はじめに
司法試験予備試験(以下「予備試験」と略します)は平成23年にスタートした試験です。しかしその背後には、昭和30年代から連なる旧司法試験の長い歴史があります。
旧司法試験と予備試験とでは試験の内容・傾向はかなり異なりますが、過去問を使う勉強法こそがもっとも合理的な試験対策である点では一致しています。
この記事では、予備試験の過去問を使った勉強法のエッセンスを細大もらさず紹介します。
「過去問を掲載しているコンテンツ」「過去問を解く順番」「過去問を使った勉強法の極意」など、
予備試験受験生なら必ず押さえておくべき必須情報が満載ですので、ぜひ参考にしてみてください。
1、司法試験予備試験とは
予備試験とは、司法試験の受験資格を取得するための試験です。
試験科目はそれぞれ以下の通りです。
- 憲法
- 民法
- 刑法
- 商法
- 民事訴訟法
- 刑事訴訟法
- 行政法
- 民事実務
- 刑事実務
- 一般教養
この10科目を短答式・論文式・口述式の3つの試験にて出題され、合格することで最終合格となります。
短答・論文・口述と異なる3つの出題方式があるからには、それぞれ固有の傾向と対策が必要な気もしますが、
解答に必要な知識の大半は重なっているので、勉強量が3倍になるわけではありません。
予備試験全体を通じて試されることは、「法曹に求められる学識」と「学識を応用する能力」です。
この2つは「法的思考力(リーガルマインド)」と言い換えることができます。
(1)代替措置としての予備試験
本来、司法試験の受験資格を取得するには、法科大学院(ロースクール)を卒業しないといけません。
ただ、経済的理由などさまざまな事情により法科大学院に通えない受験生もいます。
そこで代替措置として設けられたのが予備試験です。
予備試験に合格すると「法科大学院修了程度の能力がある」と認定され、司法試験の受験資格が与えられます。
(2)予備試験は超難関試験
予備試験に合格するのは並大抵のことではありません。
例年、最終合格者(口述式試験合格者)の割合は、短答式試験を受験した人数の約4%、論文式試験を受験した人数の約20%です。
時間のある学生も受験し、そのなかのわずか4%しか合格できないのですから、いかに難関であるかがよくわかります。
2、司法試験予備試験の過去問の傾向 ~短答式~
予備試験の短答式にはどのような問題が出題されるのでしょうか。
(1)一般的な傾向
短答式には、実務基礎2科目をのぞいた8科目が出題されます。
法律科目と一般教養科目とでは、問われる知識がまったく異なるので個別の対策が必要です。ここでは法律科目についてだけ触れます。
なお各試験の出題科目と問題数については次の表を参照してください。
|
短答式試験 |
論文式試験 |
口述式試験 |
憲法 |
○(12問) |
○(1問) |
× |
民法 |
○(15問) |
○(1問) |
× |
刑法 |
○(13問) |
○(1問) |
× |
商法 |
○(15問) |
○(1問) |
× |
民事訴訟法 |
○(15問) |
○(1問) |
× |
刑事訴訟法 |
○(13問) |
○(1問) |
× |
行政法 |
○(12問) |
○(1問) |
× |
民事実務基礎 |
× |
○(1問) |
○ |
刑事実務基礎 |
× |
○(1問) |
○ |
一般教養科目 |
○(42問中20問選択) |
○(1問) |
× |
法律科目では、とにもかくにも「知識」が問われます。
「法律の知識がないので、現場思考と勘だけでなんとか合格できた!」などということは、まずありえません。
どのような知識が問われるのかというと、
「論文式試験で出題されるようなメジャーな知識」と「短答式試験でしか出題されないマイナーな知識」に大別できます。
前者は論文式の勉強をまっとうにしていれば誰でも自然に身につけられる知識です。
憲法の表現の自由や財産権、民法の物権変動や債務不履行責任、刑法の錯誤や共犯などが典型です。
こういったメジャーな論点は、各科目を学習する際には絶対に避けて通れないので、予備試験の受験生であれば深く理解できていて当然といえるでしょう。
これは試験委員の立場からすると「出題のテーマに採用しやすい」ということですので、短答か論文かにかかわらず頻繁に出題されることになります。
(2)「短答プロパー」に注意!
