働き方改革 背景に見る政府の動き・企業の目的とその課題、42の施策とは?

働き方改革 背景に見る政府の動き・企業の目的とその課題、42の施策とは?

現在、働き方改革の実施によって、様々な規定が順次施行されていっています。それを受け、企業では社内ルールの見直しをしたり、それを実行したりと、法律に定められたルールに違反しないよう、精一杯動いていることでしょう。

そんな中、「そもそも、なぜ働き方改革が行われる必要があったのか」、「政府はどのように取り組んでいるのか」という疑問を改めて抱く人が出てきています。国を挙げてここまで政策を進めているのはどうしてなのかを理解することにより、働き方改革の全体像を一気につかむことができます。

徹底解説していきますので、ぜひご参考になさってください。

 

1、働き方改革導入の意図

 

働き方改革が2019年4月から開始される前に、実は数年をかけ、政府や有識者たちなどが何度も会議を開いて話し合いを重ねていました。

具体的には、2016年9月2日に、「働き方改革実現推進室」を発足し、働き方改革実現会議が2019年3月までに10回行われていました。議長は首相自らであり、会議には労働界と産業界のトップの有識者が集められました。もちろん、働き方の実態をより知っている使用者側と労働者側の意見も反映されています。

 

働き方改革導入へと進むようになった要因は、労働人口の減少と少子高齢化です。

これらを改善するため、「働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジである」と、政府が表明しています。

(1)「一億総活躍社会」実現に向けた取り組み

 「一億総活躍社会」とは、少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持し、家庭・職場・地域で誰もが活躍できる社会を目指す社会のことをいいます。

 

政府は、「若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方々も、一度失敗を経験した人も、みんなが包摂され活躍できる社会」、「一人ひとりが、個性と多様性を尊重され。家庭で、地域で、職場で、それぞれの希望がかない、それぞれの能力を発揮でき、それぞれが生きがいを感じることができる社会」、「強い経済の実現に向けた取り組みを通じて得られる成長の果実によって、子育て支援や社会保障の基盤を強化し、それが更に経済を強くするという『成長と分配の好循環』を生み出していく新たな経済社会システム」としています。

 

これらを新3本の矢と呼んでいて、「希望を生み出す強い経済(国内総生産600兆)」、「夢を紡ぐ子育て支援(出生率1.8)」、「安心につながる社会保障(介護離職率ゼロ)」を実現目標にかかげています。

(2)労働人口の減少

現在日本は、急速な少子高齢化が進行しています。

平成の初期は、労働力にあふれ、労働人口が一番多かったのですが、現在は労働人口の減少が止まらない状況です。

 

1990年から2000年頃は、15歳から64歳までの働き手が8000万人以上いました。

しかし、2027年には約7000万人、2051年には約5000万人、2060年には約4418万人になるであろうと予測されています。

 

少子高齢化は、労働人口の減少を招いている最大の原因です。

日本は世界に例をみない程の速度で高齢社会になっています。総人口に対する65歳以上の高齢者の割合が7%を超えた社会のことを高齢化社会、14%を超えた社会を高齢社会と呼んでいます。日本は平成27年(2015年)に26.7%となり、超高齢社会である言っていいでしょう。2025年には30%を超えると予想されています。

 

前項で「夢を紡ぐ子育て支援(出生率1.8)」という目標がありましたが、実際には2.08の出生率を超えなければ人口が減少すると言われています。

(3)労働力不足の3つの対応策

 労働力不足を補うために一番速効性がある「女性と高齢者の労働力を増やす」ということ、人口減少を改善し「出生率を上げ、将来の働き手を増やす」ということ、「一人当たりの労働生産制を向上すること」。この3つの対応策が考えられています。

Ⅰ、女性と高齢者の労働力を増やすために

実現するためには、柔軟な雇用体制が必要です。子育て中や介護中の女性の場合、限られた時間で働いている人が多く、正社員やフルタイムが厳しいケースが見受けられます。高齢者の中には、定年退職をしている人もいます。

