人事・労務、年金の専門家・社会保険労務士になるには?社労士試験の法律問題について解説

人事・労務、年金の専門家・社会保険労務士になるには?社労士試験の法律問題について解説

働き方改革が始動し、社会的にも労務の充実が求められている流れの中にあって、社会保険労務士(以下、社労士)に対する注目も高まっています。人手不足がより深刻化し、人材確保が企業の課題になっている社会的な状況も、社労士という職業が注目される背景になっているのでしょう。

社労士の資格を得るためには広範囲の法律について理解する必要があります。この記事では、社労士試験の合格を目指す方へ、効率の良い学習ポイントをお伝えします。

1. 社労士試験の試験科目とは

社労士試験は、毎年の約5万人もの受験申込者数を誇る人気の資格ですが、その受験範囲の広さから、合格の難易度が高いことで知られています。

試験範囲は10分野にも及び、具体的には「労働基準法」「労働安全衛生法」「労働者災害補償保険法」「雇用保険法」「労働保険徴収法」「労務管理その他の労働に関する一般常識」「社会保険に関する一般常識」「健康保険法」「厚生年金保険法」「国民年金法」です。

社労士試験に合格するためには苦手科目を作らないことが重要で、バランスよく学習して備えることが合格の鍵だと言われています。

以下より、社労士試験の概要についてより詳しく説明していきます。

(1)社労士試験の概要

社労士試験には、択一式試験と選択式試験があります。

今後は記述試験が設けられるという予想もありますが、現在のところは実現していません。出題に当たっては下記のような注意点もありますので、見逃さないようにしましょう。

「労働者災害補償保険法」「雇用保険法」(択一式試験)は、それぞれ問題10問のうち3問が「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」から出題されます。

択一式試験の「労働者災害補償保険法」は、問1~7が「労働者災害補償保険法」、問8~10が「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」です。「雇用保険法」は、問1~7が「雇用保険法」、問8~10が「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」です。

「労働者災害補償保険法」「雇用保険法」(選択式試験)は、「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」からの出題はありません。

表:社労士試験の概要

試験科目 択一式 計7科目
(配点)
選択式 計8科目(配点)
労働基準法及び労働安全衛生法 10問(10点) 1問(5点)
労働者災害補償保険法
(労働保険の保険料の徴収等に
関する法律を含む。)
10問(10点) 1問(5点)
雇用保険法
(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。)
10問(10点) 1問(5点)
労務管理その他の労働に関する
一般常識
10問(10点) 1問(5点)
社会保険に関する一般常識 1問(5点)
健康保険法 10問(10点) 1問(5点)
厚生年金保険法 10問(10点) 1問(5点)
国民年金法 10問(10点) 1問(5点)
合  計 70問(70点) 8問(40)

出典:社会保険労務士試験オフィシャルサイト

(2)受験資格

社労士試験を受験するには受験資格が要ります。ですので、受験勉強に入る前や受験申し込みをする前に、自分に受験資格があるのかをチェックしておく必要があります。

受験資格ですが、主に①学歴、②実務経験、③厚生労働大臣の認めた国家試験合格の、3つに分けられます。(詳細は、社会保険労務士試験オフィシャルサイト 受験資格・事前確認ページを参照)

下記は、社労士試験の受験資格コード・01~13までを表にしたものです。社会保険労務士試験を受験することができるのは、このうちいずれか1つに該当し、なおかつ有受験資格者であることを明らかにすることができる書面(以下、受験資格証明書)を提出できる人です。

①学歴

受験資格

コード

受験資格
01 学校教育法(昭和22年法律第26号)による大学、
短期大学、専門職大学、
専門職短期大学若しくは高等専門学校(5年制)
を卒業した者又は専門職大学の前期課程を修了した者
(専攻の学部学科は問わない)
02 上記の大学(短期大学を除く)において
学土の学位を得るのに必要な一般教養科目の学習を終わった者
上記の大学(短期大学を除く)において62単位以上を修得した者(卒業認定単位以外の単位を除く(卒業認定単位は大学へご照会ください)。
03 旧高等学校令(大正7年勅令第389号)による高等学校高等科、
旧大学令(大正7 年勅令第388号)による大学予科又は
旧専門学校令(明治36年勅令第61号)による専門学校
を卒業し、又は修了した者
04 前記01又は03に掲げる学校等以外で、
厚生労働大臣が認めた学校等を卒業し又は所定の課程を修了した者
05 修業年限が2年以上で、かつ、
課程の修了に必要な総授業時間数が、1,700 時間(62単位)以上の専修学校の専門課程を修了した者