他方、短答式試験でしか出題されないマイナーな知識は「短答プロパー」と呼ばれ、論文式や口述式ではあまり問われません。
たとえば憲法の統治機構の条文、民法の根抵当権、刑法の場所的適用範囲などが典型です。
こういった細かな知識は、論文式や口述式という形で理解や知識を問うても、法曹としての資質を試すことができません。
なぜなら、記憶力さえあれば誰でも解答できるからです。
(3)短答式は英文法の正誤問題、論文式・口述式は英作文に似ている
論文式試験で試される「法的思考力」の本質は「法的三段論法」です。
- 適切な事実の認定
- 法文の解釈
- 妥当な結論の導出
という3つのポイントを押さえているかが問われます。
もちろん知識は必要ですが、条文の細かな文言は六法を参照すればわかるのですから、暗記は不要です。
だからこそ論文試験では六法の参照が許されているわけです。
反対に、短答式の解答にあたっては、論文式で問われるような厳密な法的三段論法は不要です。
というよりも、1問あたりの解答時間が非常に短いので(2分〜2分30秒)、論文レベルの高度な法的思考力を要求すると、ほとんど解答不可能になってしまいます。
そのため短答式においては、よりダイレクトに法律の知識の有無が問われるわけです。知識を問う以上、六法の参照も当然厳禁です。
大学入試にたとえるなら、短答式は英文法の正誤問題、論文式や口述式は長文の英作文問題といったところでしょうか。
(4)科目別の傾向
・憲法の傾向
憲法では予備試験初年度から現在に至るまで、「判例の理解・知識」がダイレクトに出題されています。
平成30年度の場合、憲法は12問出題されましたが、そのうち判例の理解・知識がないと正答できない問題はなんと10問。
「判例を徹底的に勉強してください」という試験委員の明確なメッセージがうかがえます。
しかも問われる判例の大半は「判例百選」などの著名な判例教材に掲載されているので、「知らない」では済まされません。
判例以外では、統治機構の条文の知識や、重要な原理原則(たとえば権力分立)や学説(たとえば憲法改正の限界に関する学説)を素材にした見解問題などがよく出題されますが、
判例問題に比べれば頻度は落ちます。
・民法の傾向
民法で出題されるのは「条文」と「判例」です。
総則・物権法・債権法・家族法とまんべんなく出題されています。
条文数は堂々の1000条オーバーです。
家族法の条文もしっかり出題されるのでおろそかにしてはいけません。
平成30年度では全15問のうち3問が家族法からの出題で、全体の20%を占めています。
判例も「判例百選」だけでなく、
「大審院民事判例集」や「最高裁判所民事判例集」(いわゆる「民集」)に収録されている重要判例も問われる場合があり、その数は膨大です。
なお、民法上の重要論点を学習する場合、学説や理論にも触れることになりますが(たとえば不動産の物権変動論など)、
短答式試験で学説や理論の深い理解・知識がダイレクトに問われることはまずありません。
・刑法の傾向
刑法の短答式の傾向は、予備試験そして司法試験が「実務家登用試験」であることをもっとも鮮明に表しています。
旧司法試験時代、刑法の短答式試験は、端的にいえば「学説重視、判例軽視」でした。
あらゆる学説を問題文に登場させて語句の穴埋めをさせたり、複雑な論理的帰結を求めたり・・・。
およそ法曹実務家としての能力を測るにはふさわしくない、「趣味的問題」が横行していたのです。
しかし新司法試験が実施されてからは、「趣味的問題」は影を潜め、他の法律科目と同様に、条文や判例の理解・知識を問う問題へと大転換しています。
ただし学説の論理的帰結を問う見解問題も一定数出題されます。
これは刑法学が理論的な体系性を重視する学問だからです。とはいえ受験対策上は、判例に比べると優先度が大幅に下がります。
・商法の傾向
商法の短答式の傾向は、極論すると「会社法の条文が問われ、それに尽きる」という点で一貫しています。
もちろん商法総則・商行為や手形小切手法からも合計4問程度出題されるのですが、いずれも基本的な条文と判例が頭に入っていれば正解できる簡単な問題ばかりです。
最大の壁は会社法であり、しかも問われる知識はほぼ条文のみです。
判例の知識も無駄ではありませんが、正答を導くために必ず必要というわけではありません。
なぜかというと、会社法は条文の内容があまりにも細かく膨大であるため、条文の知識を問うだけで十分な問題を作成できるからです。
これは受験生側からすれば、「条文をひととおり理解し、短答式にとって重要なものを記憶するだけでも並大抵ではない」ということを意味します。
・民事訴訟法の傾向
民事訴訟法の傾向は民法に似ています。全体にまんべんなく、条文と判例の理解・知識が問われます。
ただし、民事訴訟法はいわゆる手続法であるため、民事訴訟規則や民事執行法といった関連法規の知識も問われる場合があります。
