司法書士は、法律系の国家資格で「街の法律家」と呼ばれているほど生活に身近な仕事です。登記の仕事のイメージが強いですが、調停や法律相談、訴訟など幅広い業務に携わることができます。さらに独立開業をしやすい仕事でもあるため、昔から根強い人気のある資格のひとつです。
しかし司法書士になるためには、非常に難しい試験に合格しなければいけません。そこで本記事では、司法書士試験について詳しく解説していきます。ぜひ司法書士試験を受験する際の参考にしてみてください。
目次
1 司法書士試験の概要
司法書士試験は、非常に難易度が高い国家試験のひとつです。資格取得のためには、相当の時間をかけて根気強く勉強を続ける必要があります。
しっかりとした対策と特徴を理解した勉強ができていれば、決して取得不可能な資格ではありません。ここでは、司法書士試験の概要についてご紹介します。司法書士試験の特徴を理解し、勉強する際に役立ててください。
(1) 司法書士試験とは
司法書士試験とは、その名のとおり司法書士資格を取得するための試験です。難易度が高く合格率も低いため、難関国家資格のひとつに数えられています。一方で、難関国家資格の中では珍しく受験資格が必要ないため、受験者数が比較的多い試験でもあります。
(2) 受験資格
司法書士試験には、受験資格が必要ありません。
老若男女問わず誰でも自由に受験することができます。さらに受験回数にも制限がないため、合格するまで受け続けることも可能です。
(3) 合格率・難易度
司法書士試験の合格率は、例年約3%〜4%で推移しています。
直近6年間の司法書士試験の受験者数、合格者数、合格率を下記の表にまとめたので確認してみてください。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2020年 | 11,494人 | 595人 | 5.1% |
2019年 | 13,683人 | 601人 | 4.4% |
2018年 | 14,387人 | 621人 | 4.3% |
2017年 | 15,440人 | 629人 | 4.1% |
2016年 | 16,725人 | 660人 | 3.9% |
2015年 | 17,920人 | 707人 | 3.9% |
しかし、この発表されている合格率は、正確に難易度を表している数字とはいえません。司法書士試験には受験資格がなく、記念受験する層が一定数いるためです。
そのため司法書士試験に向けた勉強と対策をしている層の実際の合格率は、もっと高い数値になると推測されます。
2 司法書士試験の試験内容
司法書士試験に合格するためには、試験内容を把握しておくことが必要不可欠です。ここでは「司法書士試験で求められる知識」と「試験範囲と各科目の特徴」について解説していきます。試験勉強の参考にしてみてください。
(1) 求められる知識
司法書士試験で求められる知識を一言で表すと、司法書士業務に必要な知識と応用力です。具体的な内容は以下になります。
・「憲法」「民法」「商法(会社法)」「刑法」知識
・不動産登記や商業登記のような登記関係の知識
・供託や民事訴訟、民事執行、民事保全の知識
・その他の司法書士業務を行うのに必要な知識と応用力
上記の内容は、司法書士として業務にあたるうえで必須な知識や能力であり、司法書士試験でも詳しく問われます。そのため、それぞれの科目ごとに対策することが必要です。
(2) 試験範囲・科目
司法書士試験は、主要科目以下4科目と、
・民法
・不動産登記法
・商法(会社法)
・商業登記法
以下マイナー科目の7科目で構成されています。
・「民事訴訟法」
・「民事執行法」
・「民事保全法」
・「供託法」
・「司法書士法」
・「憲法」
・「刑法」
全11科目と非常に範囲が広いため、各科目の特徴を捉えて対策することが重要です。ここでは、各科目の特徴と対策のポイントについてご紹介します。
① 民法
司法書士試験での民法は、試験当日の午前の部で出題されます。午前の部の35問のうち20問も出題される配点割合が大きいです。
また、民法は民事訴訟法や不動産登記法などを勉強するうえで必要不可欠な知識でもあります。
そのため、民法の分野は重点的に学習を進める必要があります。
