新型コロナウイルス感染症対策として、「テレワーク」導入の必要性が叫ばれています。政府はそもそも、テレワークを働き方改革における柔軟な働き方推進の旗手として、導入促進のため企業への助成金を打ち立ててきました。しかし今回、政府だけでなく経済産業省によるIT補助金、東京都も、新型コロナウイルス対策に大きな役割を果たすテレワークの導入助成金を、時限的に設立しました。
この記事では政府と東京都による新型コロナウイルス対策の時限的テレワーク導入助成金と、従来のテレワーク導入助成金についても、詳しくまとめていきます。
目次
1 政府によるテレワーク導入のための臨時助成金
繰り返しますが、政府は従来のテレワーク導入助成金に特例を設け、新型コロナウイルス対策の旗手として、企業へのテレワーク導入を促進しようとしています。
(1)新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース
本コースは「新型コロナウイルス対策」の一環として、現在時限的に設けられているテレワーク導入助成金です。
もともと政府は「時間外労働等改善助成金」として、毎年企業に対するテレワーク導入の助成を実施してきました。本助成金は令和2年以降「働き方改革推進支援助成金」と名称を改めます。
①助成概要
対象事業主 | 新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを新規(※)で導入する中小企業事業主
※施行的に導入している事業主も対象となります。 |
助成の対象となる次行の実施期間 | 令和2年2月17日~5月31日
※計画の事後提出を可能にし、2月17日以降の取り組みで交付決定より前のものも助成対象とします。 |
上表からも分かるように本コースは、計画の事後提出可、助成対象とする取り組み期間を拡充と、条件が緩いという特徴があります。とにかくこの時期に、1社でも多くテレワーク導入企業を増やしたいという政府の意図が見て取れます。
②助成内容
支給要件 | 令和2年2月17日~5月31日にテレワークを新規で導入し、実際に実施した労働者が1人以上いること。 | |
支給対象となる取り組み
※5つの取り組みの中から、いずれか1つ以上実施してください。 |
テレワーク用通信機器(※)の導入・運用 | (例) ・Web会議用機器 ・社内のパソコンを遠隔操作するための機器、ソフトウェア ・保守サポートの導入 ・クラウドサービスの導入 ・サテライトオフィス等の利用料など※パソコン、タブレット、スマートフォンの購入費用は対象となりません。 |
就業規則・労使協定の作成・変更 | (例)テレワーク勤務に関する規程の整備 | |
労務管理担当者に対する研修 | ||
労働者に対する研修、周知・啓発 | ||
外部専門家(社会保険労務士など)によるコンサルティング | ||
対象経費 | 謝金、旅費、借損料、会議費、雑役務費、印刷製本費、備品費、機会装置等購入費、委託費 | |
助成額 | 対象経費の合計額 × 1/2 | 100万円が上限 |
上表から分かる通り、支給額は対象経費合計額の半分にしか対象とならず、しかも助成額の上限が100万円と比較的少額ではあります。
しかし「支給対象となる取り組み」5つのうち全てに取り組むと、時間や労力の他、資金面でも大きな負担となりますが、今回は1つ以上に取り組めば支給対象になれます。ここでも政府による早急なるテレワーク導入促進の意図が感じられます。
(2)IT導入補助金2020
経済産業省は、昨今のコロナウイルスの影響を勘案した景気対策として「IT導入補助金2020 1次公募(臨時対応)」をおこないます。こちらもテレワーク導入支援をおこなっており、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響を鑑み、在宅勤務制度(テレワーク)の導入に取り組む事業を優先的に支援してくれます。
申請対象 | 中小企業・小規模事業者等 | |
交付申請期間 | 2020年3月13日(金)~2020年3月31日(火)17:00 | |
交付決定日 | 2020年4月中旬(予定) | |
補助額・補助率 | (A類型)40万~150万円未満 | 補助率 1/2以下 |
補助対象ツール | ソフトウェア | 業務パッケージソフト 効率化パッケージソフト 汎用パッケージソフト |
オプション | 機能拡張、データ連携ツール等 | |
役務 | 導入コンサルティング等 |
申請対象の企業規模などについては、業種別に細かい規定が設けられています。詳しくはIT導入補助金2020ホームページを参照してください。
2 東京都によるテレワーク導入のための臨時助成金
東京都も、もともと企業へのテレワーク導入支援をおこなっていました。
2020年東京オリンピック開催の延期が決定した東京都は、新型コロナウイルス対策の緊急事業継続対策を、「2020TDM推進プロジェクト」に盛り込みました。同プロジェクトは、都内企業を対象にオリンピック開催時の交通混雑緩和を目指して設立したものです。
(1)事業継続緊急対策(テレワーク)助成金とは?
