働き方改革関連法の施行時期はいつから?異なる施行時期が設けられる理由を、法改正と合わせて解説

働き方改革関連法の施行時期はいつから?異なる施行時期が設けられる理由を、法改正と合わせて解説

働き方改革関連法には、既に施行されたものとこれから施行されるものがあります。施行時期に違いがあるからなのですが、その理由は何であるか考えたことはありますか?業界、企業規模によっては、1年、2年と猶予期間を与えられているところもあります。そのような企業は、この期間にどのような対応をおこなえば良いのでしょうか。

この記事では、各法改正項目の適用開始時期をまとめ、施行開始までに整備すべき内容についても触れていきます。

1、働き方改革関連法とは

2019年4月より施行された「働き方改革関連法」は、これまでの労働法のどの部分を改正したものなのでしょうか。

「働き方改革関連法」とは通称です。新しい法律の名称ではなく、今回、法改正が具体的におこなわれた以下の8本の労働法改正の通称なのです。

正式名称は「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」になります。

働き方改革関連法

①労働基準法

②労働安全衛生法

③労働時間等の設定の改善に関する特別措置法

④じん肺法

⑤雇用対策法

⑥労働契約法

⑦短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律

⑧労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

2、施行時期

これら8つの労働法改正から成る働き方改革関連法は、企業規模や業界の現状に鑑み、法的拘束力を持ち適用される時期をそれぞれ設定しています。例えば「残業時間の上限の規制」は、大企業では既に施行されていますが、中小企業では2020年から施行となり、1年の猶予措置が取られています。

※短時間労働者・有期雇用労働者の規定について、中小企業は2021年4月から適用
働き方改革関連法の主な内容と施行時期を基に作表

3、更なる5年の猶予がある建設業・運送業

働き方改革関連法の施行時期は、大企業・中小企業のくくりで、1年ないし2年の猶予期間が設けられていると既にお伝えしました。

しかし、更に長い猶予期間が与えられている業界があります。それが「建設業」と「運送業」です。

(1)建設業

出典:全建総連

 

上図は、全建総連の働き方改革についての内部資料から引用しました。これによると、建設業には「時間外労働の上限規制」と「限度基準適用除外見直し」において、5年もの猶予期間が与えられています。(「時間外労働の上限規制」は中小企業は2025年4月1日より施行)

「限度基準適用除外」とは、今回の改正で特別条項付き36協定に設けられた延長時間の限度から適用が除外されることです。建設業を含め、具体的には下記の業界が除外されています。

① 工作物の建設等の事業

② 自動車の運転の業務

③ 新技術、新商品等の研究開発の業務

④ 厚生労働省労働基準局長が指定する事業または業務(ただし、1 年間の限度時間は適用されます。)

猶予期間の終了する5年後には、①の建設業にも限度基準が適用されることになります。

国土交通省は、建設業における働き方改革を加速させるため、「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定しています。「長時間労働の是正」「給与・社会保険」「生産性向上」の3つの分野における新たな施策が、パッケージとしてまとめられており、建設業が抱える3つの課題の解決が主眼となったものです。

建設業界は、工期の進捗の遅れで残業が発生しやすい業界です。建設業界の長時間労働を是正するには業界全体での取り組みを要するため、時間外労働の上限規制に関しては2024年4月1日(中小企業は2025年4月1日)まで猶予期間を与えられています。

建設業界は2024年4月1日までに、必要な整備を急ぎ、労働環境を働き方改革の各法令を遵守できる状態にもって行かなければなりません。

(2)運送業

運送業界も一般企業とは異なり、5年の猶予期間が与えられました。経団連、全日本トラック協会などの主導で「働き方改革実現に向けたアクションプラン」を独自に策定し、取り組む団体もあります。

<労働基準法改正により法定:罰則付き>

(1)・原則、⽉45時間かつ年360時間

(中略)

(2)⾃動⾞の運転業務の取り扱い

・施⾏後5年間 現⾏制度を適⽤(改善基準告⽰により指導、違反があれば処分)

・施⾏後5年以降 年960時間(⽉平均80時間)

・将来的には、⼀般則の適⽤を⽬指す

なお、本アクションプランのスケジュールは、平成 31年4月に改正労働基準法が施行され、それから 5 年猶予の後の平成 36年4月から自動車の運転業務に罰則付きの時間外労働の上限規制が適用されることを前提としている。また月 60 時間超の時間外労働に対する割増賃金率引き上げ(25%→ 50%)の中小企業への適用については平成35年4 月に施行されることを前提としている。

