インフルエンザには勤務停止の基準はある?罹患したら有給休暇を取るしかない?申請できる手当など、労務の観点から解説

インフルエンザには勤務停止の基準はある?罹患したら有給休暇を取るしかない?申請できる手当など、労務の観点から解説

夏が終わると秋になり、やがて冬が来ます。1年の終わりに近づくにつれてよく耳にするようになるのが「インフルエンザ」に関するニュースです。受験生にとっては過敏にならざるを得ない内容ですし、会社員にとっても、仕事の佳境に罹患するような事態は避けたいはずです。

なるべく予防したいインフルエンザですが、もし罹患して病欠となったときは有給休暇を使うしかないのでしょうか。この記事では、労務の観点から見たインフルエンザによる病欠について解説し、申請できる保障についてもまとめていきます。

1 インフルエンザの勤務停止期間とは?

インフルエンザは、時には死亡者もでるほど重篤化しやすい感染病です。人に感染してしまう病気であるため、自分がいくら元気だと思っても、ウィルスが体内に残っているうちは外出を控えるのが常識とされています。

つまり、インフルエンザに罹患すれば勤務停止状態に追い込まれるのですが、この場合の休みは、労務上どのように扱われるのでしょうか。また、会社員には「有給休暇」「休業手当」「傷病手当」といった福利厚生や保障が与えられていますが、インフルエンザで会社を休んだ場合に得られる保障はあるのでしょうか。

(1)「学校保健安全法施行規則」による学校の場合

「インフルエンザにかかって月曜に解熱したら、いつから登校・出勤してもいい?」というクイズを取り扱う記事がありました。

子どもの頃、自分のクラスがインフルエンザで学級閉鎖になった経験は誰でもあるでしょう。また、なかなか登校許可がでなかった記憶もあると思います。

下記のクイズに答えながら、インフルエンザ罹患時の外出(登校や出勤)停止期間について学んでみましょう。

【問題】金曜日の朝、小学生の子どもが発熱し、近所のお医者さんに連れて行くと、インフルエンザと診断されました。ウイルスに効く薬を処方してもらい、月曜日には熱が下がりました。この場合、小学校はいつから登校可能でしょう?

(1)火曜日
(2)水曜日
(3)木曜日
(4)金曜日

正解は、(3)木曜日です。

子どもがインフルエンザにかかった場合の出席停止期間は、学校保健安全法等の「学校保健安全法施行規則」で定められています。それによると、インフルエンザの出席停止期間は「解熱後2日を経過するまで」(幼児の場合は「3日を経過するまで」)かつ「発症した後5日を経過するまで」とされています。

出典:日経Gooday

つまり「学校保健安全法施行規則」によると、上図の通り金曜日に発熱し月曜日に解熱した場合は、木曜日に登校可能になります。

発症日はカウントに入れません。また、熱が下がった時間帯も、カウントには入れません。また、解熱後2日といっても、最大で72時間ほどたたないと登校できないルールになっています。

同記事は「もし解熱したのが早く、日曜日だったらどうなるのか」をパターン2として図解しています。

「解熱後2日経過」の条件に照らすと、日曜日に解熱し、月曜日、火曜日と休んだ後、水曜日には登校できるのかと思われます。ところが、水曜日登校では、もう1つの条件である「発症した後5日を経過」をクリアしていません。ですので、早めに解熱したとしても、登校は結局木曜日となるのです。

出典:日経Gooday

同記事は、このように「学校保健安全法施行規則」による出席停止期間の考え方を解説するとともに、学校の場合もう一つ判断基準があることについて触れています。それは「学校保健安全法施行規則」第十九条で定められた、”医師が病状を診て「感染の恐れがない」と判断した場合”です。この場合、出席停止期間の条件を満たさなくても登校(園)が可能になります。

(2)会社の場合はどうなる?

