はじめに
中小企業には、出入りの社労士がいるという話を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。大企業でも、給与計算や勤怠などの労務管理、労働・社会保険諸法令に関わる事務について、実は社労士法人にアウトソーシングしているというケースも少なくありません。
社労士という肩書は、テレビで目にする機会も増えました。年金問題や働き方改革について、ニュースの解説ゲストとして社労士が呼ばれている見たことがある人も多いでしょう。
そんな社会保険労務士の仕事について興味はあるけれど、社労士試験が「平均合格率5%前後の難しい国家試験だ」と聞くと、その数字だけで怖気づいてしまうかもしれません。
ここではっきりといいます。
社労士試験は、出題傾向を徹底分析した効率の良い方法で勉強していけば、誰でも合格できる資格試験です。
そこで、この記事では社労士の合格率という側面から、徹底分析していきましょう。なぜ、合格率が低いのか・・・その背景に迫ります。
目次
1. 社労士試験の合格率は?
(1)平成30年社労士試験の結果(合格率)について
厚生労働省のデータによると、平成30年の社労士の合格率は6.3%でした。平成29年から引き続き、合格率は6%台に落ち着いています。
この10年の合格率を平均すると6.5%となりますが、平成27年には難関として知られる司法試験予備試験の合格率よりも低い2.6%まで下がりました。その後は上昇し、ここ2年は6%台を維持しています。
(2)社労士試験のスケジュール
令和元年(2019年)の社労士試験のスケジュールを例に解説しましょう。
試験のスケジュールは、毎年、社労士試験センター(厚生労働省の委託を受けた全国社労士連合会が運営)が4月中旬に発表しており、例年8月の第4日曜に行われています。令和元年の社労士試験は、8月25日です。
午前中は選択式試験は、午後は択一式試験が行われます。試験時間は、選択式試験が10時30分~11時50分(80分)、択一式試験は13時20分~16時50分(210分)となります。
9時半頃から試験会場に入り、だいたい17時まで、丸1日かけて行われます。この長時間、問題に集中し続けて解答欄に間違いなく記入していく必要があります。
(3)試験科目
社労士試験の試験は、前述したように選択式と択一式の2種類があり、選択式は40点満点、択一式は70点満点です。
下記に科目と配点を表にしましたので、参考にして下さい。
試験科目 | 択一式<210分> 計7科目(配点) | 選択式<80分> 計8科目(配点) |
---|---|---|
労働基準法及び労働安全衛生法 | 10問(10点) | 1問(5点) |
労働者災害補償保険法 (労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。) | 10問(10点) | 1問(5点) |
雇用保険法 (労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。) | 10問(10点) | 1問(5点) |
労務管理その他の労働に関する一般常識 | 10問(10点) | 1問(5点) |
社会保険に関する一般常識 | 1問(5点) | |
健康保険法 | 10問(10点) | 1問(5点) |
厚生年金保険法 | 10問(10点) | 1問(5点) |
国民年金法 | 10問(10点) | 1問(5点) |
合計 | 70問(70点) | 8問(40点) |
選択式とは、文章中に設けられた5つの空欄に、選択肢の中から適当な解答をあてはめる問題です。
択一式とは、5つの文章の中から、正しいものまたは誤っているものを選ぶ5肢択一の問題です。
社労士試験では、全ての科目に基準点(足切り)があります。
平成29年度、30年度の基準点は下表の通りです。
選択式 | 択一式 | |
---|---|---|
平成30年度 | 総得点23点以上(各科目3点以上) ただし「社会保険に関する一般常識」「国民年金法」は2点以上 | 総得点45点以上(各科目4点以上) |
平成29年度 | 総得点24点以上(各科目3点以上) ただし「雇用保険法」「健康保険法」は2点以上 | 総得点45点以上(各科目4点以上) ただし「厚生年金保険法」は3点以上 |
長丁場であるにも拘わらず、迷っている暇がないほど、次々解いていかなければならないスピードを要求される試験なのです。
2. 社労士試験、過去10年間の合格率推移
社労士の合格率の推移について、ここ10年間の厚生労働省のデータを表にしました。
平成21年 | 平成22年 | 平成23年 | 平成24年 | 平成25年 | 平成26年 | 平成27年 | 平成28年 | 平成29年 | 平成30年 | 平均 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
合格者数(人) | 4019 | 4790 | 3855 | 3650 | 2666 | 4156 | 1051 | 1770 | 2613 | 2413 | 3098 |
受験者数(人) | 52983 | 55445 | 53392 | 51960 | 49292 | 44546 | 40712 | 39972 | 38685 | 38427 | 46541 |
合格率(%) | 7.6 | 8.6 | 7.2 | 7.0 | 5.4 | 9.3 | 2.6 | 4.4 | 6.8 | 6.3 | 6.5 |
(1)社労士試験の合格率の変動の理由は?
