「労働協約」「労使協定」の違いとは? 定義と性格、締結の要件を解説

「労働協約」「労使協定」の違いとは? 定義と性格、締結の要件を解説

「労働協約」「労使協定」の違いについて、あなたはお分かりになりますか?

働き方改革関連法の施行で大きな法改正のあった「36協定(の特別条項付き)」は労使協定の一つです。人事・労務に携わる方であれば、これら労使協定がどのような様式で作成され、労働基準監督署への届け出の要不要などの知識を既にお持ちかもしれません。

「労働協約」「労使協定」は、どのような目的で締結されるのでしょうか。また、締結が有効となる条件とは何でしょうか。この記事では、「労働協約」「労使協定」の定義と締結の要件、両者の相違点と類似点についてまとめていきます。

1、 労働協約とは

「労働協約」「労使協定」には、厳密にはどのような違いがあるのでしょうか。まず、両者の定義を調べ、それぞれまとめていきます。

(1)労働協約の定義

東京都労働相談情報センターホームページに、労働協約の定義が紹介されているので引用します。

「労働協約」とは、賃金、労働時間などの労働条件や、団体交渉、組合活動などの労使関係のルールについて、労働組合と使用者が書面でとりかわした約束事です。

出典:TOKYOはたらくネット

つまり、労働協約とは、労働組合が労働者とかわす約束事です。

労働協約が締結されていると、労働者は労働協約によって一定の労働条件が保障されるため、協約の有効期間中は安心して働くことができます。事業主も、労働協約によって労使関係の安定を維持することができるため、双方にメリットを得ることができるといえます。

平成30年6月に成立した「働き方改革関連法」では、新しい規定も盛り込まれました。

(2)労働組合の歴史と「労働協約」

労働組合の成立の歴史は、労働者が使用者に対して対等な交渉権を得ようと、労働者間で団結し、集団的に待遇改善を求めることで「立場的な弱さ」を克服しようとしてきた歩みが土台となっています。

こうして労働組合は誕生しました。労働組合は、憲法28条で保護されており、「労働組合法」において使用者との団体交渉が保護・促進されています。「労働協約」とは、労働組合による団体交渉の結果が、協約として締結される約束事のことなのです。

労働組合は、労働者の権利保護のために活動することがミッションです。労働組合が労働者の権利として保護しようとするのは、労働者の「賃金」「待遇」「労使関係」などであり、使用者と合意を得られたら「労働協約」として締結します。

労働組合と労働基準法の力関係について、分かりやすい解説を抜粋してみましょう。

たとえば、労働基準法では1日の労働時間を8時間以内と定めていますが、労働組合と1日の労働時間を7時間として、労働協約を締結した場合には、その労働組合に加入する労働者の1日の労働時間は、7時間となります。

ただし、これはあくまでも「労働基準法」が決めた範囲内でのことです。強い効力があるとはいえ、労働基準法違反となる8時間超の時間を定めることはできません。

出典:労働協約と労使協定

このように、労働協約として労働基準法に反するような取り決めをすれば、その部分は無効となるのです。

(3)労働協約の2つの種類

労働組合には、「オープンショップ」と「ユニオンショップ」という2つの種類があります。

この2つは組織の構成が違うため、労働協定締結の効果も違ってきます。

オープンショップ 希望者のみが加入する労働組合 労働組合と合意をして労働協約を締結した場合、原則としてその効果が及ぶのは、その労働組合の加入員のみ
ユニオンショップ 従業員全員が加入する労働組合 ユニオンショップの会社で労動協約を締結した場合、その効果が及ぶのはすべての従業員

2つの労働組合の性格として、次のことがいえます。

オープンショップは強制ではなく任意で加入する団体なので、労働組合員の意識が高いといえます。しかし、常に多数派を確保するための努力を怠れないという大変さがあります。

ユニオンショップは従業員全員が加入する労働組合であるため、多数派として力を発揮することができますが、意欲的に高い意識をもって労働組合に参加している人ばかりではないため、コアメンバーだけで見てみると実際はそれほど大人数でもないことがあります。