②実務経験

受験資格

コード

受験資格
08 労働社会保険諸法令の規定に基づいて設立された法人の役員
(非常勤の者を除く。)
又は従業者として同法令の実施事務に従事した期間が通算して3年以上になる者
09 国又は地方公共団体の公務員として行政事務に従事した期間
及び特定独立行政法人、特定地方独立行政法人又は日本郵政公社の役員
又は職員として行政事務に相当する事務に従事した期間が通算して3年以上になる者
(注)日本郵政公社の役員又は職員として従事した期間と民営化後(平成19年10月 1日以降)の従事期間の通算はできません。 全国健康保険協会、日本年金機構の役員(非常勤の者を除く。)
又は従業者として社会保険諸法令の実施事務に従事した期間が
通算して3年以上になる者 (社会保険庁の職員として行政事務に従事した期聞を含む。)。
11 社会保険労務士若しくは社会保険労務士法人又は弁護士
若しくは弁護士法人の業務の補助の事務に従事した期間が通算して3年以上になる者
12 労働組合の役員として労働組合の業務に専ら従事(いわゆる「専従」という。)した期間が通算して3年以上になる者
又は会社その他の法人(法人でない社団又は財団を含み、労働組合を除く。以下「法人等」という。)の役員として労務を担当した期間が通算して3年以上になる者
13 労働組合の職員又は法人等若しくは事業を営む個人の従業者として労働社会保険諸法令に関する事務(ただし、このうち特別な判断を要しない単純な事務は除く。)に従事した期間が通算して3年以上になる者

③厚生労働大臣が認めた国家試験合格

受験資格

コード

受験資格
06 社会保険労務士試験以外の国家試験のうち厚生労働大臣が
認めた国家試験に合格した者
07 司法試験予備試験、旧法の規程による司法試験の第一次試験、旧司法試験の第一次試験又は高等試験予備試験に合格した者
10 行政書士となる資格を有する者

出典:社会保険労務士試験オフィシャルサイト

2. 出題科目の概要と配点

社労士試験の出題科目は法律がメインとなりますが、それに準ずる知識についても出題されます。前述の通り出題範囲がとても広く、選択式試験を8科目と択一式試験を7科目解く必要があります。つまり、受験では4時間50分の間に、78問もの問題を解くことになります。

試験形式は、選択式試験と択一式試験のいずれもマークシートですので、記述問題対策のように条文を丸暗記する必要はありません。

試験科目は、労働基準法や健康保険法のように、法律の中でも身近なものを勉強することになります。仕事や生活に関連した法律がメインです。例えば「有給」です。働き方改革関連法の施行で、2019年4月から年休の取得が義務化されましたが、これは範囲的には「労働基準法」となります。

社労士試験の試験範囲には、憲法や民法は含まれていません。試験範囲は、実生活で役立つような法律知識がメインです。会社勤めの方なら、労働法令の知識が役に立ちますし、社会保険の知識は、今後ライフプランについて考える時に非常に役立つものとなります。

それでは出題科目を「労働関係法令」「一般常識」「社会保険関係法令」と分類して、それぞれを分かりやすく説明しましょう。

(1)労働関係法令

労働基準法 労働時間や賃金支払いなどに関する法律。会社が守らなければならない労働条件の最低基準を定めている。
労働安全衛生法 職場における安全と衛生の確保について、また企業の災害防止努力の施策、快適な職場環境の形成について定めた法律。
労働者災害補償保険法 仕事や通勤時のケガや病気、死亡が発生した際の治療費や、働けない間の賃金や遺族に関する保障について定めている法律。
労働保険の保険料の
徴収等に関する法律
労災保険・雇用保険の保険料の算定方法や納付手続、その他の事業主がおこなわなければならない事務手続きに関しての法律。
雇用保険法(労働保険の
保険料の徴収等に
関する法律を含む)
失業期間中の生活保障の給付を基本とし、また合わせて失業することを防止する施策などについて定めた法律。

