働き方改革 問題点(官邸主導の働かせ改革等)と弊害に見るその具体的対策とは?

働き方改革 問題点(官邸主導の働かせ改革等)と弊害に見るその具体的対策とは?

2019年4月より段階的に実施されている働き方改革ですが、この働き方改革の内容を知っていても、問題点について明確に知っている人はそう多くありません。実は、働き方改革には問題点や弊害が存在しています。詳しく解説しますので、ぜひこの記事を読んで問題点や弊害を理解していただき、具体的な対策へと繋げてください。

1、働き方改革における問題点と弊害

働き方改革における問題点は、企業側にも従業員側にもあります。ここでは、双方にとっての弊害を解説いたします。また、それらの弊害の背景にあるものを理解していただいた上で、乗り越えるための具体策をいくつかご紹介いたします。

(1)企業側の弊害

働き方改革には、「時間外労働の上限規制」というルールがあります。週40時間を超えて労働可能となる時間外労働の限度を、原則 として一ヶ月45時間、年間で360時間までとするものです。これらの時間外労働を超えることのできる特例も存在していますが、ブラック企業の問題で取り沙汰されたように、長時間労働を避けるためのルールが今回細かく規定されました。時間外労働のルールについて、今まで罰則はありませんでした。しかし、今回の働き方改革により、罰則が設けられることになりました。

企業側はこれらの制度に当てはまるよう、「時間外労働の上限規制」のルールが義務化されるまでに、就業規則などを変える必要があります。企業によっては、根本から会社内の制度を見直さなければならないところもあります。ルールを作り直し、実行するためには、かなりの時間や労力が必要となります。

この会社内の制度の見直しが、企業側にとって大きな弊害となります。

(2)従業員側の弊害

従業員の中には、残業代をあてにし、その残業代を生活費に充てているというケースが少なくありません。もし働き方改革によって残業をする機会が減ってしまったり、失われてしまったりすると、毎月の手取りに影響が出てしまいます。

また、「残業をせずに帰りましょう」という風潮が会社内で起きることにより、自主的に仕事を家に持って帰ってしまうような人も出てくる恐れがあります。そのようなことが仮に会社内で慣習化してしまうと、「残業代はでないが、サービス労働が増えてしまう」という事態になりかねません。

(3)弊害が起こる理由

Ⅰ、人手不足のままである

いくら「残業をせずに帰りましょう」と会社内で叫ばれていても、人員不足のままの状態で働き方改革を実行してしまったら、短時間に仕上げなければならない仕事が単純に増えてしまうだけなので、パンクしてしまいます。

短時間に仕事を終えさせなければならないというやり方は、仕事の内容の質を下げてしまいます。具体的には、「早く終わらせなければならないという焦りから、ケアレスミスも増えてきてしまう」ということや、「焦りから生まれるストレスによって、精神的な余裕がなくなり、人間関係に亀裂が生じかねない」などの恐れです。これでは生産性が低下してしまいます。

そんな状態になってしまうなら、「以前のように残業をさせてもらっていた方がいい」という考え方になってしまい、働き方改革は良い役割を果たすことができません。

Ⅱ、臨機応変な事案に対応しなければならないこともある

仕事をしていると、毎日が同じように流れる日ばかりではありませんよね。急ぎの仕事が急に入ってしまったり、至急訂正しなければならないことが起きてしまったりと、臨機応変に対応しなければならないときが必ずあります。

このように、予定通り仕事を終わらすことができていても、急な事情によって予定外に追加の仕事が舞い込み、残業を余儀なくされることもあります。

従って、いつでも定時で退社できるということではありません。

Ⅲ、副業禁止の企業が多い

多くの企業が副業を禁止にしています。この文言だけをみると、「副業をしてはいけない」と読み取れると思いますが、法律で禁止されているわけではありません。どこで禁止しているかというと、「企業の就業規則」という会社のルールで禁止しているのです。そのため、違法行為には当たりません。

