社労士は大学院で何を学ぶ?社労士会が主催する大学院との提携を徹底リサーチ!

社労士は大学院で何を学ぶ?社労士会が主催する大学院との提携を徹底リサーチ!

どのような資格も、能力を向上させるためには学び続けなければなりません。社会保険労務士(社労士)を目指すうちに、労務や人事について、大学で専門的に学んでみたいと思ったことがある方もいるでしょう。実は、社労士会はその土地の大学院と提携して、社労士の社会的地位向上のための場を設けています。

提携大学院で、社労士たちは何のために、何を学ぶのでしょうか?この記事で詳しく解説していきます。

1 「提携大学院修了生等交流会」の開催

全国社会保険労務士会連合会は、平成19年より大学院との提携を始めました。この詳細は、「月刊 社労士」で報告されており、連合会ホームページで閲覧できます。

”※連合会、地域協議会及び都道府県会では、平成19 年より順次、大学院との提携を進めており、現在では大学院9校(札幌大学、青森中央学院大学、弘前大学、明治大学、名城大学、関西大学、香川大学、九州大学、鹿児島大学)と提携し、120 名を超える社労士が修了、もしくは在学し、習得した学術的な視点を活かして実務に携わっている。”

出典:月刊社労士 平成27年1月号

平成20年4月には、明治大学大学院による現役社労士の迎え入れが国内で初めて実現しました。連合会、地域協議会及び都道府県会は、大学院との提携事業を始めて以降、研究成果の発表と参加者の交流の場も設けてきました。「提携大学院修了生等交流会」と銘打った会合では、第一回の基調講演「社労士業の未来像に向かって」で、現役社労士が大学院で学ぶ意義について、また今後の社労士のあり方について詳しく語られました。

⑴ 現役社労士が大学院で学ぶ意義とは?

同講演は、当時の日本企業が抱えていた労務問題と連合会が抱えていた課題についてまとめ、両者が結びついていたと解釈しています。

【日本企業が抱えていた労務問題】

1990 年代の

バブル経済破綻

以後

成果主義人事、

成果給の普及

・成果主義人事は能力主義管理の一種。

・「少人数化は精鋭化に繋がる」と考える。

・労働者数を少人数化する一方、業務量を増加させる。

・その結果、心身の健康を損ねる労働者が続出。

経済不況下の

成果主義人事が背景

個別労働関係紛争の激発 解雇、過労死、鬱病、パワハラ等の増加。

【連合会が抱えていた課題】

司法制度改革 社労士には各級裁判所の訴訟代理権が付与されず 社労士業は国民からの強い信頼と高い評価を得ていなかった。

また、これからの時代の社労士は専門資格を得るだけでなく、大学院に進んで労務管理を体系的に学び、専門的知識と判断力を幅広く身に付ける必要があると述べました。加えて、労務管理の研究方法についてもトレーニングを受ける必要があることと、社労士が修士号(または博士号)を取得して、労務管理のプロフェショナルであることを証明する必要があることも、結論として述べています。

このような目的を実現するために、現役社労士を大学院に送り込む流れとなったのです。

⑵ 社労士があるべき姿とは?

連合会は、同講演文によれば社労士の社会的地位が向上したあかつきには、以下のような仕事を担って欲しいと願っています。

社労士の

社会的地位向上のために

将来担ってほしい仕事

・政府が設置する各種審議会等に派遣され委員を務める。

・連合会が設置する委員会等で委員を務める。

・社労士総研の各種プロジェクトを推進する。

・研修講師を務める。

➀を実現するために

すべきこと

・多くの現役社労士が大学院博士前期課程を修了する。

・可能なら博士後期課程に進んで、Ph.D を取得する。

・労務管理職能よりも一段と高い視点に立つ(日本企業の労務管理の全体像を把握、職場改善に貢献)。

・企業経営全体を見据え、労務管理を改善指導する。

高度経済成長期における日本の労務管理は、極めて属人的でした、しかし、この時代には適合的であったともいえます。しかし経済の低成長期、ましてや経済不況期には、属人的労務管理は非適合的であると明言しています。