2、 労使協定とは

次に、36協定に代表される労使協定の定義についてまとめていきます。

(1)「労使協定」の定義

労使協定というと、36協定が最も知られているのではないでしょうか。また、「労使協定」と「労働協約」の違いは何でしょうか。

「労使協定」とは

労働者と使用者が結ぶ協定。労働基準法により、使用者は事業所ごとに労働者の過半数を代表する者と書面による協定を結ぶことが義務づけられている。労使協定の締結・労働基準監督署への届け出を行うことで、時間外・休日労働など、同法で禁止される事柄が許容される。使用者と労働組合が自由な形式で取り決めを行う労働協約とは異なる。

出典:コトバンク

つまり、「労使協定」とは使用者と労働者の過半数からなる労働組合か、そのような労働組合がない場合は、使用者と過半数の労働者代表が取り決める約束事のことです。「弁罰規定」ということもでき、その意味は「労働基準法」の規定を例外的に許容することができる規定という意味です。例えば、36協定を締結すれば、法定労働時間や法定休日を超えて「労働基準法」では本来認められていない例外が「労使協定」の範囲内で許容されます。

既に申し上げましたが、「労働協約」では「労働基準法」の規定を超えることはできません。一方、「労使協定」ではこれができるのです。しかし、今回働き方改革関連法で特別条項付き36協定に上限が定められたように、無制限で約束事が定められるわけではありません。

このような「労使協定」の種類は労働基準法で定められていますので、以下に紹介していきます。

(2)過半数労働組合が締結当事者とされている労使協定等

当該事業場の過半数労働組合に、労使協定を締結する権限が付与されている項目は以下のとおりです。

36協定など、特に労働時間に関する労使協定を締結(締結のみならず労働基準監督署長への届出も必要な場合が多い)することで、労働基準法の定める法定労働時間や法定休日の規定を超えて、労働者の労働に例外措置を設ける法律効果が発生します。

過半数労働組合が締結権限を有する労使協定等

過半数労働組合が締結権限を有する労使協定等 貯蓄金の管理に関する協定 (労働基準法第 18 条第 2 項)
賃金の一部控除に関する協定 (労働基準法第 24 条第 1 項)
1 か月単位の変形労働時間制に関する協定 (労働基準法第 32 条の 2)
フレックスタイム協定 (労働基準法第 32 条の 3)
1 年単位の変形労働時間制に関する協定 (労働基準法第 32 条の 4)
1 週間単位の変形労働時間制に関する協定 (労働基準法第 32 条の 5)
休憩時間の一斉付与の例外に関する協定 (労働基準法第 34 条 2 項)
時間外・休日労働協定 (労働基準法第 36 条)
事業場外労働のみなし労働時間に関する協定 (労働基準法第 38 条の 2)
専門業務型裁量労働制のみなし労働時間に

関する協定

(労働基準法第 38条の 3)
企画業務型裁量労働制のみなし労働時間に

関する労使委員会の決議

(労働基準法第 38 条の 4)
年次有給休暇の時間単位での取得に

関する協定

(労働基準法第 39 条第 4項)
計画年休協定 (労働基準法第 39 条第 6 項)
有給休暇手当の支払方法

(標準報酬日額による)に関する協定

(労働基準法第 39 条第 7 項)
高年齢雇用継続給付、育児休業給付、介護休業給付の事業主による支給

申請手続の代理に関する協定

(雇用保険法施行規則第 101 条の 8、第 101条の 15、第 102 条)
雇用調整助成金の支給に関わる協定 (雇用保険法施行規則第 102 条の 3)
ユニオン・ショップ協定 (労働組合法第 7 条 1 号但書参照)
派遣労働者の待遇に関する一定の要件を満たす協定 (労働者派遣法第 30条の 4)

(3)過半数労働組合が意見聴取の対象とされている等の事項

以下の図表は、過半数労働組合が様々な法律において意見聴取や通知、協議の対象とされていることをまとめたものです。過半数労働組合には意見陳述の機会も与えられており、役割はますます大きくなってきていることが分かります。過半数労働組合は、こうした意見聴取や協議、意見陳述の機会を活かし、労働者の代表としてを代表して積極的に意見を表明していくべきです。