判例については、直接正誤を導き出すのに必要な数は非常に多いといえます。
・刑事訴訟法の傾向
刑事訴訟法の短答式では、条文と判例が半々程度の割合で問われます。
条文の知識だけで十分な問題を作成できるので、条文の理解・知識を万全にすることが最上の短答対策となります。
もっとも、判例の理解・知識もおろそかにはできません。
過去問で対策をしながら、問題中に出てきた判例は必ず網羅的に押さえておきましょう。
・行政法の傾向
行政法は行政権を規律する法律です。
行政権は憲法が定める三権の一翼ですから、行政法は憲法の条文の意味・内容を補充する各論的役割を担っています。
そのためか行政法の過去問を分析すると、やはり憲法と同じように「判例の理解・知識」がダイレクトに出題されていることがわかります。
平成30年度の問題をみると一目瞭然です。問題文のなかに「最高裁判所の判例に照らし・・・選びなさい」という一文がついたものが12問中8問もあります。
もちろん条文も重要です。「法令に照らし」という一文がついた問題は5問あります。
ちなみに「行政法」という名称の法律はありません。
行政権を規律するあらゆる行政法規の集合体が行政法として総称されているわけです。
それゆえに、深みにはまると大変なことになります。
過去問を丁寧に分析すれば、短答式試験に合格するためには、細かい条文の知識、学者が展開する深遠な理論は不要であることがわかるはずです。
・一般教養科目の傾向
一般教養科目の短答式試験は、ここまで説明してきた法律科目とはまったく異なります。
まず出題数が異なります。
文系科目18問、理系科目18問、英語6問、合計42問が出題され、そのうち20問を選択して解答します。
また、当然ですが法律の知識は一切問われませんし、法曹実務家になるための素養が試されるわけでもありません。
それにもかかわらず、出題レベルはかなり高度です。
受験生のあいだでは「センター試験や大学の教養課程の勉強を怠けずにやってきた人なら楽勝」などと、まことしやかに語られることもあります。
しかし実際に受験してみれば、それほど簡単ではないことを痛感するはずです。
それゆえ、万人に共通する効果的な対策は、残念ながらありません。
それまでの学習経験やすでに身についている教養の質が問われるので、付け焼き刃で対策しようとしても不可能です。
ただ「予備試験の短答式に最短で合格する」という目標のためなら、唯一取るべき対策があります。
それは「解ける問題を落とさない」ということです。
一般教養科目は出題範囲があまりにも膨大ですし、問われる内容も難解です。
となれば、そのような科目に貴重な時間を割り当てることはあまりにも非合理的ですから、自身が解ける問題で得点を稼ぐようにしましょう。
法律科目の勉強に集中するべきであり、勉強時間の限られている社会人受験生ならなおさらです。
3、司法試験予備試験の過去問の傾向 ~論文式~
(1)憲法の傾向
憲法の論文式には、旧司法試験時代には見られなかった特徴があります。「主張反論型」という問題形式です。
問題文で具体的な争いごとの事例をまず挙げたうえで、そこに含まれる憲法上の論点につき、
当事者の対立する意見を「主張」と「反論」にわけたうえで、自分の見解を答案に展開していきます。
「主張・反論型」という問題形式は、予備試験初年度から現在にいたるまで一貫しています。
(2)民法の傾向
民法の論文式の傾向はおおむねオーソドックスです。
- 虚偽表示
- 物上保証
- 請負
- 債務不履行
- 使用者責任
といった、誰もが知っていて当然の重要論点がよく問われています。
ただし、旧司法試験時代と決定的に異なるのが「問題文の長さ」です。
細かな事実関係が設問の前提として示されたうえで、各当事者の主張が認められるかを検討させる問題が大半です。
弁護士になれば、依頼人と密に相談し、詳細な事実を収集したうえで、対立する当事者よりも優位に立てるよう法律論を展開する必要があります。
つまり、いかに多くの事実(証拠)を集め、そこから「使える事実」を取捨選択できるかが、法曹としての能力の決め手となるわけです。
民法の出題形式が旧司法試験時代よりも大幅に長文化しているのも、実務家登用試験であることを思えば当然といえるでしょう。
(3)刑法の傾向
刑法で問われる論点に「変化球」はありません。
過去問を見れば明らかなように、どの教科書にも詳しく説明されているメジャーな論点しか出題されません。
この傾向自体は旧司法試験時代と何ら変わりありません。
ただし、民法と同様、予備試験になってからは問題文が著しく長文化しています。
平成30年度の問題では、設問の前提として、43文字×47行(約2,000文字)もの事例を読むことが求められています。
刑法の試験時間は、刑事訴訟法とあわせて2時間20分しかありません。
