
目次
1. 弁理士試験の難易度
弁理士試験受験者数・合格率(難易度)の推移
毎年5月から10月にかけて行われる弁理士試験。令和元年度は、受験者数3,488人に対して合格者数は284人で、合格率は8.1%でした。ここ5年は合格率6~8%台で推移していることから、難易度は相変わらず高いことがわかります。
実施年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
平成22年度 | 9,950 | 756 | 8.3% |
平成23年度 | 8,735 | 721 | 9.1% |
平成24年度 | 7,930 | 773 | 10.7% |
平成25年度 | 7,528 | 715 | 10.5% |
平成26年度 | 6,216 | 385 | 6.9% |
平成27年度 | 4,798 | 319 | 6.6% |
平成28年度 | 4,211 | 296 | 7.0% |
平成29年度 | 3,912 | 255 | 6.5% |
平成30年度 | 3,587 | 260 | 7.2% |
令和元年度 | 3,488 | 284 | 8.1% |
特許庁ホームページ(https://www.jpo.go.jp/news/benrishi/index.html)より
弁理士数の変化
志願者が減少傾向にあると、合格率は上昇傾向になるものなのですが、合格率が停滞しているのは、弁理士の就業人数が増加しているからだと言われています。
平成31年4月30日時点の弁理士数は11,474人ですが、試験志願者数がピークだった平成20年の弁理士数は7,806人でした。現在まで、志願者は減少しながらも弁理士数は増加し続けてきたわけです。
変化があったのは平成26年度です。この年から一気に試験の難易度がアップし、合格率が下がりました。 今年も引き続きそれが維持された形となります。
知財立国を目指す国の政策として弁理士数が1万人になったものの、弁理士ひとりあたりの出願業務取り扱い件数の減少や、日本弁理士会の思惑をうけて、今後も縮小傾向は続くだろうと予想されます。
2. 弁理士試験合格者の内訳
男女別
男性が70%以上を占めていますが、ここ数年は女性の合格者が25%を超えています。
令和元年 | 平成30年度 | 平成29年度 | 平成28年度 | |
男性 | 73.6% | 74.2% | 72.9% | 80.7% |
女性 | 26.4% | 25.8% | 27.1% | 19.3% |
年齢別
少数ではあるものの60代で合格する方も見られます。10代や70代での合格者がいた年もあることを考えると、非常に幅広い年齢層の方が弁理士を目指していると言えそうです。
令和元年度 | 平成30年度 | 平成29年度 | 平成28年度 | |
20代 | 16.9% | 16.5% | 20.8% | 17.6% |
30代 | 49.3% | 47.7% | 46.7% | 52.4% |
40代 | 21.5% | 26.5% | 23.1% | 19.9% |
50代 | 9.5% | 8.1% | 8.2% | 9.8% |
60代 | 2.5% | 1.2% | 0.4% | 0.3% |
70代 | 0.4% | 0.0% | 0.8% | 0.0% |
備考 | 最年少20歳・最年長76歳 | 最年少20歳・最年長63歳 | 最年少20歳・最年長71歳 | 最年少22歳・最年長60歳 |
3. 弁理士試験の難易度が高い理由
弁理士試験の難易度の高さには、上述した通りの弁理士飽和に加えて、試験そのものにも理由があります。
弁理士試験では「短答式試験」「論文式試験」「口述式試験」の3つが実施されます。
短答式試験の合格者だけが論文式試験に進み、さらに論文式試験の合格者だけが口述式試験を受験できる仕組みです。
短答式試験は5月中旬、論文式試験は7月(必須科目が上旬、選択科目が下旬)、口述式試験は10月下旬の実施が予定されています。
短答式の恐るべき難易度
弁理士試験、最初の関門と言える短答式試験。
最近の合格率は10%程度にとどまっており、多くの受験生が不合格となる難関となっています。
試験のメインとも言える論文式試験にたどり着く前に、この短答式試験の難易度にひるみ、跳ね返されてしまう人も多いところです。
◎試験内容
試験時間は3.5時間で、問題は60題。マークシート方式(5肢択一式)で、いわゆる「ゼロ解答」(5肢に加えて「いずれも該当しない」という選択肢を設けること)は採用されていません。
試験科目
|
出題数
|
---|---|
特許・実用新案に関する法令※
|
20題
|
意匠に関する法令※
|
10題
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商標に関する法令※
|
10題
|
工業所有権に関する条約
|
10題
|
著作権法及び不正競争防止法
|
10題
|
※出題範囲には、工業所有権に関する条約に関する規定が含まれており、工業所有権法令の範囲内で条約の解釈・判断を考査する。
マークシート方式、と侮っていると合格することはできません。「以下の文章のうち正しいものはいくつあるか」といった問題がたくさんでるからです。正確な知識がないと、正解の選択肢を選び切ることができません。
また、一つ一つの選択肢の文章が極めて長く、わかりにくくなっていて、正誤を見極めるのが非常に難しく設定されています。上の表のように科目数も多く、全範囲から出題されるため豊富な知識量が必要とされます。
◎合格基準
満点に対して65%の得点を基準として、論文式筆記試験及び口述試験を適正に行う視点から工業所有権審議会が相当と認めた得点以上を取ることが、短答式試験の合格基準です。また、総合点による判定に加え、1科目でも合格基準(各科目の満点の40%を原則)を下回った場合は不合格となります。
以上のことを考えると、マークシート形式とはいえ短答式試験の難易度は相当高いと言えます。
◎試験免除になる場合
短答式筆記試験の合格から2年間は、すべての試験科目が免除されます。また、工業所有権に関する科目の単位を取得し大学院を修了した方は、修了から2年間、工業所有権に関する法令及び工業所有権に関する条約の試験科目が免除されます。なお、特許庁において審判または審査の事務に5年以上従事した方も同様です。
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論文式が最大のヤマ!