現在、求められている社労士は、働き方改革のキーワードである「業務効率化」を指導できる人材、また企業経営全体を会計数値的に理解できる人材です。つまり経営コンサルタント的な視点を持つことが必須となっています。

特定社労士制度は、「弁護士にやれない仕事をやるという」社労士の覚悟の表れです。特定社労士は弁護士と違って法廷闘争をしません。トラブルの当事者の言い分を聴くなどしながら、労務管理の専門家である知見を活かして、個別労働関係紛争を「あっせん」という手続きにより、簡易、迅速、低廉に解決していきます。

労務の専門家でなければ、労働紛争の真の解決は図れません。それに鑑みると、労働紛争における社労士の役割は大きいのです。

2 「まとも」でない時代に社労士に託すこと

2017年には、連合会は「第2回提携大学院修了生等交流会」を開催し、その様子が月刊 社労士に掲載されました。基調講演「人事労務管理のいま-大学院を修了した社労士への期待-」は、日本の労働環境が「まともでない」状況に陥っていると警鐘を鳴らしました。

⑴ どんな風にまともでないのか

下表には、同講演文が訴える日本の労働条件の悪化の特徴を抜粋してまとめました。

雇用 非正規雇用の急増 ・1990年の20%前後から40%に迫った。

・パート・アルバイト、派遣、契約社員(嘱託社員)など非正規雇用の多様化。

労働時間 1人当たりの年間労働時間が

2,000時間強から

1,750時間前後と減少

・非正規雇用が増えたことに起因する。

・正規雇用の労働時間は、90年代以降一貫して2,000時間前後のまま。

・高度プロフェッショナル制度(労働時間管理を外す動き)など、労務管理が不要な就労形態が登場。

・残業手当無しで働くなど「働きすぎ、長時間労働」広がる。

賃金 正規労働者が100に対し非正規労働者の賃金額が63.9と、最高値に。 ・非正規が正規の6割程度という格差は10年前から変わらず。

・正規従業員の賃金上昇は停滞か減少傾向。

・役員報酬は2~3倍まで上昇。

・従業員の10倍の役員報酬も珍しくなく、90倍近くまで出しているところもある(東洋経済新報社調べ)。

また、本講演文は、雇用の悪化に起因した過労死・過労自殺が後を絶たないことも指摘しています。記憶に新しい電通での事件を例に挙げながら、厚生労働省調べを引用し、過労による脳・心臓疾患での労災支給決定件数が、2002年以降減少していない点について指摘しています。

⑵ 日本の人事労務管理が危機に陥っている

講演者である明治大学大学院教授・黒田氏は、労働者各人が「自己責任」の名のもとに、雇用、仕事、労働時間、処遇の全てにおいて法的管理されない時代が来たと言及しました。そして、労働者に身勝手な働き方をいとも簡単にさせることができる状況に陥っていることを指摘しています。

黒田氏はこの現状を、人事労務管理の「危機」ないしは「追放」と表現し、働く人々にとって受難の時代が来たことを懸念しています。

働き方改革施行前、社労士の社会的認知度がまだまだ低いころは、労動力の搾取を取り締まる術がなかったため、様々な横行が許されていました。

⑶ まともな人事労務管理とは?

