社会保険労務士(社労士)試験の救済措置の実施基準を徹底解説!1点に泣かないためには?

社会保険労務士(社労士)試験の救済措置の実施基準を徹底解説!1点に泣かないためには?

社労士試験には、「救済措置」が取られることがあることをご存知ですか? 社労士試験を受験したことがある方なら、「今年は救済があるかも」と期待した経験があることでしょう。

社労士試験の出題内容が難解だった年度に基準点を引き下げることを、救済措置といいます。試験の公平性を保つためにも必要な制度ですが、その必要がなければ施行されない措置ではあります。

救済措置は、どういった状況で、どのように取られるのでしょうか。また社労士試験の合否に、どれくらい影響力を持つのでしょうか。

この記事では、これらの疑問に対する解答を、明確な基準をもって解説していきます。

1 救済措置について

8月に実施される社労士試験が終了すると、講評とともに「今年は救済措置があるのか?」と囁かれます。特に、難解な科目があった年においては救済措置を期待するムードが高まります。

(1)救済措置とは何か

前述のように、救済措置は、全受験者の得点状況が悪く難解だった科目において、「科目基準点」が引き下げられることをいいます。

社労士試験は、総得点と科目別の得点において、基準点を超えなければ合格できません。試験は選択式と択一式で出題されますので、それぞれで総得点と科目別の基準点を超えなければならないのです。合格ラインは、出題の難易度によって変動するものです。そこで、合格率を公平かつ一定に保つために、合格ラインを年度によって変動させているのです。

1点足りなかったために不合格になってしまうことも多々ある社労士試験。

しかし、救済措置が取られて科目基準点が引き下げられていれば、合格の可能性が見えてくる場合もあります。このように考えると、救済措置が取られるか否かは、受験生にとって極めて重要な問題です。

この救済措置は、その年の試験の難易度と受験生の平均点などを考慮して実施されます。毎年一回しか実施されない社労士試験の公平性を保つために、必要な措置なのです。

(2)第51回(令和元年度)社会保険労務士試験の救済措置

それでは、令和元年に実施された第51回社会保険労務士試験では、救済措置は取られたのでしょうか。

下表は、社労士試験の科目ごとの出題数と配点についてまとめたものです。

試験科目 択一式

計7科目(配点)

選択式

計8科目(配点)

労働基準法及び労働安全衛生法 10問

(10点)

1問

(5点)

労働者災害補償保険法

(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。)

10問

(10点)

1問

(5点)

雇用保険法

(労働保険の保険料の徴収等に関する法律を含む。)

10問

(10点)

1問

(5点)

労務管理その他の労働に関する一般常識 10問

(10点)

1問

(5点)

社会保険に関する一般常識 1問

(5点)

健康保険法 10問

(10点)

1問

(5点)

厚生年金保険法 10問

(10点)

1問

(5点)

国民年金法 10問

(10点)

1問

(5点)

合  計 70問

(70点)

8問

(40点)

合格基準点は、その年の11月の合格発表日に公表されることになっています。

既に申し上げたように、合格基準点は選択式と択一式それぞれの総得点と、科目ごとに定められます。このうちひとつでも合格基準点に達しない場合は、残念ながら不合格となってしまいます。

このことからも、社労士試験に合格するためには、得意科目も大事ですが苦手科目があってはいけないことが分かります。社労士試験対策は「広く、浅く」といわれる所以です。各科目の知識をまんべんなく習得していないと、合格が難しいのです。

合格ラインは、毎年60~70%といわれていますが、総得点の基準点は、その年の平均点によって変動があります。科目別では、選択式は各科目3点、択一式は各科目4点を基準点としています。

それでは、令和元年実施の第51回社会保険労務士試験においては、救済措置は取られたのでしょうか。厚生労働省が発表した第51回社会保険労務士試験の合格基準は下記の通りでした。

