労働者派遣法は社会保険労務士(社労士)試験の出題範囲?沿革と同一労働同一賃金を解説

労働者派遣法は社会保険労務士(社労士)試験の出題範囲?沿革と同一労働同一賃金を解説

労働者派遣法は、社会の移り変わりとともにその在り方も変わり、その度にニュースなどで大きく報道されてきました。社会問題となった「派遣切り」や、現在の日本の雇用者の約4割が非正規雇用であるというニュースには、労務に携わらない人でも関心をもったのではないでしょうか。

日本の雇用者の4割を占める非正規雇用者の労働条件が改善されれば、日本の労働者の労働条件の底上げに繋がると考えられています。この記事では、そのような観点から「働き方改革」の一角を占める労働者派遣法について、社労士試験合格のための対策と合わせて解説していきます。

1 労働者派遣法とは

労働者派遣法とは、文字通り派遣労働者の保護などを目的とした法律です。1986年の制定から形を変えながら派遣労働者の就労を規定・保護し今に至ります。そして、働き方改革関連法の施行にともない、2020年には大企業で、2021年には中小企業で「同一労働同一賃金」として派遣労働者の待遇差改善が図られて行く予定です。

はじめに、このような変遷を辿ってきた労働者派遣法について分かりやすく解説します。

労働者派遣法の概要

労働者派遣法の正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」です。この労働者派遣法が制定された目的は、派遣元事業者(職業紹介事業者)と派遣先事業者に対する規制を設け施行することと、派遣労働者の保護です。

この内容については、目的条文である労働者派遣法第1条に記されています。

第1条(目的)

この法律は、職業安定法(昭和22年法律第141号)と相まつて労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講ずるとともに、派遣労働者の保護等を図り、もつて派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする。

出典:e-Gov 

2 社労士試験と労働者派遣法

社労士試験には、労働者派遣法は出題されるのでしょうか。社労士試験といえば、ご存知の通り2つの一般常識と8つの法令を出題範囲としています。

(1)労働者派遣法は社労士試験の出題範囲

労働者派遣法は、社労士試験の出題範囲に含まれます。2つの一般常識と8つの法令のうちどれに属するのかと考えれば「労務管理その他の労働に関する一般常識」(労一)の範囲内とされています。職安や職業紹介事業者について定められた「職業安定法」とともに労一の出題範囲と考えられていますが、実際には労一以外でも出題されています。

試験科目 択一式
計7科目(配点)
選択式
計8科目(配点)
労務管理その他の労働に関する
一般常識
10問(10点) 1問(5点)
社会保険に関する一般常識 1問(5点)

出典:社会保険労務士試験オフィシャルサイト 

(2)労働者派遣法の出題ポイント

前述のように、労働者派遣法とは「派遣元事業者と派遣先事業者に対する規制と派遣労働者の保護」を目的とする法律です。派遣元事業者が営む「労働者派遣事業」は、厚生労働大臣の許可を得ないとおこなえません。

重要な労働者派遣法の用語の学習は、条文から学ぶことができます。労働者派遣法第2条の「用語の意義」をよく理解しておきましょう。

第2条(用語の意義)

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 労働者派遣

自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。

二 派遣労働者 

事業主が雇用する労働者であつて、労働者派遣の対象となるものをいう。

三 労働者派遣事業 

労働者派遣を業として行うことをいう。

四 紹介予定派遣 

労働者派遣のうち、第5条第1項の許可を受けた者(以下「派遣元事業主」という。)が労働者派遣の役務の提供の開始前又は開始後に、当該労働者派遣に係る派遣労働者及び当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受ける者(「第3章第4節〔=労働基準法等の適用に関する特例等〕を除き、以下「派遣先」という。)について、職業安定法その他の法律の規定による許可を受けて、又は届出をして、職業紹介を行い、又は行うことを予定してするものをいい、当該職業紹介により、当該派遣労働者が当該派遣先に雇用される旨が、当該労働者派遣の役務の提供の終了前に当該派遣労働者と当該派遣先との間で約されるものを含むものとする。

出典:e-Gov 

上記の条文で扱われている「紹介予定派遣」の具体的な定義も含め、いくつか労働者派遣法の頻出箇所について紹介します。

紹介予定派遣 派遣と職業紹介を組み合わせた制度。
派遣先で、最長6か月間派遣労働者として働いた後、お互いに気に入ればそのまま社員となれる制度。
労働契約申込
みなし制度
以下のおこないを派遣労働者に対して派遣先の事業者がおこなった場合、派遣先は「今までの労働条件と同じ条件で直接雇用の申込をしたもの」と、みなされる制度。

①派遣禁止業務で派遣労働者を働かせた場合
②無許可の業者から派遣労働者を受け入れた場合
③派遣の可能期間に違反した場合
④偽装請負をおこなった場合
労働派遣者がこれを受け入れれば、派遣社員から派遣先の正社員になれる。

