苦労して社労士になっても食えないってホント?社労士は報われない職業なのか?

苦労して社労士になっても食えないってホント?社労士は報われない職業なのか?

社会保険労務士(社労士)」と検索すると、「食えない」というキーワードが上がってくることはありますか?本気で社労士を目指している人にとっては、不安材料になってしまいますよね。企業が終身雇用してくれる時代も過ぎ去った今、どんな職業でも、実力がなければ上手くいく補償は無い時代になりました。社労士としてやっていけるかどうかも実力次第なのはいうまでもありませんが、果たして苦労して社労士になっても「食えない」ケースはあるのでしょうか。この記事では、社労士は食えないのか、また「食える」社労士になるにはどうすれば良いのかについてまとめていきます!

1 社労士は「食えない」のか?

社労士になるための登竜門である社労士試験は、合格率が6%前後の難関国家試験です。合格するために必要な勉強時間は、800~1000時間以上ともいわれるのですから、簡単には合格できない試験であることに間違いありません。また、試験には受験資格が設けられており、それを満たさない場合は然るべき研修を受けなければ社労士登録ができません。これらの条件を突破した人だけが晴れて社労士登録できるのに、「食えない」ことがあるのでしょうか。

⑴ 社労士が「食えない」といわれる理由

社労士登録をしたからといって、その日から仕事がバンバン入るわけではありません。社労士登録には、独立型と勤務型があります。独立型は文字通り自分で事務所を構えることで、勤務型は一般企業に就職して専任の社労士になることです。独立開業の問題はどうやって仕事を獲得するかに尽き、また勤務社労士として働く場合は、働きたくても、スムーズに就職先が見つかるかどうかが問題です。

➀ 仕事が取れない

社労士が独立開業したら、まずはじめに顧客の獲得に努める必要があります。しかし、新規開業後の顧客獲得の苦労はどの職種にもつきもので、何も社労士に限った話ではありません。

近年の営業活動には、対面や電話営業、人脈を活かした営業だけでなく、インターネットの普及に伴って様々な手法がうまれています。ホームページ開設をおこなうのはもはや当たり前で、FacebookやTwitterによる情報発信の営業効果もあなどれません。

社労士になるまで、営業には無縁だった人も少なくないでしょう。営業には得意不得意があるため、独立してはじめて営業活動を経験する社労士は気が滅入ってしまうかもしれません。また、営業活動ばかりに専念するわけにはいかず、然るべき勉強もして、法改正や助成金の新制度などにその都度キャッチアップしなければなりません。このような事情が重なることで営業活動が上手くいかない社労士が「社労士は食えない」と言いだし、その結果廃業に追い込まれる場合もあるでしょう。

しかし、独立社労士では上手くいかずに廃業したとしても、社労士事務所に雇ってもらうという選択肢もあります。また一般企業の総務・人事に、社労士資格を活かして就活することもできます。

➁ 初期費用が高い

社労士として登録し独立するには、都道府県の社労士会への登録費用をはじめ、様々な初期費用がかかってきます。納める費用は都道府県によって異なるのですが、独立開業の初期費用として考えられる費用の内訳をざっと挙げてみましょう。

 

事務指定講習 約70,000円 ・2年以上の実務経験がない合格者のための講習

・交通費や宿泊費も発生

登録手数料 30,000円
登録免許税 30,000円 (収入印紙)
入会金(開業型) 50,000円  (勤務型等) 30,000円
年会費(開業型) 96,000円 (勤務型等) 42,000円

東京都社会保険労務士会の資料を基に作表

 

勤務型で社労士登録をおこなう場合は、その費用や入会金、年会費などを、勤務先となる会社が負担してくれることもあります。

しかし独立開業する場合は、初年度に30万円ほどの初期費用がかかることになります。社労士会への登録費用などの他にも、ホームページ開設やPCと周辺機器などの購入費用がかかる場合が多いからです。事務所を構える場合は、賃貸契約費用も加算されます。

れだけの初期費用を要しながら、開業してもなかなか売上が上がらない場合は、「社労士は食えない」という結論にいたっても不思議ではありません。

③ 社労士事務所勤務は安い

独立開業は避けて、社労士事務所に就職するという選択肢もあります。しかし、社労士事務所に勤務すると、一般的に高い給与は望めません。初任給ほどが相場でしょう。このような給与では、妻子持ちはなかなか就職する決断ができません。

⑵ こんな社労士は「食えない」

これまでは、社労士が食えないといわれる原因を社労士という「職業」に求めてきました。しかし、属人的な理由で食えなくなる社労士もいるのではないでしょうか。次は「食えない」社労士の特徴について挙げていきます。

① 実務経験ゼロ

社労士試験は難関国家試験です。そのため社労士資格を持つ学生が就活をすると、採用担当者に大きくアピールできるといわれています。しかし、それはポテンシャル採用が可能な新卒就活生の場合で、実務経験ゼロの開業社労士はというと話は違ってきます。

