割増賃金は、働き方改革でどう改定される?新割増賃金率の施行と、遵守のための知識

割増賃金は、働き方改革でどう改定される?新割増賃金率の施行と、遵守のための知識

今回の働き方改革では、これまで割増賃金率の改定が猶予されてきた中小企業においても「月60時間を超えた分の残業時間」については5割増となることが決まりました。経営者視点から見れば、この改定は大きな痛手となります。

この記事では、割増賃金の具体的な規定についてまとめ、その沿革と働き方改革による改正点、また社労士のような専門家にどのように委託できるのかについて解説します。

1 割増賃金とは

割増賃金とは、残業代がある基準を超えると残業代が「割増」される制度のことです。働き方改革ではこの割増賃金にも法改正が入り、これまで適用猶予されてきた中小企業においても、2023年からは月60時間超の残業時間の割増賃金率が5割になると決定されました。

(1)沿革

2010年、労働基準法改正で割増賃金率が改定されました。それまで残業の割増率は一律2割5分でしたが、この年に月60時間を超える分に対しては、5割の割増率が適用となりました。これは大企業ではすでに適用されていますが、中小企業に対しては猶予されていました。

しかし、2019年の働き方改革関連法施行にともない、中小企業に対する猶予期間は2022年までとなることが決定されました。

2023年からは、中小企業でも月60時間を超える残業時間に対しては、5割の割増率に移行するのです。

(2)根拠条文 労働基準法内37条

労働基準法で定められた割増賃金の根拠条文を紹介します。

労働基準法

第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

出典:e-Gov

この割増賃金の根拠条文のあとには、時間外、深夜や休日に労働者を働かせた場合の割増賃金率についての条文が続きます。これを図表化するとこうなります。

種類 支払う条件 割増率
時間外
(時間外手当・残業手当)
法定労働時間
(1日8時間・週40時間)を超えたとき
25%以上
時間外労働が限度時間(1か月45時間・1年360時間等)を超えたとき 25%以上
※25%を超える率とするよう努めることが必要です。
時間外労働が1か月60時間を超えたとき
※中小企業については、当分の間、適用が猶予されています。
※事業場で労使協定を締結すれば、法定割増賃金率の引き上げ分の割増賃金の支払いに代えて、有給休暇を付与する制度(代替休暇制度)を設けることができます。
50%以上
※中小企業については、当分の間、適用が猶予されています。
休日
(休日手当)
法定休日(週1日)に勤務させたとき 35%以上
深夜
(深夜手当)
22時から5時までの間に勤務させたとき 25%以上

出典:厚生労働省

(3)割増賃金の発生要件

時間外労働、休日労働、深夜労働、またそのうち2つを組み合わせた場合で割増賃金率が規定されています。

①時間外労働
②休日労働:週1日の、または4週間を通して4日与えた法定休日に労働した場合
③深夜労働

①+③時間外労働+深夜労働:2つの割増率を足した率が適用される

(例)
・9:00~18:00まで勤務(1時間の休憩あり)

・その後23時まで残業

18:00までは休憩時間を除き法定の賃金
それ以降は割増賃金の+25%が適用
22:00以降は深夜の割増賃金の25%も適用となり、時間外+深夜の50%の割増賃金になる

②+③休日+深夜労働
法定休日労働の時間が深夜まで及んだ場合、2つの割増率が適用される

※法定休日労働には、法定労働時間を超えても時間外労働の割増は発生しない
法定休日労働では深夜労働のみ、割増賃金が適用される

2 割増賃金の2つの機能

割増賃金制度を設ける背後には、意味合いがあります。割増賃金が持つ2つの意味合いについてまとめてみます。

(1)ペナルティとしての意味合い

ひとつには、割増賃金には罰則的な意味合いがあるということです。賃金の割増義務という罰則的意味合いを事業者に課し、労働時間の削減をさせようとしているといえます。

働き方改革の施策で明らかなように、長時間労働は是正の方向にあるので社会的な流れにもともないますし、労働基準法も、割増賃金を規定する同法第37条は第4章(労働時間規制の章)に位置づけられていることから、割増賃金は事業者に労働者の生命・健康を保持するための罰則的手段として創設されたと解されます。

事業者にとっても、実際に割増賃金の支払いは大きな負担です。

(2)インセンティブとしての意味合い

労働者視点で見れば、時間外労働等をすることによって賃金が割り増すというインセンティブの機能があります。

そうなると、割増賃金を目的に意図的に残業をする「生活残業」といった問題もでてきます。しかしこのような問題は、働き方改革で時間外労働の上限規制が設けられたことで、是正されていくと見込まれています。

3 割増賃金の計算方法

割増賃金が発生した状況によって割合が変わってくる割増賃金の計算方法は、やや分かりにくいといえます。また割増賃金の算定には、除外される手当があります。

(1)割増賃金の計算式

割増賃金の計算式

割増賃金額=1時間当たりの賃金額×時間数×割増賃金率

1時間当たりの賃金額

1時間当たりの賃金額=月の諸低賃金額÷1か月の所定労働時間

1か月の所定労働時間(月平均所定労働時間)