(2)一般常識

労務管理その他の労働に
関する一般常識
従業員の効率的管理について考察する労務管理、または上記の法律科目以外の労働に関する法令や、労働時間や賃金等の統計数値について。
社会保険に関する一般常識 法律科目以外の社会保険に関する法令や共通事項、医療や年金制度に関する管理・運営などについて。

(3)社会保険関係法令

健康保険法 仕事と関係のないケガ、または病気になった従業員やその家族に医療の給付をおこなうことや、出産や死亡に対して現金を支給することなどについて定めた法律。
厚生年金保険法 サラリーマン、OLを対象に、老齢・障害・志望についての所得補償をおこなう際、働いた時の給与の額に応じた年金等でおこなうことを定めた法律。
国民年金法 全ての国民を対象とし、高齢や障害を持った時の生活保障、志望に対しての遺族の生活保障を年金でおこなうことのついて定めた法律。

※平成29年度受験内容に基づきます。

3. 配点のバランス

下図は、社労士試験に出題される10つの科目の「配点の割合」を図表化したものです。

配点の割合のが高いのは「国民年金法」「厚生年金保険法」「健康保険法」であることがわかります。しかし、だからといって他の科目の出題が取り立てて小さいことはありません。

社会保険労務士試験オフィシャルサイトを基に作表

既に申し上げましたが、社労士試験合格のためには「苦手科目をつくらず、まんべんなく勉強すること」が重要になります。なぜなら、試験科目ごとに基準点が設定されているため、これをクリアしなければ総得点が基準点をクリアしていても不合格になってしまうからです。

この科目ごとの基準点は、その年の平均点や得点分布の状況を加味し補正がおこなわれるものです。しかし、確実な合格のためには、全科目で6~7割の正答率を目指して勉強することをおすすめします。

4. 各試験科目の攻略法とは

最後に、それぞれの試験科目の攻略法についてまとめてみましょう。誰にでも科目による得意・不得意はあるものですが、攻略ポイントを押さえればまんべんなく得点できるようになれるはずです。

 

(1)労働関係法令

労働基準法

行政通達(本来的には行政部の内部文書である通達によって執行される行政行為のこと)や判例からの出題が多く、労働に対する法律的理解が求められます。しかし、とっつきにくく学習しにくい分野ではありません。

労働時間、休暇、賃金、働き方改革で注目される有給など、身近で興味が湧きやすい分野を扱っています。各規定への理解を深めながら、自分に当てはめてみる勉強方法が有効だと思われます。

労働安全衛生法

労働安全衛生法は、労働基準法とセットで出題される傾向があります。出題範囲が広く、勉強方法としては暗記中心になりますが、頻出項目はあるので忘れずに抑えておきましょう。配点割合は低く、頻出分野は比較的限定されているうえ、難解な専門用語が多いため習得が困難な科目と思われることが多いです。範囲を絞りながらの効率的な学習を心掛けましょう。

労働者災害補償保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む)

保険給付についての内容が中心です。範囲は実に幅広いのですが、この科目で得点できるようになると、後の科目の学習が楽になるといわれます。頻出範囲としては、業務災害・通勤災害、保険給付の内容、保険給付の通則などがあります。

保険料の徴収

保険料の徴収は、暗記中心の科目です。労働保険料に関する各種手続を主な内容としていますので、過去問を良くチェックしながら暗記中心の対策をしましょう。

労働保険料に関する手続を扱う科目であるうえ、暗記も要求されることから、苦手だと感じる受験者は多い科目だといえます。しかし、過去問の焼き直し(過去問からの再出題)の確率が非常に高いため、過去問を丁寧に学習すれば高い得点をとることができる科目です。

雇用保険法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。)