⑴ 合格基準

本年度の合格基準は、次の2つの条件を満たしたものを合格とする。

① 選択式試験は、総得点26点以上かつ各科目3点以上(ただし、社会保険に関する一般常識は2点以上)である者

② 択一式試験は、総得点43点以上かつ各科目4点以上である者

※ 上記合格基準は、試験の難易度に差が生じたことから、昨年度試験の合格基準を補正したものである。

⑵ 配点

① 選択式試験は、各問1点とし、1科目5点満点、合計40点満点とする。

② 択一式試験は、各問1点とし、1科目10点満点、合計70点満点とする。

つまり、選択式では「社会保険に関する一般常識」で科目別基準点が1点引き下げられました。後述しますが、総得点は前年度は23点が基準点でしたが、今回は26点に引き上げられています。

択一式では、前年度の総得点の基準点は45点でしたが、今回は43点に引き下げられています。

(3)救済が起きる基準は?

難解な問題が出題された場合、どのような基準で救済措置の是非が決定されるのでしょうか。実は、救済措置の是非を決めるために、明確な基準があるのです。

(1) 総得点の補正

① 選択式試験、択一式試験それぞれの総得点について、前年度の平均点との差を少数点第1位まで算出し、それを四捨五入し換算した点数に応じて前年度の合格基準点を上げ下げする。(後略)

② 上記①の補正により、合格基準点を上下させた際、四捨五入によって切り捨て又は繰り入れされた小数点第1位以下の端数については、平成13年度以降、累計し、±1点以上となった場合は、合格基準点に反映させる。(後略)

③ 下記(2)の各科目の最低点引き下げを2科目以上行ったことにより、例年の合格率と比べ高くなるとき(概ね10%を目安)は、試験の水準維持を考慮し合格基準点を1点足し上げる。

(2) 科目最低点の補正

各科目の合格基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、合格基準点を引き下げ補正する。ただし、次の場合は、試験の水準維持を考慮し、原則として引き下げを行わないこととする。

ⅰ) 引き下げ補正した合格基準点以上の受験者の占める割合が7割以上の場合

ⅱ) 引き下げ補正した合格基準点が、選択式で0点、択一式で2点以下となる場合

出典:厚生労働省「社会保険労務士試験の合格基準の考え方について」

合格基準点の補正がこの基準に依ることと、その年の試験データが一般的に情報公開されるようになったのは、平成28年度からで、つい最近です。それ以前は、補正の基準を満たしていなくても、合格率の調整のために救済がおこなわれていたというのですから驚きです。

2 救済措置と合否との関係は?

救済措置は、合否にどのような影響をもたらすのでしょうか。

(1)合格基準点とは?

前述の通り、社労士試験に合格するには、下表の基準①~④の合格基準点をすべて満たさなければなりません。

総得点(全体の基準点) 各科目(科目基準点)
選択式 基準① 40点中24点前後 基準② 5点中3点以上
60%前後の正解が必要 60%以上の正解が必要
毎年変動
(最低21点~最高28点)
複数科目で下がることが多い
(救済措置)
択一式 基準③ 70点中45点前後 基準④ 10点中4点以上
65%前後の正解が必要 40%以上の正解が必要
毎年変動
(最低41点~最高48点)
まれに下がる科目がある
(救済措置)

救済措置が取られると、基準②にある「3点」が「2点または1点」に、択一式は基準④にある「4点」が「3点」に引き下げられることがあります。

選択式では、科目基準点である3点の確保が、合格の鍵を握ります。選択式は救済措置が多くおこなわれる傾向があり、過去の救済措置の実施を見てみると、最多5科目で科目基準点の引き下げがおこなわれた年度があるほどです。

択一式では、基準③が重要で、総得点をいかに引き上げるかが合格への鍵となります。なお、択一式では、救済措置は殆どおこなわれないことを覚えておきましょう。

(2)救済措置がおこなわれない場合の例

それでは、救済措置で科目基準点が引き下げられない年の、不合格の例を見てみましょう。

Aさん選択式①総得点 29点基準①~④を

全てクリアしている



合格
②各科目すべて 3点以上
択一式③総得点 49点
④各科目すべて 4点以上
Bさん選択式①総得点 34点総得点はAさんよりも上だが、

基準②をクリアしていない



不合格
②国民年金法2点、残りは3点以上
択一式③総得点
④各科目すべて 4点以上

上図で説明した通り、救済措置がない場合、BさんはAさんよりも総得点が5点も高くても不合格になってしまうのです。

このように1点に泣く受験生が、毎年多くいます。このことを考えると、各科目まんべんなく学習することが、改めて重要だと分かります。

(3)救済措置はあてにしてもよい?