このような人々が積極的に働きに出られるよう、待遇を良くして正当な評価がされるようにしたり、正社員やフルタイムの人たちと不合理な待遇差が出ないようにしたり、テレワークなどの在宅でもできる形態を導入したりするなどの対策が取られていきます。

この政策はもう決定さえており、大手企業では2020年4月から導入されます。

 

このように、今まで働きに出づらかった女性や高齢者の方々に活躍してもらうと、労働力不足を回復への即効性があります。

Ⅱ、出生率を増やす

出生率を増やすためには様々な対策が必要なため、今後も改善のための政策が取られていくと予想されています。

その対策によって待機児童対策はもちろんのこと、働き方改革の「同一賃金・同一労働」の均等待遇や均衡待遇などによって、一度子育てで仕事から離脱したとしても、正当な評価が得られるような再チャレンジのできる社会を目指していこうという意識改革がおこなわれていくとされています。

Ⅲ、一人当たりの労働生産性を向上すること

 

労働生産性とは、「一人の労働者が産み出す成果」、「労働者が一時間で産み出す成果」の指標を言います。したがって、一人当たりの労働生産性が向上することは、国全体で見ると、国力が上がるということに繋がります。

 

労働人口が減少しても、それを補うだけの国力があれば、労働力を維持することができます。日本は、OEDC加盟35か国の中で、国民経済生産性の順位は18位となっています。そのため、まだまだ伸ばすことのできる余地があります。

 

2、働き方改革に対する政府の動き・企業の目的と手ごたえ

(1)政府の動き

 

2018年1月に、厚生労働省の「モデル就業規則」から副業禁止規定が削除されました。日本では、正社員の副業を禁止している会社が多くあり、雇用の機会が失われる恐れがありました。

 

2019年4月1日から「働き方改革関連法案」の一部が施行され、「罰則付きの時間外労働の上限規制」が始まりました。残業時間上限の法律規制は、1947年に制定された労働基準法の初めての変更で、今回の「働き方改革」が70年ぶりの大改革です。時間外労働の上限を詳細に決めるとともに、残業代の未払いが起きないようにするための制度です。

 

他にも「年次有給休暇の時期指定」といって、年次有給休暇を10労働日以上持っている労働者は、その年度内に5日は権利を行使しましょうという制度や、「勤務間インターバルの普及促進」といって、出勤と出勤の間に、10時間などの間を設ける努力をしましょうという制度が盛り込まれ、長時間労働の抑制を目指しています。

 

労働規制を緩和する仕組みである「高度プロフェッショナル制度」も導入されています。一定の年収以上(およそ年収1075万円程度)で、高度な専門性があり、法律で定められている職業については、労働基準法の適用除外となり、残業代や休日出勤などの規制がありません。このように、規制が厳しくなる一方で、自由な労働ができるようになる仕組みも同時に設けられました。

 

来年からは、同一労働・同一賃金制、パートタイム労働法の改正などの法改正が控えています。この2つに共通しているのが、「均等待遇規定」と「均衡待遇規定」です。不合理な差別的扱いがないようにするための政策です。

(2)企業の目的と手応え

企業が法改正に対応することはもちろん必要ですが、それだけでは現場に「やらされている」という風潮が生じ、成果につながる改革にすることが非常に難しくなります。やらなければならないという義務感ではなく、それぞれの企業において、率先して働き方改革を取り入れたいと思える意思を見出していかなければなりません。

 

働き方改革の項目が順次施行されていくごとに、施行に伴う法改正への対応をしなければなりません。この対応を怠ってしまうと、法律違反となり、罰則を受けなければならなってしまう恐れがあります。

 

そこで、働き方改革関連の法改正へ対応をするために「業務効率化」や「従業員の生活の質の向上」をしなければならなくなるのですが、具体的には、生産性向上・グローバル対応、働きやすさ・働きがい、ワーク・ライフ・バランスの向上が、その目的となります。

これらの目的を実現するために、無駄を減らして取引先やお客様に喜ばれるよい仕事をしたいという労働者の願いと、企業の成果や生産性を繋げて労働生産性を上げようとする企業側の目的が合致し、企業側も労働者側も幸せになれるよう模索していく必要があります。

 

3、働き方改革の3つの課題

 