派遣禁止業務 「派遣」が法律で(絶対)禁止されている業務。

①港湾運送業務
②建設業務
③警備業務
医療関係業務も、原則的には禁止です。

有料職業紹介禁止業務 有料職業紹介が(絶対)禁止されている業務。

①港湾運送業務
②建設業務

(3)労働者派遣法の沿革

労働者派遣法に限らず、社労士試験には、これまでの法改正に関する知識が出題されます。労働者派遣法の改正を時系列で押さえると、1996年、1999年、2012年、2015年が改正年となります。

しかしそれらに加えて、今後の社労士試験における労働者派遣法では、2020年から大企業で施行される「同一労働同一賃金」が法改正の重要なトピックとなります(中小企業においては2021年より施行)。

2020年4月1日から、派遣労働者の同一労働同一賃金の実現に向けた改正労働者派遣法が施行されます。改正点は次の3点です。

1.不合理な待遇差をなくすための規定の整備

2.派遣労働者の待遇に関する説明義務の強化

3.裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備

出典:厚生労働省

働き方改革による「同一労働同一賃金」についての改正点の例を紹介しましょう。以下は、有期労働者・パートタイム労働者・派遣労働者の「均等」「均衡」待遇についての改正点をまとめたものです。

「均等待遇」とは、同じ働き方をしている(同一労働)場合、処遇(賃金などの労働条件)を同じにすること(同一賃金)を意味します。「均衡待遇」とは、働き方が違う場合には、違いに応じてバランスを考えた処遇を決定することを意味します。

改正前 改正後
均等・均衡待遇 【有期労働者】
「均衡」(労働契約法)
【有期労働者】
「均等」「均衡」(有期雇用労働法)
【パートタイム労働者】
「均等」「均衡」(パートタイム労働法)
【パートタイム労働者】
「均等」「均衡」(パートタイム労働法)
【派遣労働者】
「均衡」を考慮した配慮義務(労働者派遣法)
【派遣労働者】
以下のいずれかの義務化
・派遣労働者との「均等」「均衡」処遇
・労使協定方式による派遣労働者の賃金処遇(労働者派遣法)
待遇差に関する義務説明 【有期労働者】なし パートタイム、有期労働者から求めがあった場合、正規労働者との待遇の相違の内容及び理由の説明を義務化
(パートタイム・有期雇用労働法・労働社派遣法)
【パートタイム労働者】なし
【派遣労働者】あり

(労働者派遣法31条の2第2項)

出典:週間エコノミスト 2019年4月9日

同一労働同一賃金の目的は「非正規雇用者の待遇改善」にあります。既に申し上げた通り、日本では、全雇用者の約4割が非正規雇用者であるといわれています。

これに鑑みると、非正規雇用者の待遇差改善は、日本の労働者の労働条件の底上げに繋がるといえます。また、深刻な人手不足が叫ばれるなか、非正規雇用者の待遇差改善は新たな雇用者を取り込むための鍵になっているともいえます。

3 労働者派遣法の法改正の歴史

次に、労働者派遣法の法改正の歴史をまとめてみましょう。

1986年、労働者派遣法が制定されました。この年に、人材派遣が法律で正式に認可されました。それまでは「業務請負」という形で人材派遣がおこなわれていましたが、この年「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」が告示され、労働者派遣事業と請負によっておこなわれる事業が区別されました。

1996年には、人材派遣が認められる業務が、13業務から26業務に拡大されます。

1999年には、一部の業種を除き、人材派遣が認められることになりました。

2012年と2015年にはさらに大幅な法改定がおこなわれ、特に2015年9月30日には、労働者派遣法が大幅に改正されました。

(1)2012年の法改正のポイント

2012年10月1日に施行された労働者派遣法改正法により、労働者派遣法の正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に変わりました。この時の法改正の要点は以下のとおりです。

・派遣先企業の社員との均衡(賃金など)への配慮
・30日以内の日雇い派遣の原則禁止
・有期雇用から無期雇用へ転換する機会の提供
・派遣社員への待遇説明の義務化
・派遣料金の情報公開を義務化

(2)2015年の法改正のポイント

2015年に施行された労働者派遣法の法改正のうち、重要事項は以下の2つです。

①期間制限
②労働契約申込みみなし制度
(平成24年労働者派遣法改正法に基づき平成27年10月1日から施行)

期間制限には、「派遣先事業所単位」と「派遣労働者個人単位」があります。

派遣先事業所単位の期間制限:
派遣先の同一の事業所に対し派遣できる期間(派遣可能期間)は、原則、3年が限度に。

派遣労働者個人単位の期間制限:
同一の派遣労働者を、派遣先の事業所における同一の組織単位に対し派遣できる期間は、3年が限度に。

2015年の労働者派遣法改正の概要は以下の5つにまとめられます。全体的に派遣労働者にとってより有益なものとなりました。

①キャリアアップ措置の実施
②労働者派遣の期間制限のルールの見直し
③雇用安定措置の実
④均等待遇の推進
⑤労働者派遣事業の許可制への一本化

出典:厚生労働省「平成27年 労働者派遣法改正法の概要」

(3)2020年からの働き方改革

2020年には、まず大企業を対象に労働者派遣法の改正が適用されます。 そして2021年4月には続いて中小企業で法改正が施行されることで、日本国内の中小企業以上の企業に「同一労働同一賃金」が導入されることになります。この法改正は、「働き方改革」の一環として正社員と非正規雇用者の待遇格差の改善を目的として施行されます。

