厚生年金保険法は複雑で理解しづらい? 社労士(社会保険労務士)試験科目の中でも難解な厚生年金保険法を解説

厚生年金保険法は複雑で理解しづらい? 社労士(社会保険労務士)試験科目の中でも難解な厚生年金保険法を解説

社労士(社会保険労務士)の試験科目で最難関といわれるのは労一、社一の一般常識科目です。それに次ぐ受験生泣かせの科目が「厚生年金保険法」です。

度重なる法改正と、経過措置と呼ばれる段階的処置が存在することで複雑になっている本制度は、どうすれば効果的に学習できるのでしょうか。厚生年金法の基礎は国民年金法なのですが、両者の類似点・相違点は知識の混同が起こりやすいので、よく整理していきたいものです。

この記事では、厚生年金保険法を学習するにあたっての注意点と効果的な学習方法をまとめていきます。

1. 社労士(社会保険労務士)試験の厚生年金保険法が複雑な理由

度重なる法改正とそれに伴う経過措置によって、厚生年金保険法は国民年金法とは比較にならないくらいにボリュームが膨れ上がり、複雑なものとなっています。その主な理由の一つが「経過措置」です。

(1)経過措置

昭和61年の大改正で新法と旧法に分かれた時以降、段階的措置を取りながら新制度へ移行しました。

これが経過措置で、原則を掲げながらも例外措置をとる、この措置のおかげで、未だに提要されている旧法もあります。経過措置が取られる背景には必ず理由があるため、その部分をきちんと理解すれば恐れるものではありません。特に、老齢厚生年金の経過措置は中心的にに理解を深めましょう。

(2)沿革

昭和60年 大改正 年金支給開始年齢が60歳から65歳に。
平成27年10月1日 共済年金(公務員、私立学校教職員が対象)

厚生年金保険が厚生年金保険に一元化される。

2. 社労士試験における厚生年金保険法の頻出問題

(1)基本給付

厚生年金保険は会社員が加入する年金制度で、2階建て年金の2階部分にあたります。厚生年金保険の加入者である被保険者は、原則として国民年金の被保険者でもあります(第2号被保険者)。両方の制度に加入していることになるので、年金も両方から支給されることになります。

出典:多摩信用金庫 

表1:厚生保険年金給付の種類

分類 給付 詳細
老齢 ①60歳代前半の老齢厚生年金 厚生年金の加入期間が1年以上あり老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていれば、当分の間、60歳から64歳まで特別に支給される老齢厚生年金。
②老齢厚生年金 厚生年金に加入していた人が、老齢基礎年金の受給資格期間を満たしたときに、65歳から老齢基礎年金に上乗せして受ける年金。年金額は「平均標準報酬月額×支給乗率×加入月数」で計算される。
老齢厚生年金には経過的加算がプラスされ、加入期間が20年以上ある場合、その人に生計を維持されている65歳未満の配偶者、または18歳未満の子、20歳未満で1級・2級の障害の子がいれば、加給年金額が加算される。
障害 ③障害厚生年金 厚生年金に加入している人が、加入中の病気やけがで障害になったとき受けられる年金。
障害厚生年金を受けるためには、障害基礎年金の保険料納付要件を満たしている必要がある。
④障害手当金 厚生年金に加入している間に初診日のある病気・けがが初診日から5年以内になおり、3級の障害よりやや程度の軽い障害が残ったときに支給される一時金。障害基礎年金の保険料納付要件を満たしている必要がある。
死亡 ⑤遺族厚生年金 厚生年金に加入している人が、

①在職中に死亡した場合

②在職中に初診日のある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡した場合

③障害等級1級または2級に該当する障害厚生年金の受給者が死亡した場合

④受給資格期間が25年以上ある人が死亡した場合に、遺族に支払われる。

その他 ⑥脱退手当金 厚生年金の加入期間が5年以上あり、60歳になっても何の給付も受けられないまま加入をやめた人に対し、例外的に支給される。
⑦脱退一時金 ①国民年金第1号被保険者として納付期間が6カ月以上ある外国人
②厚生年金の加入期間が6カ月以上ある外国人で、年金を受け取ることができない人が出国後2年以内に請求を行った場合、納付期間・加入期間に応じて支給される。

出典:goo ニュース

「団塊世代も逃げ切りに失敗「年金格差」を世代別比較」のgooニュース記事では、「年金格差」と呼ばれる、世代別の年金受給額と払い込み額の差額について言及しています。同記事によれば1950年生まれ以降の「団塊世代」以降は、支給額が納付額を上回る「差額」が減少傾向に転じ、その後も減少の一途を辿っています。1930年生まれであれば、差額は3,655円もあったのですから驚きです。

1941年(昭和16年)4月1日以前生まれが「完全逃げ切り世代」と呼ばれます。1949年(昭和24年)4月2日移行生まれは「踊り場世代」と呼ばれますが、上昇と下降のはざまで足踏み状態にいるという意味です。「65歳現役世代」と呼ばれる1961年(昭和36年)4月2日以降生まれの世代もいます。

