の鍵のうちの1本をCに交付した。その翌日,Cは,乙建物のリフォーム工事を開始し,材木②を用いて乙建物の柱を取り替えるなどして,同年7月25日,リフォーム工事を完成させた。同日,Dが内覧をした結果,乙建物のリフォーム工事はDの依頼のとおりにされたことが確認され,DはCに請負の報酬額600万円を支払ったが,乙建物の鍵の返還は建物内の通気の状況などを確認してからされることになり,鍵の返還日は同年8月10日とされた。

6. 平成23年8月1日,【事実】1に記した20本の丸太に係る代金の支払時期が到来したので,Aは,Bの工場に丸太の代金を受け取りに行った。ところが,Bは,【事実】2に記したトラブルに関して,この頃,Aから高額の解決金の請求をされていたことから,Aがその請求を取り下げない限り,丸太の代金を支払うことはできない旨を述べ,その支払を拒絶した。Aは,そのようなBの対応に抗議をするとともに,Bの工場内に丸太が見当たらなかったことを不審に思い,調査をしたところ,【事実】2から5までの事情が判明した。そこで,Aは,同月5日,C及びDに対してこれらの事情を伝えた。

  驚いたDがCに問い合わせたところ,Cは,自分もAから同じ事情を聞かされて困っていると答えたが,いずれにしても乙建物のリフォーム工事は既に完成していることから,同月10日,CはDに乙建物の鍵を予定どおり返還した。

 

〔設問1〕【事実】1から6までを前提として,以下の⑴及び⑵に答えなさい。

 ⑴ Aは,Cに対して,材木①の所有権がAに帰属すると主張して,その引渡しを請求することができるか。Aの主張の根拠を説明し,そのAの主張が認められるかどうかを検討した上で,これに対して考えられるCの反論を挙げ,その反論が認められるかどうかを検討しなさい。

 ⑵ Aは,Dに対して,材木②の価額の償還を請求することができるか。Aの請求の根拠及び内容を説明し,それに関するAの主張が認められるかどうかを検討した上で,これに対して考えられるDの反論を挙げ,その反論が認められるかどうかを検討しなさい。

 

Ⅱ 【事実】1から6までに加え,以下の【事実】7から13までの経緯があった。

【事実】

7.平成23年12月28日,Aは,甲土地上に生育している全ての立木(以下「本件立木」という。)を製材業者Eに売却する旨の契約を締結し,その代金全額の支払を受けた。そこで,Eは,平成24年1月5日から,本件立木の表皮を削ってEの所有である旨を墨書する作業を始め,同月7日までに,甲土地の東半分に生育する立木につき,明認方法を施し終えた。

8.ところが,資金繰りに窮していたAは,平成24年1月17日,甲土地及び甲土地上の本件立木をFに売却する旨の契約を締結し,同日,その代金全額の支払と引換えに,甲土地についてAからFへの所有権移転登記がされた。これに先立ち,Fは,同月4日に甲土地を訪れ,本件立木の生育状況を確認していたが,その時点ではEが本件立木への墨書を開始していなかったことから,上記契約を締結する際には,既にAからEに対し本件立木が売却されていたことをFは知らなかった。

9.平成24年1月25日,Fは,甲土地を訪れたところ,本件立木の一部にEの墨書があることに気付いた。Fは,本件立木がEに奪われるのではないかと不安になったため,本件立木を全て切り出した上で,それまでの事情を伏せて,近くに住む年金暮らしの叔父Gに,切り出した丸太を預かってもらうよう依頼した。これに対し,Gが自己の所有する休耕中の丙土地であれば丸太を預かることができると答えたことから,同年2月2日,Fは,Gとの間で,保管料を30万円とし,その支払の時期を同月9日として,切り出した丸太を預かってもらう旨の合意をし,切り出した丸太を丙土地にトラックで搬入した。

10.平成24年2月10日,Eは,甲土地の西半分に生育する立木に墨書をするために甲土地に行ったところ,本件立木が全て切り出されていることを発見した。Eは,驚いて甲土地の近隣を尋ね歩いた結果,しばらく前にFが甲土地から切り出した丸太をトラックで搬出していたことが分かった。