社労士試験合格後に勤務社労士として就職先を探す場合も、人事・総務部経験のない人は難しいかもしれません。

知識を持っているだけで、顧客からの質問に即答できないような社労士だと、顧問契約の締結どころか案件獲得も難しいからです。

 

 

② 人脈ゼロ

繰り返しますが、実務経験がゼロの社労士は就職や顧客獲得が困難です。しかし、人脈がある場合は別です。例えば親族に社労士がいるなど、登録後に実務経験を積ませてくれるつてがある場合や、経営者に人脈があり、仕事をまわしてもらえる場合などはラッキーです。勤務社労士になりたい場合、一般企業の総務に人脈があって、社労士試験合格後に採用してもらえる場合もラッキーです。就職後に実務経験を積むことができます。

もしそのような人脈が全くない場合は、自分の周りにいる親族、近所の人、友人をもう一度チェックしてみましょう。店を経営したり工場をやってる自営業者の中には、労務の問題で困っている人がいないとも限りません。人を雇ってることで派生する問題の解決なら、社労士の出番なのです。駆け出しの頃は、こういったごく小さなチャンスもおろそかにはできないはずです。

③ 社労士会に全面的に頼ることはできない

社労士会に登録していると、研修を受けることができたり、仕事を紹介されることがあります。しかし、顧客獲得に関しては、基本的に自分の力で頑張らなければいけません。

社労士会が紹介してくれる仕事を「行政協力」と呼びますが、ずっとこれに頼ってやっていけるほど甘くはないので注意が必要です。ちなみに行政協力には以下のような仕事があります。

 

年金相談会 ・年金事務所などで年金相談を受ける業務。

・郵便局、市役所、商業施設、高齢者センターなどが会場になる場合も。

・電話や来所者の相談を受ける。

・大量募集されることもある。

セミナー講師 ・行政がおこなう転職セミナーなどの講師。
労働局での業務 ・労働保険の年度更新業務をサポート。

・繁忙期の7月に数日間募集される。

・毎年募集がある。

試験監督官 業務募集人員が多いが、社労士試験日限定の募集になる。

 

ご覧の通り、「行政協力」は一時的な仕事がほとんどです。仕事というよりアルバイトといった方が適切でしょう。専門的知識を要するため報酬は高めですが、試験監督官などは就業期間は1日と、単発です。

社労士登録したら社労士会に仕事獲得も依存できるだろうという考えは、捨てるようにしましょう。

2 社労士は「食える」職業だといえる理由

これまでは、社労士が食えない資格であるといわれてしまう原因を追及してまいりました。しかし実際には、高い収入を得ている社労士もいます。以下では、社労士の年収や将来性などを挙げながら、社労士が「食える」資格であるといえる根拠を列挙していきます。

⑴ 平均年収は約670万円と高収入

国税庁の民間給与実態調査は、平成30年における日本人の平均年収を算出しました。それによると平均年収は約441万円となります。対して社労士の平均年収は、約670万円といわれています。これはかなり日本人の平均値と比較すると、かなり高い数値です。もちろん、これ以上の年収がある社労士も当然いるはずです。

⑵ 需要が高まっている

近年、社労士の需要は高まりを見せています。2019年の働き方改革では、長時間労働に対する罰則付き法律などが施行され、企業は労務管理の見直しや徹底を迫られました。また2020年の新型コロナウィルス感染拡大では、多くの助成金が制度を拡充したため、社労士はその専門知識を以ってキャッチアップしようという企業と労働者をサポートしてきました。

いまや、就活生の就職先の条件に、「ライフワークバランスの実現」を掲げていることが含まれる時代になりました。もはやブラック企業などはもってのほかで、コンプライアンス遵守を徹底した企業経営が取引先・就職先としてのぞまれる世の中になった今、労務の専門家である社労士の需要は高まり続けています。就業規則、勤怠管理、賃金制度の作成や見直しなど、多くの改善が企業に求められている今、社労士に専門的なアドバイスを求める企業は増えているのです。

⑶ 社労士の報酬にはベースがある

現在、社労士は自由に案件の報酬価格を設定できるようになっていますが、以前は「社会保険労務士報酬基準」という報酬ベースに依拠していました。この基準は平成15年には廃止され、社労士の報酬は自由設定に変わったのですが、実は今も報酬の相場として参考にされています。

また、社労士の顧問契約の報酬額も、人員数に比例して上がるようになっています。このように社労士の報酬には、基本的なベースが存在していることで、競争の激化で社労士報酬が値下がりするようなことが起きないようになっています。

➀ 社会保険労務士報酬基準

下表は、東京都社会保険労務士会がかつて定めていた「旧報酬基準」を基に作表したものです。

 

人事・労務報酬 相談指導  50,000円
企画立案  50,000~1,000,000円
就業規則、諸規程等の

作成・変更

就業規則  200,000円
就業規則の変更 協議 賃金・退職金・旅費等の諸規定  各100,000円
安全・衛生管理等諸規定   各100,000円
寄宿舎規定  100,000円
保険給付申請・請求 健保・労災給付請求  30,000円
年金(厚生年金・国民年金・基金)給付請求 30,000円
第三者行為による保険給付請求

(労災の場合)

80,000円

➁ 顧問契約

社労士は、企業と顧問契約を締結します。顧問先企業の各種保険関連の手続きや人事・労務相談などを、毎月定額で対応するスタイルが、顧問契約です。顧問契約の報酬額は、企業の従業員数に比例して上がっていきます。下表はその一例です。

 

人員        報酬月額      人員        報酬月額
4人以下  20,000円     70~99人    100,000円
5~9人   30,000円   100~149人   130,000円
10~19人  40,000円   150~199人   160,000円
20~29人   50,000円  200~249人  190,000円
50~69人  80,000円   300人以上  別途協議

(参考:東京労務管理総合研究所 社労士の報酬より

3 これからの時代も食える社労士になるには?