本助成金は東京しごと財団が運営し、テレワークを導入する都内の中堅・中小企業等に対して、導入に必要な機器やソフトウェア等の経費を助成するものです。新型コロナウイルス感染症等の拡大防止、および緊急時における企業の事業継続の対策として設立されました。
①助成概要
助成対象事業者 | ②に記載 |
助成事業の実施期間 | 支給決定日以後、令和2年6月30日までに完了する取り組みが対象です。 |
助成対象経費 | 機器等の購入費(例:パソコン、タブレット、VPNルーター) 機器の設置・設定費 (例:VPNルーター等機器の設置・設定作業費) 保守委託等の業務委託料(例:機器の保守費用) 導入機器等の導入時運用サポート費 (例:導入機器等の操作説明マニュアル作成費) 機器のリース料(例:パソコン等リース料金) クラウドサービス等ツール利用料(例:コミュニケーションツール使用料)助成対象となる機器等には指定がありますので、募集要項をご確認ください。 一部メーカー等が、自社製品が当該助成金利用でお得に導入できると謳っているようですが、財団が個別に認めているものではありませんのでご注意ください。 |
助成金上限額 | 250万円 |
助成率 | 10/10 |
上表から分かるように上限額は250万円ですが、助成率は10/10と、限度額以下なら100%助成されます。
②助成対象事業者
助成対象となる要件は10項目ありますが、その中の1つに”東京都が実施する「2020TDM推進プロジェクト」に参加していること ”が含まれています。2020TDM推進プロジェクトの詳細は後述します。
1 都内で事業を営んでいる中堅・中小企業等であること
・常時雇用する労働者の数が999人以下の企業(※1)であること
・法人等の規定をクリアしていること
・東京都政策連携団体、事業協力団体又は東京都が設立した法人でないこと
・開業届を提出した個人事業主
・法人の場合は都内に本店登記がある、又は支店・営業所等の事業所が都内にあること
2 都内に勤務する常時雇用する労働者を2名以上、かつ申請日時点6か月以上継続して雇用していること
3 都税の未納付がないこと
4 過去5年間に重大な法令違反等がないこと
5 労働関係法令についての基準をクリアしていること
6 風俗営業をおこなっていないこと
7 暴力団員でないこと
8 就業規則を作成して労働基準監督署に届出を行っていること(従業員が10人以上の企業等)
9 本事業の助成金を利用又は申請した中堅・中小企業等の代表者と、新たに助成対象事業者になろうとする中堅・中小企業等の代表者が同一でないこと
10 都が実施する「2020TDM推進プロジェクト」に参加していること
(2)2020TDM推進プロジェクトとは?
東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)は、残念ながら新型コロナウイルス感染症の影響で2021年に開催が延期されてしまいましたが、開催されれば世界各国から多くの大会関係者と観客が訪れます。
2020TDM推進プロジェクトは都内の企業に参加を募り、大会時の安全・円滑な輸送サービスの提供と、都市活動や経済活動の安定との両立を図ることを目的に創設された、いわばイベントです(助成金制度ではない)。大会時の交通混雑緩和を目指すことを、プロジェクトの目的としています。
①「2020アクションプラン」
2020TDM推進プロジェクトへの参加企業は、「2020アクションプラン」をまとめる必要があります。これは大会時に想定される交通混雑を回避し、企業活動を維持するための方策をまとめる企画書のことです。対応可能であること、 社内で取り組みが実施できることなどが条件です。
2020アクションプラン 要綱 | ||
内容 | 取り組み内容、所管する部署、責任者、取り組みの具体的ボリューム、実施期間などを設定する | |
取り組み項目の例 | 事業関係 | 大会期間中は、会議・イベント等は原則開催しない (年度内で時期を変更する等、予め代替措置を検討) |
働き方 | 大会期間中の夏期休暇・有給休暇の取得奨励、時差出勤・テレワークの実施、サテライトオフィスの活用、ボランティア休暇制度の導入 | |
通勤関係 | 従業員の一定割合を時差出勤 | |
物流関係 | 同業種や近接エリアでの共同物流の実施 |
②大会に向けた取り組みステップ
アクションプランの作成には、入念なリサーチが必要となります。東京都オリンピック・パラリンピック準備局では、アクションプラン作成ツールがダウンロードでき、他企業のアクションプランも閲覧できます。