そもそも人事労務管理とは、企業による従業員の「働かせ方」の体系だといえます。そして、まともな人事労務管理とは何かといえば、以下のような努力で何も特別なことではないと訴えます。

・人材育成と能力開発に意を注ぐこと。

・適切かつ合理的な労働時間管理をすること。

・人事評価制度の公平性と納得性を図ること。

・納得性のある人事・賃金制度を確立すること。

・労働基準法など労働関係諸法を遵守すること。

・可能な限り非正規も含めて、雇用の安定化に努めること。

・従業員の納得性を基本にしながら、手抜きをしない人事労務管理をしていくこと。

そして、提携大学院を修了する社労士達に、まともな人事労務管理を取り戻すための先頭に立つことを期待すると述べました。そのために、まずは自らが関わる企業の人事労務管理の点検(労務監査)から始めることを推奨しました。

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3 リカレント教育と社労士

働き方改革を推進する政府は、労働力不足の解決策の一つとして「シニアの採用」を推奨しています。シニアの雇用にあたっては、「リカレント教育(学びなおし)」の重要性はぐっと高まります。ベテランこそ知識を時代に合わせてアップデートし、忘却を知識補充する作業が重要だといえます。

⑴ 労務分野で活躍したければ社労士資格を取得しよう

これまで人事部で働いてきた人や、社会人経験が長い人は、会社組織に長く属してきたことで「社労士」という資格の重要性がより理解できることでしょう。もしあなたがヒューマンリソース(人的資産)の専門知識を修得し、将来はその分野で活躍したいと思ったら、その場合に持つべき資格はやはり社労士です。社労士資格がなくても労務の仕事はできますが、資格を保有していると将来的なキャリアプランも違ってきます。

また、既に触れましたが、社労士は労務調停分野の仕事にも携わることができるようになりました。「特定社会保険労務士」がその資格ですが、この場合は社労士資格取得後に、新たな勉強をする必要があります。連合会による研修等を受ける必要があるからです。具体的には、社労士の資格を取得した後、更に「厚生労働大臣の定める研修」を修了し、「紛争解決手続代行業務試験」に合格し、連合会の社労士名簿に特定社会保険労務士として登録してもらう必要があります。

しかし実際は、特定社会保険労務士になって活躍するならそれだけでは不十分です。法律知識はもとより、現場のトラブル事例など判例の知識も必要になるからです。

そもそも、社労士になるだけでも最低1,000時間の勉強が必要だといわれています。社労士試験の出題科目は10科目もあり、各科目や総合点で足きりがおこなわれる、厳しい国家試験です。合格率も約6~7%と厳しい上に、特定社会保険労務士になるなら更に勉強・実務を積み重ねて、初めてプロと呼べる領域に至るのです。

⑵ 人事に強い大学院でMBAを取得しよう

また、「キャリアカウンセリング」なども、将来性のある人事の専門家です。国内の企業の需要だけでなく海外にも目を向けるなら、オフショアや海外進出などで重要性が高まっている「海外人事」を目指すという手もあります。

しかし、海外人事の専門家になるなら、更に勉強が必要です。最低でもこの分野の修士号を取得しておいた方が良いと考えられます。

今後、海外人事に対応できる社労士はますます重要度を増していくでしょう。今般のコロナ禍で頓挫しているものの、海外進出する企業は今後も増えると考えられます。海外支店の人事部の立ち上げにゼロから携われるような社労士人材は、かなりの希少価値があるため強い引き合いに合うに違いありません。現地の社労士法人等と交渉できる語学力と、異文化コミュニケーション能力がなければ、到底務まらない仕事だからです。経験も積まなければいけません。

このレベルに到達したいのであれば、海外の大学院で人事分野を学び、MBAを取得するという選択が適切かもしれません。

⑶ 大学院との提携例

冒頭では、明治大学大学院が国内で初めて現役社労士を受け入れたことをお伝えしました。それに続く国内事例の2例目、3例目は、下表の通りです。

また、2019年に入って実施された、九州大学大学院での事例を取り上げました。九州大学法科大学院は弁護士等リカレント・プログラムを開講していますが、特筆すべきはそこに社労士の参加を呼びかけ、相互の連携を強化しようと図った点です。

