人事・労務にもデジタル化の波?デジタル・ネイティブは社労士を目指そう

人事・労務にもデジタル化の波?デジタル・ネイティブは社労士を目指そう

近年、デジタル化の波は全ての業種に押し寄せています。しかし今般のコロナ禍では、特に行政手続きにおけるデジタル化の遅れが露呈し、改善を急がれました。

日本における行政手続きは、どのくらいデジタル化が進んでいるのでしょうか。この記事では、社会保険労務士(社労士)の専門分野である労働・社会保険の手続き業務において、どれくらいデジタル化が進んでいるのか詳しくまとめていきます!

1 デジタル手続法とは?

2019年5月に可決された、「デジタル手続法(デジタルファースト法)」はご存知ですか?

正式名称は実に長く、「情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律」といいます。

デジタル手続法は、行政手続きを電子申請に統一するために制定されました。まずデジタル化の先手を打つのは、引越し、相続などの手続きですが、他の行政手続きにおいても順次実施される予定です。

⑴ 日本の行政手続きのデジタル化は遅れている

かねてから、日本の行政手続きは海外と比較すると煩雑だといわれ、デジタル化も遅れていました。この遅れがコロナ禍により大きく露呈したことは、記憶に新しいでしょう。密になりやすい役所でいかに感染拡大を防ぐかという観点からも、各種行政手続きのデジタル化が急がれました。同時に、日本の「ハンコ文化」の弊害についても議論されました。

働き方改革の必要性を論じるうえでよく語られるのは、日本の国際競争力の低下です。グローバル化はデジタル化なくして実現しないことを思うと、ビジネスだけでなく行政手続きにおいてもデジタル化を徹底しないと、働き方改革自体の目的が果たされなくなることも危惧されます。

⑵ 2020年度はデジタルガバメント始動の年

2019年12月20日、「デジタルガバメント実行計画」が閣議決定されました。デジタルガバメントとは、行政サービスの全てが電子手続きで完結する政府を意味します。行政手続きのデジタル化は当該実行計画に沿って、以下の方向性で実施されていきます。 

 

1 ・国の手続き件数の90%についてオンライン化を実現。

・毎年度計画を改定しながら対象を拡大。

2 以下の行政機関間の情報連携の仕組みを整備し、順次各手続きにおける添付書類の省略を実現。

・登記事項証明書(令和2年度以降)

・戸籍(令和5年度以降)等

3 以下の手続きについてワンストップサービスを推進。

・子育て、介護、引越し、死亡・相続手続き

・企業がおこなう従業員の社会保険・税に関する手続き

4 法人デジタルプラットフォームを整備し、法人等に係る行政手続き等の利便性向上。
5 マイナンバーカードの普及と制度の利活用の促進等。

⑶ デジタルガバメント実行計画とは?

また、デジタルガバメント実行計画は、縦割り行政の弊害を克服した「ワンストップサービス」の実現に目指しています。マイナポータル(政府が運営するオンラインサービス)を開設してオンライン化・ワンストップ化を始動し、毎年対象手続きを拡大していく予定です。

 

2020年(令和2年)

11月頃

マイナポータルの API を活用したオンライン・ワンストップ化。

ますは従業員のライフイベントに伴い企業がおこなう社会保険・税手続きから始め、順次対象手続きを拡大。

2020年(令和2年)度 社労士の電子署名等が必要な手続きもマイナポータルから申請可能に。
2021年(令和3年)度 社会保険・税手続きにおける金融機関に係る法定調書の提出で、クラウドサービス等を活用した情報システムの利用を開始。事業者の事務作業の負担を軽減。
年金関係など行政から事業者への処分通知等についても、デジタル化の課題や方策等を検討。活用拡大を検討する。

2 社労士とデジタル手続法

デジタル手続法は、デジタル化の全面施行までに5年の期間をかけて行く予定です。まず、行政手続きのデジタル・オンライン化の徹底のため、以下の法令が改正されます。

・行政手続オンライン化法

・住民基本台帳法

・公的個人認証法

・マイナンバー法など

⑴ デジタル手続法の対象企業と対象事項は?

