労災とは?労災保険法にまつわる社会保険労務士(社労士)業務を解説!

労災とは?労災保険法にまつわる社会保険労務士(社労士)業務を解説!

あなたは労災保険のお世話になったことがありますか?

社会保険労務士(社労士)試験の試験範囲には労働災害保険法や労働保険が含まれていますが、これまで労災申請の必要性がなかった人には、あまり親しみのない社会保障のひとつでしょう。

労災申請は、社労士がその専門性を発揮することができる業務です。この記事では、労災と労災保険について説明したうえで、労災保険法に関わる社労士の業務について解説します。

1 労災とは

労災とは「労働災害」のことです。労働者が労働災害により負傷したら、療養補償や休業補償などの労災保険給付の請求を、労働基準監督署長あてにおこないます。労災保険の請求が労働基準監督署長あてにあれば、労働基準監督署は必要な調査をおこない、労災の認定の可否を決定します。労災認定が出れば保険給付が受けられます。

2 労働者災害保障保険法

労災保険法とは労災給付の基となる法律ですが、この労災保険法とは、業務独占資格である社労士がおこなうべき業務の一角を担うものです。

労働者災害保障保険法とは、前述のように業務中や通勤時に被った負傷、疾病、障害、死亡についての補償をおこなう、労災保険を規定する法律のことです。

ちなみに労災保険に企てられる費用は、事業主の負担する保険料と国庫負担金によって成り立っています。

3 労災と社労士業務

労災の申請と社労士にはどんな関係があるのでしょうか。

(1)労災における社会保険労務士の業務とは

代理・代行 労働基準法、労災保険法、雇用保険法、健康保険法、 厚生年金保険法、国民年金法等に基づく申請や届出休業補償、出産育児一時金、出産手当金、傷病手当金などの請求、労働保険、社会保険の加入・脱退、各種給付金・助成金などの請求
書類作成 就業規則、賃金・退職金規程、労働者名簿、賃金台帳などの作成
相談指導 賃金、退職金、労働時間、福利厚生、年金、採用、人事、賞与、解雇、定年、教育訓練、能力開発、安全衛生管理、個別労働関係紛争の事前防止や解決、紛争調整委員会におけるあっせん代理、労務診断など

出典:熊本県社会保険労務士会ホームページを基に作表

①の赤字部分が、労災に関係する業務です。
「労災保険法」とは、「労働者災害補償保険法」のことです。労働者が業務や通勤で負傷、疾病、障害、死亡等に至った場合に必要な保険給付をおこない、労働者の社会復帰の促進とその遺族の保護、また適正な労働条件の確保等を目的とした法律です。「労働保険」とは労災保険と雇用保険を合わせたもので、 労働者を1人でも雇っている事業場は、その労働者が正社員、パート、アルバイトであるに関わらず加入義務がある保険です。

(2)「労働保険事務組合」の役割とは

労災について調べていくと「労働保険事務組合」という団体にたどり着きます。同団体は、組合構成員である事業主等の委託を受けて、文字通り労働保険料及び一般拠出金の申告や、納付や労働保険の各種届出等の労働保険事務をおこなうために設立された団体です。

労働保険や労働保険料、一般拠出金、雇用保険などに関するこれらの労働保険事務は、中小企業や零細企業にとっては負担となっている場合が多いため、同組合が委託されてこれを代行しています。

労働保険事務組合に労働保険事務の委託ができる事業主は、労働保険事務組合として認可を受けた事業主団体の構成員又は構成員以外の事業主であることに加え、以下のいずれかに該当する事業主である必要があります。

(1) 金融業、保険業、不動産業又は小売業にあっては、その使用する労働者数が常時50人以下

(2) 卸売又はサービス業にあっては、その使用する労働者数が常時100人以下

(3) 上記(1)、(2)の業種(清掃業、火葬業、と畜業、自動車修理業及び機械修理業は除きます。)以外にあっては、その使用する労働者数が常時300人以下の事業主

出典:厚生労働省

労働保険事務組合がおこなうことができる業務は下記の通り規定されています。この規定以外の社会保険労務士業務はおこえません。

①概算保険料、確定保険料その他の労働保険料の申告納付(印紙保険料に関する手続を除く。)。

②雇用保険の被保険者資格の取得及び喪失の届出、被保険者の転入及び転出の届出その他の雇用保険の被保険者に関する届出等に関する手続。

③保険関係成立届、労災保険又は雇用保険の任意加入申請書、雇用保険の事業所設置届等の提出に関する手続。

④労災保険の特別加入申請、変更申請、脱退申請等に関する手続。

⑤労災保険事務処理委託、委託解除に関する手続。

⑥その他の労働保険の適用徴収に係る申請、届出及び報告等に関する手続。(社会保険労務士法第27条、労徴法第33号第1項)

