刑法論文は司法試験で一番書きやすい!書き方のコツと学説問題の対策まで徹底解説!

刑法論文は司法試験で一番書きやすい!書き方のコツと学説問題の対策まで徹底解説!

司法試験の論文式試験で刑法は一番書きやすいと言われますが本当でしょうか?

本記事では刑法論文を書くためのコツや最近の司法試験で出題されるようになった学説問題の対策法をご紹介します。

1 司法試験『刑法』の論文式試験ってどんな科目?

(1) 事例の中の登場人物の行為に成立する罪責について論じる

司法試験論文式試験の『刑法』では、主として長い事例が与えられて、その中の登場人物(『甲、乙、丙』と名前がつけられることが多いです)の各行為にどんな罪責が成立するのか、を問われます。

(2)『コツをつかめば』刑法の論文は書きやすい

『刑法の論文は書きやすい』

『論文式試験7科目の中で刑法の論文はもっとも早く書けるようになる』とよく言われます。

この理由として以下の3つが挙げられます。

1. 事例問題のイメージが湧きやすい。

2. 試験の問われ方がワンパターン(最近は変化していますが…)

3. 論点が体系化されており、『体系』を理解すれば論文の構成で迷うことがない

特に、理由の3つ目【『体系』を理解すれば論文の構成について迷うことがない】というのが重要です。

刑法の論文の問題はほとんどが『登場人物の罪責を論ぜよ』です。

この刑法の問題には、以下の5段階で検討していくことになります。

1.  登場人物のどの行為に着目するか。

2. 着目した行為についてどの犯罪が成立しそうか。

3. 着目した行為は刑法の条文の構成要件に該当するか。

4. 着目した行為は違法性を有する行為か。

5. 着目した行為は責任を追及できるか。

刑法の論文式試験で行う作業はほぼ毎回この流れです。

そのため、刑法の全体の体系を理解して、各段階でどの論点を検討するのかをしっかりと理解していれば、論文の構成は容易に行うことができます。

しかし、『コツをつかめば』書きやすい、ということは、コツを掴んだ受験生とコツを掴んでいない受験生の差がつきやすいということであるので注意する必要があります。

(3) 最近傾向が変わった?『学説問題』って何? 

刑法の論文式試験の問われ方はワンパターンだと説明しましたが、近年変化が見られます。

最近では、『学説問題』が出題されるようになっています。

学説問題とは対立する学説Aと学説Bがある場合、『学説Aの立場で検討した場合の罪責』と『学説Bの立場で検討した場合の罪責』の両方を論じた上で、受験生はどちらが適切な帰結と考えるかを論じる問題です。

例えば、令和元年度では以下のような出題がされました。

 

甲は,現金の引き出しができなかったため,ATMの前で携帯電話を使ってA方に電話をかけてAと会話していた。同店内において,そのやり取りを聞いていた店員C(男性,20歳)は,不審 に思い,電話を切ってそそくさと立ち去ろうとする甲に対し,甲が肩から掛けていたショルダーバ ッグを手でつかんで声をかけた。甲は,不正に現金を引き出そうとしたことで警察に突き出される のではないかと思い,Cによる逮捕を免れるため,Cに対し,「引っ込んでろ。その手を離せ。」と 言ったが,Cは,甲のショルダーバッグをつかんだまま,甲が店外に出られないように引き止めて いた。

その頃,同店に買物に来た乙(男性,25歳)は,一緒に万引きをしたことのあった友人甲が店 員のCともめている様子を見て,甲が同店の商品をショルダーバッグ内に盗み入れてCからとがめられているのだろうと思い,甲に対し,「またやったのか。」と尋ねた。甲は,自分が万引きをした と乙が勘違いしていることに気付きつつ,自分がこの場から逃げるために乙がCの反抗を抑圧して くれることを期待して,乙に対し,うなずき返して,「こいつをなんとかしてくれ。」と言った。乙 は,甲がショルダーバッグ内の商品を取り返されないようにしてやるため,Cに向かってナイフ (刃体の長さ約10センチメートル)を示しながら,「離せ。ぶっ殺すぞ。」と言い,それによって Cが甲のショルダーバッグから手を離して後ずさりした隙に,甲と乙は,同店から立ち去った。

〔設問2〕 【事例1】において甲が現金を引き出そうとした行為に窃盗未遂罪が成立することを 前提として,【事例2】における乙の罪責について,論じなさい(特別法違反の点は除く。)。

