働き方改革 残業上限にみるその例外・適用時期・変形労働時間制・休日労働について徹底解説!

働き方改革 残業上限にみるその例外・適用時期・変形労働時間制・休日労働について徹底解説!

働き方改革により策定された「時間外労働の上限規制」は、残業を美徳として勤勉に働いてこられた世代の方には、何か甘く感じられてしまうかもしれません。「働き盛りなのに、なぜ労働時間を制限するのか?」と不思議に思ったり、働き方改革の目指す方向性がよく分からなかったりという方もいることでしょう。

働き方改革には、日本の労働の質を上げ、ひいては日本の労働生産性を向上させるという崇高な目的があります。この記事ではそれを踏まえながら、今回の改正が時間外労働の上限をどのように設けているのかについて、解説していきます。

 

働き方改革 残業上限について

政府が打ち出した働き方改革の3つの柱は、「長時間労働の是正」「多様で柔軟な働き方の実現」「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」です。

この記事では、その中でも「時間外労働の上限規制」について、詳しく把握したい方向けにまとめていきます。

 

“時間外労働の上限規制とは?

時間外労働の上限は、月45時間・年360時間。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年間720時間、月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)を超えることはできません。また、45時間を超えることができるのは、年間6か月までです。

出典:政府広報

 

今回導入された「時間外労働の上限規制」について最も特筆すべきことは、上記の「臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合」に相当する特別条項付36協定の残業時間数に、上限規制が設けられたことです。これはとても画期的な改革だといえます。

特別条項付36協定の締結は、これまでは事実上の“残業の抜け穴”と呼ばれていました。特別条項付36協定があることで、残業の常態化に歯止めが効かない状況が、長らく放置されてきたからです。

36協定とは

 

“36協定とは?

労働基準法で定められた、1日8時間・1週40時間以内の法定労働時間を超えて時間外労働(残業)をさせる場合は、

①36協定の締結 ②所轄労働基準監督署長への届出が必要です。

※この協定の根拠が労働基準法第36条に規定されていることから「36協定」と呼ばれています。

36協定では、「時間外労働を行う業務の種類」や「1日、1か月、1年当たりの時間外労働の上限」などを決めなければなりません。

出典:政府広報

 

今回、特別条項付36協定に残業時間の上限規制が設けられましたが、そのキーワードは「単月100時間未満」「複数月平均80時間」「年720時間」です。これらの時間的制限は、今回の改革で、いわゆる「罰則付きで法律に格上げ」された部分ですので、人事・労務担当者や経営者はよく理解しておきましょう。

図1:長時間労働上限規制の導入  

出典:厚生労働省「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案の概要」

 

 2019年4月におこなわれた働き方改革関連法の改正以前の36協定のルールは、以下の通りでした。

時間外労働の上限 原則「月45時間、年360時間」
特別条項付36協定の締結

(突発的かつ一時的な特別の事情が予想される場合)

一年で6ヵ月を超えない期間内で、前述の原則を超える時間外労働時間を設定することができる

 

これに加えて、事業主には「過労死ラインを意識する」などの、安全配慮義務が課せられていました。

過労死ラインとは、発症前1か月に「時間外労働80時間」、発症前2~6か月に「時間外労働100時間」が認められる超過労働のレベルです。このような超過労働が認められる場合は、業務と発症の関連性が強いと評価されるため、このように呼ばれています。

しかし、これまで過労死ラインには、何ら法律的な規定が設けられていない点が問題視されていました。残業時間数を文字通り「青天井」に上限なく設定できてしまう上、そのことが野放しにされてきたからです。

36協定の見直しがおこなわれた

今回36協定が見直され、労働基準法にも新たな内容が明記されることとなりました。

この労働基準法改正は「70年ぶりの改正」とも謳われています。

改正労働基準法に明記された内容とは

 

時間外労働の上限(※従来通り) 原則「月45時間、年360時間」
特別条項付36協定の締結(※上限設定)

(突発的かつ一時的な特別の事情が予想されるケースに限り、下記の要件を満たす場合

一年で6ヵ月を超えない期間内で、時間外労働時間の特別な設定が可能

 