11.平成24年2月13日,Eは,Fの所在を突き止め,本件立木の行方について事情を問いただしたところ,Fは,本件立木はAから購入したものであり,既に切り出してGに預けてあると答えるのみで,それ以上Eの抗議について取り合おうとしなかった。

12.そこで,Eは,平成24年2月15日,Gの所在を突き止め,確認したところ,Gが確かにFから【事実】9に記した丸太を預かっていると言うので,事情を話し,丸太を全てEに引き渡すよう求めた。Gは,Eとともに丙土地に行き,丸太を点検したところ,その一部にはEの墨書があることが分かったが,Eの墨書がないものもあったほか,丸太は全てFから預かったものであり,Fから保管料の支払もまだ受けていないことから,Eの求めに応じることはできないと答えた(これらの丸太のうち,Eの墨書がないものを,以下「丸太③」といい,Eの墨書があるものを,以下「丸太④」という。なお,Eの墨書は現在まで消えていない。)。

13.平成24年4月2日,Eは,Gに対し,丸太③及び丸太④の所有権は全てEに属し,これらをGが占有しているとして,その引渡しを求める訴えを提起した。

 

〔設問2〕【事実】1から13までを前提として,以下の⑴及び⑵に答えなさい。

   なお,本件において,立木ニ関スル法律による登記は行われておらず,同法の適用については考慮しなくてよい。

 ⑴ 丸太③に関し,Gは,丸太③をEが所有することを争うことによって,Eの請求を拒否する旨主張した。このGの主張の根拠を説明した上で,Gは,どのような事実を主張・立証すべきであるか,理由を付して解答しなさい。

 ⑵ 丸太④に関し,Gは,丸太④をEが所有すること及びこれをGが占有していることは争わないが,丸太の保管料のうち丸太④の保管料に相当する金額の支払を受けるまでは,Eの請求を拒否する旨主張した。このGの主張の根拠を説明した上で,その主張が認められるかどうかを検討しなさい。

 

Ⅲ 【事実】1から13までに加え,以下の【事実】14から18までの経緯があった。

【事実】

14.Cと同居しているCの長男Hは,満15歳の中学3年生である。平成24年11月15日,Hは,Cの自宅前を通行する者を驚かせようとして,Cの倉庫から,15センチメートル角で長さ2メートルの角材(以下「本件角材」という。)を持ち出し,Cの自宅前の道路の一部を横切るように置いた。Hが本件角材を置いたのは夕方であったが,その付近は,街路灯から離れていたために,夜間になると,歩行者でも,かなりの程度の注意を払っていなければ,本件角材に気付かない程度の暗さになり,Hもそのことを認識していた。

15.Hは,中学2年生の終わり頃から急に言動が粗暴になり,喧嘩で同級生に怪我をさせたり,同級生の自転車のブレーキワイヤーを切るといった悪質ないたずらをしたりしたことなどから,Cが学校から呼び出しを受けるという事態が何度も生じていた。Cは,Hに対し,他人に迷惑を掛けてはいけないといった一般的な注意をするものの,反抗的なHにどのような対応をしてよいのか分からず,それ以上の対策を講ずることはなかった。

16.HがCの自宅前に本件角材を置いてから1時間後,既にその付近がかなり暗くなってから,近所に住む女性Kの運転する自転車がCの自宅前の道路に差し掛かった。Kは,Kの子で3歳になるLを保育所に迎えに行き,荷台に設置した幼児用シートにLを乗せて自宅に戻る途中であったが,自転車の車輪が本件角材に乗り上げたため,ハンドルを取られて転倒し,Kは無事だったものの,Lは右腕を骨折した。

17.【事実】16の事故の際,Kは,携帯電話で通話をしていたため,片手で自転車を運転していた。また,自転車の前照灯が故障していたが,保育所からKの自宅までの道路はKが普段よく使う道路であったため,Kは,前照灯の故障を気にせず,事故のあった場所を走行していた。これらの事情も,【事実】16の事故の原因となったことが確認されている。なお,本件において,KがLを幼児用シートに乗せていたことは,法的に問題がないものとする。

