司法試験は、文系最難関の国家試験ともいわれる国家試験ですが、合格率だけをみると、他の国家試験に比べて比較的高くなってきています。
しかし、だからといって試験自体の難易度が下がったとは言い切れない側面があります。
この記事では、司法試験の合格率について、難易度に直接直結しない理由なども含めて解説します。
目次
1 司法試験の合格率
(1) 司法試験合格率の推移
出典:法務省
受験者数は減少傾向にある一方で、合格者数はほぼ横ばいとなっています。合格率は2017年から上昇傾向にあり、令和3年度司法試験では初の40%台に入りました。
年 | 受験者数 | 最終合格者数 | 合格率 | |
平成24年 | 2012 | 8,387 | 2,102 | 25.06% |
平成25年 | 2013 | 7,653 | 2,049 | 26.77% |
平成26年 | 2014 | 8,015 | 1,810 | 22.58% |
平成27年 | 2015 | 8,016 | 1,850 | 23.08% |
平成28年 | 2016 | 6,899 | 1,583 | 22.95% |
平成29年 | 2017 | 5,967 | 1,543 | 25.86% |
平成30年 | 2018 | 5,238 | 1,525 | 29.11% |
令和元年(平成31年) | 2019 | 4,466 | 1,502 | 33.63% |
令和2年 | 2020 | 3,703 | 1,450 | 39.16% |
令和3年 | 2021 | 3,424 | 1,421 | 41.50% |
(2) 短答式試験の合格率
出典:法務省
こちらは、平成29年〜令和3年の司法試験短答式の合格率の推移を表したグラフになります。
グラフをみると、平成29年の合格率66.4%から、年々上昇し、令和3年短答式の合格率は78.8%と、平成29年から10%以上上昇していることがわかります。
他方、受験者数及び合格者数は年々減少しており、令和3年では、合格者数が2,672人と、過去最少の数でした。
(3) 令和3年度司法試験合格者に関する情報
① 年齢別構成
令和3年 | 令和2年 | |
平均年齢 | 28.3歳 | 28.4歳 |
最高年齢 | 69歳 | 69歳 |
最低年齢 | 18歳 | 20歳 |
出典:法務省
合格者の平均年齢は、令和3年と令和2年を比較しても28歳台と、ほぼ変動がありませんでしたが、最低年齢をみると、令和2年の合格者の最低年齢が20歳であったのに対して、令和3年では18歳と、最年少の記録が出ました。
これには、予備試験制度が始まってから比較的若い世代が法曹を目指していることが関係しているといえます。
② 性別構成
令和3年 | 令和2年 | |
男性 | 1,026人(72.20%) | 1,083人(74.69%) |
女性 | 395人(27.80%) | 367人(25.31%) |
出典:法務省
性別構成をみると、男性が約7割、女性が約3割と、男性の割合が多いことがわかります。
③ 受験回数
令和3年 | 令和2年 | |
1回目 | 1,024人 | 960人 |
2回目 | 173人 | 222人 |
3回目 | 101人 | 126人 |
4回目 | 76人 | 85人 |
5回目 | 47人 | 57人 |
出典:法務省
合格者の受験回数をみると、1回目の受験で合格した者が最も多く、令和3年においては1,024人でしたが、受験回数を重ねるにつれて合格者数は減っており、5回目で合格した者は47人でした。
この統計から推察できるのは、受験回数を重ねるごとに、試験に対するモチベーションが低下、また経済的事情により勉強に割ける時間が減ってしまうなど、様々な要因により合格することが難しくなるということです。
2 予備試験ルートと法科大学院ルートの司法試験合格率
司法試験を受験するためには、受験資格を得る必要があります。
受験資格を得るルートとして、主に2つのルートがあり、一つは予備試験に合格するルート(予備試験ルート)、もう一つは、法科大学院を修了するルート(法科大学院ルート)があります。
令和5年からは、法科大学院ルートにおいて一定の条件のもと在学中に司法試験が受験可能となります。
それぞれのルートから司法試験を受験した場合の司法試験合格率については、以下のグラフのとおりです。
赤線が予備試験ルートの司法試験合格率、青線が法科大学院ルートの司法試験合格率になります。
法科大学院ルートの司法試験合格率は、年々上昇傾向にはあるものの、令和3年の司法試験合格率は34.62%と、3割程度であったのに対して、同年度の予備試験ルートの司法試験合格率は93.5%と、合格率に圧倒的な差があることがわかります。
予備試験ルートの司法試験合格率が高いことの要因としては、予備試験は合格率が約4%と、難関試験を突破してきた人たちなので、知識が豊富であったり、正しい試験対策を知っていることなどが考えられます。
3 司法試験合格率と難易度の関係
