司法書士と行政書士、聞いたことはあっても具体的な業務内容まで詳細に説明できる方は少ないかもしれません。どちらも士業の国家資格であること、試験の難易度が高いこと以外にも、違いを明らかにするため比較できるポイントがあります。業務内容や試験科目のほか、資格取得のメリットも含めて見ていきましょう。
1 司法書士と行政書士の業務
法務省と総務省のホームページには、司法書士と行政書士の業務について下記のように掲載されています。
司法書士の業務
・登記または供託に関する手続きの代理
・裁判所、検察庁または(地方)法務局に提出する書類の作成
・(地方)法務局長に対する登記または供託に関する審査請求(不服申立て)手続きの代理
・簡易訴訟代理等関係業務を行うこと(認定司法書士に限る)
・上記すべての業務に関する相談に応じること
出典:法務省HP
行政書士の業務
・官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類の作成
・官公署に提出する書類について、提出の手続きを代理すること
・契約その他に関する書類を代理人として作成すること
・行政書士が作成できる書類作成について相談に応じること
・不服申立て代理(特定行政書士に限る)
出典:総務省HP
司法書士の業務として代表的かつ専門的なのは、不動産の登記申請、会社・法人の登記および抵当証券交付申請の手続きです。
一方、行政書士の主な業務は、官公署に提出する書類を作成し、提出の手続きを代理することとなっています。
2 認定司法書士と特定行政書士
司法書士と行政書士は、それぞれ「認定司法書士」と「特定行政書士」になることができます。定められた研修を受講・修了したのち、考査に合格することで、特定の業務が行えるようになるものです。
(1)認定司法書士
認定司法書士とは、司法書士法に規定される研修課程を修了し、考査に合格することで、法務大臣の認定を受けた司法書士を指します。
認定司法書士は、簡易裁判所において取り扱うことができる民事事件(訴訟の目的となる物の価額が140万円を超えない請求事件)などについて、代理業務を行うことができます(簡裁訴訟代理等関係業務)。
簡裁訴訟代理等関係業務とは、
簡易裁判所における
(1)民事訴訟手続
(2)訴え提起前の和解(即決和解)手続
(3)支払督促手続
(4)証拠保全手続
(5)民事保全手続
(6)民事調停手続
(7)少額訴訟債権執行手続及び
(8)裁判外の和解の各手続について代理する業務
(9)仲裁手続及び
(10)筆界特定手続について代理をする業務
などのことです。
ポイントは、
・簡易裁判所で取り扱うことができる民事事件
・訴訟の価額が140万円以下の請求事件
について代理業務が行えるという点です。
(2)特定行政書士
特定行政書士とは、日本行政書士会連合会が実施する「特定行政書士法定研修」の課程を修了(所定の講義を受講し、考査において基準点に到達)した行政書士です。
特定行政書士に限って認められている業務が、行政庁に対する不服申立てです。
行政書士が作成し、官公署に提出した書類の許認可などに関して、行政庁に対して不服がある場合、特定行政書士は不服申立ての手続きと提出書類の作成ができます。
3 司法書士と行政書士の試験概要
ここではそれぞれの試験概要・科目を見ていきましょう。
(1)受験資格、試験日、試験形式、合格基準
まずは試験概要を比較した表をご覧ください。受験資格以外には、はっきりと違いが表れていることがわかります。
司法書士 | 行政書士 | |
---|---|---|
受験 資格 | なし | なし |
試験日 | 筆記試験:7月の第1あるいは第2日曜日 (午前の部)9:30~11:30 (午後の部)13:00~16:00 口述試験:10月中旬 | 11月の第2日曜日 13:00~16:00 |
試験 形式 | 筆記試験(多肢択一式・記述式) 口述試験(筆記試験通過者のみ) | 筆記試験のみ (5肢択一式・多肢択一式・記述式) |
合格 基準 | 筆記試験: 基準点による3回の足切りをクリア 口述試験:ほぼ合格できる | 各科目の基準点をクリア + 全体で60%以上の正答率 |