出典:熊本県社会保険労務士会

(3)労働保険と社労士

業務独占資格である社労士が専門とする法律は、簡単にいえば「厚生労働省が所管する法律」です。そのなかには労災保険法も含まれるため、社労士は「労働、通勤時に被った災害における申請や給付の手続き」や「労働保険料の加入、年度更新などの諸手続き」といった業務に従事できます。

先程、労働保険とは労災保険と雇用保険とを合わせたものだと申し上げました。両者は、保険料の納付等においては、「労働保険」として原則的に一緒に取り扱われています(保険給付は別個でおこなっている)。

出典:大阪府社会保険労務士会

(4)社労士試験と労災保険法

社労士試験には労災保険法は出題されるのでしょうか。

労災保険法は、社労士試験に出題される一般常識を含む8つの法律の一つです。社会保険労務士試験オフィシャルサイトをチェックすると、社労士試験範囲に下記のような注意書きがあります。労災保険法からの出題の多さを示している注意書きです。

択一式試験の「労働者災害補償保険法」及び「雇用保険法」は、それぞれの問題10問のうち3問が「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」から出題されます。具体的には、択一式試験の「労働者災害補償保険法」は、問1~問7が「労働者災害補償保険法」、問8~問10が「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」です。

出典:社会保険労務士試験オフィシャルサイト

①範囲

労災保険法における出題内容とは、おおむね下記の2点にまとめられます。

・「保険給付」
労働や通勤中に起こった労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関わる、被災労働者やその遺族への保険の給付について

・「社会復帰促進等事業」
労災に遭った労働者の社会復帰の促進とその労働者及び遺族への援護等、社会復帰促進等事業

労災保険法の規定自体が「保険給付」が中心の内容です。労災保険法に限らず、社労士試験の有効な対策の一つに条文の内容理解がありますが、労災保険法対策でももちろん必要となります。あわせて事例に当てはめた出題もこなしておきましょう。

法改正がほとんど生じないこともあって、労災保険法は社労士試験の受験生にとって比較的得点源にしやすい科目といわれています。

②学習のコツ

ポイントは「頻出分野」を確実におさえることです。

労災保険法では、頻出項目である「保険給付」を中心に学習しましょう。「時効」「通勤災害」「適用関係」の出題される傾向が高いといわれています。条文、事例ともによくおさえておく必要があります。

また、効果的な横断学習をおこなうなら、労災保険法と徴収法、雇用保険法と徴収法の学習を横断的におこないましょう。

4 労災認定について

それでは、労災保険の手続きの手順をまとめてみましょう。一般的には、労災保険の手続きは以下の流れでおこなわれます。

(1)労災認定までの流れ

①労働者から会社に、労働災害が発生した旨を報告

②労働基準監督署長宛に必要書類を提出

・療養補償給付の請求手続き
・休業補償の請求手続き
・障害補償給付の申請手続き
・遺族補償給付の申請手続き
・葬祭料の請求手続き
・傷病補償年金の請求手続き
・介護補償給付の申請手続き

③労働基準監督署による調査

④労災認定後、保険金の給付

(2)事業主の責任

労働者災害が起こってしまったら、それに関する補償は、企業が全額負担することが義務付けられています。

労災事故が発生した場合、当該事業主は、労働基準法により補償責任を負わねばなりません。しかし、労災保険に加入して いる場合は、労災保険による給付が行われ、事業主は労働基準法上の補償責任を免れます(ただし、労災によって労働者が休業する際の休業1~3日目の休業補 償は、労災保険から給付されないため、労働基準法で定める平均賃金の60%を事業主が直接労働者に支払う必要があります)。

出典:労働災害が発生したとき

このように、従業員が1人でもいる事業所は、その労働者がアルバイト、パート、正社員に関わらず、労災保険の加入が義務付けられており、加入していれば補償に関わる費用負担は免除されます。