変化が現れたのは平成25年です。その年の4月に労働基準法の改正が久し振りに行われた影響で、合格率が前年の7.0%から5.4%に低下しました。
問題が難しすぎたとの反省を込めてか、翌年の平成26年は少し問題が易しくなり、合格率は一気に9.3%まで上昇します。
今度は合格率が高すぎるということで、平成27年の問題が少し難しくなった結果、合格率はなんと2.6%に落ち込みました。社労士試験が、司法試験予備試験の合格率を下回るような超難関試験となってしまったのです。
このように法改正があると、出題者側の試験センターは受験者の回答傾向がわからず、一方、受験者も過去問対策に難航して合格率が下がりやすいのです。
しばらく法改正がなければ、出題者側、受験者側双方が過去の出題傾向を分析できることから、合格率が上昇し安定していきます。ここ2年における合格率6%台の維持は、このような理由によるのです。
(2)今後の社労士合格率は?
令和元年の社労士試験は、政府の働き方改革による労働基準法の大改正が大きな影響を及ぼすと考えられます。そのため、またもや合格率の変動が予測されます。
3. 社労士試験に合格している人が多い年齢や性別は?
ここからは、社労士試験合格者の内訳を見てみましょう。データは平成30年のものです。
まず、合格者の男女比は、男性65.1%、女性34.9%でした。
職業 | 会社員 | 無職 | 公務員 | 団体職員 | 自営業 | 役員 | 学生 | その他 |
割合(%) | 57.4 | 13.6 | 6.2 | 5.3 | 5.2 | 3.1 | 0.5 | 8.7 |
職業別に見ると、会社員が約6割と最も多くなっています。いわゆる社会人(無職を除く)が9割近くを占め、学生は0.5%にとどまっています。
年齢別に見ると、30歳以上が約9割で、そのうち40代が約3割、50代が約2割、定年退職者の合格者も約1割となっています。ちなみに、平成30年の最高年齢合格者は、なんと84歳です。
このように、社会人受験が多く、合格者の年齢層が比較的高いのが社労士試験の特徴です。つまり、ほとんどの人が仕事と勉強の両立をしているといえるでしょう。多くの受験者が仕事と勉強を両立している点も、受験者の合格率を低くしている理由のひとつであるともいえます。
4. 合格率の低い社労士試験に合格するためには?
(1)社労士の合格率が低い理由は?
まず、難関試験に合格するには、合格率が低い理由を考え、その対策を練る必要があります。
そこで、社労士試験が難しい理由は以下4つの理由が考えられます。
- 科目数が非常に多く試験範囲が広い
- 選択式8科目・択一式10科目もの試験範囲を、1日で一気に行う
- 一般常識も含め、全科目に基準点(足切り)が設定されている
- 法改正が度々あり、過去問対策が難しい場合もある
合格者の年齢層が比較的高いにも拘わらず、午前80分、午後210分もの間、一気に試験が行われるのですから、知識力だけでなく、長時間の集中力を維持する体力がものをいいます。
もしも、社労士試験が2日かがりで行われていたら、合格率が上がるかもしれません。なぜなら、人間の集中力は、脳科学的に2時間が限度ともいわれているからです。
午前中の試験を終えて休憩を取ったといっても、午後の択一式試験のことを考えているので、脳はリラックスできません。午前中の疲労感が残った状態で、さらに3時間半もの試験を全速力で駆け抜けなければならないのです。このことから、長丁場の試験時間の集中力を維持することに慣れる訓練も必要であるとわかります。
このように、知識・体力を一極集中する試験であり、全科目基準点獲得のために、満遍なく一定の知識力をつけないといけないという、苦手科目を許さない試験でもあります。
試験範囲の広さ、基準点、長時間の集中力の維持、受験者の年齢層の高さ、仕事と勉強の両立を余儀なくされる受験環境の人が多いこと、これらも社労士を難関試験にしている理由であるといえるでしょう。
(2)合格率が低い社労士試験に合格する方法とは?