なお,論述に際しては,以下の1及び2の双方に言及し,自らの見解(1及び2で記載した立 場に限られない)を根拠とともに示すこと。

1 乙に事後強盗の罪の共同正犯が成立するとの立場からは,どのような説明が考えられるか。

2 乙に脅迫罪の限度で共同正犯が成立するとの立場からは,どのような説明が考えられるか。

(参照:法務省『令和元年度司法試験 論文式試験問題集 『刑事系科目第1問』)

 

この問題に対応するためには、

『事後強盗罪の性質は身分犯か、結合犯か』

『承継的共同正犯を認めるか』

『刑法65条をどのように解釈するか』

といった学説の対立事項を理解し、『どの対立点で、どの立場にたったら、どういう帰結になるか』を説得的に論じることが求められます。

通常の『登場人物の罪責を求めよ』問題であれば、学説が対立している分野でも自分の支持する立場を決めて、それにしたがって書けば問題ありません。

 

しかし、学説問題では『なぜ、そもそも学説が対立しているのか』『自分の支持しない立場の学説はなんと主張しているのか』まで理解しないと解答することができません。

このように、近年、受験生は刑法についてこれまでより理論的に考えることが求められています。

(ちなみに、上記問題の出題趣旨(法務省)はこちらの15頁『設問2について』に書かれています。各学説の対立点でとる立場の違いによって説明の仕方がa~gの8通りもあります)

 

2 司法試験・刑法論文のコツを掴むには?

ここからは、司法試験の刑法論文が書けるようになるコツを解説していきます。

刑法の論文が書けるようになるためには、まず『登場人物の罪責を論ぜよ』問題を適切に書けるようになることが重要です。

そのために必要なのは、刑法の重要論点をどの段階で検討するべきなのか理解することです。

例えば、『甲は乙が襲ってきたから反撃として拳銃を発砲して乙を死亡させた。甲の罪責について論ぜよ』という事例があったとします。

この事例で『正当防衛』が問題になりそうだな、とわかった方も多いでしょう。

 

しかし、この『正当防衛』の論点を『構成要件の検討』の段階で論じるのか、『違法性の検討』の段階で論じるのか、『責任の検討』の段階で論じるのか、を理解していないと論文を書く手が止まってしまいます。

そこで、本記事では刑法の重要論点を『構成要件該当性』『違法性』『責任』のどの段階で論じるのかをまとめました。事例問題を解く際は以下の手順に沿って論じていけば重要な論点を落とすことなく論文を書くことができます。

(1) 構成要件該当性

まず、犯罪成立を検討する前に、問題文のどの行為に着目するのか、問題提起をしましょう。

先ほどの『甲は乙が襲ってきたから反撃として拳銃を発砲して乙を死亡させた。甲の罪責について論ぜよ。』という問題で考えてみましょう。

今回、着目すべきは『甲が乙に対して拳銃を発砲して乙を死亡させた行為』です。

そして、今回は拳銃という殺傷能力の極めて高い武器による攻撃で乙が死亡しているので殺人罪について検討していきましょう。

この場合、答案は以下のような問題提起から書き始めます。

 

『甲が乙に対して拳銃を発砲して乙を死亡させた行について殺人罪の成否を検討する。』

 

以上のように問題提起をしたら、着目する行為が刑法の条文の構成要件に該当するかを検討していきます。この『構成要件該当性』を検討する段階では以下のような論点について検討してきます。

① 実行行為

まず、着目する行為が刑法上の犯罪の実行行為に当たるかを検討します。

例えば、『拳銃を発砲する行為』が刑法199条の『殺』す行為に該当するかを検討します。

横領罪の『横領』に当たるか、放火罪の『放火』に当たるか、各論の論点をここで検討することになります。

また、『不作為犯』や『間接正犯』など総論の論点も実行行為性の問題として検討します。

② 構成要件的結果

着目した行為によって起こった結果が刑法の構成要件に該当するか論じます。

傷害罪の『傷害』や器物損壊罪の『損壊』など各論の論点はここで検討します。

 

では、先ほどの、甲が乙を射殺した事例についてはどうなるでしょう?

乙は死亡しているので、甲の行為は殺人罪(刑法199条)の『人を殺した』という構成要件的結果を満たしていますね。

また、もし仮に甲の放った弾丸が乙に当たらず、乙が死亡しなかったらどうなるでしょう?