今までずっとあった働き方に対する慣習は、戦前・戦後、昭和・平成へと、連綿と続いてきているため、一般常識や慣習として自然に身にしみているものです。例えば、終身雇用、年功序列型賃金があげられます。

 

これらの慣習を変えることは、かなり負担のかかる行為です。今回の働き方改革は、この習慣へ切り込んでいます。

働き方には、個人単位はもちろんのこと、大きな組織であればピラミッド型の構造であったり、中小企業であれば顧客や取引き先との関係性を見直さなければならなかったりなど、根本から就業規則や社内環境を整備しなければならない状況の企業もあります。

(1)長時間労働

日本の長時間労働は、以前から問題になっていました。長時間労働をしすぎてしまうと、身体的にも、精神的にも負担がかかります。そうなってしまうと、体を壊してしまったり、ニュースでの報道にもあった通り、最悪なケースにも繋がったりしかねません。

 

現に日本は、2013年に国連から「多くの労働者が長時間労働に従事している」、「過労死や精神的ハラスメントによる自殺が職場で発生し続けていることを懸念する」という趣旨の是正勧告を受けました。

 

長時間労働だけではありません。こちらも時々ニュースになっていますが、転勤や配置転換など、日本で働く労働者はこれらにも応じなければなりません。これを拒否すると、有期契約社員やパートタイマーなどのとして働くことを余儀なくされてしまうケースがありました。

 

また、この長時間労働は、子どもの出生率にも影響を与えているといわれています。働き盛りの30代から40代は長時間労働をする傾向が強く、出産・育児の年齢と重なってしまいます。これは、晩婚化が進んでしまう一要因です。

女性であれば、キャリアの中断などを考えなければならないことがあり、男性も育児や教育をする時間的余裕がないということがあり、少子化を招いてしまう原因の一つといえます。

(2)非正規と正社員の格差

非正規と正規では、正社員と同じだけの仕事をしても、給与が低くなってしまっている傾向にあります。時給換算すると、正社員の約6割程度しか賃金をもらえていません。

給与が低いことは、モチベーションに関わってくる非常に重要なことです。

 

同じ責任の下で同じだけの仕事をしたら、不合理な非正規と正社員の差を設けることを禁止しており、「ライフステージに合わせた働き方ができるようにする」ということを目的としています。これを、「同一労働・同一賃金」といいます。

 

大手企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月から導入されます。これは義務規定のため、施行日に合わせて社内で導入しなければなりません。そのために企業は、「仕事内容」や「待遇」などを、施行までにある程度決めておかなければなりません。

 

この「同一労働・同一賃金」が行われることにより、日本型雇用システムが大きく変わっていくと予想されています。極端な例でいくと、アメリカのようなバイ型(買い型)の雇用体系に変わっていく可能性があります。

(3)労働人口不足(高齢者の就労促進)

年金の受給開始年齢が60歳から65歳になったことや、医療が発達したことでまだまだ働きたいと思う高齢者の方々が増えました。労働力の減少ということもあり、働き方改革では高齢者の就労促進が盛り込まれています。

 

高齢者の方々が働くためには、「継続雇用の延長、定年年齢の延長」、「仕事のマッチング」が必要となります。特に、従前の仕事をわかっている状態で再雇用できるため一人当たりの生産性を高めることができ、非常に相性のいい制度です。

 

4、企業の抱える働き方改革の課題とその42の施策とは?

 

働き方改革を推進している企業が、政府による打ち手のロードマップである「働き方改革実行計画」から企業が取り組み得る42施策があります。

(1)生産性の政策

「労働時間の管理・指導、業務改善・効率化、組織・事業デザインの見直し、生産性の基準の評価」があります。この中でも一番取り組み見やすいのが、「労働時間の管理・指導」であり、すでに実施している企業が多くあります。特に、義務化されている年次有給休暇の権利行使や、労働時間の把握、残業禁止などは比較的企業内で導入しやすい制度となっています。