しかし、就業規則で禁止されている副業をしてしまった場合、副業によって企業に損害を与えると、減給や降格、解雇など処分の対象になる可能性があります。

副業禁止というルールを設けている企業が多い背景にあるのは、昔からある日本の仕事に対する慣習が、要因の一端にあります。「副業に熱心になってしまい、本業の仕事に影響が出てしまう」とか、「会社のノウハウを使って競合するような副業をされてしまいかねない」などといったことが挙げられます。

Ⅳ、弊害への対応策

人手不足による弊害を解消するためには、労働者を確保する必要があります。雇用するに当たっては、正規雇用や非正規雇用の枠にとらわれず採用をすることで、得られるメリットがたくさんあります。繁忙期だけに人員を確保したい場合であれば、非正規雇用がいいでしょう。また、正規雇用されている社員の雇用形態を柔軟な方法へ変えることもいいでしょう。例えば、テレワークやノマドワークの導入です。事務所へ出勤することなく、インターネットや電話などを使い、在宅でもできる仕組みを構築することで、育児や介護で働きに出られていなかった、優秀な人材を確保することができます。

また、AIの導入によって仕事を効率化させることで、単純作業をなるべく軽減するという方法もあります。働き方改革の「同一賃金・同一労働」の導入も、2020年4月から実施されますので、仕事の環境を柔軟な対策によって改善させることが強く求められます。

2、働き方改革における3つの問題点

働き方改革における課題は、先程の弊害だけではありません。長時間労働の時間に上限を設け、罰則を規定するだけで、果たして長時間労働の問題は解決するのでしょうか。働き方改革前よりも制度がしっかりしているとはいえ、以下の3つの問題点があります。

(1)働き方改革関連法案の残業時間ルールでは過労死を防止できない

働き方改革関連法案に、残業時間のルールが新たに設定されていました。まず前提として、残業ができるようになるためには、36協定を結んでいる必要があります。この36協定を結ぶと、1日8時間、1週間で40時間残業をすることができるようになります。さらに、この36協定に特別条項という規定をつけると、残業時間の上限が取り払われます。この規定では、長時間労働になってしまうという問題があり、罰則もなかったため、違反している企業には指導しかありませんでした。

今回、働き方改革が施行され、特別条項を結んでも「1年で6月まで、1月100時間の残業ができ、複数月で平均80時間にしなければならない」という規定が明確に設けられました。違反すると罰則を受けます。

しかし、この特別条項に規定されていた月100時間という制限で、過労死や精神的・肉的疲労による疾患は解決できるのでしょうか。以前過労死を認定してもらうための裁判において、「月83時間の残業は公序良俗違反と言わざるをえない」や「月95時間の残業は、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反するおそれさえある」という判決がありました。

今回の改正で「月100時間、複数月平均80時間の残業ができる」という規定が特別条項において明確になったことで、過労死の認定がされにくくなる恐れがあります。

(2)過労死ドライバーを守れない

自動車運転業務は例外的に、2024年3月までは特別条項の上限時間(単月100時間まで等)について実施が猶予されています。そもそも、過労死の一番多い業種が、この運送業だということをご存じでしょうか。

(1)で解説した、特別条項の「1年で6月まで、1月100時間の残業ができ、複数月で平均80時間にしなければならない」という規定でさえも大変なことなのに、「単月100時間、年960時間の上限」が2024年3月まで可能となっているということは、働き過ぎのドライバーの方々を守ることができません。

厚生労働省の「過労死等の労災補償状況」(平成28年)によると、運送業の脳・心臓疾患による過労死認定の件数は33件であり、各業種の中で最も多く過労死認定を受けています。

運送業は年々人手不足が深刻になってきているため、改善しなければならない部分がたくさんありますが、働き方改革が実現されるまで、またまだ時間がかかりそうです。

(3)働かせ放題の高度プロフェッショナル制度

専門職で年収が1075万円以上の人は、本人の同意などを条件として労働時間の規制や割増賃金支払の対象外とする制度が導入されます。この高度プロフェッショナル制度(いわゆる高プロ制度)は、労働基準法の適用を受けません。そのため、労働時間の規制や、割増賃金である残業代や休日出勤の手当をもらえません。