1時間10分でこの大量の事例を読み込み、解答に必要な事実を取捨選択し、法解釈を展開して、妥当な結論を導くわけですから、
のんびり自説の理由づけ(論証)を思い出している暇などありません。
(4)商法の傾向
商法の論文式試験の傾向は、
- 会社法からの出題が大半であること
- 数字が厳密に設定された事例を前提とすること
の2つです。
平成23年度から30年度までの間に、会社法以外の論点が出題されたのは2回しかありません。
また問題文をチェックすれば一目瞭然ですが、設問の前提となる事例においては、「事実関係の発生した年月日」や「所有する株式数」といった数字がたくさん出てきます。
これは会社法では「当事者の権利義務の発生・変更・喪失」に影響する期限や数字が条文で細かく指定されているからです。
(5)民事訴訟法の傾向
司法試験の論文式では、条文と判例だけでは到底カバーしきれない難解な問題も見かけますが(平成28年度など)、
予備試験の民事訴訟法ではそのような「変化球」はまずありません。
民事訴訟法は、旧司法試験時代から「受験生のレベルが低い」というのがもっぱらの評判でした。
そのせいか試験委員もあまり凝った出題をすることはなく、出題範囲を典型論点にしぼり、その代わり基本的な理解がしっかり行き届いているかが試されました。
この傾向は予備試験になっても変わりません。
- 当事者の確定
- 弁論主義
- 既判力
- 訴訟承継
- 共同訴訟
といった基本的な論点が重視されています。
平成30年度の「弁論分離」のように、稀にマイナー論点が出題されることもありますが、
そのような変化球をホームランにできる受験生はほとんどいませんので、気にする必要はありません。
(6)刑事訴訟法の傾向
刑事訴訟法では「捜査」と「公判」の原理原則が問われます。
- 令状主義
- 強制処分法定主義
- 訴因変更
- 伝聞法則
- 再逮捕
- 再勾留、職務質問
- 違法収集証拠排除法則
などです。
いずれも超メジャー論点であり、重要な最高裁判例が集中しているので、間違った理解を答案に書けば致命傷になります。
なお問題文の長さですが、
これは旧司法試験時代末期(平成10年代後半から20年代)の問題と比べてもさほど変わりません。
刑事訴訟法は、他の科目よりもいち早く「実務重視」へシフトチェンジした科目だからです。
その意味で刑事訴訟法は、旧司法試験の過去問を含めて活用すべき科目だといえるでしょう。
(7)行政法の傾向
行政法は大量の個別法規で構成されています。
行政法という法律がないため、全体像を規律する理論を学者や判例の見解が打ち出すことで、行政法という科目が刷新されていきます。
そのため受験生の立場からすると理解の難しい科目ではあります。
しかし過去問を分析すれば、受験対策を間違うことはありません。
- 処分性
- 原告適格
- 訴えの利益
- 行政裁量論
といった重要論点が、事例を変えながら出題されていることがわかるはずです。
また問題の事案や論点は、いずれも重要判例をヒントにしています。
判例の打ち出した理論や当てはめが、実際の論文式の問題ではどのように活用できるのか、十分な分析が必要となります。
(8)民事実務基礎の傾向
民事実務基礎で出題されるのは、民法および民事訴訟法の知識ですが、
答案上に表現しなければいけないのは「法曹に求められる書面作成能力」です。
具体的には、請求原因事実や抗弁といった「要件事実論」に関する理解が不可欠となります。
要件事実論は弁護士や裁判官の「共通言語」ですので、実務家登用試験である予備試験でもその基礎力が試されるわけです。
(9)刑事実務基礎の傾向
刑事実務基礎も、やはり民事実務基礎と同様に実体法(刑法や刑事訴訟法)を背景とした設問が出題されます。
ただし、刑法の深い解釈論が問われることはありません。
正面から問われるのは
- 刑事訴訟法手続に関する条文の理解
- 事実認定
- 法曹倫理
です。
(10)一般教養科目の傾向
短答式の傾向のところで「一般教養科目は捨てるべき」と書きました。
しかしながら、論文式になるとそうはいきません。論文式はたった1問しか出題されませんので、白紙で提出しようものなら大きなマイナスとなってしまうからです。
一般教養科目の傾向は、ずばり「大学入試の小論文」です。たとえば平成30年度では次のような問題が出題されました。
次の文章は,ナンシー・フレイザーとアクセル・ホネットとの論争の書である『再配分か承認か?』のうち,ナンシー・フレイザーによって書かれた文章の一部である。これを読んで,後記の設問に答えよ。 (問題文省略)
〔設問1〕筆者は,本文中で,社会正義の実現のための手段として「再配分」と「承認」の2つを挙げている。それぞれの特徴について,具体例を挙げつつ,15行程度で述べなさい。