特別条項付き36協定を締結した場合、満たすべき「下記の要件」とは次の通りです。

・年間の時間外労働は月平均60時間(「年720時間」)以内となること

・休日労働を含み、2ヵ月間、3ヵ月間、4ヵ月間、5ヵ月間、6ヵ月間のいずれかの月平均時間外労働時間が「80時間」を超えないこと

・休日労働を含んで、単月は「100時間」未満となること

上記の要件に違反した場合は、労働基準法違反となり罰則または罰金が科されることとなりました。法的拘束力をもったため、「うっかり」では済まされません。

特に、現場の労働状況を把握する立場にある経営者や人事・労務担当者は、今後「年720時間」「複数月80時間」「1ヵ月あたり100時間」といった改正のキーワードを意識する機会が増えるでしょう。

 

時間外労働の上限規制における例外(特別条項付き36協定)とは?

働き方改革法により設けられた時間外労働の上限は、原則的には以下のとおりです。

時間外労働の上限規制【原則】

1か月 45時間以内
1年間 360時間以内

 

もっと詳しく説明しましょう。

時間外労働は、原則的には1か月あたり45時間以内であれば限度内となります。①の上限「1か月45時間」を守るだけならば、

 

45時間×12ヵ月=540時間

 

という計算になります。しかし、毎月45時間の残業をさせてしまうと、②の「1年間で360間以内」を軽く超えてしまうのです。

つまり、時間外労働の上限規制は、1か月単位と年間単位で見ることが重要です。年間360時間を月で割ると、月に平均30時間程度ということになります。「毎月45時間以内になら問題ない」といった、誤った理解をしていると危険ですので気をつけましょう。

 

時間外労働の上限規制【例外(特別条項)】

①1ヵ月 100時間未満

②その月を含む直前の2ヵ月、3ヵ月、4ヵ月、5ヵ月、6ヵ月のいずれにおいても平均80時間以内

③1年間 720時間以内

④特別条項を適用できるのは、年に6回まで

もうひとつの上限が、上記の「時間外労働の上限規制における例外(特別条項付き36協定)」です。原則的な時間外労働の上限規制は「1か月45時間・1年360時間」ですが、これを超えなくてはならない必要性がある場合に、二段階目の上限規制を適用することができる、という位置づけです。適用するための要件は、特別条項付き36協定の締結です。

労働基準法は、改正前後ともに、二段階目の上限を適用しなくてはいけない事態として、「突発的かつ一時的な特別の事情が予想されるケース」を挙げています。これはどういう意味かというと、会社が予期せぬトラブルに見舞われた場合の対応業務などを示唆しているのです。そのような会社の経営上の緊急事態には、従業員に原則の残業時間数の上限を超えて働いてもらわねばならないわけですが、そのような場合を指しているのです。

 

この例外的な上限規制について、一つ一つ見ていきます。

1か月100時間未満

100時間「未満」であり、「以下」ではない点に気をつけましょう。100時間ちょうどの時間外労働は、法律違反になってしまいます。

顧客からのクレームなど突発的なトラブルに対応するため、99時間の時間外労働をした場合はどうなるでしょうか。1か月45時間以内という上限を超える場合は、既に説明したように、事前に特別条項付きの36協定を締結している必要があります。また、締結の際に「上限時間」を100時間と定めていなければなりませんので、注意しましょう。

100時間未満をオーバーする場合はこれまでと違い法律違反となり、罰則または罰金の対象となります。

その月を含む直前の2ヵ月、3ヵ月、4ヵ月、5ヵ月、6ヵ月のいずれにおいても平均80時間以内

この基準が設けられたため、労働時間管理の実務が少しややこしくなるでしょう。

図2は、厚生労働省「時間外労働の上限規制 分かりやすい解説」より抜粋したものです。

図2から分かるように、今回の改正により、毎月算出した時間外労働と休日労働の合計時間数をもとに、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」を算出する必要があるのです。

それぞれの平均は、80時間以内である必要があります。

 

図2:労働時間管理の実務イメージ Step4

出典:厚生労働省 

 

この「月100時間、6ヵ月平均で月80時間」という上限規制の根拠となっているのは、労災認定の基準とされる「過労死ライン」です。今までの、特別条項付き36協定を結べば青天井で残業が放任されていた状況に、医学的な歯止めがかかりました。