大人の場合は、残念ながら季節性のインフルエンザについての出社停止期間を定めた法律はありません。

ただ、会社によっては就業規則に、インフルエンザ罹患時の就業制限について定めているところもあります。自分の会社はルールを定めているのかどうか、まずは確認してみましょう。

2 勤務復帰にあたって証明書は必要か

学校は、発症や解熱から数えた日数を登校可能日の判断基準にしています。それでは、会社員の場合、インフルエンザから職場復帰を果たす際に会社から「証明書」の提出を求められたら、どうすれば良いのでしょうか。

厚生労働省のホームページに、この内容に関する質疑応答が載っていましたので引用します。

Q.18:
インフルエンザに罹患した従業員が復帰する際に、職場には治癒証明書や陰性証明書を提出させる必要がありますか?

A.:
診断や治癒の判断は、診察に当たった医師が身体症状や検査結果等を総合して医学的知見に基づいて行うものです。インフルエンザの陰性を証明することが一般的に困難であることや、患者の治療にあたる医療機関に過剰な負担をかける可能性があることから、職場が従業員に対して、治癒証明書や陰性証明書の提出を求めることは望ましくありません。

出典:厚生労働省

「インフルエンザの陰性を証明することが一般的に困難である」ことは、あまり知られていないかも知れません。もし、職場からインフルエンザの治癒証明書や陰性証明書の提出を求められてしまったら、この質疑応答を示しても良いでしょう。

3 会社に「休むな」といわれたら

インフルエンザは感染力が強く、罹患すると激しい症状にみまわれます。時には重篤にもなるため、罹患したら普通は会社を休むようにいわれます。

しかし、高齢の方の中には、インフルエンザは風邪のひどいヤツといった誤った認識を持っている人もいます。もしインフルエンザに罹ったのに「休んではいけない」という上司がいたらどうすれば良いのでしょうか。

(1)感染予防法で指定された「新型インフルエンザ」

感染予防法とは:

「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の略称。

感染性が強く生命および健康に重大な影響を与える感染症を指定し、その予防・蔓延(まんえん)防止について規定した法律。法律の対象とする感染症を感染力や症状の重篤性に基づいて、1類感染症から5類感染症に分類し、さらに新型インフルエンザ等感染症・指定感染症・新感染症について定めている。

出典:コトバンク

このように新型インフルエンザは、感染予防法において同法の対象とされており、予防・蔓延防止について規定されています。

(2)季節性インフルエンザは就業制限の対象外

新型インフルエンザと違い、冬に流行する季節性インフルエンザは、就業制限の対象とはなっていません。実は、学校と違って会社には、従業員がインフルエンザに罹患した場合の法律上の規定が設けられていません。

労働安全衛生法ではどうでしょうか。同法は「事業者は、伝染性の疾病その他の疾病で、厚生労働省令で定めるものにかかった労働者については、省令で定めるところにより、その就業を禁止しなければならない」と規定しています。

しかし「感染予防法」では、新型インフルエンザは就業禁止に該当しますが、季節性インフルエンザは「5類感染症」で、就業制限の対象外となっているのです。ですので、おかしなことですが、季節性インフルエンザ罹患時に会社に出勤を強制されても、法律違反にはならないことになります。

4 会社が「休め」という場合

季節性インフルエンザは感染予防法では就業制限の対象外ですが、一般的には季節系インフルエンザに罹患したら、会社から「休め」といわれます。このことは労務上どのように解釈すれば良いのでしょうか?

(1)労働契約法には安全配慮義務が

既に申し上げたように季節性インフルエンザは就労制限の対象外なのだから、会社が社員の出勤を停止する法的根拠はないのでは、と思われた方もいるかも知れません。

しかし、労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)には

使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとする。

と使用者の義務を規定しています。つまり、季節性インフルエンザでも、罹患している社員を出勤させればその社員の病状悪化のみならず、職場中に感染してしまう状況を、使用者は阻止しなくてはならないのです。また、会社が罹患者に出社を強要し症状が重篤化したような場合や、社内感染が拡大した場合には、会社は安全配慮義務違反を問われる可能性もあります。