〔設問2〕 筆者は,社会正義の実現のためには「再配分」と「承認」の両方が必要であり,そのいずれか一 方だけでは十分ではないと主張している。 この見解の論拠について考察した上で,筆者の主張に対するあなた自身の考えを20行程度で論じなさい。
引用されている文章のレベルはかなり高度ですが、
問題文(本問では1,200文字相当の文章が引用されています)を短く要約する設問や、自分の意見を述べさせる設問は、大学入試でよく見かけるのではないでしょうか。
この形式は初年度から現在まで一貫しています。したがって、大学入試の小論文の勉強がそのまま予備試験の受験対策となります。
一般教養の論文式では「知識の有無」は一切問われません。問題文のいわんとすることを素早く理解し、要約文と自分の見解を時間内にまとめればOKです。
4、司法試験予備試験の過去問の傾向 ~口述式~
口述式試験の出題科目は「民事」と「刑事」です。
「民法」「刑法」ではありませんし、「民事訴訟法」「刑事訴訟法」でもありません。これらの科目の境目をなくし、一つの事例問題を解決していく総合問題が出題されます。
たとえば平成30年度の民事では「賃貸借関係を含む事案での不動産明渡請求訴訟における攻撃防御方法,規範的要件の当てはめ,証拠収集方法に関する諸問題,訴訟手続,民事保全をめぐる諸問題」というように、賃貸借契約を事例としつつ、民事実務に関する基本的かつ総合的な理解が問われています。
同じく刑事においても、「強盗致傷罪,証拠収集,勾留に関する諸問題,接見禁止処分をめぐる法曹倫理」というように、
罪名としては強盗致傷罪を事例としつつ、刑事訴訟法や法曹倫理に関する基本的な理解が問われています。
5、予備試験における全過去問一覧
「まだ予備試験の問題を見たことがない」という人のため、法務省が公開している「年度別・出題方式別の過去問一覧」をご紹介します。
(1)短答式試験
年度 |
憲法・行政法 |
民法・商法・民事訴訟法 |
刑法・刑事訴訟法 |
一般教養科目 |
||||
令和元年 |
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平成30年 |
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平成29年 |
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平成28年 |
||||||||
平成27年 |
||||||||
平成26年 |
||||||||
平成25年 |
||||||||
平成24年 |
||||||||
平成23年 |
(2)論文式試験
年度 |
憲法・行政法 |
民法・商法・ 民事訴訟法 |
刑法・刑事訴訟法 |
法律実務基礎科目 (民事・刑事) |
一般教養科目 |
平成30年 |
|||||
平成29年 |
|||||
平成28年 |
|||||
平成27年 |
|||||
平成26年 |
|||||
平成25年 |
|||||
平成24年 |
|||||
平成23年 |
※論文式試験の答案用紙サンプルはこちらからダウンロード頂けるので、活用してください。
(3)口述式試験
年度 |
民事・刑事 |
平成29年 |
|
平成28年 |
|
平成27年 |
|
平成26年 |
|
平成25年 |
|
平成24年 |
|
平成23年 |
※口述式試験では問題のテーマのみ公開されています。
6、司法試験予備試験は過去問で勉強しよう
予備試験の勉強は「過去問最優先」です。これは「Better」ではなく「Must」といえます。
大学受験や資格試験の勉強について、いつの時代にも先輩から後輩に語られるのは、「受験勉強にとって王道はない」「最短合格の勉強法は人それぞれ」ということでした。
実はこれ、半分正解で、半分不正解。完全解は次のとおりです。
- 試験の主催者によって、問題とその解答(またはその指針)が公開されている試験については、過去問をベースに勉強することが王道であり、最短合格の勉強法である
試験の主催者は、問題を作成している当事者です。
その主催者が問題と解答をわざわざ公開しているのですから、内容をしっかり復習し、翌年以降の受験に備えるのがもっとも合理的な勉強法であることは自明です。
ただ、受験生のなかには、こう考える人がいるかもしれません。
「過去問と同じ問題は二度と出ないのだから、なんで貴重な勉強時間を割いてまで過去問をきっちり勉強しないといけないのか?」
その理由を、英検と漢検を例に説明しましょう。
英検や漢検を受験された方ならすぐにわかると思いますが、ランクによっては非常にやさしい問題が出題されます。
たとえば英検の最低ランクである5級の場合、次のような問題が実際に出題されています。
次の()に入れるのに最も適切なものを1,2,3,4の中から一つ選び、その番号のマーク欄をぬりつぶしなさい。
A:What do you want for dinner?
