行政書士の資格は扱う法律の内容が身近に感じられるからか、多くの受験者を集める人気の法律資格です。行政書士になるための登竜門・行政書士試験ではどんな科目が出題されるのでしょうか。
目次
1 行政書士試験とは
今日の行政書士試験の背景には、平成11年に施行された地方分権一括法による「行政書士法」の改正にともなう、指定試験機関制度の導入があります。
これに基づき、平成12年4月に「行政書士試験研究センター」が設立されました。同センターは指定試験機関として、試験制度についての調査研究と年一回の試験を実施しています。
行政書士とは、
「行政書士は、行政書士法第1条の2、第1条の3の規定に基づき、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類、その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することを業とするものです。
行政書士の具体的な業務としては、官公庁への許認可に関する書類提出や契約書、交通事故調査報告書等、権利義務又は事実証明に関する書類作成業務などを行っています。」
出典:行政書士試験研究センター
行政書士は「書類のプロ」といわれており、許認可等に関する書類の作成を主に扱っておりますが、他にも様々な業務があります。
行政書士の仕事について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
2 行政書士を取得することのメリット
行政書士になることのメリットはたくさんあります。
行政書士試験は、合格率が約10%(年度によって変化はあります)で、受験資格のない国家資格なので、他の司法試験や司法書士試験に比べて、挑戦しやすい試験といえます。
また、行政書士試験に合格すれば、独立開業することができます。独立開業を目指している方にとっては、特におすすめできる資格となっています。
さらに、他の国家資格(司法書士や社労士など)を既にもっている方にとっては、行政書士資格と併せたダブルライセンスを取得することによって、ワンストップサービスが提供できるようになるなど、業務としての幅も広がります。
行政書士のメリットについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
ダブルライセンスについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
3 行政書士試験の概要
(1) 行政書士試験の日程
令和2年度行政書士試験の日程は以下のようになっています。
試験日時:令和2年11月8日(日)午後1時~午後4時
※令和3年度の試験日程については、順次更新いたします。
※試験日については、毎年1回、11月の第二日曜日の午後1時から午後4時までとなっています。
(2) 行政書士試験の申し込み
令和2年度の行政書士試験の申し込み方法については以下のとおりです。
申込期間 | 【郵送】
令和2年7月27日(月) ~ 令和2年8月28日(金)消印有効 【インターネット】 令和2年7月27日(月)午前9時 ~ 令和2年8月25日(火)午後5時 |
受験手数料 | 7,000円 |
受験資格 | 年齢、学歴、国籍等に関係なく、どなたでも受験できます。 |
試験場所 | 現在の住まいにかかわらず、全国の試験会場で受験できます。 |
※令和3年度の申し込みについて順次情報を更新いたします
(3) 行政書士試験の合格発表日
令和2年度行政書士試験の合格発表日は、令和3年1月27日(水)となっています。
(4) 行政書士試験の合格基準
行政書士試験の合格には次の要件を満たす必要があります。
①行政書士の業務に関し必要な法令等科目の得点が、満点の50パーセント以上である者
②行政書士の業務に関連する一般知識等科目の得点が、満点の40パーセント以上である者
③試験全体の得点が、満点の60パーセント以上である者
※合格基準については、試験問題の難易度を評価して「補正的措置」を加えることがあります。受験者の正答率等から、その年度の試験問題の難易度が過去と比較して著しく変動していると認められた場合に、合格基準(合格基準点)を見直すことによって、過去の試験問題の難易度との均衡を図る措置です。
出典:行政書士試験研究センター
(5) 行政書士試験の合格率
行政書士試験の合格率は、おおむね10%以上です。しかし、難化して10%を割り切る年もあります。
試験年度 | 申込者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
平成25年 | 70,896 | 55,436 | 5,597 | 10.10% |
平成26年 | 62,172 | 48,869 | 4,043 | 8.27% |