(2)柔軟化の政策

「働く時間の柔軟化、働く場所の柔軟化、所属の柔軟化」があります。この各柔軟化のおかげで、子育てや介護をしていた女性の労働力や、定年退職後の高齢者、副業を考えている労働者を取り込むことができます。具体的には、在宅のテレワーク、フレックス制、フレックスタイム制などがあります。

 

これは、労働力不足を補う一番即効性のある方法です。一人当たりの生産性が向上したら、国力の向上にも繋がることになります。

(3)多様化の政策

「均等処遇、育児と仕事の両立、介護・傷病と仕事の両立」があります。これらを改善するためには、子育てや介護をしながらでも働くことができるよう、在宅のテレワークや、フレックスタイム制の導入や、パート・アルバイト従業員の採用を増やすなどの対応ができるよう、仕組みをあらかじめ作っておかなければなりません。そのためには、たくさんの社内会議を重ねる必要があります。

実はこのルール作りこそが非常に大変です。運用していくに従い、必要に応じて修正をしていかなければなりません。

 

5、働き方改革の成功事例3選

 

すでに働き方改革を取り入れ、成功している大手企業や中小企業がいると思いますが、働き方改革での有名な成功事例をご紹介いたします。

(1)味の素株式会社の例

「7時間労働で新たな価値を創造する会社」を改革の目標と置いています。

女性など一部の従業員のための施策だったころは浸透しなかったダイバーシティ&ワーク・ライフ・バランスのための施策を、2013年から社員全員に関係する制度に拡充させています。

(2)日本電産の例

ハードワークをよしとしてきた文化があったにもかかわらず、わずか1年半弱で残業時間半減を実現しました。グループの売上を10倍にするために、1000億円を投じて、生産性を2倍にするという、大胆かつ明確な目標とトップダウンのメッセージで短期間に手応えを得ることができています。

(3)ヤフー株式会社の例

ヤフーは、「才能と情熱を解き放つための改革」が行われています。会社として社員が幸せになることと収益を上げていくことを考えて動いた結果、先進的な制度を次々に導入していきました。「会社を成長させていくために、従業員が働きやすい環境をつくるのは当たり前のことだ」と言い切っており、「働き方改革」の前に「人事評価制度」の見直しを行いました。

 

サマリー

 

いかがだったでしょうか。深刻な少子高齢化に伴い、労働人口の減少という大きな問題がありました。また、労働環境については、昔からの慣習で「年次有給休暇は取りづらい」、「残業が断りづらい」という事例もあります。

これらの状況を解決するためには、3つの課題がありました。

「長時間労働の問題解決」、「非正規と正規社員の格差是正」、「労働人口不足」です。

 

これらを解決するために政府主導で行われているのが働き方改革です。この働き方改革は、やならければならないという義務感ではなく、企業と労働者のどちらも幸せになれる関係性を作ることが非常に大事です。

 

長時間労働を抑制しつつ生産性を高めていくためには、働く場所や時間を柔軟に選択できる環境や制度を同時に整えていくことが求められています。

また、成功している事例を検証していくと、共通していえることは「会社だけの利益ではなく、労働者の働く環境を考えている」ということです。

 

このように、政府がなぜ働き方改革を推進してきたのかを理解し、企業は労働者の働く環境を改善していくことが、企業と労働者の双方にとって良い状態をつくることができるのです。

 

まとめ

 

・労働人口の減少と少子高齢化が深刻であることを理解することにより、働き方改革の全体像をつかむことができる

・労働力不足を補うためには、「女性と高齢者の労働力を増やす」、「出生率を上げ、将来の働き手を増やす」、「一人当たりの労働生産制を向上すること」の3つである

・女性や高齢者が働けるようになるためには柔軟な雇用体制が必要で、正当な評価が得られるような再チャレンジのできる社会をつくることによって、出生率を増やす

・企業が法改正に対応するためには、生産性向上・グローバル対応、働きやすさ・働きがい、ワーク・ライフ・バランスの向上が必要で、その上で長時間労働への対策、非正規と正社員の格差是正、労働人口不足を改善していく

・企業の抱える働き方改革の課題とその42の施策とは、生産性の政策、柔軟化の政策、多様化の政策の3ジャンルに大きく分類されている

 

社会保険労務士カテゴリの最新記事