B:Italian ( ). I want pizza.
1 songs 2 food 3 sea 4 cars
普通教育を受けてきた人なら、答えが2であることが瞬時にわかります。
漢検の場合はどうでしょうか。最低ランクの10級で実際に出題された問題です。
次のーせんの かん字の よみがなを ーせんの したに かきなさい。
1 夕がた、犬をつれて 川のそばを さんぽした。
これもすぐに正解がわかるはずです。
いずれの例題も、過去問の研究どころか受験勉強すら不要です。常識で正解できてしまいます。
しかし予備試験には、英検や漢検のような「ランク」はありませんし、常識で解けるような簡単な問題もありません。
ランクもなく、常識で解ける簡単な問題もない以上、解答に必要なすべての知識や能力は過去問から見つけ出す必要があるということが分かりますね。
↓↓↓過去問は開き直って解け?!鬼頭さん式勉強法を力説しています↓↓↓
7、司法試験予備試験過去問勉強法の極意!
ここからは、予備試験の過去問を使った勉強法の極意をご紹介します。
短答・論文・口述と出題形式別に「使える」情報を厳選しているので、ぜひ参考にしてください。
(1)短答式の過去問勉強法の極意
「傾向」で説明したとおり、短答式試験の合格に必要なものは「知識」です。
科目ごとに必要な知識はもちろん違いますが、「条文」と「判例」が問われる点では共通です。
短答式の解答に必要な条文と判例の知識を身につけるツールとしては、「短答式の過去問集」以上のものはありません。
短答過去問集の使い方には3つのポイントがあります。
ポイント①:どの過去問集でもOK
大手受験予備校であれば、必ず短答の過去問集を出版しています。正答自体は法務省が公式発表しているので、
どの過去問集を利用しても「誤答を正答として理解する」というリスクはありません。
書店で実際に手にとって、解説の文体などを比べながら好みの一冊を購入すればOKです。
ポイント②:解説集を「読み込む」ことが重要
「過去問集をしっかりと読み込む」
これが短答過去問のもっとも合理的な学習法です。
過去問の問題数は膨大です。
平成30年度までの予備試験だけでも760問あります。
予備試験以前の司法試験の問題(平成18年~22年、761問)や予備試験実施以降の司法試験プロパー問題を加えれば2,000問を超えます。
では、これを1問ずつ丁寧に解き続けると、いったいどれくらいの時間が必要になるでしょうか?