出題数が多い物権・担保物権の分野を中心に、他の分野もまんべんなく学習すると良いでしょう。
② 不動産登記法
司法書士試験における不動産登記法は、司法書士業務に直接関与するため最も重要度の高い科目です。
5肢択一問題の出題数も多いうえ、解答に深い知識が求められる記述式問題も出題されます。
つまり、5肢択一問題と記述式問題を切り離した学習が必要になります。以下おすすめの学習方法です。
5肢択一問題:過去問を中心とした学習が有効です。
記述式問題:記述式問題では、過去問を解くのはもちろん、細かい部分までテキストで理解するようにしましょう。不動産登記法の知識だけでなく民法の知識を踏まえた問題が出されるためです。
③ 商法(会社法含む)
司法書士試験での商法(会社法含む)は、全部で9問出題されます。ただし会社法が8問、商法が1問と、そのほとんどが会社法からの出題です。
したがって、会社法に重点を置くとより効率的な勉強になるでしょう。
また会社法を勉強する際は、似たような制度が多く存在することから、正確な知識を身につけておくことが重要です。
混乱をまねかないように、似た制度を比較して表にまとめるなど工夫して対策することをおすすめします。
④ 商業登記法
司法書士試験での商業登記法は、司法書士業務に直接関与する重要な科目です。そのため、不動産登記法と同じく配点も多いうえ、記述式問題も出題されます。
また、商業登記法は会社法を前提とした法律のため、会社法を理解していることで5肢択一問題の半分程度は解くことが可能です。会社法の理解を優先し、効率的に勉強を進めてください。
⑤ 民事訴訟法
司法書士試験での民事訴訟法は、試験当日の午後の部に5肢択一形式で5問出題されます。出題数は多くありませんが、出題範囲が広いため早めの取り組みが必要です。
また、民事訴訟法は手続法のため、学習の初期段階で手続きの全貌を把握することをおすすめします。そうすることで、その後の学習の理解が早まるためです。
民事訴訟法の知識は実務においても必須の知識となります。合格後のためにも深い学習を進めてください。
⑥ 民事執行法
司法書士試験での民事執行法は、午後の部で1問だけ出題されます。
つまり、試験合格を目指すにあたり、効率が良い科目とはいえません。
その1問で不合格になる可能性を考えた場合勉強は必要ですが、時間をかけすぎると全体的には非効率になってしまいます。
したがって、民事執行法では、過去問の類題が出てきたら必ず得点するぐらいの勉強に留めておくとよいでしょう。
⑦ 民事保全法
司法書士試験での供託法は、午後の部に3問出題されます。出題数は多くないですが、比較的理解しやすく覚えやすい科目のひとつです。
さらに出題内容は、過去問の類題が多く出題される傾向にあります。したがって、過去問を繰り返し解いてしっかり対策すれば、確実な得点が期待できる科目です。
学習するにあたって、民事執行法の後に勉強するとより理解しやすいです。
⑧ 供託法
司法書士試験での供託法は、午後の部に3問出題されます。出題数は多くないですが、比較的理解しやすく覚えやすい科目のひとつです。
さらに出題内容は、過去問の類題が多く出題される傾向にあります。したがって、過去問を繰り返し解いてしっかり対策すれば、確実な得点が期待できる科目です。
学習するにあたって、民事執行法の後に勉強するとより理解しやすいです。
⑨ 司法書士法
司法書士試験での司法書士法は、午後の試験で1問だけ出題されます。筆記試験だけでなく口述試験でも理解が問われるため、油断は禁物です。さらに、司法書士として従事する際にも必須の知識なので、しっかり勉強し理解しておきましょう。
学習する際のポイントは過去問とテキスト参照の繰り返しです。
⑩ 憲法
司法書士試験での憲法は、午前の部で3問出題されます。出題数は多くありませんが、多くの人に馴染みがある法律であり、他の科目よりも比較的勉強しやすいのが特徴です。
さらに、頻出の論点や有名な判例からも多く出題されるので、しっかり勉強することで確実な得点につながります。
勉強する際のポイントは、条文が作られた理由にまで視点を向けることです。そうすることで基本だけでなく応用力も身につき、難問が出題されても柔軟に対応できる力がつくでしょう。