1か月の所定労働時間=(365-所定休日数)×1日の所定労働時間÷12(原則)

※原則なので、変形時間労働制を採用している場合はこの通りにはいかない。

(2)割増賃金の限定列挙

割増賃金の基礎となるのは「所定労働時間の労働」です。ですので「労働と関係のない手当」については、割増賃金の算定に当たっては除外されます。

第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

出典:労働基準法第37条第5項、同施行規則第21条

割増賃金を算定するにあたって除外される手当は、以下の通りです(これを限定列挙という)。

①家族手当
②通勤手当
③別居手当
④子女教育手当
⑤住宅手当
⑥臨時に支払われた賃金
⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

これらに該当しない賃金は、すべて割増賃金の算入の対象です。しかし、①~⑤の手当について、すべてが割増賃金の基礎となる賃金から除外できるわけではありません。作表するとこうなります。

①家族手当
割増賃金の基礎から除外できる家族手当とは、扶養家族の人数またはこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当をいいます。
具体例 除外できる例 扶養家族のある労働者に対し、家族の人数に応じて支給するもの。
(例)扶養義務のある家族1人につき、1か月当たり配偶者1万円、その他の家族5千円を支給する場合。
除外できない例 扶養家族の有無、家族の人数に関係なく一律に支給するもの。
(例)扶養家族の人数に関係なく、一律1か月1万5千円を支給する場合。
②通勤手当
割増賃金の基礎から除外できる通勤手当とは、通勤距離または通勤に要する実際費用に応じて算定される手当を言います。
具体例 除外できる例 通勤に要した費用に応じて支給するもの。
(例)6か月定期券の金額に応じた費用を支給する場合。
除外できない例 通勤に要した費用や通勤距離に関係なく一律に支給するもの。
(例)実際の通勤距離に関わらず1日300円を支給する場合。
③住宅手当
割増賃金の基礎から除外できる住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいいます。
具体例 除外できる例 住宅に要する費用に定率を乗じた額を支給するもの。
(例)賃貸住宅居住者には家賃の一定割合、持ち家居住者にはローン月額の一定割合を支給する場合。
除外できない例 住宅の形態ごとに一律に定額で支給するもの。
(例)賃貸住宅居住者には2万円、持ち家居住者には1万円を支給する場合。

出典:厚生労働省

また、振替休日と代休はどう扱われるのでしょうか。

振替休日は、休日労働になりません(法定休日を他の勤務日と交換したものの場合)。ですので休日手当は不要になります。

代休は、休日労働になります(勤務日の振替、交換をおこなわず法定休日に労働させ、事後に代休を与えた場合)。よって休日手当が必要となります。

また、振替出勤で休日を翌週に振り替えた場合に、翌週の労働時間が40時間を超える場合は、40時間を超えた部分については時間外労働の割増賃金が発生します。

(3)割増賃金の計算例

それでは、厚生労働省資料から、分かりやすい割増賃金の計算例を3つ引用してみましょう。

例① 1時間外労働、深夜労働の割増率

所定労働時間が9:00から17:00、翌日5:00まで働いた場合(休憩時間1時間)

出典:厚生労働省

例② 法定休日労働の割増率

9:00から24:00まで働いた場合(休憩時間1時間)

出典:厚生労働省

例③ 月給制の場合の割増賃金の計算方法

月給制の場合、1時間当たりの賃金に換算してから計算するため、まずA=1時間当たりの賃金額を導き出します。
月給額(各種手当を含んだ合計)÷1年間における1か月平均所定労働時間数=A円
この金額に、それぞれの割増率を掛けて1時間あたりの残業代を計算します。

【具体例】

出典:厚生労働省

(4)管理監督者の割増賃金について

労働基準法では、「監督もしくは管理の地位にある者」(管理監督者)については、「労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない」とされています。

 

第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。

一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者

二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

出典:e-Gov

このことから、管理監督者には残業や休日出勤をしても、手当を支払うわなくても違法ではないのです。

しかし、注意すべきは「管理監督者」の定義です。管理監督者とは「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされていますが、これは「部長」「営業所長」といった肩書で判断されるのではありません。その人の職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇を踏まえて判断します。

つまり、以下の要件にあてはまらない人は、社内で管理職とされていても手当を支払う必要があります。

①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限を認められていること。
②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること。
③一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金(基本給、手当、賞与)上の処遇を与えられていること。

※管理監督者への適用除外の対象は「労働時間、休憩及び休日に関する規定」です。年次有給休暇、育児・介護休暇、深夜割増賃金に関しては、規定の適用は除外されません。

4 社労士と割増賃金

社会保険労務士(以下社労士)とは、社会保険労務士法に基づいた国家資格者で、企業の成長に必要な「ヒト・カネ・モノ」のなかでもヒト(人材)に関する専門家といえます。社労士の業務の目的は「労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資すること」です。

