平成28年司法試験刑事系第1問(刑法)

平成28年司法試験刑事系第1問(刑法)
  • (配点:100)

以下の事例に基づき、甲、乙、丙及び丁の罪責について、具体的な事実を適示しつつ論じなさい(特別法違反の点を除く)。

1 甲(45歳、男性)は暴力団組織である某組において組長に次ぐ立場にあり、乙(23歳、男性)及び丙(20歳、男性)は甲の配下にある同組の組員で、乙は丙の兄貴分であった。甲は、某組の組長から、まとまった金員を工面するように指示を受けていたところ、配下の組員Aの情報によって、Aの知人であるV(40歳、男性)が、一人暮らしの自宅において、数百万円の現金を金庫に入れて保管していることを知った。

2 甲は、Vの現金を手に入れようと計画し、某年9月1日、乙に対し、「実は、組長からまとまった金を作れと言われている。Aの知人のVの自宅には数百万円の現金を入れた金庫があるらしい。Vの家に押し入って、Vをナイフで脅して、その現金を奪ってこい。奪った現金の3割はお前のものにしていい。」と指示した。乙は、その指示に従うことにちゅうちょを覚えたが、組内で上の立場にいる甲の命令には逆らえないと考えるとともに、分け前も欲しいと思い、甲に対し、「分かりました。」と言った。甲は乙に対し、現金3万円を渡して、「この金で、Vを脅すためのナイフなど必要な物を買って準備しろ。準備した物と実際にやる前には報告をしろ。」と言った。乙は、甲から受け取った現金を使って、玄関扉の開錠道具、果物ナイフ(刃体の長さ約10センチメートル。以下「ナイフ」という。)奪った現金を入れるためのかばん等を購入した上、甲に対し、準備した物品について報告した。

その後、乙は、一人で強盗をするのは心細いと思い、丙と一緒に強盗をしようと考えた。乙は、丙に対し、「甲からの指示で、Vの家に行って押し込み強盗をやるんだが、一緒にやってくれないか。」と言って甲から指示を受けた内容を説明した上で、「俺がナイフで脅す。それでもVが抵抗してくるようだったら、お前はVを痛めつけてくれ。9月12日午前2時に実行する。その時間にVの家に来てくれ。お前にも十分分け前をやる。」と言った。しかし、丙はその日は用事があったことから、乙の頼みを断った。乙は、「仕方ない。一人で何とかなるだろう。」と考え、単独で犯行に及ぶことを決意した。なお、乙は、甲に対し、丙を強盗に誘ったことについては言わなかった。

 

3 乙は、同月12日未明、事前に準備したナイフ等を持ってV方に向かい、V方前で甲に電話をかけ、「これからV方に入ります。」と伝えた。しかし、甲は、乙からの電話の数時間前に、今回の計画を知った某組の組長から犯行をやめるように命令されていたので、乙に対し、「組長からやめろと言われた。今回の話はなかったことにする。犯行を中止しろ。」と言った。乙は、多額の現金を入手できる絶好の機会であるし、手元にナイフ等の道具もあることから、甲にそのように言われても、今回の犯行を中止する気にはならなかったが、甲に対し、「分かりました。」とだけ返事をして、その電話を切った。

4 乙は、その電話を切った直後の同日午前2時頃、準備した開錠道具を使用してV方の玄関扉を開錠し、V方に入った。乙は、Vが寝ている部屋(以下「寝室」という。)に行き、ちょうど物音に気付いて起き上がったVに対し、準備したナイフをその顔面付近に突き付け、「金庫はどこにある。開け方も教えろ。怪我をしたくなければ本当のことを言え。」と言った。これに対し、Vが金庫のある場所等を教えなかったため、乙は、Vを痛めつけてその場所等を聞き出そうと考え、Vの顔面を数回蹴り、さらに、Vの右足のふくらはぎ(以下「右ふくらはぎ」という。)をナイフで1回刺した。Vは、乙からそのような暴行を受け、「言うとおりにしないと、更にひどい暴行を受けるかもしれない。」と考えて強い恐怖心を抱き、乙に対し、「金庫は6畳間にあります。鍵は金庫の裏にあります。」と言った。それを聞いた乙は、右ふくらはぎを刺された痛みから床に横たわっているVを寝室に残したまま6畳の部屋(以下「6畳間」という。)に向かった。