出典:「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」公益社団法人全日本トラック協会

全日本トラック協会は「働き方改革実現に向けたアクションプラン」を策定し、平成36年4月1日までに「年間時間外労働が960時間を超える事業所をゼロにする」ことを目標としています。

運送業には、時間外・休日労働が月100時間を超える労働者が、少なからず存在します。5年の猶予期間は、この運送業界の特殊性に鑑み、就労環境の改善に時間がかかると判断して与えられました。2017年8月に厚生労働省がトラックなどの運送事業所への立ち入り調査を実施したところ、そのうち8割以上で労働基準法違反が発覚したといわれています。

運送業には別枠で働き方改革関連法案が制定され、猶予期間が設けられたほか、特別条項付き36協定では時間外労働の上限が年間960時間とされ、一般企業よりも年間240時間がプラスとされました。

このように運送業界の働き方改革は、業界の特殊性を見ての施行時期、施行内容が設けられているのです。

4、施行時期が異なる理由とは

働き方改革関連法の施行時期が異なる理由とは、これまで述べてきたように、関連法の対応が難しいと思われる業界や中小企業に猶予期間が与えられているためです。中小企業にはいくつかの働き方改革関連法の適用に猶予期間が設けられていますが、そもそも中小企業とは何をもって定義されるのでしょうか。「働き方改革関連法の主な内容と施行時期」からその説明を引用します。

(1)中小企業の定義

※個人事業主や医療法人など資本金や出資金の概念がない場合は、労働者数のみで判断することになります。

出典:「働き方改革関連法の主な内容と施行時期」

②の「常時使用する労働者」とは、必ずしも正社員のことだけではありません。パートやアルバイトでも、常時雇用されているなら数に入れなくてはなりません。

働き方改革法での「大企業」の定義とは、上記の中小企業の定義に「当てはまらない」企業のことです。

(2)中小企業が働き方改革への対応に遅れてしまう理由

中小企業が働き方改革への対応に遅れてしまう原因として、以下の理由が考えられます。

・体制の未整備

・リソース不足(ヒト・カネ・モノ)

・業務改善ができていない

しかし、運送、建設業など一部業界を除けば、中小企業に猶予措置のある項目は「時間外労働の上限規制」「月60時間超の残業の割増賃金率の引上げ」のみです。全ての法改正の適用が猶予されているのではありません。

中小企業にとっては、「残業ありき」の体質の改善や賃金アップは容易ではないといわれています。それを踏まえると、中小企業への猶予期間は決して充分だとはいえないのです。

5、施行時期ごとの解説

それでは、2019年度に既に施行された法律からこれから施行時期を迎えるものまで、時系列で順番に紹介します。

(1)2019年4月

働き方改革関連法施行元年の2019年には、下記が施行されます。

①残業時間の上限規制(大企業のみ)

②有給休暇取得の義務化

③勤務間インターバル制度

④産業医機能の強化

⑤高度プロフェッショナル制度の導入

⑥フレックスタイム制の改訂

「勤務間インターバル制度」とは:

1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保するものです。 労働者が日々働くにあたり、必ず一定の休息時間を取れるようにするというこの考え方に関心が高まっています。「勤務間インターバル」を導入した場合として、例えば下図のような働き方が考えられます。

出典:東京労働局

「高度プロフェッショナル制度」とは:

”高度プロフェッショナル制度は、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象として、労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提として、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずることにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度です。”

出典:「高度プロフェッショナル制度 分かりやすい解説」

「勤務間インターバル制度」「高度プロフェッショナル制度」は、あくまでも「努力義務」ですが、今後は義務化される可能性もあるのです。こういった制度、特に高度プロフェッショナル制度は、対象者の条件が「見込まれる給与が『基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること』すなわち1,075万円以上であること」とされており、すなわち優秀な人材が対象の制度です。

そのような人材の確保のためには有効な制度だと考えられており、導入の価値があるでしょう。

2019年の改正の目玉は「年間720時間、複数月平均80時間、単月100時間」の時間外労働の上限が設けられたことです。違反すると罰則の対象になることも、何といっても大きな変更点です。

「有給休暇の取得義務化」で気をつけておきたいのは、もし労働者からの有給の申し出がない場合でも、会社は労働者に有給を取得させなければならない点です。こちらも、もし労働者が5日の有給を取得しなければ、事業主は法律違反になります。

新36協定届の「様式」も今回の法改正で変更され、新たな記入項目が設けられました。その内容は社内での十分な検討と合意が必要なものですので、早急に備えておきましょう。

