社会保険労務士(社労士)試験には、「選択式」「択一式」の2つの出題形式があります。そのうち選択式は、1問にあたり5つの空欄があり、与えられた20個の選択肢から解答を選ぶ空欄補充問題です。
総得点、各科目に設けられた基準点が超えられず、1問に泣く受験生も多い選択式。この記事では、そんな選択式について詳しくまとめ、合格に近付くコツについてもお伝えします!
1 社労士試験の出題形式は?
社労士試験の出題形式には「選択式」と「択一式」があります。選択式では複数の科目がセットで、5つの空欄で1問として出題されます。しかし、社労士試験の出題科目の10科目から、均等に出題されるわけではありません。
また、1つの空欄に対して、最大4つの選択肢が与えられることもあります。
⑴ 試験時間
社労士試験の試験時間は、選択式が80分、択一式が210分です。選択式は、比較的時間的余裕をもって臨むことができるといわれています。
⑵ 配点
選択式の配点は、5つの空欄を持つ問題が8問出題されます。選択式の総得点は40点ですが、後述しますが各科目と総得点に設けられた「合格基準点」を超えなければ、合格することはできません。
試験科目 | 択一式 計7科目(配点) | 選択式 計8科目(配点) |
労働基準法及び労働安全衛生法 | 10問(10点) | 1問(5点) |
労働者災害補償保険法
(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。) |
10問(10点) | 1問(5点) |
雇用保険法
(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。) |
10問(10点) | 1問(5点) |
労務管理その他の労働に関する一般常識 | 10問(10点) | 1問(5点) |
社会保険に関する一般常識 | 1問(5点) | |
健康保険法 | 10問(10点) | 1問(5点) |
厚生年金保険法 | 10問(10点) | 1問(5点) |
国民年金法 | 10問(10点) | 1問(5点) |
合 計 | 70問(70点) | 8問(40点) |
⑶ 選択式で実際に出題された問題
それでは、実際に令和2年度社労士試験で出題された、選択式の問題を紹介します。以下は、「国民年金法」からの出題です。一見迷いそうな選択肢が並んでおり、確実な知識がないと選択肢の中から、正答を選び出すのは困難であることが分かるでしょう。
【問 8】
次の文中の□の部分を選択肢の中の最も適切な語句で埋め、完全な文章とせよ。
1、国民年金法第4条では、「この法律による年金の額は、Ⓐその他の諸事情に著しい変動が生じた場合には、変動後の諸事情に応ずるため、速やかにⒷの措置が講ぜられなければならない。」と規定している。
2、国民年金法第37条の規定によると、遺族基礎年金は、被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ、Ⓒであるものが死亡した時、その者の配偶者または子に支給するとされている。ただし、死亡したものにつき、死亡日の前日において、死亡日の属する月の前々月までに被保険者期間があり、かつ、当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間がⒹに満たない時は、この限りでないとされている。
3、国民年金法第94条の2 第1項では、「厚生年金保険の実施者たる政府は、毎年度、基礎年金の給付に要する費用に充てるため、基礎年金拠出金を負担する。」と規定しており、同条第2項では、「Ⓔは、毎年度、基礎年金の給付に要する費用に充てるため、基礎年金拠出金を納付する。」と規定している。
選択肢
①10年 ②25年 ③20歳以上60歳未満 ④20歳以上65歳未満 ⑤60歳以上65歳未満 ⑥65歳以上70歳未満 ⑦改定 ⑧国民生活の安定 ⑨国民生活の現況 ⑩国民生活の状況 ⑪国民の生活水準 ⑫所要 ⑬実施機関たる共済組合等 ⑭実施機関たる市町村 ⑮実施機関たる政府 ⑯実施機関たる日本年金機構 ⑰是正 ⑱訂正 ⑲当該被保険者期間の3分の1 ⑳当該被保険者期間の3分の2 |
2 選択式の合格基準点とは?