単純に解答するだけでも1問2分は必要です。
もちろん回数を重ねていくに連れて所要時間は少なくなりますが、1分を切ることはありません。
だとすると、すべての問題をただ解くだけでも、ひと回しするのに最低2,000分(約33時間)必要になります。
しかも「解説をチェックする」わけですから、1周目であれば1問最低5分、難しい問題では10分は必要です。
となると、全問題を解いて解説をしっかりチェックするだけでも、最低10,000分(約167時間)もかかるわけです。
当然1周では済みませんから、徐々にスピードアップするとはいえ、約167時間の数倍の時間が必要となるはずです。
トータルでは最低でも300時間はかかるでしょう。
専業受験生よりも勉強時間の限られている社会人受験生にとって、300時間を確保することはあまりにも大きな壁です。
入門講座や論文式の勉強時間を考慮すると、短答式だけに300時間もかけることは難しいでしょう。
だからこそ「解説を読み込む」という勉強法は社会人にはクリティカルな勉強方法といえます。
もっとも、過去問を解く→解説を読むというプロセスを否定しているわけではなく、時間を取れる場合は
オーソドックスに解く→読み込むを繰り返しましょう。
ポイント③:短答プロパーの勉強は必要最小限に抑える
短答式では、論文式試験では問われない「短答プロパー」の知識が出題されます。とはいえ、その量はさほど多くありません。
短答式と論文式では問われる内容はほぼ重なるので、論文の勉強をしっかりこなせば短答式に必要な知識も自然に身につきます。
短答プロパーの知識は直前期に集中してつぶすのが合理的です。学習ツールはもちろん過去問です。
予備校の模試も短答プロパーをつぶすのに有用ではあるものの、本番では問われないような非常に細かい知識が出題されることがあるので注意しましょう。
※短答式の突破方法について詳細に知りたい方は「予備試験短答は本当に誰でも合格できる?プロの教える失敗しない対策法」をご参照ください。
(2)論文式の過去問勉強法の極意
論文式の過去問勉強法には、5つのポイントがあります(※)。
※以下では一般教養科目の論文式は除外します。
「傾向」で説明したとおり、大学入試の小論文対策の延長線上にあるからです。小論文を書くことに不慣れな人は入試問題をざっと眺めておくと良いでしょう。
ポイント①:論点の体系的位置付けに注意する
論文式の過去問を勉強する場合、忘れてならないのは「いま自分がどの論点を学習しているか」という体系的位置付けです。
論文式に出題される論点が全体のどの部分に位置するのか把握していないと、
「細切れの知識」だけが頭に残ってしまいます。体系化されていない細切れの情報は、長く記憶を保持するには不都合です。
この不都合を防ぐには、各科目の重要論点を体系的に分類した「論点表」を活用します。
論文式試験が近づくと、受験情報誌に論点表が掲載される場合があるのでチェックしましょう。
ポイント②:「出題趣旨」を活用する
論文式の問題には「出題趣旨」が存在します。
問題を作成した試験委員が「この問題を解くには、どのような知識や構成が必要だったのか」を端的に説明したものです。
毎年最終合格者が発表される頃になると、法務省の公式サイトに出題趣旨が公開されます。
論文過去問集を購入する際は、出題趣旨をふまえた解説がなされているかをよく確認することが大切です。
ごく稀に、出題趣旨を無視した再現答案を「優秀答案の一例」として掲載している過去問集があるので注意しましょう。
ポイント③:論文過去問を使って知識をインプットする
予備試験で問われる知識を、教科書や六法を使ってゼロから吸収しようとする受験生がいます。
しかしその学習スタイルでは、おそらく永遠に合格できないでしょう。
論文過去問は試験委員からのラブレターです。何度読み返しても無駄なことはありません。
「無駄なことはない」ということは、優れた学習ツールの必須条件です。
無味乾燥な条文や難解な参考書を参照するのは、論文過去問を分析する際にわからない知識が出てきた時だけで十分です。
ポイント④:インプット偏重ではなくアウトプット偏重で!