デジタル手続法は順次施行されていきますが、はじめに対象となる企業は「資本金または出資金額が1億円を超える法人」等と限定されています。

社労士が携わる業務のうち影響のあるものは、社会・労働保険関連の手続き等です。人事・労務手続きにおいてもデジタル化の徹底が目標として掲げられ、2021年度までに「政府認定のクラウドサービス」に企業が従業員情報をエントリーすれば、入社・退職時に発生する人事・労務の手続きがワンストップで完結する形を目指しています。

 

⑵ 社会・労働保険関連手続きのデジタル化概要

具体的にはどのような業務をデジタル手続きでおこなうのか、作表してみました。

 

対象項目 社会保険・労働保険
対象法人 ・資本金または出資金額が1億円を超える法人

・相互会社、投資法人及び特定目的会社

対象手続き 健康保険 ・被保険者賞与支払届

・被保険者報酬月額算定基礎届

・健康保険被保険者報酬月額変更届

厚生年金保険 ・被保険者賞与支払届

・被保険者報酬月額算定基礎届

・70歳以上被用者算定基礎・月額変更・賞与支払届

・厚生年金被保険者報酬月額変更届

労働保険 ・年度更新に関する申告書

・増加概算保険料申告書

雇用保険 ・被保険者資格取得届

・被保険者資格喪失届

・被保険者転勤届

・高年齢雇用継続給付支給申請

・育児休業給付支給申請

適用日 2020年4月1日以後に開始する事業年度から適用

※社会保険労務士や社会保険労務士法人が、対象となる特定の法⼈に代わって⼿続を⾏う場合も含まれます。

規制改革推進会議 行政手続部会の資料を基に作表

 

なお義務化の対象となる企業は法人単位で判断されるため、子会社がある場合、資本金1億円以下であれば電子申請義務化の対象とはなりません。

⑶ 罰則等の適用は?

法改正で常に心配なのは、図らずとも違反してしまった場合に罰則等が適用されるかどうかでしょう。今回の改正では、災害時のようなやむを得ない場合以外で電子申請義務化に違反してしまった場合でも、罰則は定められていません。しかし罰則はないものの、手続きが受理されるかどうかは分かりません。

資本金1億円以上の法人等今回義務化の対象となった企業は、しっかりと備えてデジタル申請に対応していく社会的必要があるといえます。

3 「社労士事務所業務の電子化」についての調査

株式会社日本シャルフは、社会保険雇用情報管理システム「イージア・ゼロ」を提供する会社ですが、社労士事務所勤務者と元勤務者を対象に「社労士事務所の業務の電子化」についての調査をおこないました。

調査は2019年10月、1,086人を対象にインターネットで実施されました。その結果、事務所の業務が煩雑なため負担に感じている人が多いことが明らかになりました。

⑴ 事務所スタッフの苦手な手続き業務は?

まず、「社労士事務所の業務で苦手なことは?」という質問に対する回答を紹介します。

出典:PR Times 

「細かいExcel入力作業」(33.2%)と「書類整理」(22.4%)で過半数を占め、「書類作成」(18.6%)「複雑な試算表の作成」(12.0%)「行政への申請」(10.0%)と続きました。

⑵ 調査から見えてくるデジタル化のメリットとは?

 従来は申請業務に用いるのは紙ベースの書類だけだったわけですから、初めてデジタル申請に携わる人は抵抗を感じるでしょう。また、個人情報の流出や誤操作などに対する不安から「紙の書類のほうが安心だ」と感じる人もいるでしょう。政府は、デジタル化に積極的ではない社労士事務所も多いなかで、2020年4月特定の法人を対象に電子申請を義務化したことになります。

デジタル化は、前出の社労士事務所勤務者を対象とした調査があぶり出した、業務への負担に対するソリューションになります。書類整理業務でのファイリングと見つけ出すための労力は、大幅に軽減されます。もちろん人的コストだけでなく、印刷コストなども削減できます。

また、セキュリティの観点からデジタル申請に懸念を抱く人もいましたが、近年は安全性の高いシステムが多く誕生し、安心して導入できるようになっています。

政府は行政サービスを、ほぼデジタル化することを目標としています。今後、対象業務は労働・社会保険以外にも拡大され、やがて社労士業務はすべて電子管理されるようになることでしょう。

4 電子申請の方法とは?