平成27年 | 56,965 | 44,366 | 5,814 | 13.10% |
平成28年 | 53,456 | 41,053 | 4,084 | 9.95% |
平成29年 | 52,214 | 40,449 | 6,360 | 15.7% |
平成30年 | 50,926 | 39,105 | 4,968 | 12.7% |
令和元年 | 52,386 | 39,821 | 4,571 | 11.5% |
4 行政書士試験の出題形式
出題の形式ですが「行政書士の業務に関し必要な法令等」は択一式と記述式、「行政書士の業務に関連する一般知識等」は択一式です。記述式には、40字程度で記述解答する問題が出されます。
(1) 択一式
文章をよく読んで前後の文集から正解を導くことが可能です。最後までよく文章を読み切らないと、最初の空欄に文章を入れられないこともあります。十分な対策をして解答力をつければ、高得点を狙える問題形式です。
(2) 記述式
記述式問題が導入されてから、行政法から1問、民法から2問出題されています。
記述式のポイントは、「問題に対する解答の姿勢」です。具体的に言うと「出題者が求めている答え」を設問の形式にしたがって答えられるようにしないと、得点できない場合があるのです。これには十分な対策が必要とされます。また、記述式に出題されそうな条文の要件・効果をよく覚えておきましょう。
5 行政書士試験の科目と出題範囲
現行の行政書士試験の科目は、法律専門家登用試験としての様相が色濃くなっています。
法律科目である「行政書士の業務に関し必要な法令等」の問題数は46問に増加し、「行政書士の業務に関連する一般知識等」の問題は14問に減少しています。
法律問題は、実務において行政書士が頻繁に扱う法律の問題が増えていますが、一般知識問題では政治・経済等の知識よりも、情報通信や個人情報保護等についての問題が増加しました。
(1) 行政書士の業務に関し必要な法令等
科目 | 内容 | 詳細 | |
行政書士の業務に関し必要な法令等
出題数 46題 |
憲法
(28点) |
憲法は
①国民の自由や権利について定めた「人権分野」 ②国家の運営について定めた「統治分野」 に分かれます。 憲法の役割とは「国家権力の濫用を防ぐとともに、国民の権利や自由を守る」ことです。行政書士試験科目である憲法と行政法は重なる部分が多く、憲法の理解度が行政法の理解の土台となります。行政法とは「国家運営に関しての実際の対応方法」を規定するもので、行政書士試験における憲法の難易度は民法ほど高くありません。出題範囲が絞られているため、対策がしやすいといえます。 憲法の配点の割合は、法令科目の中の11%ほどです。 出題範囲 ①【人権分野】 ・「基本的人権」など義務教育でも習った分野が深めて出題される。 ・基本的に判例からの出題が多い。 ・裁判所による条文解釈の理解が問われる。 ②【統治分野】 ・国会・内閣・司法の三権分立が出題の中心になる。 ・判例はほとんどなし。 ・条文の暗記が主な対策となり、しっかり対策すれば得点しやすい。 ・具体的な国会・内閣・司法の運営方法が頻出(内閣の役割や司法権の独立など)。 |
|
行政法
(112点) |
行政法の
一般的な 法理論 |
行政法とは「行政が理由なく私人の権利等を制限しないように定められた法律」のことです。行政処分を受けた際、不服を申し立てるための手順や期間についても定めています。行政法は行政書士試験の「最重要科目」であるといえます。
・112点もの配点がある。 ・例年19問出題。 ・法令科目の総合点の半分近くを占めている。 ・メインの出題は「行政手続法」「行政不服審査法」「行政事件訴訟法」になる。 ・得点源とする受験生がとても多い。 ・暗記科目。過去問対策がとても有効。 |
|
行政手続法 | |||
行政不服審査法 | |||
行政事件訴訟法 | |||
国家賠償法及び地方自治法を中心とする | |||
民法
(76点) |
民法とは「所有権の移転や借金に関する債務などに関する規定」で、相続に関しても民法に含まれます。比較的身近に感じられる法律なので、勉強しやすいと言えます。しかし条文が多いためその分勉強する範囲が広くなり、民法は法令科目の総得点の30%以上を占めています。
出題範囲 ①【総則】 人、物、行為それぞれに対しての規則であり民法の共通事項を規定。 ②【物権】 モノに関する権利のこと。所有権などを指し、債権との違いを意識して学習すると効果的。 ③【債権総論】 債権・債務関係の共通事項をまとめている。 例えばお金を貸した側が債権者、借りた側が債務者だが、それぞれの権利や義務などを規定。 ④【債権各論】 契約などについて扱い、不動産売買などに関する出題が頻出箇所。 ⑤【親族・相続法】 結婚や離婚、養子、相続に関する規定。最近大きく改正された。 |
||