もし労災保険に未加入で労災事故が発生した場合、当該事業主は補償責任を負わねばならないことが労働基準法で定められています。また、休業補償給付を申請する際、3日間の待期期間が発生しますが、この期間の賃金は企業が補償しなければいけないと定められています。休業補償給付金制度によると、平均賃金の60%を支払うことと定められていますが、従業員の心的負担軽減のため全額支払われているケースもあります。

労災認定されていれば以下の休業中の賃金が保障されます。

待機期間(休業3日目まで):事業主が平均賃金の60%を支払う

4日目以降:「休業補償給付金」として、1日につき給付基礎日額の60%が給付金として受け取れる

給付基礎日額:直近3か月間に労働者に支払われた賃金の総額を日数で割ったもの

基本給に加え、残業代なども基本的には考慮される(臨時手当や賞与(ボーナス)は不可)

また、社会復帰を支援するための「休業特別支援金」という、給付基礎日額の20%を支援金として支給する制度もあります。休業補償給付金と合わせると、賃金の80%分の給付金を受け取ることができるということです。

(3)労災の種類とは

労災には次の3種類があり、「業務災害」「通勤災害」「第三者行為災害」でそれぞれ認定要件が異なります。

業務災害 業務中の負傷、病気、死亡などの業務災害 業務との因果関係が認められた際に認定される
通勤災害 通勤時に起きた災害 会社に報告している正しい経路と方法をおこなっていることが認定要件となる

ふさわしくない経路を使うと認定されない

(例:電車通勤と申告しているのに、自転車通勤で事故にあった場合)

また、会社が緊急と認める経路の場合は通勤災害として認定される

(例:緊急の案件のため、タクシーでの移動中に事故にあった場合)

第三者行為災害 業務や通勤以外で、第三者の行為によって

生じた災害

加害者に対して、損害賠償責任が発生した際に認定される

(4)労災請求の各様式

労災5号様式 治療費 労災保険を使った治療を請求するための書類
「労働災害保険指定医療機関」での治療を受けてもらうと、手続きが煩雑にならなくて良い
労災指定病院

労災指定薬局に提出
労災6号様式 変更届 療養補償給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届

転院する時などに使う

転院先の労災指定病院

労災指定薬局に提出
労災7号様式 費用請求 療養補償給付たる療養の費用請求書

療養のための費用、薬代や整骨院の費用、通院の交通費、診断書料を請求したいなどの場合に使用

通勤災害の場合は、様式16号の5を使用

管轄の

労働基準監督署に提出

労災8号様式 休業補償 休業補償給付支給請求書

休業補償の支給要件に該当しなくなるまで支給される

「治療費」請求様式である、様式5号の記入を例に挙げて、請求の流れを簡単に解説します。

①必要書類の準備

②記入

・労働保険番号
・申請者の住所・氏名・年齢など
・事故の詳細
・事業所の名称や所在地
・申請者および事業主(使用者)の押印か署名

③指定医療機関で治療を受けてもらう

5 労災における社労士と弁護士の違い

労災申請は、弁護士と社労士、どちらに頼めばいいの?という疑問をよく耳にします。両者とも労災申請に携わることができるのですが、それぞれに依頼した場合のメリットについてまとめてみましょう。

(1)弁護士に労災申請をしてもらうメリットとは

弁護士に依頼して労災申請をしてもらうメリットは、労災申請で会社等ともめて訴訟になった場合に、最も発揮されるでしょう。訴訟に至った場合は、訴訟の専門家である弁護士の方が、適切に立証できると思われます。

(2)社労士に労災申請をしてもらうメリットとは

労災保険など、保険の専門家である社労士に労災申請を依頼する場合のメリットをまとめてみましょう。

①申請書類作成がスムーズ

労災保険の給付手続では、最初に提出する申請書類がとても重要です。社労士に労災申請をしてもらうと、「書類の記載不備」による労災給付の不支給のリスクは軽減できるでしょう。