1 東京2020大会時の交通の見通しを知ろう
大会期間中、延べ約1,000万人以上の人々が東京を訪れます!何も交通対策をおこなわなかった場合、具体的に道路や鉄道でどのぐらいの混雑が生まれるのか見通しを見てみましょう。 |
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2 東京2020大会時の交通対策を知ろう
大会関係者が通るルートや、競技会場周辺の交通規制情報等、大会時に実施される交通対策は既に決まっています。どのような交通対策が実施されるのか確認してみましょう。 ・関係者輸送ルート・観客利用ルート |
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3、自社への影響を調べよう
何も交通対策をおこなわなかった場合の道路や鉄道等に生じる影響を「大会輸送影響度マップ」として公表しています。 |
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4、東京2020大会に向けた2020アクションプランを作成しよう
大会時に想定される交通混雑や遅延を回避し、企業活動を維持していくための準備をお願いします。 |
東京都オリンピック・パラリンピック準備局ホームページを基に作図
③各企業の取り組み・東急電鉄株式会社の取り組み例
繰り返しますが、ホームページでは各企業の取り組みも閲覧できます。そのなかでも東急電鉄株式会社の取り組みが分かりやすかったので、紹介します。
鉄道の利用者の オフピーク乗車等の取り組み |
①時差ビズライナー・時差ビズ特急 | 東横線・田園都市線で臨時列車を運行 |
②テレワーク促進 | サテライトオフィスNewWork ポイント2倍 |
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③オフピーク特典 | 東急線アプリ 約30種類のグッチョイクーポン配信 |
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④朝活講座 | 二子玉川で “スムーズビズ応援!朝活講座”を開催 |
(3)その他、東京都が取り組む2つのテレワーク導入助成金
東京都は既に、他にも既にテレワーク導入助成金を立ち上げています。どちらも東京しごと財団ホームページで詳細を確認できます。
①はじめてテレワーク(テレワーク導入促進整備補助金)
テレワークをトライアルするための環境構築経費、および制度整備費を補助するものです。
対象は、東京都が実施するテレワーク導入に向けたコンサルティング(※)を受けた都内の中堅・中小企業等です。
②テレワーク活用・働く女性応援助成金
働き方改革の推進のための助成です。テレワーク環境の整備や企業における女性の新規採用・職域拡大を目的とした設備等の費用の一部を助成します。
Ⅰ、テレワーク活用推進コース
Ⅱ、女性の活躍推進コース(女性専用設備の整備)
3 政府による従来のテレワーク導入助成金
政府は毎年、時間外労働等改善助成金(テレワークコース)を実施しています。こちらは明確な目標を設定し、結果的に達成したかしないかで補助率が変わる制度です。某集定員はなく、応募期限に間に合えばどの企業も助成を受けることができます。
本制度はこんなモチベーションを持つ企業を対象としています。
・労働時間等の設定の改善及び仕事と生活の調和の推進をはかりたい
・在宅またはサテライトオフィスにおいて就業するテレワークに取り組みたい
・社員の育児や介護と仕事の両立を支援したい
・社員の通勤負担を軽減したい
・ワーク・ライフ・バランスを推進して社員のやる気をアップさせたい
・優秀な人材を確保したい
(1)募集概要
下表は本制度の助成概要をまとめたものです。対象となる中小企業事業主は細かく規定されていますが、もっとざっくりいうと、条件は下記の2点です。
①テレワークを新規で導入する中小企業事業主( ※ 試行的に導入済みの事業主も対象)
②テレワークを継続して活用する中小企業事業主
※ 過去に本助成金を受給した事業主は、対象労働者を2倍に増加してテレワークに取り組む場合に、2回まで受給が可能です。
支給対象となる事業主 | 支給対象となる事業主は、次のいずれにも該当する事業主です。 (1) 労働者災害補償保険の適用事業主であること (2) 次のいずれかに該当する事業主であること (3) テレワークを新規で導入する事業主であること※試行的に導入している事業主も対象です、又はテレワークを継続して活用する事業主であること ※過去に本助成金を受給した事業主は、対象労働者を2倍に増加してテレワークに取り組む場合に、2回まで受給が可能です(4) 時間外労働の制限その他の労働時間等の設定の改善を目的として、在宅又はサテライトオフィスにおいて、就業するテレワークの実施に積極的に取り組む意欲があり、かつ成果が期待できる事業主であること |