4 2020年社労士試験のポイントは法改正

繰り返しますが、次回の労働者派遣法の法改正「同一労働同一賃金」は、非正規労働者の待遇差改善を目的としています。また、待遇差に関する情報開示義務も大きな焦点となります。

(1)派遣先の情報提供義務

派遣労働者との間で締結する「労働者派遣契約」の中に、新たに記載事項が追加されます。法改正後は、労働者(比較対象労働者)の賃金、及び待遇差を改善する情報を提供することが義務化されるのです。 この比較対象には、「派遣先の会社の正社員」と「派遣される派遣社員」が含まれます。

つまり、正社員と非正規雇用者の給与形態を含む待遇差の公開義務が設けられます。この情報提供により、派遣社員は派遣先の正社員の待遇を知る機会が得られるわけです。また、「労働者に対する待遇に関する説明義務の強化」も変更点の一つです。非正規雇用労働者は、「正社員との待遇差の内容や理由」などについて、事業主に説明を求めることができるようになります。事業主は、非正規雇用労働者から求めがあった場合は、説明をしなければなりません。

(2)待遇差改善と情報開示義務

同一労働同一賃金は、別名「パートタイム労働法」と呼ばれています。これは、同一労働同一賃金により派遣労働者の待遇が、労働基準法で規定されたパートタイム労働者の基準まで改善されることを見据えたことからの呼称です。また、2021年からは「パートタイム・有期雇用労働法」と呼ばれるといわれています。

厚生労働省による「パートタイム労働者」の規定は、以下のようになります。

事業主は、パートタイム労働者を雇い入れたときは、速やかに、「昇給の有無」、「退職手当の有無」、「賞与の有無」を文書の交付等により明示しなければならない。

→違反の場合は10万円以下の過料

事業主は、1の3つの事項以外のものについても、文書の交付等により明示するように努めるものとする。

出典:厚生労働省

このように、労働基準法は、パートタイム労働者を対象に「労働条件の明示」をおこなうことを事業主に義務付けています。「契約期間」「仕事の内容」「始業・終業時刻や所定時間外労働の有無、休憩・休日・休暇」「賃金」「退職に関して」などについては文書化しなけれならず、違反の場合は30万円以下の罰金に処せられるという厳格な法規定です。

加えて「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」の3つを、パートタイム労働者に明示する義務もあり、違反の場合は、行政指導によっても改善がみられなければ、パートタイム労働者1人につき10万円以下の罰金が科されます。

このように、パートタイム労働法では既にパートタイム労働者への「情報開示」が課されています。同様の規定が派遣社員にも適用されると、派遣労働者への情報開示の義務が課せられることになるのです。

(3)同一労働同一賃金の導入

2020年4月から、まずは大企業に「同一労働同一賃金」が導入されます。 非正規雇用と正規雇用の待遇差改善を目的としており、賃金や待遇を比較できるようにすることで、派遣労働者の待遇差改善に向かうと見られています。

5 サマリー

派遣法の改正点について、お分かりいただけたでしょうか。

1986年の制定以来、労働者派遣法は改正を繰り返してきました。今回の同一労働同一賃金では、有期労働者やパートタイム労働者との待遇差の開示を義務化しながら、派遣労働者の待遇差改善を推進しようとしている点も理解しておきましょう。

6 まとめ

・2020年より大企業で、2021年より中小企業で施行される「同一労働同一賃金」は、派遣労働者の待遇改善を図ることを目的としている。

・労働者派遣法は社労士試験の出題範囲で、条文もしっかり理解する必要がある。最長6か月働いた後双方が気に入れば派遣社員が正規の労働者になれる制度「紹介予定派遣」や、特定のおこないを派遣先がおこなったら派遣社員に直接雇用申込をしたと見なす「労働契約申込みなし制度」などの用語もよく理解すること。

・働き方改革で導入される「均等・均衡待遇」によって、有期労働者・パートタイム労働者・派遣労働者の待遇差が見直しされる。

・同一労働同一賃金は別名「パートタイム労働法」と呼ばれる理由は、同法が派遣労働者の待遇を、労働基準法が規定するパートタイム労働者の基準まで改善することを見据えているからである。

・2020年の社労士試験の労働者派遣法の出題範囲は、「待遇差の公開義務」「情報開示義務」をはじめとした労働者派遣法の改正点であると予想される。

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