商法(20点) | 商法 | 試験範囲が極めて広く内容も複雑なのが商法です。行政書士試験の中でも難易度が高く、毎年多くの受験生が悩む科目です。
出題範囲 ①【商法】 商取引全般に関する私人間のルールを定めた法律。 ②会社法 会社の設立や組織、運営などを規律する法律。 ・商法の出題は1~2問、会社法と合わせて合計5問。 ・商法と会社法の「内容」「条文」が出題のメイン。 ・5問のうち2問程度は基礎的問題が出題される。 |
|
会社法 | |||
基礎法学
(8点) |
基礎法学は、各法律を学習するために必要となる「汎用的な法知識」や「法的素養の有無」を問う問題が出されます。公法と私法、一般法と特別法、法と法律の区別などの知識が求められます。
出題範囲 ①【法学】 基本的な法律用語、法の名称などの知識が問われる。 ②【裁判制度】 裁判所・裁判の仕組み、紛争処理手続などが出題される。 ・例年、一番最初に2問しか出題されない。 |
行政書士は「書類のプロ」と呼ばれ、官公署などに提出する書類の作成や提出代行を主な業務としています。
行政書士試験の法令科目は、業務遂行に必要な法律の知識を出題しているため、お分かりのように行政書士試験のために、弁護士のようにあらゆる法律を学ぶ必要はありません。「行政書士の業務に関し必要な法令等」では、数ある法律の中でも行政書士と関連の深い法律を扱っています。
(2) 行政書士の業務に関連する一般知識等
行政書士の業務に関する一般知識
出題数 14題 |
政治 | 行政書士試験の一般知識の中ではこの科目が最も重要で、一般知識の総得点の半分を占めます。出題内容は、主に国内外の最近の時事問題です。
最近の時事問題がそのまま出題されるというよりも、その問題の基本事項が問われます。 |
|
経済 | |||
社会
(政治・経済と合わせて28点) |
|||
情報通信 | 出題範囲
①【情報通信】 近年目覚ましい情報通信や情報機器の発達にともない整備された法律について。 ②【個人情報保護】 個人情報保護法がメイン ③その他 情報公開法、暗号化に関する規定、行政手続きの電子化などについて ・一般知識の3科目の中では最も低い配点。 |
||
個人情報保護
(情報通信と合わせて12点) |
|||
文章理解
(12点) |
長文の読解と正しい論旨の選択、または誤った論旨の選択、空欄問題、並び替え問題などから3問が出題されます。
・一般知識の3科目の中では、情報通信・個人情報保護とともに低い配点。 ・小説ではなく論文が題材。 |
一般知識で問われる知識とは、政治・経済・社会、情報通信など時事に関する内容です。一般知識は過去問での対策が難しいので、対策としては、普段から意識して新聞やニュースで情報を集めるのが一番です。
一般知識にも足切りがあり、56満点中24点以上(約40%以上)を得点できないと不合格になってしまうので、後回しにしやすい科目ですがしっかり対策しましょう。
6 行政書士試験の対策と勉強法
(1) 行政書士試験の勉強法
行政書士試験は、行政法をはじめ、様々な法律について勉強しなければなりません。
法律は、ただでさえ読んで理解することが難しいので、理解し、問題を解けるようにするためには工夫する必要があります。
さきほどご紹介したように、行政書士試験の出題範囲はとても広いので、ただテキストを読んで全て理解しようとしていては試験に間に合わなくなってしまいます。
そこで、一通りテキストを読んだ後は、過去問を解いてみましょう。
過去問を解くことは、膨大な出題範囲から、勉強対象を絞る上で必須です。また、何度も過去問で出題されている知識は特に重要性が高いので、同じテキストでも、重要度に応じて読み進めることができます。
法律の勉強法については、より詳しく書いている記事がありますので、ご覧ください。
(2) 行政書士の業務に関し必要な法令等
行政書士の業務で用いられる法令等の試験対策を科目ごとにご紹介します。
①憲法
前述の通り憲法の理解度は行政法の理解に直結します。ですので配点以上に重要度が高い科目といえます。統治分野では数字のひっかけ問題などが出題されますので、難易度が低いとはいい切れません。過去問でしっかり対策しましょう。
五肢択一式:
例年5題出題されます。頻出問題をしっかり押さえ、得点源にしましょう。
多肢選択式:
例年1問出題されます。「重要判例での論点」を確認し、頻出の判例からの出題に備えましょう。
②行政法
行政法は最重要科目です。配点が112点もあり、行政書士試験の法令科目の総合点の半分近くを占めるからです。問題数が最多で配点も高いため、行政法で得点できないと合格は難しくなってしまいます。
法律用語が多く出てきますが、行政法の内容そのものはあまり難解ではないため、難解な用語の理解・暗記が胆になります。それができれば行政法は得点源となるため、一番勉強時間を割くようにしましょう。過去問演習が功を奏するので、反復してやりましょう。