これまで、社労士が「食える」資格だといえる根拠を挙げてまいりました。それでもAIの台頭による職業淘汰など、未来への懸念材料もまだまだ存在することは確かです。

社労士が未来においても、十分食っていける将来性のある職業であるといえる根拠はあるのでしょうか。

⑴ コンサルタント業務はAIでは代替不可

社労士にも、その業務の担い手を将来AIに取って代わられてしまうのではという懸念が囁かれています。しかし、そのような懸念が囁かれるのは、あくまでも社労士業務の1号、2号についてです。

 

1号業務 労働保険関連の書類の作成・提出代行、社会保険への加入・脱退、給付手続きや助成金の申請など
2号業務 労働社会保険諸法令に則った帳簿書類の作成、労働者名簿や賃金台帳の作成、就業規則・各種労使協定の作成など
3号業務 労務管理や社会保険などの相談、指導(コンサルティング)

 

ご覧の通り、1号・2号業務の多くは手続き業務だといえます。将来AIに取って代わられる懸念があるのは、これらの業務の比較的単純な作業です。

確かに、申請書類の作成や給与の計算などは、将来省力化が図られAIに代替される可能性があります。しかし、3号業務である「コンサルタント業務」についてはどうでしょうか。

労務コンサルティングは、企業の困りごとを素早く理解し、適切なソリューションを導き出す仕事です。コミュニケーション能力の高さも求められ、この分野で秀でていれば競合と大きく差別化が図れる業務なのです。

コンプライアンス遵守は、もはや会社経営の評価指針の一つとなったといえるでしょう。そのような中で社労士の担当分野は増え続けています。例えば、働き方改革関連法の遵守をはじめとして、労働問題ではハラスメント問題や健康経営の目指すメンタル問題の解決なども該当します。また、労働・社会保険等の法改正に対して、企業がキャッチアップできるようにサポートすることも重要な業務です。

コロナ禍前、政府が労働力不足の解決を図るために、外国人労働者の受け入れを緩和しようとしていましたが、これに伴い外国人雇用の問題の発生は必須でした。また、雇用問題などコロナ禍による問題は山積しています。

社労士による労務コンサルティングは、これからも社会から求められ需要は高まりつづけるでしょう。

 

⑵ 経営センスや営業力

前述の通り、社労士の活躍できる場は増えているはずです。それなのに、未だに社労士という職業の認知度が低いのも事実です。その理由には、弁護士や会計士のようにドラマ化された事例がないことと、会社員や経営者でなければ労務の専門家には縁がないことが挙げられるでしょう。だからといって諦めるのではなく、社労士自ら仕事を探すように努めれば、これほどまでにあったのかというほど潜在的なニーズが眠っているはずです。

士業といえど、仕事をただ座って待っているのではなく、自分の専門知識を発信して刈り取る時代になりました。例えば、動画配信サイトを見れば、社労士による助成金解説動画がたくさん投稿されています。無料コンテンツでありますが、今の時代はコンバージョンといって、動画などの情報発信で認知されたことから仕事に繋がる可能性は測り知れないのです。

難解な労務知識を手に取るように分かりやすく教えてくれる無料動画には、駅前の看板以上の宣伝効果があるといえます。このような情報発信能力がないと、今後はますます生き残るのが難しくなるかもしれません。

4 サマリー

社労士試験に合格したのに実務経験が乏しい場合は、実務をやらせてくれる環境とうまく出会うことが大事です。また、社労士にも経営センスや営業力が必要になることは間違いありません。社労士として雇われて活躍する道もありますが、独立開業したいのなら、経営センスや営業力は必須です。

5 まとめ

・社労士は「食えない」といわれることがあるが、その理由を追求している。

・社労士が独立開業すると仕事獲得が難しく、また勤務社労士として働くにも就職先を見つけるのが問題難しいため。

・その他の理由として、登録・開業の初期費用が高い、社労士事務所に勤務しても給与が安いなどがある。

・属人的な理由としては、実務経験ゼロ、人脈ゼロの社労士の場合がある。

・また、営業は全面的に社労士会頼みにはできない。

・一方で、社労士の平均年収は約670万円と高収入、近年需要が高まっていることから「食える職業」とする見方もある。

・「社会保険労務士報酬基準」や顧問契約の報酬ベースが存在することからもそういえる。

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