 

いろいろなケースを想定して検証してみましょう。

 

2月に99時間の時間外労働をした場合:

✔3月の時間外労働の上限は、61時間

  ひと月平均80時間以内に収めるには「61時間(80時間×2か月-99時間)」になるから

✔「その月(3月)を含む直前の3か月において平均80時間以内」であるかもチェックする

 

4月の時間外労働の上限の算出の仕方:

✔4月の時間外労働の上限は、80時間

   2、3、4月平均:80×3-(61+99)=80時間

 

「その月を含む直前の2ヵ月、3ヵ月、4ヵ月、5ヵ月、6ヵ月のいずれにおいても平均80時間以内」という規定があるため、平均80時間以内がおのおので遵守されているかを毎月チェックする必要があり、労務管理が煩雑になるといえます。またお分かりのように、ある月の時間外労働の上限が何時間になるかを、前の月(最大6か月)の時間外労働の平均をもとに、あらかじめ算出しておく必要があります。「うっかり時間外労働の上限に違反してしまった」という事態がおこりうる改正でもあるので、毎月、常に平均値を算出して時間管理をしていく必要があります。 

1年間 720時間以内  

特別条項を適用できるのは、年に6回まで

最後は、特別条項を適用できる回数についてです。特別条項を適用できるのは、「年に6回まで」と定められています。そのうえで、下記の項目も遵守しなければいけません。

・1年のうち半分の月は時間外労働を45時間以内に収める必要がある

・1年間の時間外労働の合計時間は720時間以内に収める必要がある

 

この規制にはパラドックスがありますので、法律違反とならないように注意が必要です。

それは、以下のような場合です。

1か月45時間の残業 × 6か月

   +

1か月80時間の残業 × 6ヵ月をした場合 = 1年間の合計750時間

この場合、時間外労働の上限規制【例外(特別条項)】の①、②、④はクリアしていますが、③の「1年間 720時間以内」という上限を、30時間オーバーしてしまうため、法律違反になってしまうのです。

 

残業上限規制の適用はいつから?

時間外労働の上限規制は、中小企業と大企業では適用時期が異なります。

大企業の適用時期

大企業においては、時間外労働の上限規制は2019年4月1日から既に施行されています。

中小企業の適用時期

中小企業においては、大企業に1年遅れて、2020年4月1日より施行されることになります。

大企業か中小企業かの判定はどのようにおこなわれるのか

大企業か中小企業かの判定が定かでない場合は、下記にて確認しましょう。(1)または(2)に当てはまる場合は「中小企業」に該当し、いずれにも当てはまらない場合には「大企業」に該当します。

 

図3:中小企業該当の有無についての確認表

製造業の場合、業種は「その他」の業種に該当します。

製造業の場合は、下記のように、中小企業該当の有無を確認します。

 

(例) 製造業(「その他」の業種に該当)の場合

資本金 1億円 労働者数 100人 中小企業
労働者数 500人
資本金 5億円 労働者数 100人
労働者数 500人 大企業

出典:福岡労働局

 

変形労働時間制(へんけいろうどうじかんせい)の場合はどうなるのか

 

「変形労働時間制」という制度があることをご存知でしたか?この制度も労働基準法の例外として策定されたものです。 

変形労働時間制とは 

変形労働時間制とは

「1日8時間,週 40時間」と定めた労働基準法の規定に対し,一定期間内の平均労働時間が週 40時間をこえない形において1日の労働時間を決めた制度。

出典:コトバンク 

 

変形労働時間制は、特定の時期や季節に業務が集中しやすい業種にとても有利な制度です。同制度は、1987年の労働基準法改正で設けられ、これにより「1日8時間以上の労働」や「週3日以上の休日」が可能になりました。一定期間内を1か月,3か月,1週間の3種類とし、その期間の平均労働時間が週 40時間をこえないように計算して、1日の労働時間を決定します。この制度の適用例を挙げてみましょう。

 

図4:月末の労働時間を増やす例

この適用例は、1か月の一定期間内で、1~24日が1日6時間30分労働(土・日休日)で、25日以降が1日9時間労働(日休日)とした場合です。

 

 