過半数労働組合が意見聴取の対象とされている等の事項

過半数労働組合が意見聴取の対象とされている等の事項 就業規則の作成・変更についての意見聴取 労働基準法 90①
安全衛生改善計画の作成についての意見聴取 労働安全衛生法 78②
会社分割における労働者全体の理解と協力を得る努力 労働契約承継法 7、

労働契約承継法 施行規則 4

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律関係

ア 再就職援助措置の内容に関する意見聴

高年齢者雇用安定法 9②

(改正法附則 ③)

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律関係

イ 再就職援助担当者の業務遂行に係る基本的事項に関する意見聴取

高年齢者雇用安定法施行規則 6の3①、 6の4②
労働者派遣における派遣先が同一事業所で3年を超えて派遣労働者を受け入れる場合の意見聴取(延長する事業所等と延長する期間) 労働者派遣法 40の2④
その他(民事再生法、会社更生法、破産法)

※この場合の過半数労働組合は、事業場単位ではなく企業単位

このように、労働基準法では「労働者の過半数を代表するもの」が、使用者と特別な合意をおこなったり意見聴取をおこなう権利が認められていますが、これらのうち特に重要なのが「労使協定」です。なぜなら、「労働協約」「就業規則」は「労働基準法」の規定に反することはできませんが、「労使協定」は一定の場合に限り、特例を協定することができます。36協定を例に挙げれば分かりやすいでしょう。

労使協定を結べるのは、労働者の過半数が加入する労働組合があればその労働組合が、過半数労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者です。

3、 「労働協約」「労使協定」はどのように締結するか

「労働協約」「労使協定」の締結には、然るべきフォーマットがあるのでしょうか。せっかく届け出を作成しても、無効になってしまっては労力のムダです。それぞれの締結形式において押さえるべき点をまとめてみましょう。

(1)「労働協約」の締結

労働協約は労働組合との団体交渉により、労働条件や待遇などの約束事を取り決めます。労働協約締結の必要事項は、①書面②両者の署名または記名押印です。その他の事項の注意点については、以下にまとめました。

労働協約の締結形式

名 称 名称は何でも良い。一般的には「労働協約書」「労使協定」「合意書」「覚書」「確認書」 などが多い。タイトルがなくても、労使間の合意により結ばれたものであれば労働協約となる。
体 裁 「包括労働協約」に必ずしもする必要はなく、できるところから「個別労働協約」としての締結でOK。内容は一般組合員にも分かりやすくする必要あり。
形 式 労働組合法上、労働協約が有効に成立するためには、団体交渉で合意した事項を書面に作成し、両当事者が署名又は記名押印しなければならない(労働組合法第 14 条)。

署名又は記名押印する者は、次の通りである(その労働協約を締結する権限を有する者でなければならない)。

労働組合側:執行委員長

使用者側:事業主あるいは代表権を持つ取締役

交渉で合意が成立したのに、理由なく書面にすることや署名又は記名押印を拒むと、不当労働行為になる可能性がある。

期 間 有効期間を定めるかどうかは自由。期間を定める場合は、労働組合法では 3 年を超えることはできない。

”有効期間を定めた労働協約は、3 年の有効期間を定めたものとみなされます(労働組合法第 15 条 1 項、 2 項)。”

有効期間を定めなかった場合、期間の定めのない労働協約になる。この場合、解約したい時は当事者の一方が解約しようとする日の少なくとも 90 日前に、署名又は記名押印した文書で相手方に予告すること。(労働組合法第 15 条 3 項、 4 項)。

一定の期間を定めたものは、その期間経過後は、期間の定めのない労働協約と同様に取扱われる。

労働協約の手引きをもとに作表

(2)「労使協定」の締結

使用者と労働者の過半数代表との間で締結される労使協定の必要事項は、①書面②両者の署名、または記名押印です。労使協定には、幅広くさまざまな様式や届出内容があります。

また、下記のように労働基準監督署に届け出が必要なものもありますので、注意が必要です。

・36協定
・フレックスタイム制
・事業場外労働のみなし労働時間制
・1年単位の変形労働時間制
・1ヶ月単位の変形労働時間制
・1週間単位の非定型的変形労働時間制
・労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合
・専門業務型裁量労働制