社労士は労災保険の専門家です。申請書類の記入項目では事故状況等を記載する際に「業務遂行性」と「業務起因性」とを明確にしなければならないのです。

業務遂行性とは:労働者が労働契約に基づき、使用者の支配下にあること

業務起因性とは:業務と負傷との間に相当の因果関係があること

事故状況の記載における「業務遂行性」と「業務起因性」の重要性が、よく表されているQ&Aがありますので引用します。

Q. 当社の社員が2泊3日の出張に行くことになりました。出張中のケガは業務災害でしょうか? また、ホテルに宿泊する予定ですが、その宿泊中のケガはどうなるのでしょうか?

A. 業務災害は「業務遂行性」と「業務起因性」の有無で判断されます。(中略)ご質問の出張中のケガの取扱いについて、まずは業務遂行性について考えます。出張中、労働者はその業務の遂行・方法等について事業主の指揮・命令に基づいているものであることから出張過程の全般が事業主の支配下にあるものとして考えられます。その意味において、業務遂行性が認められます。

業務起因性については、出張中、食事、宿泊、入浴といった行為が当然考えられます。こうしたいわば私的行為中に生じた災害についても、出張に通常伴う範囲内のものであり、労働者が合理的な順路、方法による出張の場合には、業務との関係性があり、業務起因性も認められることになります。

よって、この2点から宿泊中のケガに対しても業務災害となります。

出典:PM Network(労働保険事務組合)

このような書類作成上のポイントを、労災保険の専門家である社労士は熟知しています。

労災保険給付の申請が労災として認定できるかを最終的に判断するのは、労働基準監督署長です。労災認定は、申請された申請書類を確認したうえで、場合によっては会社や被災労働者等に聞き取り調査をおこない決定されます。

労災として認定されなかった場合など給付の決定に不服がある場合には、管轄の労働局労働者災害補償保険審査官に対して審査請求できます。もしこの審査請求の結果にも不服があれば、労働保険審査会へ最審査請求することができますが、実際のところ、決定を覆すことはとても難しいのです。

つまり、申請業務の一番最初の申請書類が、とても重要になるわけです。労災の申請は、労災保険の専門家である社会保険労務士に依頼することが、労災保険不支給となるリスクを最も軽減できる選択であるといえます。

②会社とのやりとりがスムーズ

会社の健全な経営のための業務を遂行する社労士に労災申請代行を依頼すれば、やり取りは実にスムーズになります。労災申請の手続に関する書類には会社の押印等が必要ですが、もし労災発生後に事故やトラブル等により会社を退職してしまった場合は、依頼しにくいケースがでてくるかもしれません。しかし、社労士に代行を依頼すれば、会社とのやり取りは社労士があなたに代わっておこなってくれます。

会社の労務担当者のなかには、退職した従業員の労災保険に協力する必要はないだろうと思っている人もいるかもしれません。その場合も、社労士があなたに代わって手続きの代行をおこなってくれます。

倒産等で、既に労災申請の手続に必要な内容を依頼する対象が存在しない場合もあります。そのような場合でも労災保険の申請は可能ですので、まずはあきらずに社労士に相談してみましょう。

6 サマリー

労災は、労働者災害を被った経験がないとなかなか分かりにくい保険の一つでしょう。申請作業においても、書類の記入項目などで、一般人には分かりにくいいくつかポイントがあります。労災認定されなかった場合の審査請求でも、一般人がおこなっても認定されることが困難であるなら、はじめから社労士に依頼するのが賢明であるといえます。

7 まとめ

・労災発生時に申請する労災保険は「労働者災害補償保険法」が基である。労災保険は雇用保険とセットで労働保険と呼ばれる。

・社労士は労災に関して、労災保険の申請・給付手続き、労働保険の加入・更新手続きなどをおこなう。

・中小企業にとっては負担である労働保険事務は、労働保険事務組合に委託できるが、該当の事業主となるためにはいくつか規定がある。ただ、労働保険事務組合がおこなえる社労士業務は、規定で限定されている。

・社労士試験での労災の出題範囲は、おおむね「保険給付」「社会復帰促進等事業」である。「保険給付」では時効、通勤災害、適用関係などが頻出項目と見られている。

・労働基準法では、労災発生時の事業主の責任範囲や、休業補償給付までの3日間の待機期間に対しては事業主が平均賃金の60%を支払うことなどが定められている。

・労災には業務災害・通勤災害・第三者行為災害の3つがあり、労災請求の様式も、治療費や休業補償などの請求内容によって、5~8号まである。

社会保険労務士カテゴリの最新記事