論文式試験は、短答式試験に合格した人と、短答式試験免除者に受験資格があります。試験内容は、必須科目と選択科目に分かれていますので、ここではそれぞれについて詳しく解説しましょう。
【 必須科目 】
必須科目としては、特許・実用新案法、意匠法、商標法の3つがあります。
◎試験内容
試験時間は、特許・実用新案法のみ2時間で、その他の科目は1.5時間です。配点比率について、特許・実用新案法のみ他の科目の2倍の配点を与えられていることに注目しましょう。
(特許・実用新案法:意匠法:商標法:選択科目=2:1:1:1)
◎法文貸与
論文式試験では、弁理士試験用法文の貸与が行われます。必須科目の試験の際と、選択科目の「法律(弁理士の業務に関する法律)」の受験者が対象です。
法文が貸与されると聞くと、実は楽な試験なのではないかと考えがちです。条文を丸暗記する必要はありませんが、条文のどの辺りに記載されているかといった勘所は試験突破のために欠かせないので、日頃からよく訓練しておくことが必要となります。
◎試験免除になる場合
論文式筆記試験の合格から2年間は、論文式筆記試験(必須科目)が免除されます。また、特許庁において審判または審査の事務に5年以上従事した方も同様です。
◎合格基準
合格基準は下記の通り、必須科目と選択科目で異なります。
必須科目の合格基準は、標準偏差による調整後の各科目の得点の平均(配点比率を勘案して計算)が、54点を基準として口述試験を適正に行う視点から工業所有権審議会が相当と認めた得点以上であること。ただし、47点未満の得点の科目が1つでもあってはいけません。
【 選択科目 】
選択科目は下記6科目の中から1つを選びます。受験願書提出時にあらかじめ選択するもので、その後は変更できないため注意が必要です。試験時間は1.5時間となります。
科目
|
選択問題
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|
---|---|---|
1
|
理工Ⅰ(機械・応用力学)
|
材料力学、流体力学、熱力学、土質工学
|
2
|
理工Ⅱ(数学・物理)
|
基礎物理学、電磁気学、回路理論
|
3
|
理工Ⅲ(化学)
|
物理化学、有機化学、無機化学
|
4
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理工Ⅳ(生物)
|
生物学一般、生物化学
|
5
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理工Ⅴ(情報)
|
情報理論、計算機工学
|
6
|
法律(弁理士の業務に関する法律)
|
民法(総則、物権、債権から出題)
|
文系出身の方の多くは民法を選択するのに対して、理系出身の方は自身の得意分野の試験を受験することになるかと思います。
◎試験免除になる場合
論文式筆記試験の選択科目は、一度合格してしまうと永久に免除となるため、早い段階で合格を掴んでおいた方がよいでしょう。
ほかに、修士・博士・専門職学位に基づく選択科目免除認定を受けた方も免除対象となります。試験前に特定の手続きをすることが必須となりますので注意しましょう。
また、司法試験合格者や司法書士、行政書士、一級建築士など、特許庁が指定する公的資格を持つ方も免除の対象です。
◎合格基準
合格基準は下記の通り、必須科目と選択科目で異なります。
選択科目の合格基準は、科目の得点(素点)が満点の60%以上であることです。
「短答式試験には毎年受かるけれど、論文式試験には落ちてしまう……」という人もいます。短答式試験に合格したレベルの高い受験者の中で、論文式試験を突破することが弁理士試験の合格には極めて重要になるのです。
口述式は合格率90%!でも油断は禁物
口述式試験は、試験官3名の前で、口頭で問題を出され、これに答えていく面接方式の試験です。
◎試験内容
特許・実用新案法、意匠法、商標法の3科目について、それぞれ約10分程度の面接が行われます。 試験の際、あらかじめ用意されている弁理士試験用法文を用いることもできますが、記載内容をしっかり押さえておくことは最低限必要といえるでしょう。
◎合格基準
採点基準はA、B、Cのゾーン方式で、C評価が2つ以上ないことが合格基準となります。
A:答えが良くできている場合
B:答えが普通にできている場合
C:答えが不十分である場合
口述式試験の合格率は90%を超えることがほとんどですが、安心はできません。試験本番でパニックになってしまわないよう、模試などで本番慣れしておくことが必要です。
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4. 弁理士試験の改正
平成28年度から弁理士試験が改正されました。
短答式筆記試験に科目別合格基準が導入され、論文式筆記試験(選択科目)では選択問題の集約が行われました。合格率にはほとんど変化がないことから、弁理士試験の難易度への影響はないと考えられます。
短答式における改正点
工業所有権に関する法令の科目が、平成28年度から
1. 特許・実用新案に関する法令
2. 意匠に関する法令
3. 商標に関する法令
の3つに分けて実施されています。
以前は科目別の得点は問わず、総合点のみで合否判定でしたが、平成28年度からは試験科目別に合格基準(40%程度)が導入されています。これにより、総合点による判定に加え、1科目でも合格基準を下回った場合、短答式筆記試験は不合格となります。
論文式(選択科目)における改正点
論文式筆記試験(選択科目)の選択問題が、各科目の基礎的な分野に集約されました。詳しくは前出の表をご参照ください。
5. まとめ
・弁理士試験の難易度は高い。合格率は6~7%台で推移
・弁理士数の増加が合格率の停滞に影響
・試験は短答式、論文式、口述式で実施される
・短答式は難関、論文式が最大のヤマ
・平成28年度に試験の改正があった