高度プロフェッショナル制度は、「労働時間ではなく労働の成果に対して給料を支払う」という制度ですから、早く仕事を終わらすことができた人は早く帰れます。自由な時間に出勤し仕事が終わったらいつでも帰れるという新しいスタイルです。

しかし、企業に悪用されてしまった場合、今までより仕事の量が増えたあげく残業代がでないといった最悪のケースになることも想定しておく必要があります。

3、官邸主導の「働かせ改革」に庶民の声を

政府が「一億総活躍プラン」や「働き方改革」に対し、実現させるために担当の大臣を立てています。有識者による会議を開くなどの動きを見ても明らかですが、果たして本当にこの官邸主導の改革に、死角はないのでしょうか。

有識者による会議ですが、参加したのは経団連会長、連合会長といった労使を代表するような人物たちばかりでした。最近、働き方改革は「働かせ改革」と揶揄されています。それはなぜかというと、会社に就職をしたら、昇進したり、競争するような場面だったり、仕事を任される責任感などが出てくる社会だからです。この根本の解決を図らずに、本当の意味での働き方改革は実現しません。

昇進、競争、責任感などにより、仕事の量が多くなったり、「残業しないで帰れ」という風潮になって自分で抱え込んでしまったりすることも少なからずあることでしょう。このような現場の頑張りがあるからこそ、好況期、不況期に人員の増減をすることなく柔軟に対応できてきた背景があります。

単純に「長時間労働はやめましょう」という現場に丸投げするような改革では、根本的な解決にはならず、意味がないのです。

4、働き方改革における問題点や会社経営者におけるデメリット

働き方改革により、長時間労働の是正、有給休暇を5日分取れることや、同一労働・同一賃金制などにより、得られるメリットが大きいとされていますが、2019年4月からの段階的実施により、デメリット部分について議論されることが増えてきました。働き方改革における問題点や、会社経営者におけるデメリットをご紹介いたします。

(1)会社経営者の負担

職種や事業の内容によっては労働者一人ひとりの能力を把握し、管理していくことは非常に難しいです。

働き方改革では、労働時間の把握や、能力を把握して評価しなければならないため、実施のために、会社経営者は時間を使って様々な取り組みをしたり、社内ルールを構築したりしなければなりません。

大きな会社であれば、各部の管理職にある程度任せることができるかもしれませんが、中小企業はそうスムーズに取り組むことはできないでしょう。しかし、経営者に対するフォローはありません。

(2)残業代ゼロにも問題がある

残業代を生活費の一部として生計を立てている人にとっては、不要な残業が削減されることで残業代も減ってしまいます。

さらに、半ば強制的な定時退社の風潮は、企業全体の業務自体に支障が出てしまうことにも繋がってしまいます。仕事の成果を出すためには経験や技術が必要となりますが、時間外労働がしにくくなって、経験や技術を積める場が以前よりも縮小されてしまう恐れがあります。

そのため、単に「長時間労働を無くす」ということだけでは、問題を解決することになりません。

(3)労働者のモチベーションをアップさせるために

企業は、労働者の満足度とモチベーションを上げ、生産性向上に努めていく必要があります。

AIやITの活用がどんどん普及していくと予想されていますが、AIやITを使った仕事を習得するに当たり、労働者の新たなストレスとならないようにしなければなりません。無理な改革を推し進めるのではなく、皆が抱えるプレッシャーや混乱をきちんと見極めながら進める必要があります。

5、働き方改革の問題点における対策

前項でも取り上げましたが、人手不足や長時間労働を改善するために、AIやITが仕事効率化のツールとして採用されていくことが増えていくとされています。何の解決策も用いずに働き方改革を推し進めてしまうと、今までで解説した弊害が既に浮き彫りとなっていますので、企業にとってさらにマイナスになってしまいかねません。

企業によっては、減った残業代をボーナスとして還元するということを実施しているところもあります。このように、AIやITをうまく使って仕事の効率化を図りつつ、労働者のモチベーションが下がらない工夫が必要です。モチベーションが下がってしまっては、生産性も落ちてしまいます。