「救済措置は、毎年取られているじゃないか」と、初めから救済をあてにするのは危険です。救済措置の有無や、どの科目の基準点が補正されるかは、11月初旬の社労士試験合格発表の時まで分かりません。また、救済措置はあくまでもその年の出題が難解であった時に設けられるものなので、救済措置が取られない年もあるわけです。大切なのは、基本問題をとりこぼさないことだと言えます。

しかし、たいていの方は、合格発表まで資格学校や講座が発表する講評や予測に振り回されることになるでしょう。

当たり前ですが「難易度が高ければ合格ラインは下がり、難易度が低ければ合格ラインは上がる」傾向があります。ダメだ、と自分では思っていても、救済措置によって奇跡的に合格できたと語る合格者は多いのです。

①合格確実な例

択一式:50点前後、各科目4問以上
選択式:各科目3問以上

これだけ得点できていれば合格確実です。ドキドキする必要はありません。

②不合格確実な例

択一式:40点未満、一科目でも2問以下がある
選択式:一科目でも0問 (1問未満)がある

このような結果だった場合は、残念ながら今回は厳しいでしょう。

③ボーダーライン

択一式、選択式ともに、境界線にはさまれている

何があるか分かりません。諦めずに合格発表を待ちましょう。

(3)セットで出題される科目の基準点は?

社労士試験には、セットで出題される科目があります。

例えば、択一式の「労働基準法・労働安全衛生法」は、一緒に出題されます。この場合、労働基準法がたとえ0点でも、労働安全衛生法が4点なら大丈夫です。

セット出題される科目は他にもあり、「労働者災害保障保険法・労働保険徴収法」「雇用保険法・労働保険徴収法」「労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識・社会保険に関する一般常識」がそれに当たります。それぞれ、合計で科目基準点を超えれば大丈夫です。

3 これまでの社労士試験合格基準点と救済措置

それでは、それまでどのように合格基準点の補正がおこなわれ、科目別に救済措置が取られていたのか実際に見てみましょう。下表は、厚生労働省発表の資料から各年度の合格基準を抜き出し作表したものです。

(1)択一式の各年度における総得点と科目別基準点

実施年度 総得点 各科目
2019 43/70点 4点
2018 45/70点 4点
2017 45/70点 厚生年金保険法 3点
その他 4点
2016 42/70点 労務管理その他労働に関する一般常識 3点
厚生年金保険法

国民年金法    3点

その他 4点
2015 45/70点 4点
2014 45/70点 社会保険に関する一般常識 3点
その他 4点

択一式は救済措置が取られることが少ないといわれる通り、2018、2019年は科目別基準点の引き下げはおこなわれていません。

(2)選択式の各年度における総得点と科目別基準点

総得点 各科目
2019 26/40点 社会保険に関する一般常識 2点
その他 3点
2018 23/40点 社会保険に関する一般常識 2点
国民年金法 2点
その他 3点
2017 24/40点 雇用保険法
健康保険法 2点
その他 3点
2016 21/40点 労務管理その他労働に関する一般常識 2点
社会保険に関する一般常識 2点
健康保険法・厚生年金保険法 2点
その他 3点
2015 26/40点 雇用保険法
健康保険法 3点
その他 3点

厚生労働省の資料を基に作表

選択式では、毎年のように科目ごとの救済措置がおこなわれています。 総得点においても、2015年~2019年の間で、5点も開きが生まれています。傾向として、選択式では総得点の基準点補正や科目別基準点の引き下げが起こりやすいといえます。

4 改めて合格のポイントを復習する

社労士試験で全ての基準点を超えていく力を付けるためには、まず「広く浅く」の学習が大事です。その他にも、重要なポイントがあるので紹介します。

(1)社会保険科目を制する

合格者は、「社会保険科目」のための勉強時間を取り、しっかり学習しているといわれます。

「健康保険法」「国民年金法」「厚生年金保険法」などは、学習の後半にもってくる学習者が多いと思われます。しかし、これら社会保険の科目は受験生間に大きな得点差を生じさせており、合否に大きな影響を与えているのです。