労働者の健康保護と職場の労働者保護の観点から、会社はインフルエンザ罹患者に会社を休むようにいうのです。

5 インフルエンザでも「傷病手当金の申請」が可能

「傷病手当金」とは、労災とは違い業務外の病気やケガで会社を続けて休んだ場合に、健康保険から支給される手当です。同手当は、病気やケガで4日以上の連続した労務不能期間があれば、支給されます。

インフルエンザの場合は、発熱から5日間は会社を休むことになるでしょう。この場合、休業の4日目以降に対して傷病手当の申請が可能となります。

(1)傷病手当金

傷病手当金の支給条件とは以下の通りです。

①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること

②仕事に就くことができないこと

③連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと

④休業した期間について給与の支払いがないこと

また、支給される期間は、支給開始した日から最長1年6か月です。1年6か月の間で仕事に復帰した期間があったのに、その後再び同じ病気やケガにより就労できなくなった場合でも、復帰期間も1年6か月に算入される制度です。ただし、支給開始後1年6か月を超えても仕事に就くことができない場合は、傷病手当金は支給されません。

出典:全国健康保険協会

傷病手当金の支給額の計算式は、以下の通りです。

1日当たり   支給開始日以前の継続した12か月間の

の金額  =   各月の標準報酬月額を平均した額    ÷ 30日 × 2/3

新入社員のように有給取得の資格が付与されていない場合でも、傷病手当は申請可能です。

(2)休業手当はもらえるのか

既に申し上げた通り、感染予防法指定の「新型インフルエンザ」以外の季節性インフルエンザに罹患した場合は就業制限の対象になりません。ですので、会社が罹患した社員を出社禁止にすることは、合法ではないことになります。

厳密には、罹患しても出社を希望する社員に対して出社停止の対応を会社がとった場合は、「会社都合」での休業となります。そして、この社員に有給が残っていない場合や、年次有給休暇の取得を拒否する社員に対しては、平均賃金の6割を保証する休業手当を支払う義務が生じるのです。

つまり、有給を使えない(使わない)インフルエンザに罹患した従業員を強制的に5日休ませた場合、事務的には、休業開始から最初の3日間の待機期間については休業手当を会社が支払い、その後2日間については健康保険の傷病手当金を申請する、という形になります。

出典:SmartHR

季節性インフルエンザによる欠勤に対する休業手当に関しては、逆の解釈も見られます。

労働基準法は休業手当の対象を「使用者の責に帰すべき事由による休業」と定めています。「使用者の責に帰すべき事由による休業」とは、例を挙げれば、急な業績悪化で工場や事業所を稼働停止し、社員を出勤停止にするケースなどのことです。

出典:NIKKEI STYLE

上図によれば、台風などによる交通機関のマヒには、会社の責任はないことになります。ですので休業手当の対象にならない可能性が高いのです。ただし、会社の就業規則で、自然災害時についての規定が定めてある場合は別です。

季節性インフルエンザで欠勤した場合は「病気休暇」となります。季節性インフルエンザによる欠勤が休業手当の対象のなるかは、それぞれの会社の判断によるところが大きいでしょう。

(3)季節性インフルエンザは公休扱いにならない?

季節性インフルエンザは休業手当の対象になるのでしょうか。この疑問に対する質疑応答が記事として取り扱われていました。回答者の社労士から詳しい解説があったので紹介しましょう。

Q.

先日インフルエンザに感染し、月曜から木曜まで会社を休みました。しかし、木曜に熱が下がったので「金曜から出勤する」と伝えると「もう1日休め」という上司の指示。仕事もたまり、有給休暇も使い切ってありません。結局、金曜は欠勤扱いになったのですが、これは明らかに会社都合の出勤停止命令だと思います。こうした場合、公休扱いにはならないのでしょうか。

A.