18.Lには,【事実】16の事故により,右腕の骨折の治療費等として30万円相当の損害が生じた。

 

〔設問3〕【事実】1から18までを前提として,以下の⑴及び⑵に答えなさい。

 ⑴ Lが【事実】18に記した損害の賠償をCに対して請求するための根拠を説明した上で,それに関するLの主張が認められるかどうかを検討しなさい。

 ⑵ ⑴の請求に対し,その賠償額について,Cはどのような反論をすることが考えられるか。その根拠を説明した上で,その反論が認められるかどうかを検討しなさい。

出題趣旨

本問は,AがBとの間で丸太について所有権留保付き売買契約を締結していたにもかかわらず,BがAに無断でその丸太を製材し,製材後の材木をCに売却した後,Cがその材木の一部をDから請け負った乙建物のリフォーム工事に使用した事例(設問1),Aがその所有する甲土地上の立木をEに売却し,Eがその立木の半分に明認方法を施した後,Aから甲土地を買い受けたFが全ての立木を切り出し,その切り出した丸太をGに預けた事例(設問2),Cの子である15歳のHが夕刻に自宅前の道路に角材を置いたことにより,その道路を通り掛かったKの運転する自転車が転倒し,その自転車の幼児用シートに乗っていたKの子である3歳のLが傷害を負った事例(設問3)に関して,民法上の問題についての基礎的な理解とともに,その応用を問う問題である。当事者の利害関係を法的な観点から分析し構成する能力,その前提として,様々な法的主張の意義及び法律問題相互の関係を正確に理解し,それに即して論旨を展開する能力などが試される。

 設問1は,添付と即時取得という物権法の基本的事項に対する理解を問うとともに,これと関連する形で不当利得についても検討させることにより,法律問題相互の関係の正確な理解とそれに基づく法的構成力を問うものである。

 ⑴では,Aは,Cに対して,材木①の所有権がAに帰属すると主張してその引渡しを請求していることから,材木①の所有権の所在について検討することが求められる。その際,AB間における丸太の売買契約では,Bが売買代金を支払うまで丸太の所有権はAに留保されていること,Bがまだ売買代金を支払っていないこと,丸太の製材は加工に当たり,民法第246条第1項本文及びただし書によると,材木①の所有権は丸太の所有者であるAに帰属することを的確に分析することが期待されている。

 これに対し,Cの反論としては,即時取得(民法第192条)を主張することが考えられる。Cは,Bとの売買契約,つまり取引行為に基づき,材木①の引渡しを受けているからである。しかし,【事実】2によれば,Bが材木①の所有者であると信じたことにつき,Cには過失が認められる。ここでは,事実を的確に評価する能力が問われる。

 ⑵では,Aは,Dに対して,材木②の価額の償還を求めていることから,その根拠が確認されなければならない。まず,材木②は,材木①と同様の理由からAの所有物であるが,Dの所有する乙建物に組み込まれて一体化されている。これは付合に当たり,民法第242条本文によると,乙建物の所有者であるDが材木②の所有権を取得する。その結果,材木②の所有権を失ったAは,民法第248条に従い,Dに対し,その償金を請求することができる。このAの請求を基礎付けるに当たっては,付合の意義が正確に説明され,本問に示された事実関係に即して適切な当てはめをすることが求められる。

 また,民法第248条は「第703条及び第704条の規定に従い」としていることから,AのDに対する請求の具体的な内容を確定するためには,不当利得の成立要件について,本問に示された事実関係に即して検討する必要がある。ただし,要件を単に羅列することは求められておらず,付合に関する当てはめをする中で,これらの要件を実質的に検討することでも足りる。

 さらに,AがDに対して請求することができる額について,AB間の関係を考慮に入れた分析をすることも期待されている。材木②の価額は200万円であるから,材木②の所有者であるAは,Dに対して,200万円を請求することができるはずである。他方,材木②の材料に当たる丸太の価額は150万円であるため,Aが受けた損失を勘案するならば,AがDに対して請求できる額は150万円にとどまると考える余地もある。