(2)2020年4月

中小企業に時間外労働の上限規制が適用されます。また、大企業では「同一労働同一賃金」が施行されます。これは、ある一定のスキルに対して同一賃金額を支払わなければならないという法律です。手当もアルバイト、パートと正社員の間で格差が生じてはなりません。正規と非正規労働者の間に賃金格差があり、これに対し非正規労働者から申し出があった場合、事業主は正当な理由を説明しなければなりません。

(3)2021年4月

前述の「同一労働同一賃金」が中小企業に適用されます。これにあたって、一部の中小企業が正社員の給与を下げるといった措置をとることが懸念されています。

(4)2023年4月

「月60時間超の残業の割増賃金率の引上げ」が中小企業でも施行されます。これは、月60時間を越えた場合の時間外労働に対する割増賃金率が、1.5倍になる制度です。これまで、経営基盤が整っていないと思われる中小企業には猶予期間が与えられ、その適用が見送られてきました。しかし、今回の働き方改革で、猶予期間が2023年の4月までに限定されました。

時間外労働が深夜労働と重複するというケースもありますが、その場合は1.35倍という倍率が適用され、基本給の1.85倍の割増賃金が支払われることになります。これを支払わないと給与未払いで法律違反となり、罰則が科せられることもあります。

6、その他の法令の施行時期

これまで紹介してきた法令のほかに、今回の法改正で重要な変更点を紹介します。

まず、労働者の健康確保の観点から、会社から産業医への情報提供や産業医等による労働者の健康相談等が強化される「産業医の機能強化」の施行時期について、また、フレックスタイム制の清算期間延長や、管理監督者や裁量労働制労働者の労働時間管理の必要性など、2019年から既に適用されている変更点について解説します。

(1)産業医の機能強化

働き方改革関連法により2019年4月1日から「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されます。これについての施行時期を、企業規模や業界別で見てみましょう。

① 中小企業(建設業、製糖業を除く)以外については、2019年3月31日までに締結した改正前の労働基準法第36条(旧第36条)に基づく36協定の有効である1年間は、適用が猶予されます。(最大で2020年3月31日まで適用が猶予)

② 中小企業(建設業、製糖業を除く)については、改正後の労働基準法第36条(新第36条)の適用が1年間猶予されるため、2020年3月31日までに締結した旧第36条に基づく36協定の有効である1年間は、適用が猶予されます。(最大で2021年3月31日まで適用が猶予)

③ 建設業、製糖業については、新第36条の適用が5年間猶予されるため、2024年3月31日までに締結した旧第36条に基づく36協定の有効である1年間は、適用が猶予されます。(最大で2025年3月31日まで適用が猶予)

出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署

(2)フレックスタイム制の清算期間延長

2019年4月より、フレックスタイム制の清算期間が1か月から3か月に延長されます。これまではフレックスタイム制の清算期間の上限が「1か月」までとされていて、労働者はその中で生活に合わせて労働時間を調整することはできましたが、1か月を超えて調整をすることはできませんでした。

しかし、今回の法改正で清算期間の上限が「3か月」に延長されました。つまり、月をまたいだ労働時間の調整が可能となり、より柔軟な働き方ができるようになりました。

出典:労働時間法制の見直しについて

(3)その他の注意点

上で紹介してきたもの以外に、管理監督者と、専門、企画業務型裁量労働制に関する注意点は下記の通りです。

これまで、管理監督者や裁量労働制で働く人には「残業代が支払われなかった」「みなしの時間数で残業代が支払われるため、労働時間管理をおこなっていなかった」ケースもあったでしょう。今回の法改正では、2019年4月1日より、これら管理監督者や裁量労働制労働者に対する労働時間管理が義務化されます。その理由は、健康管理の視点からの労働時間管理が義務化されるからです。

7、サマリー

働き方改革関連法の施行時期について、よくお分かりいただけたでしょうか。いまひとつ理解が及ばないことがあると、法律違反を招いてしまうかもしれません。自分の会社に適用される法律の内容と施行時期は、しっかりと理解しておきましょう。

8、まとめ

・働き方改革関連法とは、2019年に施行された8本の労働法改正の通称であるが、施行時期は一斉ではなくいくつか猶予期間を与えられている業界などがある。

・更なる5年の猶予期間が与えられているのは、建設業と運送業であるが、これは長時間労働の是正には業界ぐるみの取り組みが必要との判断からである。

・中小企業にも1年などの猶予期間が与えられているのは、リソース不足や業務改善の不十分などの事情があるからである。しかし施行時期は確実にくるので、中小企業は体制整備を急がなければならない。

・労働者の健康確保のための「産業医の機能強化」の適用については(一部を除く)中小企業は1年間猶予されるが、柔軟な働き方実現のための「フレックスタイム制の清算期間延長」については、企業規模を問わず適用された。

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