社労士の業務の内容は広範囲にわたり、採用から退職までの「労働・社会保険に関する諸問題」や「年金の相談」に応じるほかにも、法令に基づく各種書類の作成代行や届出、会社経営における労務管理や社会保険に関する相談・指導をおこなうなど、様々です。社労士業務には2本の軸があり、それは「ヒトに関する業務(人事・労務)の外注(アウトソーシング)」と「ヒトに関する業務のコンサルティング」だといえます。

この社労士へ、ヒトに関する業務を外注するという方法もあります。つまり、具体的には労働保険・社会保険に関する手続き、社員の毎月の給与計算や勤怠管理業務などの仕事を、社労士にアウトソーシングすることができるのです。

以下のような状況にある会社は、社労士への業務のアウトソーシングを考えると良いかもしれません。

①人事・労務をおこなう専門スタッフを置く余裕がない
②事業の急成長にあって人事・労務が大変になってきた
③特定の時期に人事・労務が集中して困っている
④合理化で人事・労務をアウトソーシングしたい

④に関してですが、人事・労務の業務をすべて自社で実施するのと、人事・労務をアウトソーシングした場合を比較した場合、コストは3分の1程度になるといわれています。時間外労働が罰則をもって法律への格上げがおこなわれたことに鑑みても、賃金計算を社労士に任せることは賢明な手段といえるでしょう。

5 働き方改革と割増賃金

働き方改革の主眼は「日本の労働の質の向上」ともいわれ、その具体的な施策として時間外労働には上限規制が設けられました。

ペナルティ的意味合いを持つ割増賃金は、これまでは中小企業には適用猶予されてきましたが、今回の働き方改革関連法の施行にともない、その猶予期間の終了時期が定められました。

(1)労働時間法制の見直し

働き方改革は、時間外労働の上限規制を設けて「働き過ぎ」を防ぐことで、「ワーク・ライフ・バランス」「多様で柔軟な働き方」の実現を目指しています。

このような労働時間法制の見直しの目的とは「生産性の向上」です。残業が常態化した会社もあるほどの状況を改善していくためには労働時間法制の見直しだけでなく、管理職の意識改革、非効率な業務プロセスの見直し、取引慣行の改善などもあわせておこなわれることが望まれています。

(2)中小企業も「割増賃金賃金率50%」に引き上げ

労働基準法37条1項ただし書きで規定された「月60時間を超える時間外労働については50%以上の割増賃金を支払わなければならない」という義務は、中小企業には猶予措置が設けられていました(労働基準法附則138条)。しかし今回、2023年4月から、この猶予措置が廃止されることが決定しました。

出典:厚生労働省

上図の通り、月60時間超の残業時間割増率が5割の割増賃金率は、大企業ではすでに導入されています。これまでは一律1.25倍の賃金で時間外労働をさせることが可能であった中小企業に対しても、今後この割増賃金率が引き上げられます。

(例)
もとの時給が1,500円

2022年までの割増賃金:時給1,875円(割増率2割5分)
2023年以降の割増賃金:時給2,250円(割増率5割)

加えて、深夜労働(22時〜5時)を兼ねる場合は、1.35倍の賃金を支払う必要があるため、合計1.85倍の割増賃金が発生することになります。もしこれに違反すれば、残業代未払いとして労働基準法違反となり、懲役・罰金もしくはその併科の対象となります。

割増率引き上げの対象となる残業が多い中小企業は、残業時間の削減をおこなわないと、残業時間のコストアップは必須ということです。

6 サマリー

「長時間労働の是正」に働き方改革で踏み切った政府の、割増賃金率のアップに対する姿勢は、ペナルティ的要素を大きくして生産性の高い労働の在り方に移行させたい意思を含んでいます。

そのため、現場はやみくもに残業を禁止するだけでは不十分です。コストアップに悩むだけで終わってしまうのではなく、効率的かつ生産性の高い働き方の模索を通し、本当の意味での解決に至ることが本題なのです。

7 まとめ

・これまで中小企業には猶予されてきた「月60時間を超える残業時間は5割増」の割増賃金制度が、2023年から中小企業においても導入される。

・割増賃金の発生要件は、時間外労働・休日労働・深夜労働においてそれぞれ規定が違う。時間外労働+深夜労働、休日労働+深夜労働の場合の割増率にも注意が必要である。

・割増賃金は、働き方改革が長時間労働の是正を本丸に掲げることからも、インテンシブ意味合いというよりはペナルティ的意味合いが大きいといえる。

・割増賃金の算出では「労働と関係のない手当」の除外の必要性があり、家族手当、通勤手当、別居手当などがこれに該当するが、これらを「限定列挙」という。

・限定列挙の中でも、家族数や通勤費など、状況に応じた手当は割増賃金算入の対象となる。

・2023年から企業規模を問わず導入される割増賃金は、やみくもに残業を禁止させることを目的としているのではない。割増賃金制度が導入されてもコストアップに苦しまないような生産性の向上を図ることが、本制度の目的といえる。

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