五肢択一式:
例年19問の出題になります(地方自治法を含む)。行政書士試験において最も配点が多く、内容的にも条文から抽象的概念まで幅広い知識を問われます。計画を立てて効率的に、基礎問題から押さえていきましょう。
多肢選択式:
例年2問が出題されます。「判例」「定義」の出題が多い傾向です。
記述式:
例年1題出題されます。条文の要件や効果を問う問題が多いので、条文理解やどの条文を用いるかに対する問いの訓練が必要です。
③民法
民法は条文が細かいうえ複雑な法律用語も出てくるので、初学者には難解かもしれません。
民法の学習は判例より条文理解が中心になります。学習した後、身近な例に当てはめて理解を深めましょう。
民法の配点の割合は非常に高く、行政法に次ぎ、法令科目の30%以上を占める割合があります。民法の条文全体からまんべんなく出題されますが、なかでも頻出するのは「意思表示」「代理」「物権変動」に関する問題です。最高裁判判例や、制度を横断的に見た問題も出題されますのでよく備えておきましょう。
行政法と同様に、難易度が高いため多くの勉強時間を要します。暗記というよりも「自分が債務者だったら」または「債権者だったら」などと当てはめて考えるなど、工夫して勉強しましょう。
五肢択一式:
例年9問出題されます。
記述式:
例年2題出題されます。過去の出題では、登場人物が複数人の事例を扱った問題もありました。こういった問題では図を書きながら事案を読み解くのがコツです。
④商法・会社法
商法と会社法は、営利目的の取引活動上のルールを定めた法律です。企業の法務部・総務部で活躍する方にとっては馴染みがあるでしょう。両者の内容は似通っており、商法と会社法の区別が分からない人も多いです。
注意すべきは、配点は20点と少ないのに、試験範囲が極めて広い上に内容が複雑なことです。行政書士試験の中でも非常に難易度の高い科目で、毎年多くの受験生を悩ませます。過去問のデータが乏いのも商法・会社法の難点です。また過去問だけやっていれば点が取れるという科目ではない点も注意してください。近年では商法は条文そのものの出題が多いので、重要な条文だけ押さえておきましょう。
五肢択一式:
例年5問出題されます。商法・会社法は条文の数が多いですが、行政書士試験の配点の割合は低いといえます。
⑤基礎法学
テキスト重視というよりも過去問演習で出題傾向をつかめば対策は十分と言えます。すべての法律において共通する用語、解釈などについて、他には裁判制度の流れについて出題されることもあります。難解に感じるかも知れませんが、憲法や民法などを勉強する中で自然と理解できるようになっていくでしょう。
五肢択一式:
基礎法学からは例年2題出題されます。広範囲なため範囲を絞るのが難しいですが、テキスト・問題集の基本問題に的を絞るとよいでしょう。
(3) 行政書士の業務に関連する一般知識等
一般知識等からは、例年14題出題されます。出題数は少なくても範囲は広大ですので、計画的かつ効率的な学習を心掛けましょう。
①政治・経済・社会
過去問対策は通用しない科目です。最近取り上げられた時事問題に注視し、ニュースや新聞に目を通して日頃から情報を収集しましょう。過去には貿易や、各国の政治制度などが出題されました。対策が非常にしにくいので、情報収集だけでは自信がなければ予備校などが主催する行政書士試験の直前講座を利用するのもよいでしょう。
②情報通信・個人情報保護
政治・経済・社会と違い過去問演習が有効なため、徹底的に過去問を反復しましょう。できれば全問正解したい科目です。
出題範囲が狭いため、条文や規則の細かいところまで問われます。過去問をやり込むと出題傾向やクセが掴めます。その上で、AI(人工知能)などの用語についても押さえておくとよいでしょう。法令からの出題に関しても注意してください。
③文章理解
中学・高校の現代文のイメージです。難易度はあまり高くないため、ここでも3問全問正解したいところです。ポイントは「すべての答えの根拠は問題文のなかにある」という点です。
7 サマリー
行政書士試験の科目についてお分かりいただけたでしょうか? 出題範囲は広いのですが、よく傾向を調べて対策することで合格に近付くはずです。
8 まとめ
- 行政書士試験は年一回の実施で、受験者資格に制限がない。
- 行政書士試験の合格率は、おおむね10%を超えている。
- 「行政書士の業務に関し必要な法令等」「行政書士の業務に関連する一般知識等」に分けて出題される。
- 法津問題では、行政法と民法の試験問題・配点の割合が高い。
- 一般知識では時事問題、情報関連の法令に加え、現代国語のような文章理解(記述解答)が出題される。
- 試験対策として重要なのは、過去問を解くこと
- 過去問を解くことで、勉強対象を絞り、重要度に応じて勉強を進めることができる