そして、今後は同一賃・金同一労働の実現に向けての取り組みも始まります。正規社員でも非正規社員でも、同じ責任の下で同じ仕事をしたら、同じ対価が支払われるという制度です。この制度を導入するためには、会社内における業務内容の区分の明確化と共有が必要となります。

サマリー

いかがだったでしょうか。2019年4月から既に実施が始まっている働き方改革ですが、導入から少し経ち、様々な問題や弊害が浮き彫りになってきましたね。これらの問題や弊害を事前に知ることで、会社や自分の身に何が起きるのかをあらかじめ予想しておくことができます。それらを踏まえて社内ルールをどんどん改善していくことができるということにも繋がります。メリットだけを考え、現場レベルに落とし込んだ働き方改革を、実質的な意味での働き方改革に変えていくことが今求められています。

まとめ

・働き方改革には問題点や弊害が存在している

・働き方改革における問題点は、企業側にも従業員側にもある

・長時間労働をするためには就業規則などを変える必要があり、企業によっては、根本から会社内の制度を見直さなければならないところもある

・ルールを作り直し実行するためには、かなりの時間や労力が必要となるため、会社内の制度の見直しが、企業側にとって大きな弊害となる

・残業代を生活費に充てているという人が、働き方改革によって残業をする機会が減ってしまったり、失われてしまったりすると、毎月の生活に影響する

・「残業をせずに帰りましょう」という風潮が会社内で起きることにより、自主的に仕事を家に持って帰ってしまう人が出てくる恐れがある

・人員不足のままの状態で働き方改革を実行してしまったら、短時間に仕上げなければならない仕事が単純に増えてしまうだけなので、パンクする

・焦りから生まれるストレスによって、精神的な余裕がなくなり、人間関係に亀裂が生じかねないなどの恐れによって、生産性が低下しかねない

・予定通り仕事を終わらすことができていても、急な事情によって予定外に追加の仕事が舞い込み、残業を余儀なくされることがある

・多くの企業が副業を禁止にしている

・人手不足による弊害を解消するためには労働者を確保する必要があり、雇用形態を柔軟な方法へ変える

・柔軟な方法とは、テレワークやノマドワークの導入や、正規雇用や非正規雇用の枠にとらわれず採用をすること

・働き方改革前よりも制度がしっかりしているとはいえ、3つの問題点がある

・今回の改正で「月100時間、複数月平均80時間の残業ができる」という規定が特別条項において明確になったことで、過労死の認定がされにくくなる恐れがある

・自動車運転業務は例外的に、2024年3月までは特別条項の上限時間(単月100時間まで等)について実施が猶予されている

・過労死の一番多い業種は運送業である

・専門職で年収が1075万円以上の人は、本人の同意などを条件として労働時間の規制や割増賃金支払の対象外とする制度が導入される

・高度プロフェッショナル制度は、労働基準法の適用を受けないため、企業に悪用されてしまった場合、今までより仕事の量が増えたあげく残業代がでないといった最悪のケースになる

・政府が「一億総活躍プラン」や「働き方改革」に対し、実現させるため主導で行ってきたが、単純に「長時間労働はやめましょう」という現場に丸投げするような改革では、根本的な解決にはならず、意味がない

・働き方改革では、労働時間の把握や、能力を把握して評価しなければならないが、導入する際に経営者に対するフォローがない

・仕事の成果を出すためには経験や技術が必要だが、時間外労働がしにくくなって、経験や技術を積める場が以前よりも縮小されてしまう恐れがある

・AIやITの活用がどんどん普及していくに当たり、AIやITを使った仕事を習得するときに労働者の新たなストレスとならないようにしなければモチベーションが低下しかねない

・企業によっては、減った残業代をボーナスとして還元するということを実施しているところがある

・AIやITをうまく使って仕事の効率化を図りつつ、労働者のモチベーションが下がらない工夫が必要

・会社内における業務内容の区分の明確化と共有が必要となる

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