法的な話は後述しますが、上司は質問者の体調を考えて指示したのだと思います。(中略)

では、公休扱いになるのでしょうか。結論から言うと、難しいでしょう。そもそもインフルエンザのような病気は「私傷病」と呼び、原則有給休暇を取得して休むことになります。(中略)

社員が季節性のインフルエンザに感染して会社を休んでも、それは会社の責任ではありません。(中略)

例えば受注量が減って工場の稼働を数日間ストップする場合などがこれに当たります。この場合は、公休扱いとなるほか、後述する休業手当の対象となります。

(中略)

今回の上司の指示は1週間の休暇であり、一般的に見て妥当だと思います。質問者も、上司から小言や嫌がらせを受けたのではなく、気遣いで休むよう言われたのだと感謝するぐらいでよいでしょう。

出典:日経XTECH

上記の社労士による回答では、新型インフルエンザでさえ法的には休業手当の対象外であると断言しています。省略しましたが、同回答者は記事中で、学校における登校停止基準についても触れています。もしかしたら、この学校での基準が会社においても同じく適用されるという誤解を世の中に生んでいるのかもしれません。

6 産業医のインフルエンザに関する見解とは

産業医の観点から見た、季節性インフルエンザ罹患時の勤務停止の有無とはどのようなものでしょうか。

「ビジネスパーソンがインフルエンザにかかったら?」と題した産業医による医療コラムから、回答をまとめてみましょう。

(1)インフルエンザ罹患に法的な制限は?

インフルエンザは、伝染力が強い病気であるため、学校では「学校保健安全法」に基づいて、「学級閉鎖」や「登校禁止」をおこなうための判断基準がきちんと設けられています。

しかし会社の場合、労働安全衛生法には出勤停止について定めた項目はないため、勤務停止を命じる強制力はありません。しかし、会社が規定を設けている場合は、その規定に応じて出勤停止の措置がとれます。

インフルエンザは、体力のないお年寄りや子供が罹患すると、 場合によっては命にかかわる病気です。労働安全衛生法には勤務停止を命じる強制力はありませんが、 労働者保護の視点で、インフルエンザに罹患した従業員には出社停止を命じることが望ましいです。

(2)一般的にはどの程度の期間は出社しない方が良いか

学校保健安全法には「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで学校に登校してはならない」という規則があります。これを基に勤務停止期間を定めている会社が多いようです。近頃は、タミフルやリレンザなどの対処薬の力で、非常に早く解熱されることがありますが、ウイルスそのものは体内に残るため、 周囲に感染させてしまう可能性が残っています。

「学校保健安全法施行規則」にならって「解熱した後2日」までは、出社せずに身体を休める方が良いと思われます。新薬も話題になっていますが、服用については主治医に相談しましょう。

(3)熱が下がったら、まずは在宅勤務できる環境を整える

繰り返しになりますが、熱が下がるまでは、しっかりと睡眠と栄養を取って回復に努めることをおすすめします。その上で解熱後の2日間は、自分の周りに感染者を増やさない働き方をしていただきたい。具体的には、こまめな手洗いをおこない、マスクをつける。人が密集する満員電車などは、更なる感染の防止のため避けましょう。

また、熱が下がったら、在宅勤務などテレワークで仕事をするという選択肢があることが望ましいといえます。

7 サマリー

インフルエンザによる欠勤の扱いについて、明確な知識を持っていた人は少ないのではないでしょうか。体力のない子どもの集まりである学校では出席停止の判断基準が明確ですが、自分の会社にはインフルエンザ欠勤の扱いについて、具体的な規定があるのか調べておきましょう。

8 まとめ

・学校は「学校保健安全法施行規則」により、インフルエンザを罹患した子どもの登校停止期間の基準を設けている

・対して、インフルエンザの勤務停止期間を定めた法律はない

・新型インフルエンザは感染予防法で就業制限の対象となっているが、季節性インフルエンザは対象外である

・インフルエンザ罹患による欠勤には、健康保険から支給される傷病手当金を申請できる

・インフルエンザ罹患による欠勤に対しては、休業手当はもらえないので、有給休暇を消化して休むべきと考えられている

・産業医も、季節性インフルエンザ罹患時が就労制限の対象でないにせよ、周りへの感染防止のために解熱後2日までは会社を休み、可能なら身体が楽になったら在宅勤務できる環境が整えられるべきと述べている

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