最後に、実際に電子申請をおこなう方法についてご紹介します。電子申請には2つの方法があり、一つはe-Gov(イーガブ)電子申請システムを利用する方法、もう一つは外部連携API対応システムを利用する方法です。

⑴ 電子申請の準備

まず、電子申請をおこなうには、企業側で電子署名用の「電子証明書」を入手する必要があります。

➀ 電子証明書とは?

電子証明書とは、書面による取引における印鑑証明書に当たります。電子証明書の入手先である認証局が本人証明をしてくれるもので、電子申請をおこなうPCにインポートして使用します。この電子証明書は、社労士に電子申請業務を外注する場合は、企業側で入手する必要はありません。この場合、社労士は電子署名を用いることになります。

➁ 電子署名とは?

電子署名とは文字通り電子的な署名です。主に「公開鍵暗号方式」という技術が施されており、暗号・復号化して使います。電子署名のメリットは何といっても改ざん検知が容易で、書類の原本性を高めることができることです。

また、電子契約においては書面と違って、収入印紙を貼り付ける必要がないことも特筆すべき点です。電子申請すれば、大幅なコストカットを見込むことができるのです。

⑵ 電子申請をおこなう

まずe-Gov(電子政府の総合窓口)の申請方法から紹介します。

➀ e-Govを利用する

e-Govの利用にはコストがかかりません。電子申請に知識があり操作に不安がない場合には良いのですが、デメリットは、操作性にまだまだ以下のような改善点がある点です。

・従業員1人ずつで申請しなければならない

・誤記入をチェックしづらい

・進捗状況が確認できない

また全OSに対応できておらず、Windowsは10、8、7のみ対応、MacOSでは利用できない点に注意が必要です。

➁ 外部連携API対応システムを利用する

e-GovとAPI連携した人事労務システムの使用も認められています。会社で既に使用しているシステムのマスターデータを用いることができるため、便利です。

メリットは何といっても、入力の件数が多い場合でも効率的に作業がおこなえることです。従業員を多数抱える大企業なら、事務負担の少ないこちらを利用するべきだといえます。

デメリットは、新規で導入する場合はコストが発生することです。また、e-Govが申請できる手続きを、これらのシステムが同じく網羅しているわけではないことにも注意です。

⑶ ハードルの低い電子申請の方法は?

最近は、デジタル申請に対応したクラウドソフトもたくさんローンチされています。初期設定も簡単です。e-Govの場合、一件ずつの入力作業をを余儀なくされることが最大のデメリットですので、大企業は初期設定後の効率性も考慮し、外部サービスを選ぶべきだといえます。

また、社労士に委託して電子申請をアウトソーシングできるか否かは、当該社労士が電子申請に対応しているかどうかによります。もちろん、電子申請に対応可能な社労士にアウトソーシングすれば、電子申請の義務を果たしたことになるので安心してください。

5 サマリー

社労士業務の中では、労働・社会保険関連の手続き業務において、先駆けて電子申請の義務化がなされました。デジタル化は、新たに社労士への需要を生み出している側面もありますので、しっかりと理解して対応可能な状態にしておきましょう。

6 まとめ

・2019年5月に可決された「デジタル手続法」は行政手続きを電子申請に統一するために制定された。

・引越し、相続などの行政手続きから他の行政手続きにおいても順次デジタル化される予定。

・デジタルガバメント実行計画では、縦割り行政の弊害を克服したワンストップサービスの実現を目指している。

・デジタル手続法は5年かけて行政手続きのデジタル・オンライン化を徹底する。

・行政手続オンライン化法、住民基本台帳法、公的個人認証法、マイナンバー法などがまず改正された。

・社労士業務では社会・労働保険関連の手続き等がその対象になった。

・電子申請にはe-Gov(イーガブ)電子申請システム、外部連携API対応システムを利用する方法があるが、大企業は後者を利用するべき。

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