5 丙は、予定よりも早く用事が済んだため、兄貴分である乙が強盗するのを手伝おうという気持ちが新たに生じるとともに、分け前がもらえるだろうと考え、V方に行った。丙は、V方の玄関扉が少し開いていたので、同日午前2時20分頃、その玄関からV方に入り、寝室でVが右ふくらはぎから血を流して床に横たわっているのを見た。

その後、丙は、6畳間にいた乙を見付け、乙に対し、「用事が早く済みました。手伝いますよ。」と言った。乙は、丙に対し、「計画どおりVをナイフで脅したけど、金庫の在りかを教えなかったから、ふくらはぎを刺してやった。あれじゃあ動けねえから、ゆっくり金でも頂くか。お前にも十分分け前はやる。」と言い、丙も、Vは身動きがとれないので簡単に現金を奪うことができるし、分け前をもらえると考えたこともあり、これを了解して「分かりました。」と言った。

乙は、Vから聞き出した場所にあった鍵を取り出して、これを使って6畳間の金庫の扉を開錠した。そして、乙と丙は、二人で同金庫の中にあった現金500万円を準備したかばんの中に入れ、その後、同日2時30分頃、そのかばんを持ってV方から出た。なお、Vは、終始、丙が来たことには気付いていなかった。

乙は、V方から出た後、某組事務所に行き、甲に対し、言われたとおり犯行を中止した旨の虚偽の報告をした。その後、乙は、Vから奪った現金のうち150万円を丙に分け前として渡し、残りの350万円を自分のものとした。

6 盗みに入る先を探して徘徊中の丁、(32歳、男性。なお、甲、乙、及び丙とは面識がなかった。)は、同日午前2時40分頃、V方を通った際、偶然、V方の玄関扉が少し開いていることに気付いた。丁は、V方の金品を盗もうと考え、その玄関からV方に入り、6畳間において、扉の開いた金庫内にX銀行のV名義のキャッシュカード1枚(以下「本件キャッシュカード」という。)があるのを見付け、これをズボンのポケットに入れた。そして、丁が更に物色するため寝室に入ったところ、そこには右ふくらはぎから血を流して床に横たわっているVがいた。丁は、その様子を見て驚いたものの、「ちょうどいい。手に入れたキャッシュカードの暗証番号を聞き出し、現金を引き出そう。」と考え、Vに近付いた。

Vは、丁に気付き、「何かされるかもしれない。」と考えて、丁に対して恐怖心を抱いた。丁は、横たわっているVのそばにしゃがみ込んでVの顔を見たところ、Vが恐怖で顔を引きつらせていたので、「強く迫れば、容易に暗証番号を聞き出せる。」と考えた。そこで、丁はVをにらみ付けながら、「金庫の中にあったキャシュカードの暗証番号を教えろ。」と強い口調で言った。Vは丁が間近に来たことでおびえていた上、丁からそのように言われ、「言うことを聞かなかったら、先ほどの男にされたようなひどい暴行をまた振るわれるかもしれない。」と考えて、更に強い恐怖心を抱き、丁に対し、「暗証番号は××××です。」と言った。

7 丁は、その暗証番号を覚えると、V方から逃げ出し、同日午前3時頃、V方近くの24時間稼働している現金自動預払機(以下「ATM」という。)が設置されたX銀行Y支店にその出入口ドアから入り、同ATMに本件キャッシュカードを挿入した上、その暗証番号を入力して、同ATMから現金1万円を引き出した。

8 Vは、同日午前5時頃、乙から顔面を蹴られたことによる脳内出血が原因で死亡した(なお、乙がVの右ふくらはぎを刺した行為とVの死亡とは関連がない。)。

出題趣旨

 

採点実感

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