これを「段階的廃止」と呼びます。

①老齢厚生年金

老齢厚生年金では、老齢厚生年金を構成する全体像と各年金の名称を覚えなくてはなりません。下表に、老齢厚生年金の全体像を作表しました。

表2:老齢基礎年金の全体像

加給年金額

生計を維持している65歳未満の配偶者、または18歳(1、2級障害者は20歳)までの子がいる場合、加算される

報酬比例部分

被保険者であった時の報酬をベースに加算。つまり保険料の支払いに比例

老齢厚生年金

厚生年金に加入していた人が、老齢基礎年金の受給資格期間を満たしたときに、65歳から老齢基礎年金に上乗せして受ける年金

定額部分

65歳から支給される老齢基礎年金の部分

経過的加算額

65歳以降の老齢厚生年金に、定額部分から老齢基礎年金を引いた額を加算した額

老齢基礎年金

国民年金に10年以上加入した人が65歳から受ける、全国民に共通した年金

60歳                  65歳

なお、支給額の計算式は「平均標準報酬額 × 給付立乗率 × 被保険者期間の月数」です。

②障害厚生年金

厚生年金に加入している人が、加入中の病気やけがで障害者になったとき受けられる年金ですが、国民年金の障害基礎年金と共通部分が多くあります。障害厚生年金を受けるためには、障害基礎年金の保険料納付要件を満たしている必要があります。この要件を「支給要件3点セット」(初診日、障害認定日、保険料納付)と呼びます。

相違点としては、障害等級が違います。

障害基礎年金の障害等級:1、2級

障害厚生年金の障害等級:1、2、3級

つまり、1級・2級の場合は障害基礎年金と障害厚生年金が、さらに程度の軽い障害の場合は、3級の障害厚生年金だけが支給されます。

③障害手当金

障害手当金の計算方法は以下の通りです(平成31年度)。下記の2つを合計を2倍した額となります。

平均標準報酬月額 × 7.125/1000 × 平成15年3月以前の被保険者期間

平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 平成15年4月以後の被保険者期間

なお、最低保障額である1,170,200円に満たない場合は、最低保障額が支給されます。

④遺族厚生年金

遺族厚生年金と遺族基礎年金は、その相違点をまとめて覚えましょう。

表3:遺族厚生年金と遺族基礎年金の相違点

遺族厚生年金 遺族基礎年金
①被保険者が死亡 ①被保険者が死亡
②被保険者が死亡したとき、または被保険者期間中の傷病がもとで初診の日から5年以内に死亡したとき。 ②被保険者の国内在住者で、60歳以上65歳未満の者が死亡したとき。
③老齢厚生年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき。 ③被保険者または老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある者が死亡したとき。
④1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けられる者が死亡したとき。 ④保険料納付期間+保険料免除期間+合算対象期間が25年以上ある者が死亡。

また、社労士試験の頻出問題に「若年妻」の受給権があります。若年妻とは夫の死亡時に30歳未満の妻のことです。

子のない若年妻が、遺族基礎年金の受給権を取得しない場合は、受給権は5年で消滅です。

子のある若年妻が、遺族基礎年金の受給権を取得し、且つ妻が30歳前に遺族基礎年金の受給権が消滅した場合は、その日から5年で受給権は消滅します。

(2)「被保険者」

・厚生年金保険の適用を受ける会社に勤務する全ての人(70歳未満)。

・個人経営の農業、サービス業など厚生年金の適応事務所でない会社に勤務する人は、任意で「任意単独被保険者」になれる。

・70歳になっても老齢年金の受給権がないひとへの救済策として「高齢任意加入被保険者制度」があります。

※「任意単独被保険者」になるには、事業主が保険料の半分を負担してくれ、本人分もあわせて納付することに同意してもらう必要があります。

表4:厚生年金保険の被保険者の種別

種別 被保険者 実施機関
第一号厚生年金被保険者 民間企業の被保険者 厚生労働大臣
第二号厚生年金被保険者 国家公務員 国家公務員共済組合

国家公務員共済組合連合会

第三号厚生年金被保険者 地方公務員 地方公務員共済組合
全国市町村職員共済組合連合会
地方公務員共済組合連合会
第四号厚生年金被保険者 私立学校の教職員 日本私立学校振興
共済事業団

(3)「保険料」

年金額の算出には「標準報酬月額」が使われます。標準報酬月額についての解説を引用します。

報酬とは、基本給のほか役付手当、通勤手当、残業手当などの各種手当を加えたもので、臨時に支払われるものや3カ月を超える期間ごとに受ける賞与等を除いたもののことであり、報酬月額を1等級(8万8千円)から31等級(62万円)までの31等級に分け、その等級に該当する金額を標準報酬月額といいます。 標準報酬月額は原則として年に一度見直されます。標準報酬月額に保険料率を掛けたものが保険料になり、在職中の標準報酬月額に再評価率を掛けたものを平均したものが年金額の計算に使われます。