4、 「労働協約」「労使協定」の相違点

労働協約と労使協定の相違点はどこにあるのでしょうか。

(1)趣旨と目的

労働協約を締結する目的は、「労働組合が労働者と使用者間の交渉力格差を解消し、よりよい労働条件を獲得すること」です。ですので、組合員の労働契約の規律が本来の目的といえます。

憲法 28 条は、労働組合が労働協約によって労働条件を独自に設定する自由(協約自治)を保障し、労組法 16 条によって労働協約に規範的効力を付与しています。

対して労使協定は「国家が定める最低労働条件を適用することが不都合と考えられる事項について、例外を認めるための手段」として存在しています。

(2)制度設計

制度設計においては、労働協約は労働組合(労組法 2 条)が締結主体となり、多数・少数組合に関わらず、すべての労働組合が締結権限を持ちます。

対して労使協定は、当該事業場で過半数で組織される労働組合がある場合にはその労働組合、そうした労働組合がない場合には過半数代表者が締結主体となるように、締結の主体が「過半数」の代表であることが必要条件です。したがって、少数組合である場合は、たとえ当該事業場の唯一の労働組合であっても単独では労使協定を締結できません。

5、 「労働協約」「労使協定」の類似点

労働協約と労使協定はの類似点は、以下のように挙げることができます。

(1)集団的性格

労働協約と労使協定は、ともに労働者集団の代表と使用者の間でおこなわれる交渉によって締結される合意文書であるため、集団的性格を有しています。

(2)労働者のための締結内容

労働協約と労使協定の内容は、ともに労働条件や労働者の待遇についての内容を扱う点が共通しています。

(3)特別な効力の付与

労働協約と労使協定には、いずれも通常の契約では認められない、特別な効力が付与されています。労働協約には「規範的効力」という特別効力があります。分かりやすい解説を引用しましょう。

労働協約が締結されていると次のような効力を持ちます。

1)平和義務
労働協約の有効期間中に、その協約に定められた事項の変更を要求して、争議行為を行うことは許されません。

2)規範的効力
労働協約で定められた労働条件やその他労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約や就業規則は、違反する事項は無効となり、労働協約が優先します。(労基法第92条、労組法第16条)

3)債務的効力
労働協約のうち団体交渉のルールなど使用者と労働組合との関係を規律した債務的部分については、一般の契約と同様に当事者間に債権債務の関係が発生します。

このなかでも重要なのが2)です。つまり労働協約が就業規則に優先するという点です。就業規則は、ある程度会社側が一方的に変更できますが、労働協約を締結してしまうと、それが意味をなくすことになるわけです。ただし、これはあくまで組合員に適用される事項なので非組合員にもそのまま適用されるということではありません。これについては、労働協約の拡張適用と呼ばれる条件を満たす必要があります。

出典:北陸工業専門学校教職員労働組合

労使協定は、本来、労働者と使用者間では労働基準法の最低労働条件よりも有利な合意をおこなううことしかできません。しかし、労使協定には、例外的措置を許容する効力が与えられています(特別条項付き36協定など)。

6、 サマリー

「労働協約」「労使協定」の違いについてまとめてまいりましたが、両者の違いはよくお分かりになりましたか?締結の主体や対象となる法的要件の違いについては、明確でない方のほうが多いのではないでしょうか。

「労働協約」「労使協定」は、ともに労働者の権利を保護する観点から、役割が大きいことがお分かりいただければ幸いです。

7、 まとめ

・「労働協約」とは、労働条件や労使関係のルールについて、労働組合と使用者が書面で交わす約束事である。対して「労使協定」とは、使用者と労働者で結ぶ協定である。

・労働組合と使用者の間で締結される労働協約には、オープンショップとユニオンショップがある。

・労使協定には、貯蓄金の管理や時間外・休日労働(36協定)など過半数労働組合が締結権限を有するものがある。また、就業規則作成・変更についてなど、意見聴取の対象とされている事項がある。

・締結様式の必要事項は、「労働協約」「労使協定」ともに①書面②両者の書面または記名押印、であるが、労働協約の場合はその他の項目は労働組合法に則る。

・「労働協約」「労使協定」の類似点とは、目的性が労働者のためであることと、ともに就業規則に優先する効力を持つことである。

社会保険労務士カテゴリの最新記事