社労士試験では、毎年選択式で「あと1問」が超えられず、泣く受験生がいます。しかし、選択式は、その年の出来栄えに応じて「救済措置」が多く取られる試験であるため、実は合格基準点は毎年変動しています。
⑴ 選択式総得点の合格基準点
合各するには、選択式で全体の60%前後の正解が必要だといわれています。つまり、40点中24点前後の正解が必要ということになります。
⑵ 選択式各科目の合格基準点
各科目においても、60%以上の正解が必要になります。つまり、1問5点中3点以上正解しなくてはなりません。
しかし、実際には選択式では頻繁に救済措置が取られ、数科目において基準点が下がることも少なくないのです。過去においては、何と最多で5科目で科目基準点の引き下げがおこなわれたことがあります。
⑶ 実際に取られた救済措置
下表は、近年選択式でおこなわれた救済措置の内容をまとめたものです。
平成27年度 | 労務管理その他労働に関する一般常識 | 2点 |
社会保険に関する一般常識 | 2点 | |
健康保険法/厚生年金保険法 | 2点 | |
平成28年度 | 労務管理その他の労働に関する一般常識 | 2点 |
健康保険法 | 2点 | |
平成29年度 | 雇用保険法/健康保険法 | 2点 |
平成30年度 | 社会保険に関する一般常識 | 2点 |
国民年金法 | 2点 | |
令和元年度 | 社会保険に関する一般常識 | 2点 |
救済措置がおこなわれる科目は年金関連科目が一番多く、次に健康保険法、社会保険に関する一般常識となっています。
3 選択式で得点力を上げるコツとは?
択一式と違い、選択式は勉強量が結果に結びつきにくいといわれています。その理由には、択一式が正誤問題、かつ幅広く出題される傾向があるのに対して、選択式は空欄補充問題、かつ出題の論点もごく一部だけになってしまうことが挙げられます。
1点の出来が合格を左右する選択式で、どうすれば得点力を上げることができるでしょうか。選択式で多く得点するためのコツをお伝えします。
⑴ 1問あたり10分で解答する
選択式の解答時間は、全8問に対して80分です。つまり、1問に対して10分を充てることができるのです。10分あれば、選択式は70%が基礎問題から出題されることもあり、時間的には余裕があるでしょう。
⑵ 専門用語と数字問題をチェック
実際の出題問題から分かるように、選択式では鍵となる専門用語と数字問題が頻出します。得点力を上げるためには、専門用語と数字問題に関する演習を多くおこない良く備えましょう。
効果的な勉強法としては、空欄問題を見たら20個の選択肢を見る前に、まず自分で答えを考えてみることです。この時、何も答えが思い浮かばないようなら、確実に勉強不足です。
また、余裕が出てきたら、択一式の問題演習をしている時にも「この文章が空欄補充問題で出題されたら答えられるか?」と自問自答しながら、解いてみましょう。
実は選択式では、国語力も求められます。選択式問題では、社労士の知識というよりも日本語の問題として問われているものもあります。得点力アップのために、論理的な文章を組み立てる能力も意識して磨くようにしましょう。
⑶ 勉強の順番は択一式が先
効率的に選択式の得点力アップを図りたいなら、択一式の学習をしっかりおこないましょう。なぜ択一式?と思われる人もいるかも知れませんが、択一式で合格レベルに達すると、選択式においてもほとんどの問題に対応できるようになります。
選択式は運に左右される側面があります。先述の通り、選択式は勉強量が反映されにくい出題形式です。その対策に膨大な時間を費やすよりも、択一式で合格レベルの得点力を確実につけ、底力を上げる方が効率的です。択一式で合格レベルに到達するのは、効率的に学習を進めればそれほど難しいことではありません。択一式の問題を解きながら、 解説もしっかりと読みましょう。それがまた、選択式の得点力アップにも繋がっていきます。
4 サマリー
選択式はそもそも、勉強量が反映されにくい出題形式です。ですので、まずは択一式の対策をしっかりとおこない、合格ラインを目指す方が得策です。あなたの社労士試験対策の参考にして頂けると幸いです。
5 まとめ
・社労士試験には「選択式」「択一式」の2つの出題形式がある。
・選択式は、与えられた20個の選択肢から解答を選ぶ空欄補充問題である。
・選択式の各科目と総得点に設けられた「合格基準点」を超えなければ合格できない。
・選択式はその年の出来栄えに応じて「救済措置」が多く取られ、合格基準点は毎年変動している。
・救済措置がおこなわれるのは年金関連科目、健康保険法、社一の順に多い。
・択一式で合格レベルに達すれば、選択式においてもほとんどの問題に対応できる。