(2)科目
続いて、それぞれの科目の違いを詳しく見てみましょう。
<司法書士>
筆記試験
多肢択一式 | 記述式 | |
---|---|---|
憲法 | 民事訴訟法 | 不動産登記法 |
民法 | 民事執行法 | 商業登記法 |
刑法 | 民事保全法 | ー |
商法 | 司法書士法 | ー |
供託法 | ー | |
不動産登記法 | ー | |
商業登記法 | ー |
口述試験
不動産登記法・商業登記法・司法書士法から出題(例年の傾向)
<行政書士>
出題形式 | 科目 | |
---|---|---|
法令等 | 5肢択一式 | 基礎法学 |
憲法 | ||
行政法 | ||
民法 | ||
商法・会社法 | ||
多肢選択式 | 憲法 | |
行政法 | ||
記述式 | 行政法 | |
民法 | ||
一般知識 | 5肢択一式 | 政治・経済・社会 |
情報通信・個人情報保護 | ||
文章理解 |
4 司法書士・行政書士試験の難易度、合格率
(1)司法書士試験
平成26年~平成30年の受験者数・合格者数・合格率の推移をご覧ください。
司法書士試験は合格率4%前後の狭き門ではありますが、合格率は近年微増傾向にあります。出願だけして受験しない方も一定数含まれる上、試験対策が不十分な受験生も多いのが実情です。
合格者の声の中には「十分な対策で臨んだ場合の合格率は宅建士試験(15~20%)と同等」というものもあります。誰かとの比較ではなく「自分が試験対策をやりきれたか」ということを意識しましょう。
(2)行政書士試験
行政書士試験も同様に、平成26年~平成30年の受験者数・合格者数・合格率の推移をご覧ください。
ここ数年の合格率はおよそ10%前後で推移していますが、行政書士試験が難化傾向にあることは留意しておきましょう。
試験範囲が広く決して簡単であるとは言えませんが、筆記試験のみであるため比較的対策はしやすいと言えそうです。口述試験や面接などはなく、1度の筆記試験で合否が決まることから、積極的にチャレンジできる資格試験となっています。
5 司法書士・行政書士試験対策・勉強法
(1)司法書士
司法書士試験は、7月第1日曜日に実施される「筆記試験」と10月下旬に実施される「口述試験」からなります。
筆記試験合格者のみが口述試験を受験することができます。口述試験は「落とすための試験ではない」と言われているように、毎年ほぼ全員が合格していますので、特別な対策をする必要はほぼありません。筆記試験対策に全エネルギーを注ぎましょう。
・試験科目
試験は全11科目。主要4科目と呼ばれる、民法(21問)・商法(8問)・不動産登記法(16問+記述1問)・商業登記法(8問+記述1問)が全体の7~8割を占めます。
中でも最も配点が高いのが民法です。民法の理解は他の法律の理解にも繋がるため「民法を制するものが試験を制す」と言っても過言ではありません。
・試験形式、合格基準
多肢択一式・記述式それぞれに基準点が設定されており、それに満たない場合は不合格となります。「足切り」は、主要4科目に偏った学習方法を許さないものです。苦手科目を作らず、比較的易しい問題を取りこぼさないように基礎力を磨きましょう。
・試験対策、勉強法
実際の業務で使用する申請書類を作成する書式問題は、正確さと対応力が求められます。事例形式の問題文から、何が論点とされているのか読み解いて最適な書類を作成する力は、一朝一夕で身につくものではありません。
「書式のひな形を暗記してから」と記述式対策を後回しにせず、択一式問題の基礎知識の学習と並行して取り組むのもおすすめの学習法です。司法書士になったつもりで書式問題に取り組めば、目標が明確になるためモチベーションアップにもつながります。
(2)行政書士
行政書士試験は、11月第2日曜日に実施される筆記試験のみで合否が決まります。問題数は全60問で、試験科目や形式などは以下の通りです。
・試験科目、形式