出典:日本年金機構

厚生年金の標準報酬月額の幅は、健康保険と比べ狭くなっています。具体的には、最低が88,000円(第一級)~最高62万円(第31級)で、この理由は、厚生年金保険はこの標準報酬月額が将来の年金額のベースとなるからです。ゴロ合わせがありますので、これで覚えましょう。「ハハ(88)はムリ(62)にサイコン(31級)」です。

(4)総則

国民年金法と同じく、総則もチェックが必要です。

厚生年金保険法

第一章 総則(この法律の目的)

第一条 この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

出典:厚生労働省

ただ条文を読んでいても得点源とするのは難しいため、総則のポイントが学べる講座を受けたるのも良いでしょう。

(5)厚生年金基金

確定給付企業年金、企業型確定拠出年金とともに、年金3階部分を担うのが厚生年金基金です。国民年金基金と同じく、従業員により手厚い老後所得を保障するのが目的です。厚生年金の一部を国に代わって支給する(代行部分)し、企業の実情に合わせて上乗せ給付をおこなって(プラスアルファ部分)います。
事業主が負担する掛金は全額損金として扱われ、加入員が負担する掛金は社会保険料控除の対象となるなど、公的年金と同様の税制上の優遇措置が認められています。

(6)その他の頻出用語

①届出

健康保険・厚生年金保険では、会社(事業所)単位で適用事業所となります。その事業所に常時使用される人は、国籍や性別、賃金の額等に関係なく、すべて被保険者となります。(原則として、70歳以上の人は健康保険のみの加入)事業所が従業員を採用した場合は、新たな加入すべき者が生じた場合に、事業主が提出します。

厚生年金は、届出期限がよく出題されます。ゴロ合わせとしては「事業所5日、船10日、受給権者10日」で覚えましょう。

②制限

国民年金にはない給付制限が、以下の通り2点あることに留意しましょう。

・厚生年金保険法74条、障害厚生年金の受給権者に故意・重過失等がある場合の年金額の改定に関する制限

・厚生年金保険法75条、保険料徴収権が消滅したことによる制限

74条は、わざと障害を悪化させた場合の措置で、障害等級が下げられてしまいます。75条は、保険料を徴収する権利が時効で消滅した場合、被保険者であった期間の保健給付はおこなわないとする制限です。

3. 社労士試験における厚生年金保険法の攻略ポイントとは?

国民年金法との類似点・相違点、度重なる法改正による経過措置など、覚える点が多いうえに、厚生年金保険法は受給資格や支給額の計算式なども難解です。厚生年金法の効率的な学習の鍵とは何なのでしょうか。

(1)深掘りしない

よくいわれるのが「マニアになるな」という警告です。膨大な範囲ながらも出題傾向は存在します。ですので、深掘りに終始しないようにしましょう。あくまで「社労士試験で狙われるポイント」を探しながら、的を絞った学習をしましょう。

(2)捨て問は捨てるいさぎよさ

厚生年金保険法でも、重箱のスミをつつくような意地悪問題は出題されるようです。そういう問題にとらわれると、本来解ける問題も解けませんので、潔く捨てましょう。

(3)出題傾向に沿った学習を

出題傾向に沿った学習方法が分かれば苦労しない、という声が聞こえてきそうです。ひとりよがりになりがちな独学の受験生は、社労士試験対策の講座を受講するのも良いでしょう。

(4)条文やテキストより、過去問

総則の紹介もいたしましたが、厚生年金保険法は、読んで全体像を理解できる代物ではありません。ならば、過去問を解いて説いて、出題傾向に慣れるという方法もあります。

4. 社労士試験における厚生年金保険法の学習方法の注意点

経過措置の理解を深めるためには、「なぜそうなったか」を理解するのが近道です。

①まずは発足時のすがたを理解しましょう。

②おこなわれた改正と、それに至った背景を理解できるように努めましょう。

③最後に、数字の暗記などで仕上げます。

5. サマリー

老齢・障害・遺族厚生年金の支給が基本中の基本です。この3つにたっぷり時間を割き、学習すべきだといわれています。厚生年金保険の保障内容の根拠を理解するのは大変ですが、企業が存在する以上必要な専門知識ですので、しっかりと理解しましょう。

6. まとめ

・厚生年金保険法が複雑なのは、昭和61年の大改正の経過措置によるものである。

・老齢・障害・遺族厚生年金の支給など厚生年金保険法の頻出問題は要確認。

・国民年金保険法と厚生年金保険法の類似点・相違点もポイントとなる。

・難解な内容を深堀りするよりも、過去問対策を中心に出題傾向に慣れていくこと。

・法改正に関しては、それに至った背景の理解に努める学習が重要である。

 

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