⑪ 刑法
司法書士試験での刑法は、午前の部に3問出題されます。憲法と同じく、馴染みのある法律のため、勉強しやすい科目のひとつです。しかし、出題数が少ない割に試験範囲が広いため、通常通りに勉強すると効率はよくありません。
そのため、過去問や問題集で重要な分野を絞り込むことが重要です。出題の可能性が高い分野に的を絞って勉強し、効率よく知識を取り込みましょう。
(2) 出題形式
司法書士試験の出題形式は、以下の3種類があります。
・択一式
・記述式
・口述式
① 択一式
科目数 | 11科目 |
問題形式 | 5肢択一問題 |
問題数 | 70問 |
配点 | 210点 |
司法書士試験では11科目すべてで、5肢択一問題が出題されます。問題数は全部で70問、配点は210点です。
筆記試験の問題数が72問なので、ほとんどの問題が択一式になります。
択一問題を解くポイントは時間配分です。特に午後の択一問題は、平均すると1問2分半しか時間をかけられません。より時間配分が重要になります。
過去問を繰り返し解いて、感覚的に時間配分を身につけるようにしましょう。
② 記述式
科目数 | 2科目 |
問題形式 | 記述式問題 |
問題数 | 2問 |
配点 | 70点 |
司法書士試験では、不動産登記法と商業登記法の2科目で1問ずつ記述式問題が出題されます。2問だけと思うかもしれませんが、配点は1問35点と非常に高いのが特徴です。
また、不動産登記法と商業登記法のくくりで出題されますが、民法や会社法の知識は前提条件として必要なため、難易度は非常に高くなります。さらに、自分で考えて答えを導く必要があるため、単純に知識があるだけでは解けません。状況を判断して対応する力も求められます。
そのため、勉強する際は必要な知識をすべて覚えたのちに、過去問や問題集を解けるだけ解いて対応力も身につけることが重要です。
③ 口述式
科目数 | 1科目(口述) |
問題形式 | 面接形式 |
合格率 | ほぼ100% |
問題内容 | 不動産登記法と商業登記法、司法書士法について |
筆記試験に合格すると、口述試験の受験が認められます。口述試験とは、言い換えれば面接のことです。緊張してうまく答えられないのではないか、失敗しないかと不安になる気持ちは分かります。
しかし、口述試験で落ちることはほぼありません。例年もほぼ100%の合格率です。リラックスし、自信を持って受験すれば問題なく合格することができます。
問われる内容は、不動産登記法と商業登記法、司法書士法についてです。筆記試験に合格できたなら答えられる内容ばかりなので、特別な勉強・対策は必要ありません。
3 司法書士試験受験の流れ・日程
司法書士試験の受験の流れと日程を表にまとめましたので、確認してみてください。
受験案内所、受験申請書の配布 | 例年4月1日上旬〜 |
受験申請受付期間 | 例年5月上旬〜1か月程 |
筆記試験 | 例年7月第1日曜日
午前の部(9:30〜11:30) 午後の部(13:00〜16:00) |
試験問題、多肢択一式問題の正解
及び基準点等の掲載 |
例年8月上旬 |
筆記試験の結果発表 | 例年9月下旬〜10月上旬 |
口述試験 | 例年10月中旬 |
最終合格発表 | 例年10月下旬〜11月上旬 |
基本的には、上記のような流れと日程になります。しかし2020年度の司法書士試験は、新型コロナウィルスの影響で大幅にスケジュールがずれました。
2021年度以降も影響がないとは限らないため、逐一法務省のHPで日程をチェックするようにしましょう。
4 サマリー
司法試験の試験とその対策方法について解説してきました。
司法試験の対策は科目ごとのカテゴリーに分けてそれぞれに合った勉強法をすることでより効率的に学習できる場合があります。
自分の勉強法を確立されていない方は、紹介した司法試験の勉強法をご活用ください。
5 まとめ
・司法試験は難易度が高く、合格率が低い難関資格
・司法書士試験には、受験資格が必要ない
・司法書士試験の合格率は、例年約3%〜4%で推移
・司法書士試験で求められる知識は司法書士業務に必要な知識と応用力
・司法書士試験は、主要科目以下4科目と、マイナー科目の7科目で構成されている