社会保険科目を得点源とできれば非常に有利です。是非、社会保険科目を意識した学習スケジュールを立てて下さい。

社会保険科目とは、労働災害補償保険法、雇用保険法、労働保険徴収法、健康保険法、国民年金法、厚生年金保険法のことです。

健康保険法は、平成12年以降、急激に難化傾向を見せています。出題確率が最も高いのは保険給付ですが、全範囲にわたってまんべんなく出題されるのが健康保険法の出題の特徴ですので、幅広く学習することが望まれます。また、近年は選択式問題も含めて、法改正事項からの出題が多くなっていますので、改正事項をしっかり押さえれば得点アップにつながります。

厚生年金保険法は、改正の都度複雑さが増す科目です。「経過措置」等が受験生泣かせの科目ではありますが、丁寧に取り組んでいけば得点源にすることができます。

国民年金法も、度重なる改正により制度が複雑化されたこともあり、難易度がアップしている傾向があります。

社会保険に関する一般常識は、社会保険科目「以外」に関する法律のことです。しかし、年によっては、社会保険科目のなかから重複して出題されることもあります。社会保険に関した分野から出題され、厚生労働白書にも範囲が含んでいます。「労務管理その他労働に関する一般常識」と同じく、出題範囲が実に広いので、まずはまんべんなく学習することをこころがけましょう。択一においては「労一」が難しいので、こちらで得点できると心強いです。

(2)難問・奇問はどうすればよい?

救済措置が取られることを考えると、難問はあまり恐れる必要がありません。何度も言われていると思いますが、社労士試験対策は基本問題重視で大丈夫です。

よく「とにかく7割を得点しよう!」とも言われていると思います。満点を目指す必要もないのですが、科目基準点が得点できず足切りにあってしまうのはもったいないです。やはり、苦手な科目や分野を作らないように、まんべんなく広く浅く勉強することが大切です。

(3)本番での戦略も大事

選択式の出題形式は、1問あたり5つの空欄が設けられているものです。それぞれに当てはまるものを、20の選択肢の中から解答する「空欄補充問題」です。

択一式は、1問に5つの選択肢があり、その中から「正しいもの」「謝っているもの」を基本的に1つずつ解答する「五肢択一問題」です。それぞれの攻略法について紹介しましょう。

選択式の解答時間は、全8問に対して80分です。つまり、1問を10分以内で解かなければならない計算になります。時間的には、比較的余裕があるといえますが、補充する選択肢はこの試験特有の専門用語や数字関係であり、試験では論理的な文章をつくれるような国語力が要求される側面もあります。

択一式は、全70問の出題に対して210分の解答時間が与えられます。1問あたり3分以内で解かないといけないので、スピードが要求されます。本番試験では解答時間不足になってしまう受験生が多いので、時間配分に注意しましょう。問題自体は基本的な内容が多いのですが、応用力が求められる出題もあります。過去問対策で得点力をしっかりとつけて臨むようにしましょう。

5 サマリー

いかがでしたか? 救済措置の実施がどんな基準で決定され、どれくらいの頻度で実施されてきたのかを解説してまいりました。また、いくら総得点が高くても科目別基準点を下回ってしまうと、合格はできないこともお分かり頂けたと思います。

よく言われるのは、社労士試験合格の鍵は基本事項の正答率だということ。救済措置があることを理解したうえで、基本事項にじっくり取り組めば、合格は見えてくるはずです。

6 まとめ

・社労士試験の救済措置とは、出題内容が難解で受験者の得点状況が悪い年度に、「科目基準点」が引き下げられることをいう。

・選択式、択一式ともに、総得点の合格基準点の補正がおこなわれる。

・総得点と科目基準点の補正には、明確な実施基準が設けられている

・選択式、択一式では、選択式で毎年のように救済措置がおこなわれている。

・一点に泣かないためにも、苦手科目をつくらず、得点さの開きやすい社会保険科目を強みにすると良い。

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