図5:1日10時間労働、週休3日制

 

この適用例は、月~木曜日を1日10時間労働とし、金土日を休日とした場合です。 

出典:社長のための労働相談マニュアル 

 

同制度は、業種によっては労働基準法の「1日8時間・週40時間以内」の法定労働時間がそぐわないために設けられた制度です。1993年の改正でフレックスタイム制が導入されると、さらに労働時間の在り方は弾力化されていきました。変形労働時間制は、繁忙期は週48時間労働にして、閑散期は週35時間にするなど、労働期間のフレキシブルな設定を可能としました。平均が週40時間を超えなければ大丈夫です。しかし、この制度にもパラドックスが存在します。 

変形労働時間制の落とし穴

変形労働時間制によれば、例えば、繁忙期は週48時間を超えた分を残業とすることができます。最長3か月の一定期間内を選択し、その期間の残業が平均40時間を超えなければ良いからです。

48時間×4週=192時間

ここで、特別条項付き36協定には、以下のような時間外労働の上限規定があることを再度申し上げます。

休日労働を含んで、単月は「100時間」未満となること

 

 ということは、月に292時間未満までは従業員に時間外労働を課すことができるということになります。残業292時間は、違法にならないのか?という疑問が出てくるのです。

 

また、原則として週40時間を超えた分が、時間外労働として計算されます。きっちり4週しかない2月は、40時間 × 4週 = 160 時間ですから、これを超えた分が残業になります。ここに再び以下を適用します。

 

休日労働を含んで、単月は「100時間」未満となること

 

ということは、月260時間まで時間外労働が認められるようになりますが、これは明らかに違法です。

働き方改革で、時間外労働の上限規制を法律に格上げしたものの、このように「変形労働時間制」が抜け道として残ってしまう可能性があるのです。 

休日労働は含まれるのか

 

さらにややこしい点が、上記の時間に「休日労働の時間を含めるのかどうか」です。結論は以下のとおりです。

①1ヵ月45時間…法定休日労働を含まない

②1年間360時間…法定休日労働を含まない

③1ヵ月100時間未満…法定休日労働を含む

④2~6ヵ月平均80時間以内…法定休日労働を含む

⑤1年間720時間…法定休日労働を含まない 

 

法定休日を「日曜日」と定める会社のケースで説明しましょう。

 

・月曜日から木曜日まで4時間、毎日8時間労働した

・金曜日は有給休暇を取得した

・土曜日は所定休日のため、休んだ

・日曜日に休日労働として5時間労働した 

この場合、以下の点に留意する必要が出てきます。

③100時間未満④80時間以内に含まれる

⑤720時間についてはカウントされない

また、週の労働時間数合計が40時間以下のため、①45時間②360時間には含まれません。

 

45時間 × 6か月 + 80時間 × 6か月 = 1年の労働時間数合計が750時間

このケースでも、⑤1年720時間の上限に休日労働が含まれないため、750時間のうち30時間が休日労働であれば、労働時間が750時間>720時間となったとしても違法とはなりません。 

このように、時間外労働の上限規制には分かりにくさがありますので、以下のような会社は、特に労務管理について相当の注意を払うことが必要となります。

・80時間を超える時間外労働が、年2、3回程度ある

・休日労働が、月2、3回程度ある

 

人事・労務従事者だけでなく、現場の責任者や従業員にも理解を求め、意識してもらうようにしましょう。

 

サマリー

いかがだったでしょうか?このように「時間外労働の上限規制」は、法的力を得て本格的に長時間労働の是正に着手したものの、まだ抜け道が残っています。特に労務関係に携わる人は、知らないうちに会社が違法行為を犯さないように、今回の改正の落とし穴をしっかりと把握しておきましょう。

 

まとめ

・働き方改革は時間外労働の上限規制を設けた

・なかでも36協定は見直しがおこなわれ、そのキーワードは「単月100時間未満」「複数月平均80時間」「年720時間」である

・特別条項付き36協定を締結すれば上限なく残業ができたが、今回罰則付き上限規制が設けられた

・変形労働時間制や休日労働を含むか否かで、例外的に、本来今回の改正より違法となるべき残業時間数が、合法となってしまう矛盾が残っている

 

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