基本手当などの数字要件も含まれますが、社労士試験においては「数字要件」は要チェックです。雇用保険法の勉強では覚えるべき給付の数が多いため、基本的な事項が出題される科目にもかかわらず苦手だと感じる人が多い分野です。数字要件ですが、給付率や日数などの細かい数値についての出題も多いので、試験直前にも基本事項をチェックしておきましょう。

(2)一般常識

労務管理その他の労働に関する一般常識

労務管理その他の労働に関する一般常識、いわゆる労一は”一般常識”であることから分かる通り、出題範囲は非常に広いです。労働関係諸法令、労務管理、労働経済の3分野から出題されているのですが、その範囲が広すぎるため、受験者の間であまり得点差がつかないと言われています。つまり対策が簡単ではない受験科目だといえるでしょう。

労一では、過去問は出題されにくい傾向があります。最新の統計資料(白書)や、働き方改革関連法のような改正内容が中心の出題となります。対策としては、広く浅く勉強しておくことが求められるでしょう。

社会保険に関する一般常識

社会保険に関する一般常識、いわゆる社一は、ニュースで扱われるような医療保険や年金制度の動向などが題材となります。つまり、社会情勢に対するアンテナが必要で、「社会保険諸法令」「社会保険制度の沿革・近年の動向」といった内容についても理解している必要があります。

社一も出題範囲は幅広く、年金制度の他、医療保険の動向などにも注意を払う必要があります。「介護保険法」などがその例で、この法律は単独の試験科目となっていないにも関わらず出題されます。厚生労働白書などの白書も出題されますが、その対策にばかり気を取られず、まずは社会保険諸法令について理解をしっかりと深めることが重要です。

(3)社会保険関係法令

健康保険法

民間企業の会社員と、その被扶養者を対象とした医療保険制度についての法律です。保険給付などについての基本的な仕組みの知識をつけ、数字要件を中心とした過去問も制覇していくことが大事になります。難しい内容の通達についても一部出題されるほか、全ての項目にわたってまんべんなく出題されている科目です。過去問を中心とした学習時間を確保し、じっくりと取り組むことは必須です。

厚生年金保険法

難しい内容の問題も多いですが、こちらも過去問学習で得点アップが大きく見込めます。厚生年金保険法は制度が複雑で、改正も多く、難易度が高い法律だといえますので、法律の仕組みそのものを理解できていないと、高得点をマークするのは困難です。やはり過去問学習が効果的だといえます。

厚生年金保険法は、頻繁におこなわれる法改正のためなかなか攻略が難しい科目ですが、実務的な分野だという利点もあります。学習した知識は年金相談業務に直結するなど、実際の業務遂行に役立ちますからしっかりと理解しておきましょう。

国民年金法

国民年金法は、受験者の間で実力差がつきやすい科目です。ですので、丁寧に学習して高得点を狙いましょう。厚生年金保険法と同様で、制度が複雑なうえに改正も頻繁にありますが、基本規定をしっかり理解すれば着実に得点を稼げる科目になります。

厚生年金保険法と同様、範囲が広いのですが、こちらもしっかり学習すれば、実際の業務に繋がる知識を得ることができます。基本規定の理解が大事ですのでしっかり理解しておきましょう。

5. サマリー

いかがだったでしょうか。

社労士はよく身近な法律の専門家と称されますが、資格を得るためにはこんなに広範囲の法律について理解しなければならないのですね。

ただ覚えるのでは膨大な時間と労力を要しますので、過去の出題傾向にならった効率の良い勉強を心掛けましょう。この記事が、あなたの試験勉強の一助になれば幸いです。

6. まとめ

・社会保険労務士(社労士)試験の試験問題は10分野に及ぶ

・具体的には「労働基準法」「労働安全衛生法」「労働者災害補償保険法」「雇用保険法」「労働保険徴収法」「労務管理その他の労働に関する一般常識」「社会保険に関する一般常識」「健康保険法」「厚生年金保険法」「国民年金法」である

・労働関係法令、一般常識(労一・社一)、社会保険関係法令、それぞれに関する法律についてポイントを押さえた学習が必要である

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