 これに対して,Aの償金請求に対するDの反論として考えられるのは,例えば,DがCに請負代金を支払済みであることから,その限度でDの利得は消滅したという主張である。この反論を基礎付けるためには,Aが受益をした時点,つまり材木②が乙建物に付合した時点において,Dが善意であり(材木②の所有権をCが有しないことを知らなかった),かつ,悪意に転じる前に,Cに請負代金を支払ったことが指摘されなければならない。

 しかし,仮にDが自分で乙建物のリフォーム工事をするためにCから材木②を購入し,まだ材木②が乙建物に付合していないとすると,Dについて即時取得が成立しない限り,DがCに材木②の売買代金を支払ったとしても,AはDに対して材木②の返還を請求することができるはずである。このような観点からすると,DがCに請負代金を支払っていることを理由として,Dの利得の消滅を認めることは適切でなく,むしろ,Dにおいて材木②の価値に相当するものを即時取得したと評価することができる場合に,Dの利得について法律上の原因が認められ,DはAの償金請求を拒絶することができると考える可能性もある。その際には,引渡し時における善意無過失という即時取得の要件について,Dは,乙建物の鍵のうちの1本をCに交付して仮住まいの家に移っただけであるから,Cを通じて乙建物を間接的に占有していると評価することができ,材木②が乙建物に付合した時に材木②の引渡しを受けたのと同じ状況となるから,Dの善意無過失について判断すべき基準時は付合が生じた時点であること等が問題となる。

 設問2は,立木が二重に譲渡された後に切り出された場合においてその切り出された丸太について返還請求がされた事例を素材として,所有権に基づく物権的返還請求権の主張に対する典型的な抗弁の1つである対抗要件具備による所有権喪失の抗弁について正確な理解を有しているかどうか及び民事留置権の成否に関して事案に即した適切な検討ができるかどうかを問うものである。

 ⑴では,対抗要件具備による所有権喪失の抗弁の構造を正確に理解した上で,それを本問の事例に即して展開し応用する能力が問われている。

 Gが「丸太③をEが所有することを争うことによって」Eの請求を拒否する旨主張する根拠は,Fが対抗要件を具備することにより丸太③の所有権を確定的に取得した結果,Eがその所有権を喪失したことに求められる。そのため,ここではまず,Gの主張の根拠が,この意味での対抗要件具備による所有権喪失の抗弁に求められることを説明し,Gが主張・立証すべき事実を的確に示すことが求められる。

 その前提として,EのGに対する請求は,丸太③の所有権がEに属することを理由とする。これは,丸太③が,甲土地から切り出される前は,甲土地に生育していた立木であること,この本件立木は,甲土地の定着物(民法第86条第1項)ないし甲土地と付合して一体となるもの(民法第242条)であることから,甲土地の所有者であるAに帰属すること,EはAから売買により本件立木の所有権を取得したこと,その後本件立木が甲土地から切り出されても,Eの所有権は切り出された丸太に及び続けることによって基礎付けられる。

 その上で,Gの主張は,Aが甲土地及び甲土地上の本件立木をFに売却する旨の契約が締結され,それに基づき甲土地についてAからFへの所有権移転登記がされたことによって,民法第177条により,Fが本件立木の所有権を確定的に取得したこと,したがってEは本件立木の所有権を喪失したことによって基礎付けられる。本件立木は甲土地の定着物ないし甲土地と付合して一体となるものであることから,厳密に言うと,Fは,甲土地の売買により本件立木の所有権を取得し,甲土地の所有権移転登記により本件立木についても対抗要件を具備することになる。

 このほか,Gの主張の根拠としては,対抗要件の抗弁を考える余地もある。これは,AからEへの本件立木の売買に基づく物権変動について,Fから丸太③の寄託を受けたGが民法第177条の第三者に当たること,あるいは民法第177条の第三者に当たるFの地位をGが援用することにより,丸太③に対応する立木について明認方法を具備していないEはその所有権の取得をGに対抗することができないという構成による。その際には,受寄者が民法第177条の第三者に当たるか否かが問題となることなどを踏まえて,対抗要件の抗弁が認められる理由を適切に論じることが求められる。