関西大

全国社会保険労務士会連合会近畿地域協議会

2009年9月 社労士を大学院に特別推薦入試で受け入れる。

社労士の大学院推薦入試制度は明治大に次いで2例目で、西日本で初。

札幌大学大学院経営学研究科

北海道社会保険労務士会

2009年10月 平成22年度4月から毎年3人程度の社労士を大学院生として受け入れる。

推薦の対象となる社労士は、試験合格後3年以上の実務経験を有する者。

大学院と都道府県社会保険労務士会との協定としては、全国的には明治大学大学院、関西大学大学院に続く全国第3例目(北海道では初めて)。

九州大学法科大学院

福岡県社会保険労務士会

2019年

9月25日

法律研修の実施等の教育連携に調印。

受託事業契約に基づき、九州大学が法律研修を実施。

九州大学法科大学院が開講する弁護士等リカレント・プログラムへの社労士の参加を促進し、相互の連携を強化。

大学院との連携を主催する「社労士総研」は、社労士の社会的地位向上のための機関として設立されました。社労士の専門領域である人事・労務管理や、労働社会保険諸法令に特化したシンクタンクです。専門シンクタンクとしての特徴を活かし、社労士制度、社労士業務に関する内外の事情、情報について総合的な調査、研究、政策の提言をおこなっています。また、企業の健全な発達や労働者等の福祉を、向上させることも目的としています。

総研レポートでは、連合会の提携プログラムの募集要綱も確認できます。一例として、令和2年度の「明治大学大学院経営学研究科(経営労務プログラム)募集の案内」の応募要件を紹介します。なお、各都道府県社労士会でも、プログラムがあれば紹介しています。

 

以下の3つの要件すべてを満たす場合、応募することができます。

⑴ 社会保険労務士として登録して3年を経過していること。

⑵ 3年以上の実務経験(※1)を有する者、またはそれと同等以上の経験(※2)を有する者であること。

(※1)「実務経験」とは、次のいずれかをいう。

① 開業社会保険労務士または社会保険労務士法人の社員として、顧問先事業所における人事労務管理の実務を行っているか、または行っていたことがあること。

② 社会保険労務士事務所または社会保険労務士法人の勤務社会保険労務士として顧問先事業所における人事労務管理の実務を担当しているか、または担当したことがあること。

③ 勤務社会保険労務士として、勤務先企業の人事労務管理の実務を担当しているか、または担当したことがあること。

(※2)「それと同等以上の経験」とは、所属の都道府県社会保険労務士会会長に自己の業務内容等を記載した職務経歴書を提出し、(※1)と同等以上と認められた場合をいう。

⑶ 明治大学大学院に入学する時点で、22歳以上であること。

出典:総研レポート

連合会ホームページ総研ポートには、これまで「月刊社労士」において発信された内容がまとめられています。社会保険労務士総合研究機構での研究プロジェクトに関する報告や、大学との連携事業についての活動報告等のリンクが掲載されていますので、興味がある方はご覧ください。

4 サマリー

社労士会と大学院の提携について、初めて知った方も多いのではないでしょうか。

働き方改革や新型コロナウィルス感染拡大は、社労士の使命をより明確化しました。今後もより大きな役割を果たすために、大学院に学びの場が設けられていることは、素晴らしいことです。

5 まとめ

・社労士会と大学院との提携は、社労士の社会的地位向上を目的としている。

・平成20年4月には、明治大学大学院による現役社労士の迎え入れが、国内で初めて実現た。

・社労士が修士号(または博士号)を取得し労務管理のプロであることを証明する必要があるため、現役社労士を大学院に送り込んでいる。

・第2回交流会の基調講演は、日本の労働環境が「まともでない」状況に陥っていると警鐘を鳴らした。

・社労士が「特定社会保険労務士」として労務調停分野に進出したのも、社会的役割を拡大したい意欲の表れである。

・オフショアや海外進出で重要性が高まっている「海外人事」のプロになるには、海外大学院に進学しMBAを取得するのがおすすめである。

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