 

この場合、構成要件的結果が発生していないので殺人罪は成立しません。

殺人罪は未遂犯(刑法203条)が処罰されるので殺人未遂罪が成立するか検討しましょう。

因果関係

実行行為と構成要件的結果の間に因果関係が認められるか、を検討します。

総論の『行為後の介在事情』の論点はここで検討します。

 

ここでも、甲が乙に対して拳銃を発砲した事例で考えてみましょう。

甲の発砲行為と乙の死亡に因果関係がないと殺人罪は成立しません。

例えば、甲の放った弾丸が乙の頭に当たって乙が即死ししたなら、甲の発砲行為と乙の死亡の因果関係は容易に認めることができます。

 

一方、乙に弾丸は命中して、乙は致命傷は負ったけれど即死はしなかった場合について考えてみましょう。瀕死の乙がなんとか甲から逃げて、休んでいたところ、丙という人物が乙を見つけて暴行を加え、その後、乙が死亡したとします。

 

この場合、乙の死亡結果は甲の発砲行為と因果関係があると言えるでしょうか?

丙の暴行という行為後の介在事情によって因果関係が遮断されるかを検討することになります。

④ 構成要件的故意

行為者が構成要件該当性を基礎づける事実の認識・認容があったのかを検討します。

『方法の錯誤』『因果関係の錯誤』『異なる構成要件間の錯誤』の論点はここで検討します。

 

例えば、甲は乙という人物を殺したくて拳銃を発砲したのに、弾丸がそれて、乙の隣にいた丁という人物に当たって、丁が死亡した場合が『方法の錯誤』の検討場面です。

 

(2) 違法性

構成要件該当性の①〜④の全てが認められ、構成要件該当性が充足したら、着目した行為が違法性を有するかを検討していきます。すなわち、着目する行為が『悪い行為』『やってはいけない行為』かを検討します。

ここで、通常『構成要件を充足する行為』は『違法性を有する行為』と推定されます。

そのため、この段階ではこの推定を破る事情(違法性阻却事由)があるかを検討します。

① 被害者の承諾

例えば、傷害罪では被害者が傷害行為に有効に承諾していた場合、違法性が阻却されます。

そのため、傷害行為を受けた者が有効な承諾をしたか、検討していきます。 

ちなみに、犯罪によっては被害者の承諾があれば必ず違法性が否定されて犯罪が成立しないというわけでないので注意してください。

 

再び、甲が乙に拳銃を発砲して乙を死亡させた例を考えてみましょう。

この場面で乙が『私は生きるのが辛くて、甲さんに殺してもらいたい!』と甲に頼んでいた場合はどうなるでしょうか?

 

この場合、乙への発砲行為に被害者乙の有効な承諾があるので、甲には嘱託殺人罪(刑法202条)が成立します。

② 正当防衛

正当防衛が成立する場合も違法性が阻却されます。

正当防衛の成立を検討する際の論点は多岐に渡ります。以下列挙すると、

・侵害の急迫性(侵害を予期してた場合、積極的加害意思を有していた場合)

・侵害の不正性(対物防衛の成否もここで検討)

・反撃行為性(防衛行為に第三者が関わってくる場合)

・防衛の意思(防衛の名を借りた単なる攻撃ではないか)

・『やむを得ずにした行為』と言えるか(侵害に対して防衛行為は過剰でないか)

・自招侵害の場合に正当防衛は成立するか

例えば、甲が乙に襲われて、反撃として、乙に拳銃を発砲した場合を考えてみましょう。

もし、甲が乙に襲われることを予め知っていて、返り討ちにしてやろうと拳銃を用意して待ち構えていた場合はどうなるでしょうか?

この場合は、乙の攻撃に『侵害の急迫性』があるかを検討することになります。

 

ちなみに、よくある間違いとして『誤想防衛』や『過剰防衛』を違法性の問題として処理する方がいます。

『誤想防衛』は着目した行為に構成要件該当性、違法性が認められた上で『責任』の段階で検討する問題です。

 

『過剰防衛』は構成要件該当性、違法性、責任、全てが認められ、犯罪の成立が認められます。犯罪が不成立となる正当防衛や誤想防衛とは性質が異なります。

(ただし、過剰防衛が成立する場合は、正当防衛の成立要件の内、『やむを得ずにした』が認められない場合なので正当防衛の検討の中で認定するのが答案の書き方として一般的です。)

 

同じ『防衛』という言葉がつくため、各論点を検討すべき段階を間違えやすいので注意してください。

(3) 責任

では、着目した行為に構成要件該当性、違法性が認められたら、着目した行為に責任が認められるかを検討していきます。すなわち、着目した行為について責められるべきかどうか(非難可能性)を検討していきます。

① 責任能力

刑法41条の責任年齢(14歳)に満たない者や刑法39条1項の心神喪失者は責任能力がないので犯罪が不成立となります。

もっとも、心身喪失者の場合、『原因において自由な行為』という論点を検討する必要があることが多いです。

② 責任故意

責任故意、すなわち違法性阻却事由が不存在であるという認識がない人の行為は責任が認められず犯罪は不成立となります。

 

例えば自分の行っている行為は正当防衛だと誤解している人は、規範に直面してるとは言えず責めることはできません。

ここで問題となりうる論点は、

・誤想防衛は成立するか

・違法性の錯誤はどのように理解するか

です。

3 学説問題への対処

以上は刑法の一般的な問題である『登場人物の罪責を論ぜよ問題』の検討手順を説明しました。

ここからは近年の司法試験に出題されている学説問題の対処法をご紹介します。

(1) 立場によって結論が変わりうる学説の対立を抑えておこう!