上記の統計を見ると、司法試験の合格率は上昇傾向にあり、特に令和3年度司法試験では初の40%台に入ったことで、数字を見ると一見難易度が高いようには見えないかもしれません。
しかし、合格率が上昇しているからといって、司法試験の難易度が下がったと断言することはできないのです。その理由として、以下のことが考えられます。
(1) 司法試験には受験資格がある
さきほど司法試験には受験資格があることをご紹介しましたが、予備試験ルート、法科大学院ルートのいずれのルートも共通しているのは、法律を学習してきているということです。
予備試験には受験資格がないため、受験生の中でも、学習の進度が全く違います。記念受験する方もいれば、数年間にかけて学習してきた方など、様々いるのに対して、司法試験は、受験資格を得るまでに法律を相当量学習してきているため、受験生の学習の進度は大きく変わらないという点が特徴といえます。
全員が学習経験者であることを踏まえると、合格率が40%台に入ったとしても、必ずしも難易度が下がったとはいいきれないのです。
なお、令和5年度司法試験から、法科大学院在学中でも、一定の条件下で司法試験が受けられるようになります。
また、司法試験の日程も、毎年5月中旬に実施されていたのに対して、7月中旬に実施され、合格発表が11月上旬に変更されます。
詳しくは、文部科学省のホームページをご覧ください。
(2) 出題範囲が広い
司法試験は、科目数も多く、各科目の出題範囲が広いため、相当量の学習時間が必要になります。また、論文式試験については、試験本番で8枚の答案用紙に論述しなければならず、答案の書き方を習得するまで大変なので、学習を始めた段階では、何をどのように書いたら良いのか分からず、途中で挫折しやすい試験でもあります。
法律を学習するためには、六法が必須になりますが、条文も最初は内容を理解するまでに時間がかかります。
法律は特殊な学問なので、国家試験の中でも、特に難易度が高いといわれる理由はここにあります。
(3) 論文式試験の特質
論文式試験では、出題範囲が重要度の高い論点や判例から出題されるため、短答式試験よりも出題範囲は狭いものの、深いことが問われます。
また、論文では、正解を探すというよりも、筋の通った答案、採点者に突っ込まれない(論理矛盾しない)ような答案を書くことが求められます。これは、すなわち単に法律の知識を勉強しただけでは合格することができないような試験になっています。暗記だけでは対応ができない出題がされるので、法律をどれだけ深く理解しているかが重視されます。
また、論文では、各科目につき8枚の答案用紙に論述しますが、採点者に伝わるような文章を書くことが求められます。これが意外と難しく、多くの受験生が苦戦する壁の一つでもあります。
自分では伝わる文章を書いたつもりでも、相手に意図が伝わらないと、点数をつけてもらうことができません。
これは司法試験の難易度に関わらず求められる重要な能力の一つで、論文式試験の難しさでもあります。
(4) 受験者数が減少している
司法試験の受験者数は、年々減少傾向にあり、令和3年度司法試験の受験者数は3,424人と、過去最少人数でした。
これは、単に法曹志望者が減っているというわけではなく、予備試験ルートが人気傾向にあることや、法科大学院が年々廃校で入学者数が減っていることなどが考えられます。
また、2015年には、政府目標として司法試験の合格者数を1,500人以上輩出するという決定があったため、受験者数が減っても、1,500人程度の合格者数が毎年維持されていたことから、合格率が上がったものと推測することができます。
そのため、合格率が上がった=難易度が下がったとはいいきれませんが、受験者数が減っていることで、合格するチャンスは上がったといえるでしょう。
もっとも、令和2年度司法試験から、合格者数が1,500人を下回り続けており、今後は1,500人以上が維持されない可能性があるので、注意が必要です。
4 サマリー
司法試験の難易度が高いことは、依然として変わらないため、合格率や受験者数などに惑わされないことが大事です。司法試験の特徴や出題傾向などを踏まえ、問題と日々向き合う中で、合格に必要な力が身につくので、これから司法試験を目指す方は、これらのことを念頭に置きながら、日々の勉強を頑張ってください!
5 まとめ
- 司法試験の合格率は上昇傾向にあり、令和3年度司法試験では41.5%だった。
- 司法試験短答式の合格率も上昇傾向にあり、令和3年度では合格率が78.8%だった。
- 令和3年度司法試験では、過去最低年齢18歳の方が合格している。
- 司法試験の受験回数が増えるごとに合格者数は減少している。
- 司法試験の合格率が上昇していても、難易度が下がったとは断言できない理由として、①受験資格があること、②出題範囲が広いこと、③論文式試験の特質、④受験者数が減少していること、が考えられる。
- 司法試験に挑戦するなら、①予備試験ルート、②法科大学院ルートのいずれのルートから受験資格を得るか決めよう。