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支給対象となる取り組み | テレワーク用通信機器(※)の導入・運用 ※パソコン、タブレット、スマートフォンの購入費用は対象となりません。 |
(例) ・Web会議用機器 ・社内のパソコンを遠隔操作するための機器、ソフトウェア ・保守サポートの導入 ・クラウドサービスの導入 ・サテライトオフィス等の利用料など |
就業規則・労使協定の作成・変更 | (例)テレワーク勤務に関する規程の整備 | |
労務管理担当者に対する研修 | ||
労働者に対する研修、周知・啓発 | ||
外部専門家(社会保険労務士など)によるコンサルティング | ||
対象経費 | 謝金、旅費、借損料、会議費、雑役務費、印刷製本費、備品費、機会装置等購入費、委託費 (注)契約形態が、リース解約、ライセンス契約、サービス利用契約などで「評価期間」を超える契約の場合は、「評価期間」の間の経費のみが対象 |
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助成額 | 対象経費の合計額 × 補助率 (上記の額を超える場合は上限額※) ※「1人当たりの上限額」×対象労働者数 又は「1企業当たりの上限額」のいずれか低い方 |
この助成金の特徴は、支給対象となる取り組みの実施に要した費用のうち「対象経費」に該当するものについて、成果目標の達成状況に応じて助成する点です。成果目標や評価期間についても具体的に規定されています。
(2)支給額
支給対象となる取り組みの実施に要した費用のうち、上表の「対象経費」について、成果目標の達成状況に応じて助成します。
成果目標の達成状況 | 達成 | 未達成 | <支給額の例>
労働者100人の企業で、総務、経理部門5人に、1人当たり30万円の機器を導入する場合 所要額 30万円×5人=150万 ・成果目標達成の場合 ⇨ 20万×5人=100万円を助成 |
補助率 | 3/4 | 1/2 | |
1人当たりの上限額 | 20万円 | 10万円 | |
1企業当たりの上限額 | 150万円 | 100万円 |
(3)成果目標
「支給対象となる取り組み」の実施にあたっては、達成状況に応じて支給額が変わるため、以下の「成果目標」をすべて達成することを目指す必要があります。
① | 評価期間に1回以上、対象労働者全員に、在宅またはサテライトオフィスにおいて就業するテレワークを実施させる |
② | 評価期間において、対象労働者が在宅またはサテライトオフィスにおいてテレワークを実施した日数の週間平均を、1日以上とする |
③ | 年次有給休暇の取得促進について、労働者の年次有給休暇の年間平均取得日数を前年と比較して4日以上増加させる
又は 所定外労働の削減について、労働者の月間平均所定外労働時間数を前年と比較して5時間以上削減させる |
(4)評価期間
「成果目標」を達成したかどうか判断する評価期間は、事業実施期間(交付決定の日から平成32年(令和2年)2月15日まで)中の、1か月から6か月の期間で設定します。この評価期間は、申請者が事業実施計画を作成する際に、自ら設定します。
4 サマリー
いかがだったでしょうか。
新型コロナウイルス感染症対策の臨時助成金は、この緊急時に国民のワークスタイルを大きく変える役割も担っています。条件も緩くなっている今、対象に該当するなら、是非申請しましょう。
5 まとめ
・今回新型コロナウイルス対策として、政府は「新型コロナウイルス感染症対策のためのテレワークコース」を時限的に設けた。
・経済産業省は、新型コロナウイルス対策の一環として企業のテレワーク導入を促進する「「IT導入補助金2020 1次公募(臨時対応)」を設立。
・東京都は、都内企業を対象に大会時の交通混雑緩和を目指し設立された「2020TDM推進プロジェクト」に、新型コロナウイルス対策の緊急事業継続対策を盛り込んだ。
・同プロジェクト参加企業は、「2020アクションプラン」(大会時に想定される交通混雑を回避し、企業活動を維持するための方策)をまとめる必要がある。
・「時間外労働等改善助成金」は政府の従来のテレワーク導入助成金で、達成率で助成率が変わる。