刑法の教科書を広げてみると様々な学説の対立があります。

学説問題に対処するためと言っても、この全ての対立を抑える必要はありません。

実務家が刑法を扱う上でもっとも重要な関心事は『犯罪が成立するかどうか』です。

そのため、司法試験の刑法の論文試験対策としてまず抑えるべきなのは『立場によって結論が変わりうる学説の対立』です。

 

例えば、以下のような対立があります。

・承継的共同正犯の成否

・窃盗罪の保護法益

・承継的共犯事例における同時傷害の特例の適用の適否

・詐欺罪の処分意思の要否、処分意思の内容

・建造物等以外放火罪の『公共の危険』の認識の要否

 

この他にも多数あります。基本書を読んでいるときに結論が変わりうる学説の対立を見つけたら、付箋をつけるなどをして後から見返せるようにしましょう。

(2) 短答式試験の過去問も活用しよう

実は、短答式試験には以前から学説問題が出されています。

例えば、以下のような異なる学説の立場にいる複数人の話し合いを穴埋めする問題などです。

〔第6問〕(配点:2) 学生A,B及びCは,監禁罪の客体に関して,次の各【見解】のうち,いずれか異なる見解を採り,後記【事例】について【会話】のとおり検討している。学生A,B及びCの採る見解として正 しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[No13])

【見 解】

ア.監禁されている時点で移動する一般的な能力がある者は,その時点で移動できなくても,監 禁罪の客体となる。

イ.監禁されている時点で移動する一般的な能力があり,その時点で現実に移動できる者は,監 禁罪の客体となる。

ウ.監禁されている時点で移動する一般的な能力があり,その時点で現実に移動でき,かつ,移 動する意思がある者は,監禁罪の客体となる。

【事 例】 乙が窓のない部屋の中に一人でいたところ,甲は,午後1時から午後3時までの間,その部屋

の唯一の出入口であるドアに外から施錠し,その間,乙がその部屋の外に出られないようにした。 【会 話】

学生A.乙が甲による施錠に気付かなかった場合,B君が採る見解によれば,監禁罪は成立しま すか。

学生B.成立します。 学生C.私が採る見解でも成立します。では,乙が午後0時30分頃に眠ってしまい,その後,

午後2時頃に目覚めて,甲による施錠に気付かないまま午後4時まで室内で過ごした場合,

A君が採る見解によれば,監禁罪は成立しますか。 学生A.成立しません。

学生B.私が採る見解では,結論はA君と異なります。では,今のC君の事例を少し修正し,乙 が午後3時過ぎに目覚め,甲による施錠に気付かなかったという場合,C君が採る見解に よれば,監禁罪は成立しますか。

学生C.成立しません。

(選択肢省略)

(参照:法務省『令和元年度司法試験問題集 刑法』)

 

短答式試験の対策は試験の直前期にやる人が多く、また問題量も多いことから一つ一つの設問をじっくり分析する時間をとるのは難しいでしょう。

しかし、短答式試験の学説問題の問題意識が今後論文式試験に反映されるのは多いに考えられます。

短答式試験の対策をする際には論文式試験のことも見据えて学説問題へ対処しましょう。

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4 サマリー

いかがだったでしょうか? 司法試験論文式試験の刑法は『書きやすい』と言われる科目ですが、同時に差がつきやすい科目でもあります。

刑法のコツを掴むには刑法の各論点が『構成要件該当性』『違法性』『責任』のどこに位置するのか理解することです。また、学説問題については『結論が変わりうる対立』を抑えて、短答式試験の問題も利用しながら対策していきましょう。

5 まとめ

  • 刑法論文は事例の中の登場人物の罪責について論じるのが中心
  • 刑法の各論点が『構成要件該当性』『違法性』『責任』のいずれかに該当するのかしっかり理解しよう。
  • 学説問題対策として『結論が変わりうる学説の対立』を抑えよう
  • 学説問題対策は短答式試験の過去問も有効

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