「行政書士の業務に関し必要な法令等」(出題数46題)と「行政書士の業務に関連する一般知識等」(出題数14題)からなり、出題形式は「択一式」と「記述式」の2通りです。「行政書士の業務に関し必要な法令等」は択一式および記述式で、「行政書士の業務に関連する一般知識等」は択一式で出題されます。
・合格基準
次の要件をいずれも満たすことが合格基準となります。
①行政書士の業務に関し必要な法令等科目の得点が、満点の50パーセント以上である者
②行政書士の業務に関連する一般知識等科目の得点が、満点の40パーセント以上である者
③試験全体の得点が、満点の60パーセント以上である者
・試験対策、勉強法
幅広い法律の知識、一般知識として政治や経済に関する基本的な理解、時事問題への関心、文章の読解力、制限内の文字数で書ける文章力などが必要です。
試験対策のポイントのひとつとして、一般知識等科目では満点を取る必要のないことが挙げられます。一般知識等科目は、必要最低限の勉強で合格点を目指しましょう。
行政書士試験は6割得点すれば合格できる試験です。わからない部分を無理に理解しようとするよりも、簡単に分かる部分を増やしていくほうが効率的です。
6 司法書士・行政書士資格取得のメリット
(1)司法書士
司法書士の独占業務といえば、不動産登記や商業登記といった登記業務です。不動産や会社のあるところには必ず登記業務のニーズが生まれるため、全国各地で司法書士が必要とされているわけですが、有資格者は全国に2万人ほどですので、非常に希少な存在だと言えるでしょう。
司法書士試験に合格すると、日本司法書士会連合会による「新人研修」が受けられます。そこで司法書士の実務に関する幅広い知識を習得できるため、すぐに独立開業を目指すことも可能です。
独立開業した司法書士の方からは「自分が努力すればするほど、収入になって反映される」という声をよく聞きます。自分次第で仕事量をコントロールできるため、依頼者との信頼関係をうまく築くことで、年間1000万円以上の収入を得ている方も少なくありません。
司法書士資格は一度取得すれば一生有効です。一般的な定年を迎えても年齢を気にせず働きたい方にはうってつけではないでしょうか。また、休職などのブランク後に復帰しやすいのも特徴と言えるので、家事・育児と仕事を両立したい方などにもおすすめの資格です。
(2)行政書士
行政書士の独占業務は下記の通りです。これらの業務は、行政書士にしか認められていません。
・官公庁に提出する書類(飲食店などの営業許可書など)
・権利義務に関する書類(会社の定款、民間契約書、遺言書など)
・事実証明に関する書類(車庫証明などで使う見取り図など)
これは、医師だけに医療行為が認められているのと同じことです。このことからも、行政書士には社会的意義があり、ニーズや社会貢献度が高く、やりがいの大きな職業だと言えるでしょう。
行政書士登録を行えば、自宅を拠点として開業・勤務ができることが大きな特徴です。資格取得後は、多くの方が独立・開業からキャリアをスタートします。近年ではセカンドキャリア形成の一環としても注目されているのが行政書士の資格です。
法律の知識や専門的な書類作成の知識を持っていると、勤め先の総務部・法務部などで活躍するチャンスが広がります。また、業種横断的に書類作成を行えるのが行政書士ならではの魅力なので、これまでとは全く別の業界への転職も視野に入ってくるでしょう。就活を控えている学生の方にとっては、行政書士という国家資格の保有が評価の対象となることもあります。
7 サマリー
いかがでしたでしょうか。
国家資格の士業であることは同じですが、あらためて比較してみると、その違いが明確になったのではないかと思います。試験内容や難易度の違いを知り、資格取得後の業務を想像しながら、受験に向けて検討・準備を始めてみてください!
8 まとめ
・司法書士の主業務は不動産登記・商業登記
・行政書士の主業務は官公署へ提出する書類作成
・条件を満たせば「認定司法書士」「特定行政書士」になれる
・司法書士試験は筆記+口述、行政書士試験は筆記のみ
・合格率は、司法書士4%前後、行政書士10%前後
・共通する資格取得のメリットは独立開業が可能なこと