論文式の勉強法でありがちなのが、「知識の吸収や傾向の把握は万全だけど、答案に表現する力が不足する」というパターンです。
この「知識はあるが答案に表現する力が不足している」というのは極めて致命的な欠点です。
そういった意味で、早い段階から論文式のアウトプットをたくさんするようにしましょう。
このとき活用すべきなのが「過去問」です。
論文式の問題は、日本でトップクラスの実務家や学者が1年間討議を重ねて作成した良問ばかり。
論文式を乗り越えるエッセンスがたくさん詰まっています。
- 解答時間を短く制限してフル答案を作成する
- 事例を自分なりに変えてみて、結論にどう影響するかを考えてみる
- 判例ではなく、学説の立場にしたがって論述するならどのように構成するか試す
というように、いくらでも応用が効くのが過去問です。
アウトプットを念頭に置き、インプットとのバランスをしっかりと考えながら効率的に勉強すべきといえます。
ポイント④:再現答案はランク別にチェックする
論文式試験で書いた答案は、相対評価に基づき6段階にランク分けされ受験生に通知されます。
ランク |
順位 |
A |
1位〜300位 |
B |
301位〜600位 |
C |
601位〜900位 |
D |
901位〜1,200位 |
E |
1,201位〜1,500位 |
F |
1,501位以下 |
「A答案とC答案(できればE答案も)をできるだけたくさん集めて、分析する」という勉強法は、オーソドックスですが効果的といえます。
ちなみに、C答案とは、法務省が公開している採点方針の「一応の水準」にほぼ該当します。
一応の水準といっても「28点から21点」と幅がありますが、C答案はおおむね25点前後の答案に相当します。
平成23年度のスタート以来、予備試験論文式の合格点が250点を超えたことはありませんので、25点答案つまりC答案の真ん中から上に相当する答案を10科目そろえれば合格が約束されます。
したがって、受験生がまず研究すべきは「C答案」ということになります。
時間のない社会人受験生の場合、勉強すべき範囲を必要最小限に絞るためにはC答案の分析がきわめて効果的です。
※論文式の突破方法について詳細に知りたい方は「勉強のプロ直伝!司法試験予備試験論文式の対策と過去問勉強法とは?」をご参照ください。
(3)口述式の過去問勉強法の極意
口述式の場合、過去問を活用した特別な勉強法はありません。
前傾の「過去問一覧」でも明らかなように、口述式試験については過去問の詳細が公開されておらず、漠然とした「テーマ」しか知り得ないからです。
旧司法試験時代は、口述の問答を詳しく再現した過去問集が毎年出版されていましたが、予備試験の口述過去問集は出版されていません。
過去問集を入手できない以上、口述模試くらいしか効果的な対策はないといえるでしょう。
8、サマリー
過去問を使わずに予備試験に合格するという受験生は、実は皆無ではありません。
合格体験記などを読むと、ごく稀にですが「インプットは予備校の入門講座とテキスト、アウトプットは短答模試と論文答練だけで最終合格できた」という人が登場します。
しかしそのような「異能の人」が採用した勉強法を一般化するのは危険です。IQなのか記憶力なのか、何らかの才能が抜きん出て優れている人だけに通用する勉強法だからです。
大多数が「過去問を使い倒して最終合格する」という勉強法を採用しておりますし、もっとも合理的で、効果の高い予備試験対策なのです。
9、まとめ
・予備試験とは、司法試験の受験資格を取得するための試験。短答・論文・口述という異なる3つの出題方式を通じて、「法曹に求められる学識」と「学識を応用する能力」=「法的思考力(リーガルマインド)」が試される
・法科大学院の代替措置である予備試験は、受験者の4%程度しか合格できない超難関試験
・短答式では「知識」が広く問われる。論文でも問われる知識と短答でしか問われないプロパー知識に大別できる
・憲法の短答では全分野を通じて判例が問われる。統治機構に限っては条文の知識が問われる場合もある。論文では「主張・反論型」の問題が一貫して出題されている
・民法の短答では1000条を超える条文からまんべんなく出題される。判例も「判例百選」だけでなく、民集掲載の重要判例も問われることがある。論文ではオーソドックスな論点が出題されるが、旧司法試験時代よりも問題文が長文化している
・刑法の短答では旧司法試験とはがらりと変わり、学説一辺倒の傾向が息を潜めている。論文では学説が必要になることもあるが、前提事例が長文化しているので、問題を読み解く力も問われている
・商法の短答では会社法の条文知識、論文でも会社法からの論点が主に問われる
・民事訴訟法の短答では民事訴訟規則や民事執行法の知識、論文では受験生のレベルが低いこともあってか、基本的な条文と判例を使えば合格答案が書ける問題が出る
・刑事訴訟法の短答では細かい条文の知識や、百選に掲載されるような重要判例の知識が正面から問われる。論文では「捜査」と「公判」の超メジャー論点が問われる。問題文の長さは旧司法試験時代末期と近いので、当時の過去問は予備試験対策にも使える
・行政法の短答では判例が重要で、細かな条文や学説は不要。論文では「処分性」「原告適格」「訴えの利益」「行政裁量論」といった重要論点が繰り返し出題される
・民事実務基礎の論文では、要件事実論を駆使して「法曹に求められる書面作成能力」を披露することが求められる
・刑事実務基礎の論文では、「刑事訴訟法手続に関する条文の理解」と「事実認定」そして「法曹倫理」が問われる
・一般教養科目の短答では文系科目・理系科目・英語から42問出題され、そのうち20問を選択して解答する。論文では大学入試の小論文と同じような形式で出題される
・口述式の場合、具体的な過去問が公開されていないので、試験対策は予備校に頼ることになる
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