 ⑵では,寄託契約に基づく保管料債権を被担保債権とする民事留置権の成否について正確に検討することができるかどうかが問われている。

 ここでは,まず,Gの主張が民事留置権(民法第295条)に基づくものであることを示す必要がある。商事留置権の成否について検討する必要はない(【事実】9を参照)。

 このGの主張が認められるためには,民事留置権の要件の全て,すなわち,(i)他人の物を占有していること,(ii)その物に関して生じた債権を有すること,(iii)被担保債権の弁済期が到来していること,(iv)占有が不法行為によって始まったものでないことについて,主張・立証責任の所在にも留意しつつ,それぞれの要件の意味を示し,それに該当する事実の有無を判断することが求められる。

 本問では,民事留置権の目的物である丸太④は,切り出される前の立木についてEが明認方法を具備していたことから,Eの所有に属する。それに対して,被担保債権である丸太④の保管料債権の債務者はFであるため,このような場合に単純に民事留置権の成立を認めると,Eの所有物がEとは無関係のFの債務の担保に供される事態を認めることになり,民事留置権の成立を認めることが適当かどうかという問題が生じる。そこで,(i)の要件について,被担保債権の債務者以外の者が所有する物も「他人の物」といえるか否か,あるいは,(ii)の要件について,このような場合に被担保債権と物との間に牽連性が認められるか否かについて,留置権の制度趣旨に遡った検討をすることが期待される。

 また,本問では,Fが丸太④を甲土地から切り出してGに寄託した行為はEに対する不法行為に該当すると考えられることから,Gが丸太④を預かった行為もEに対する不法行為に該当し,(iv)の要件が充足されないことになるか否かも問題となる。この点については,【事実】9の事情を適切に評価して,Gの不法行為の成否を判断することが求められる。

 なお,民事留置権の主張を認めるためには,その全ての要件が充足されていることを確認する必要があるのに対し,例えば,(i)や(ii)の要件について必要十分な検討を経てその充足が否定される場合には,民事留置権の成立を否定する結論を出すために,他の要件について検討する必要はない。そのような場合,他の要件について検討していないことを理由に不利に扱われることはない。

 設問3は,未成年者であるHの不法行為を素材として,不法行為法についての基本的な知識とその理解を問うものである。責任能力がある未成年者の不法行為についての監督義務者の責任と被害者側の過失についてはいずれも確立した判例があることから,それを踏まえて検討することが期待されている。

 ⑴で問われているのは,Hの親であるCの責任であるが,Cの責任については,Hに不法行為責任が認められるか否かによって,その法律構成が異なる。Hが本件角材を路上に置く行為は,客観的に不法行為に当たると考えられるが,Hに責任能力が認められない場合,Hの不法行為責任は否定される(民法第712条)。その場合には,Hの親権者であり,法定監督義務者となるCについて,民法第714条に基づく責任が認められる可能性がある。他方で,同条は,直接の加害者に責任能力が認められない場合の補充的責任を定めたものであり,Hに責任能力が認められる場合には,適用されない。しかし,このように直接の加害者である未成年者に責任能力が認められる場合でも,判例は,その監督義務者が民法第709条によって責任を負う可能性を認めている。本問では,これらの全体的な相互関係を踏まえて,Cの不法行為責任の成否を適切に論じることが求められる。

 まず,Hの責任能力については,民法には明確な年齢基準が定められていないものの,従来の判例では,12歳前後がその基準とされていることから,既に満15歳に達し中学3年生であるHについては,特段の事情がない限り,責任能力が肯定されると考えられる。したがって,これを前提とする限り,Cについて,民法第714条に基づく責任を追及することはできない。

 しかし,判例は,未成年者の責任能力が肯定される場合でも,監督義務者に監督義務違反としての故意又は過失が認められ,それと結果との間に相当因果関係があれば,監督義務者自身の不法行為として,民法第709条の責任を負うことを認めている。これによると,Cについて監督義務違反が認められるか否か,認められるとした場合,その監督義務違反とLの権利侵害との間に相当因果関係が認められるか否かについて,本問に示された事実関係に即して,的確に検討することが求められる。もっとも,このように判例に依拠して検討することが唯一の解答ではなく,適切な理由付けによってこれと異なる論じ方をすることも排除されていない。