①出題傾向の高い問題は完全制覇が必須
社労士試験は、10科目もある非常に科目数の多い試験ですので、全科目を満遍なく勉強していたら、範囲が広すぎて、それこそ何年かかっても合格できません。
基準点は、前掲の表からもわかる通り、4点以上である事がほとんどです。全体で7割以上の得点、しかも全科目基準点を満たすには、誰もが正解できるような問題を落とすことは許されず、うっかりミスもできません。
基準点がなければ、苦手科目を捨てて得意科目で得点、という方法もありますが、たとえ一般常識問題でも基準点を1科目でも満たさなければ、他が満点でも不合格となってしまいます。
そこで、過去問や予想問題で出題傾向を分析した効率の良い勉強方法で備える必要があるのです。出題傾向の高い問題は、完全制覇しなければならないのです。
②資格試験は法律の理解が重要
社労士試験は、実務を試されるものではなく、法律の仕組みの正しい理解が問われる試験です。法律を作っているのは、実務に長けていない人たちです。そのため、実務に疎い初心者の方が、よけいな知識に邪魔されず、過去問を素直に理解するので、合格しやすいともいえます。
例えば、社労士補助として社労士事務所に勤務し、専門業務に長けているとしても、勉強の方法を間違えると社労士試験にはなかなか合格できません。実務に長けた人ほど、よけいな知識が邪魔して解答に悩み、正解を導き出せなくなるからです。
ただ、法解釈の重箱の隅をつつくような実務に長けてしまっているとしても、過去問から出題傾向を分析し、出やすい問題、出やすい箇所について間違いなく回答できるよう徹底的に訓練し、法律の理解を実務の例に当てはめることができれば、きっと合格できるはずです。
③法改正の徹底理解が必須!
政府の働き方改革の一環で、2019年を皮切りに、2023年までの数年間は毎年のように法改正が行われます。
大企業の後を追いかけるように中小企業の法改正実施があるため、これから数年間は、毎年法改正に関する問題が出題されるということです。その間、法改正があった部分については、過去問は無意味になるので、予想問題が重要となるのです。
社労士試験は、社労士業務に関する法律の理解を問われるものですから、法改正は最重要事項です。
法改正については、
- どこがどのように変わるか
- 課題は何か
- 大企業と中小企業の問題の違い
- 施行時期の違い
などの徹底した理解が必要となります。
しかし、自分の理解を試す過去問がありませんので、問題集や予想問題で、理解を深めていくしかないのです。これが原因となり、法改正があった年の社労士試験の合格率は低下してしまう傾向にあります。
▼社労士がこれからの社会に必要であることをわかりやすく解説!
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社労士は、労働問題や年金問題のスペシャリストです。社労士資格取得のモチベーションにもなりますので、社労士試験に合格した自分を想像しながら参考にしてみて下さい。
5. 社労士試験の合格率に関するサマリー
いかがだったでしょうか?
社労士試験は、10科目という科目数を網羅し、法改正の理解に努め、長時間にわたる集中力を維持できる、知識と体力を備えた人が合格できる難関資格試験です。
社労士試験は国家試験であるため、問題作成の際には一定の合格水準を維持することも求められ、過去の受験者の正解率も参考にされています。
しかし、社労士試験の内容に関する法改正が他資格よりも多く、過去の出題傾向が全く参考にならない年が増え始めたので、試験を作成するセンターも試行錯誤して問題を作成している状況です。
2019年からは、働き方改革による法改正が始まったため、出題傾向の予測がつきにくくなると考えられます。しばらくの間は合格率の変動があるかもしれません。
もちろんこれは受験者全員にとって同じ条件となるわけですから、心配は無用です。法改正については、どこが変わったのか、課題は何なのか正しく理解し、それ以外の部分は、過去問対策をしっかりして、繰り返し問題を解いて理解し、誰もが解ける問題で確実に得点できれば、合格できない試験ではないのです。
合格率だけを見て怖気づかずに、自分を信じて着実に問題をこなしていけば合格できる試験だといえるでしょう。
士業の資格試験に共通していえることですが、最後に笑うのは、前向き思考であり、素直で、効率良い勉強を行い、規則正しい日常を送り、一歩一歩コツコツと勉強を積み上げる、そんな人なのです。
6. まとめ
- 社労士の合格率は、6%台を推移している
- 科目数が多く、基準点が全科目に設定されているので、難易度が高い試験だといわれている
- 合格者の6割が40代以上。仕事と勉強を両立する社会人の受験環境が難易度を高くしている
- 10科目にも及ぶ試験を1日かけて行う。知力だけでなく集中力を維持する体力も必要
- 社労士試験は法改正があると合格率が変動する。今後は働き方改革の影響が予想される
- 資格試験は、実務ではなく法律の理解が重要である事を認識すること