 ⑵は,賠償額について,Cはどのような反論をすることが考えられるかを検討させるものである。ここでは,過失相殺について論じることが期待される。

 【事実】16及び17によると,既に付近がかなり暗くなっていたにもかかわらず,Kが前照灯の故障した自転車を,携帯電話を使用していたため,片手で運転していたことから,Kについて過失と評価されるような事情が認められるが,Lについては,過失と評価されるような事情は認められない。本問の損害賠償請求はLによるものであるため,L自身には過失がないにもかかわらず,こうしたKの過失が,Lの損害賠償請求において過失相殺の対象として考慮されるかどうかが問題となる。この点について,判例は,被害者自身の過失でなくても,被害者と身分上・生活関係上の一体性が認められる者に過失があった場合については,その者の過失を過失相殺の対象として考慮することを認めている。判例に即して論じる場合には,以上の点を的確に示し,本問に示された事実関係に即して,その要件が満たされている否かを的確に検討することが求められる。

 もっとも,判例による被害者側の過失法理に依拠して検討することが唯一の解答ではない。特に,被害者側の過失法理については,その妥当性を疑問視する見解も有力であり,判例と異なる構成を採る場合であっても,適切な理由付けが行われ,その要件等が的確に検討されていれば,それに相応した評価がされることになる。

 

採点実感

1.出題の趣旨
民事系は、以下のような能力が試されている
①当事者の利害関係を法的な観点から分析し構成する能力
②上記の前提としての、様々な法的主張の意義及び法律問題相互の関係を正確に理解
③それに即して論旨を展開する能力

2.採点方針
以下のような採点方針を採用している。
・1つの設問について複数の採点項目
・ある設問について深い考察がなされているものには高い評価
・論理的に矛盾する答案に低い評価

3.採点実感
(1)設問1について
◯小問(1):材木1の所有権の所在、
・所有権の取得、即時取得については、大多数の答案の言及があった
・即時取得の成否にあたっての186条・188条に言及があると、要件事実論の理解が伺われて良い
・加工についても言及せよ。

◯小問(2)
・不動産の付合(242条)の意義を明確した上で、248条を用いよ。
・請求額についても分析せよ。しかし、Dの反論に関する検討は、叙述の分量の少ない答案も相当数あった

(2)設問2について
◯小問(1)について:対抗要件具備による所有権喪失の抗弁の構造
・対抗要件の抗弁については、Fの177条の「第三者」該当性の理由づけをせよ
・対抗要件の抗弁についての要件事実について正確な理解を示せ。

◯小問(2)について:寄託契約に基づく保管料債権を被担保債権とする民事留置権の成否について
・留置権の成否について要件事実を意識して検討せよ。
・被担保債権が何かについては気をつけよ。196条に基づく必要費償還請求権ではない。

(3)設問3について
◯小問(1):一般に責任能力があるとされる年齢に達している未成年者がした不法行為について監督義務者である親の責任
・Hに責任能力(712条)について正確な理解を示せ
・Hの責任能力の有無に即した不法行為(709条or714条)をすべし

◯小問(2):幼児が被害者である場合にその親に不注意があった場合について過失相殺の可否
・時間切れ答案を除き概ね書けている
・過失相殺についての基礎的な理解を記述すべき
・被害者側の過失については、必ずしも判例法理に従う必要はない

(4)全体を通して
・体系的で過不足のない知識を。
・要件事実の指摘にとどまらず、実体法の解釈や事案への当てはめを十分にすべき。
・答案全体のバランスを考えよ

4.法科大学院における学習において望まれる事項
・具体的なケースに即し適切な法律構成
・自己の法的主張を適切に基礎付ける能力
・法律効果を起点とした制度や法規範の相互関係の理解

5 その他
答案作成上の注意として
・極端に小さな字を書かない
・潰れた字・書き殴った字もダメ
・「けだし」「思うに」も使わない

 

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